動画情報サイト「北浜投資塾」リニューアルの6つのポイントと、動画サイト運用の5つのコツ
大阪取引所が運営する、動画で学ぶ個人投資家向け投資情報サイト「北浜投資塾」は、取扱商品の追加をきっかけに、たった5か月でリニューアルを実施した。
リニューアルの目的は「動画コンテンツの探しやすさ」。最短経路で探せることを念頭に置いたリニューアルだったため、リニューアル後はPV減を覚悟したが、広告プロモーションなしの自然増でPVは1.6倍まで伸長した。
北浜投資塾が行ったサイトリニューアル6つのポイントと、見られる動画コンテンツづくりのための5つのコツを紹介する。
“デリバティブ”市場を運営する「大阪取引所」
“デリバティブ”(金融派生商品)と聞くと、金融商品に疎い人は難しそうに感じてしまうかもしれない。デリバティブには、次のような種類がある。
- 株を直接売買するのではなく「株を○カ月後に○○円で買う、または売る」という契約をする「先物取引」
- “将来その値段で取引をする権利”を売買する「オプション取引」
コロナショックや米国大統領選などで株価が大きく変動した2020年以降、投資に興味を持つ人は増えつつある。それも、「好きなゲーム会社の株を買う」のようなシンプルなものだけでなく、もっと取引の幅を広げ、収益機会を増やしたいという個人投資家がデリバティブに注目しているのだ。
このデリバティブ市場を運営する大阪取引所は、東証(東京証券取引所)と同じく、日本取引所グループ(JPX)の一員である。個人投資家や機関投資家がより安全に、利便性の高い取引ができる市場の提供をミッションとする大阪取引所は、個人投資家に向けて、デリバティブについての情報を動画コンテンツで提供する学習サイトを運営している。それが、「北浜投資塾」だ。
デリバティブを学ぶ場を個人投資家に提供するのがミッションの北浜投資塾
北浜投資塾がスタートしたのは2018年だ。開設の経緯について、大阪取引所 デリバティブ市場営業部の五十嵐夏海氏は下記のように語る。
デリバティブはかつて「投資のプロがやるもの」という印象があり、個人投資家にとってはハードルが高いと思われていました。仕組みや戦略をわかりやすく伝えるコンテンツが少なかったこともそう思われていた理由でしょう。
そんなデリバティブについて、基本的な知識から実践的な戦略、さらにはリスクまでしっかりと理解したうえで取引していただきたい。そうすることで、継続してデリバティブ取引をしてくださる個人投資家が増えるはず、という思いで北浜投資塾を開設しました。
サイトのターゲットや内容は、時間経過とともに少しずつ変化している。当初は、すでに投資やデリバティブを積極的に行っている中級の個人投資家向けに、実践的な情報を提供するサイトとして運営されていたが、途中から、デリバティブをよく知らない株式投資家もターゲットに加え、デリバティブ商品の概要を紹介するコンテンツも増やしていった。
サイトリニューアルを決めた2つの理由
そうした流れのなか、サイト開設から2年後の2020年冬に、北浜投資塾は大幅なサイトリニューアルを決めた。その大きな理由は下記の2つだ。
- 2020年7月にJPXグループの東京商品取引所から大阪取引所に新しくコモディティ(貴金属や穀物などの品物に対する投資)市場が移管されるため、北浜投資塾でも、コモディティに関して学べる動画を掲載し、大阪取引所で取り扱う商品を広く学べるようにしたかった。
- 過去の動画コンテンツが増えていくなかで、「ユーザーが求めるコンテンツになかなかたどり着けない」という課題があった。
そこで、2020年のリニューアルでは、先物投資家・株式投資家、また初心者・中級者などを問わず、すべての投資家が求めるコンテンツを探しやすい、ユーザーフレンドリーなサイトにすることにこだわり、大幅なCMSのテンプレ―ト改修に取り組んだ。
北浜投資塾は、ビッグローブが提供する法人向けのクラウド型CMS「Pattern Style CMS」を採用している。Pattern Style CMSは、JPXグループ全体で使われているCMSプラットフォームである。
ビッグローブの強みはCMSの性能だけではない。同社は、インフラやセキュリティ、CMS、サイト設計、デザイン制作までワンストップで提供しているため、ひとつの専任チームに相談するだけでサイトにまつわるすべてを一気通貫で対応してもらえるという利便性も大きかった。また、長年にわたるJPXグループとの関係もあることから、グループ全体の事情や過去のサイトについても熟知している強みもあった。
ユーザーが柔軟に動画を探せる仕掛け
今回のリニューアルにおいて行った施策の一部を紹介しよう。
ポイント ① トップページを一般的な動画サイトのような印象に
トップページに動画のサムネイルを並べ、一般的な「動画サイト」のような印象にすることで、操作が難しくないことを直感的に理解できるようにした。個人投資家には50~60歳以上の年代も多いので、高年齢層がよく見るサイトも参考にして、とっつきやすい印象を与えるようにした。
