OptoroのDX事例[輸送・物流] 返品作業は丸ごとおまかせ! スムーズな再還流がサステナブル市場を拡大する
この記事は、書籍『DX経営図鑑』の一部を特別にオンラインで公開しているものです。
》 Category 3「輸送・物流」
》 「Optoro リバースロジスティクスを切り開くユニコーン」より
eコマース(電子商取引)は一般的な消費スタイルに組み込まれ、Amazonや楽天のような巨人が小売流通のトップに君臨するようになりました。世界的なコロナ禍も後押しとなり、専業のデジタルプレーヤーだけでなく、店舗型の伝統的小売業もデジタルチャネル経由での売上を確保しないと存続すら危ういでしょう。リテールのデジタル化は不可逆なところまで来ています。
eコマースは、レジ待ちなし、スマートフォン1台で購買完了、重い荷物を手にぶら下げることもなく自宅に配送、という伝統的な小売消費に対する完璧なペインリリーバーの上に立脚しています。一方で、新しいペインも生み出しています。それは「返品」という負荷です。
本来のeコマースの得意分野
当初、eコマースでの販売品目は、書籍や家電、ホビー用品といったハードウェアが中心でした。その理由の1つは、在庫として所持していても腐敗しないからですが、もう1つの理由は、イメージと実物のミスマッチが起こりづらいことです。つまり、消費者が購入前に描いたイメージと、到着した商品とのギャップが小さいことも利点でした。
そもそも、書籍を注文して、「読んでみたら期待はずれだった」というのは、返品理由にはなりません。家電やホビー用品でも、粗悪品や故障は問題外として、基本的には製品の寸法やスペックは規定通りのものが配送されますので、「買ってみたら大きすぎた」などの自己都合における返品は、その大半が理不尽なクレームとして処理されるでしょう。
eコマースにおけるミスマッチ
しかし、eコマースがさらなる成長を求めると、より日常的な商品を扱うことが伸びしろになっていきます。例えば、生鮮食品や生活消費財、アパレル商品です。これらの商品は、鮮度不良はもちろん、写真と実物の期待感やサイズが違ったなどのミスマッチが生じやすいものです。以前、eコマースで販売されたおせち料理商品が写真と異なっていたとして大きな問題になりましたが、これはeコマースならではのペインが顕在化した出来事でした。こうしたミスマッチは返品やキャンセルで解決されますが、その手続きは簡単ではなく、さらに「自己都合返品」という定義が曖昧なので、正当な主張もクレームとして却下されることも少なくありません。
返品と再販に特化する
また、Amazonのようなマーケットプレイス型ECでは、不良サービスを提供されて詐欺被害に近い経験をしてしまう場合もあり、それでは顧客はECモールのブランドそのものを嫌うようになってしまいます。これを避けるため、アメリカを中心とした欧米のECは、「可能な限り返品を受け入れる」方針に移行するようになります。顧客のクレームを基本的に受け入れ、返品、返金、交換に積極的に対応することで、詐欺まがいの業者の出店を最小化し、顧客対応品質を向上し、ECブランドの信頼性を担保して、消費者が安心して購買できる環境を作り上げることに腐心しています。ただ、結果として返品率は非常に高くなります。アメリカでは現在でも、EC業界の返品率は平均20%〜30%といわれます。ちなみに、日本は平均10%程度といわれますが、これは「日本人の謙虚さ」ではなく、クレーマー対策として自己都合返品を認めない小売業者が欧米より多いためと考えられます。
ともあれ、欧米のeコマースの返品数は膨大になるのですが、これらの商品はどうなるのでしょう。実は、その多くは廃棄されます。前提として、多くの場合は本当に不良品だからですが、ミスマッチによる返品も相当数あるといわれており、誰かのミスマッチ商品は、ある人にとっては完璧な商品になり得ます。それでも多くが廃棄されてしまうのは、返品オペレーションに必要なコストやリソースも膨大なものになるからです。つまり、返品を受け付け、倉庫に再保管し、再検品し、再び商品在庫に加えるという一連のオペレーションは煩雑で、また、再利用商品は「訳あり」として値引き販売をする必要があるため、コストが掛かったうえに利ざやが下がるのです。
ワシントンD.C.で2004年に創業したOptoro(オプトロ。前身はeSpot)は、このeコマースが生み出した新しいペインに着目しました。返品の再還流に特化した、リバースロジスティクス(返品物流)やリコマース(再販売)という領域が、Optoroのビジネスモデルの核心になったのです。
リバースロジスティクスという救世主
リバースロジスティクスは現代の小売業において重要な位置を占めています。Optoroのビジネスモデルは、小売業者の返品全般をソリューションとして受託し、その再販利益までを提供します。その根幹にあるのは、OptiTuneと呼ばれる返品処理と再販を自動化するアルゴリズムです。
Optoroは自前の倉庫を持っていて、契約顧客は返品された商品をOptoroの倉庫に送ります。Optoroは特殊なスキャンシステムによって、返品された商品を瞬時にデータベース化し、最も高く売れそうな販路を割り出し、在庫として出荷します。この一連の流れをOptiTuneによる判断で処理しています。