ポイント ② カテゴリ分けをしてグローバルナビを整備
コンテンツの種類として、既存の「先物」「オプション(OP)」「株式投資(かぶオプ)」に、新しく「コモディティ」が加わった。「コラム」「セミナー」などのアーカイブ動画も含めてきちんとカテゴリ分けを行い、グローバルナビに表示、興味のあるカテゴリに簡単に飛べるようにした。
ポイント ③ 検索窓やタグによる検索機能の強化
知りたい用語や戦略名などが分かっている場合は、検索窓を使って直接そのコンテンツにたどり着けるようにした。
また、個々の動画には「#株式投資」「#プット買い」「#金」「#プラチナ」などのタグを付け、興味のある内容の関連動画を簡単に探せるようにした。
ポイント ④ 人気がある話題のコーナーを随時追加可能に
おすすめしたいトレンドのコンテンツや、アクセス解析などでニーズが高いとわかった話題が出てきた時のために、トップページに表示するコーナーを簡単に追加できるようにした。
例えば、「下落相場でも利益を狙えるプット買い」というカテゴリは、「プット買い」というワードでの検索流入が多かったために新たに追加したものだ。
ポイント ⑤ 初心者向けコンテンツの導線を追加
これまで手薄だった初心者向けコンテンツをより拡充するとともに、大きめの黄色いボタンをトップページに目立つように設置、「初めての方 北浜投資塾についてわかりやすくご紹介します」と記載し、誘導を強化した。
ポイント ⑥ 何のサイトであるかが一目で分かるように
以前は、検索などでパッとサイトに来たユーザーがとっさに「ここは何ができるサイトなのか」がわからないという弱点があった。そのため、初めて来たユーザーでもサイト概要を理解できるよう、ファーストビューに帯で「先物・オプション取引を動画で学ぶ―北浜投資塾は、相場に振り回されない投資手法を商品の仕組み・実際の取引事例を交えて紹介しています」という説明文を追加した。
リニューアル以前の北浜投資塾では、ユーザーはまずガイダンス動画を一通り見ながら進んで行かなくてはならず、見たい動画にたどり着くまでに、時間がかかることもあった。
今回のリニューアルによって閲覧の自由度は大きく高まり、グローバルナビやカテゴリ、キーワードやタグの検索などでユーザーが直接目的のコンテンツに飛ぶことが可能になった。
リニューアル以前は、サイト運営側の「このターゲットにはこの動画を見て欲しい」というガイダンスの意識が強く、ユーザーがコンテンツ間を柔軟に移動しにくかったんです。それでは、気になる動画をいろいろ見てみようというユーザーの動きが生み出せなかった。そこで、今回のリニューアルではユーザーが柔軟に動画を探せることにこだわりました。
一方で、初心者の方や、何らかの悩みを抱えている方には、ある程度のガイダンスも求められているはずです。そこで、リニューアル以前のガイダンスのコンセプトも残し、“いいとこ取り”のハイブリッド構造として、どちらの入り口からでもコンテンツを見られるようにしています(五十嵐氏)
見てもらえるサイトづくりのための運用Tips
北浜投資塾では、ユーザーにたくさんのコンテンツを見てもらうため、さまざまな工夫を行っている。そのうちいくつかを運用のTipsとして聞いた。
Tips ① 基本の動画は15分以内
長すぎる動画は見てもらえない。隙間時間に見てもらうことを意識し、基本の学習用動画はできるだけ15分に収めている。人気なものもやはり10~12分程度の動画だという。一度見て終わりではなく、気になったものは何度も繰り返し見てもらえることを想定して作成している。
また、新しい商品など概要を知って欲しいものについては、2~3分程度のプロモーション動画も作っているが、これも入門編として反応が良いという。
Tips ② セミナー動画でリアルタイムの情報も提供
北浜投資塾では、毎月1回程度、対面セミナーやWebセミナー(ウェビナー)も開催している。そのうち、講師の許可が取れたものについてはアーカイブ動画をサイトに掲載するようにしている。この場合は1時間超えの長尺でも掲載している。
通常の短編動画はユーザーが自身で何度も見るための学習用の位置づけとなるため、どうしても、賞味期限の長い、基本的な内容となってしまう。一方で、セミナーはより具体的に「どの投資戦略に注目したらよいか」「いくら程度のものを買うといいか」など、リアルタイムのトレンドに即した内容を伝えることができる。短編動画とセミナー動画の二面展開で、多様なユーザーのニーズに応えることができるというわけだ。
また、セミナーでは、普段動画で見ている講師に直接質問できるという魅力も大きい。セミナー参加者に事前に質問を募っておくと、多くの質問が来るという。今後は、北浜投資塾にアップする動画コンテンツと連動したセミナーも積極的に開催していく計画だ。
Tips ③ 流入ワードや人気コンテンツを基にコーナー制作
“ユーザーが求めるコンテンツにアクセスできるようにする”という理念から、サイトへの検索流入ワードを元にコンテンツを作るということも行っている。
例えば、「プット買い」というオプション戦略を検索して流入してくるユーザーが多いことがわかったときは、「下落相場でも利益を狙えるプット買い」というカテゴリを作成、プット買いに関するコンテンツにトップページから簡単にアクセスできるようにすると同時に、プット買いに関するセミナーも企画し、ユーザーにタイムリーに情報を届けていくようにした。
また、北浜投資塾には動画の他にも、一部テキストコンテンツもある。その中で「はじめてのデリバティブ」というマンガ形式のコラムの人気が高かったことから、新しく「かぶオプマンガ 入門編」というコンテンツをマンガ形式で制作。こちらも人気の高いコンテンツとなった。
ユーザーがよく見るページや、人気の高い検索キーワードなどをベースに新しいコンテンツを作るのは、コンテンツを作る方法として一般的ですが、とても有効な方法だと思います(五十嵐氏)
Tips ④ 関連リンクはあえてランダム表示
動画ページの下部では、関連リンクとして別の動画をレコメンドしている。関連リンクは手動で指定することも可能だが、現在のところは完全にランダムに出す設定にすることが多い。「今見ている動画以外にも、いろいろな動画があることを見せて、興味の幅を広げて欲しい」(五十嵐氏)という意図があるからだ。
Tips ⑤ サイト更新のお知らせ機能としてメルマガを活用
北浜投資塾ではメールマガジンも運用している。サイト更新やセミナー情報のお知らせ用として活用し、直近の1年間で登録者数は3倍まで伸長した。
一般的にメールマガジンはさほど開封率が高くないことが課題とも言われるが、北浜投資塾のメールマガジンは、本当にデリバティブ取引に興味のあるユーザーのみが登録しているためか、クリック率も高く、メルマガからのセミナー登録なども多い。コミュニケーション手段として有効に活用できている。
動画のサムネイルや時間表示はすべてCMSでコントロール
北浜投資塾のメインコンテンツとなる動画はYouTubeにアップしているものの、表示に関しては、ほとんどCMS側でコントロールしている。解説動画の補足情報として、動画のサムネイル、時間表示、難易度、タグ(キーワード)、資料添付など、YouTubeだけでは管理できない情報をCMSでコントロールしている。
ビッグローブの「Pattern Style CMS」は、国産CMS「WebRelease 2」をクラウド型サービスとして利用できる。HTMLの知識コーディングが不要で、CMSの画面から直感操作でページの編集ができる。見出しや本文、画像等のパーツをブロックのように組み合わせて、様々なレイアウトのページを作成することが可能だ。さらに、前述したように、新規コーナーを柔軟に追加することも、わずかなクリック操作で容易に行うことができる。
広告プロモーションなしの自然増でPVが1.6倍に伸長
北浜投資塾サイトリニューアルの計画が持ち上がったのは2020年1月頃。コモディティ市場の移管というタイムリミットから、サイトのローンチは6月末と決まっていた。
事情を把握しているビッグローブが担当したこともあり、「ユーザーが見たい動画を探しやすいサイトにしたい」といった、具体的な要件に落とし込めていないような要望も細かく汲み取って、積極的な提案をもらうことができ、スケジュールも問題なく完了したという。
では、実際のリニューアルの成果はどうか。当初は、コンテンツにたどり着くまでのページ数が減ったことからページビュー自体は減るのではないかと危ぶまれていたが、実際は新規流入がじわじわと増加し、リニューアルから半年の時点でページビュー(PV)は1.6倍まで伸長した。
一般消費財と違ってターゲットが絞られること、広告などのプロモーションコストをかけておらず、検索流入などによる純粋な自然増であることを考えると、なかなかいい数字と言えるだろう。
北浜投資塾は、“難しそう”と敬遠されがちなデリバティブ取引についてわかりやすく個人投資家にお伝えし、他サイトではあまり触れられないリスクについてもよくご納得いただいたうえで取引を開始していただける、デリバティブ投資の入り口となるサイトを目指して成長していきたいと思います(五十嵐氏)
ハードルが高そうな投資情報であっても、動画コンテンツであればユーザーにわかりやすく届けることができる。しかも、ユーザーが求めるコンテンツに簡単にたどり着けるとあればなおさらだ。北浜投資塾の取り組みから、Webサイトリニューアル成功のヒントを見つけてほしい。
- 法人向けクラウド型CMS「Pattern Style CMS」
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