また、Optoroは個人消費者向けのBLINQ、事業者向けのBULQというマーケットプレイスを運営しており、多くの商品はここで再販されます。例えば、サイズ違いで返品されたアパレル商品や、性能には問題ない家電などはBLINQで格安で売られます。また、業務用の資材(粘着テープやコピー用紙など)で大量キャンセルになった商品は、BULQで文字通りバルクセール(12個以上などのロット単位)として販売されます。各小売業者は、Optoroに返品処理の代行料を支払う一方で、再販で得られた利益の一部を受け取ることができます。自前で効率的なリバースロジスティクスおよびリコマースの環境を運営できるのは、Amazonのような一握りの巨大プラットフォームだけだったので、これから自社ECを積極的に展開したい伝統的企業にとって、Optoroは救いの神といえる存在になりました。事実、同社の主要顧客は伝統的小売業の巨人たちが名を連ねています。例えば、家具のIKEA、DIYのHome Depot、家電販売のBEST BUY、文房具販売のSTAPLEなど、そうそうたる企業がOptoroの顧客です。Optoroはこれまでに約2億5000万ドルを調達し、ユニコーン企業の一角として期待されるようになりました。
Optoroが取り去るペイン
──返品コストを再還流で利益に変える
Optoroは小売業者に便利な返品ソリューションを提供することで、EC消費者からミスマッチの不安を取り除いていますが、それはあくまで裏方であり、提供価値のほとんどはBtoBになります。ここでは、Optoroが小売業者から取り去るペインについて考えていきます。
Optoroは返品オペレーションをほぼ丸ごと引き受け、再販による利益まで生み出します。本来、小売業者が用意すべきオペレーションは返品の受け付け、返品の着荷処理、倉庫保管、検品、返金処理、廃棄または再販の判断、再販販路の確保、値付け、出荷などのフローで構成されます。この一連のフローには多くの部門の連携が必要であり、コミュニケーションコストやシステムの連携、各担当人員の配置など複雑な体制を組むと、業務効率も運営コストも巨大なものになります。しかし、Optoroはこのうちの返品受付と返金処理以外を全てソリューションとして提供します。さらに、返品在庫の再販が完璧に消化できれば利益を上げることさえできるのです。このコストインパクトは絶大でしょう。同時にこれは、消費者側のゲインにも繋がっていきます。Optoroによって返品オペレーションの大幅な効率化が実現できれば、小売業者はより顧客体験の向上に資源を集中できるようになるのです。
Optoroが生み出すゲイン
──サステナブル市場の拡大と消費者参加
Optoroは返品商品の再還流を生み出します。デジタルアウトレットモールのBLINQとBULQを中心に、小売業者の自社アウトレットへの還流、またはAmazonなど他モールへの再出品によって、小売業者は返品商品のリコマースによる利益を得られます。仮に再販利益確保が低調に終わっても、返品オペレーションのコストを大幅に下げることはできるでしょう。一方、消費者視点で考えると、その最大の恩恵はアウトレット商品の入手機会が拡大することです。既に、多くのeコマースでは中古品が販売され、多少のキズに目をつむってでも格安商品を得たいという需要が存在します。eBayのような巨大な中古品マーケットに「ほぼ新品」の格安在庫が投入されれば、消費者にとっては大きな利得です。
サステナビリティ企業として
Optoroが消費者に提供するもう1つのゲインは、「サステナブルな消費に参加している」という社会貢献と満足感、崇高さです。国連が提唱するSDGsがますます浸透するなか、サステナブルな消費は社会通念としての重要度を増していきます。「安いから」ではなく、「サステナブルだから」という理由でリサイクル品やアウトレット品を消費する傾向は、今後さらに広まっていくと予想され、Optoroは「企業としてのサステナビリティ」を掲げます。eコマースは無店舗運営なのでサステナブルに感じますが、返品商品の多くを廃棄してしまうジレンマに突入しています。製造・調達・廃棄でCO2を排出し、廃棄ゴミで自然を汚すという大量消費時代と全く同じことを、違う形で踏襲し始めているのです。Optoroはリバースロジスティクスとリコマースで、この状況へのアンチテーゼとしての価値を創出しています。
勝てるDXの本質
~次に生き残るのは、誰か?~
世界の伝統的企業やスタートアップがいち早く取り組んできたDXの数々。各事例をつぶさにレポートしてきた「DX Navigator」編集部の知見をまとめ、事例分析と価値提供のプロセスを可視化した一冊です。
本書は世界全32社のDX事例を収録。いずれも、顧客/ユーザー視点での「ペイン(苦痛)」と「ゲイン(利得)」を切り口に、顧客/ユーザーが最終的に得た「価値」について解き明かします。
Part 1では、従来の商習慣や価値提供の概念を新しい基準に転換させた「ゲームチェンジャー」である9社―Netflix、Walmart、Sephora、Macy’s、Freshippo、NIKE、Tesla、Uber、Starbucks―を取り上げます。
Part 2では、海外のスタートアップを中心に日本企業も加えた23社の事例を、業界別に紹介。多くの顧客/ユーザーから支持を得た、各社のエッジが効いた斬新なアイデアとその背景に鋭く迫ります。
日本の「DXブーム」には問題も潜んでいます。DXとは単なる技術導入やカイゼンを言い換えた言葉ではなく、「ユーザーが最終的に得る価値」を見つめ、新しい価値提供の仕組みを創り出すということ。これからも続く企業の変革、世の中の変革のなかで、次に生き残るのは誰か?
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