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大事なのは、さまざまな経験をたくさん積むこと

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大事なのは、さまざまな経験をたくさん積むこと

――足立さんが苦戦した経験はないんですか?例えば、「これはうまくいかないだろう」「この商品は売れないだろう」と思ったときはどうするんですか?

うまくいかないことはたくさんあります。マクドナルドは成功したように思われていますが、私がマーケティング本部長に就任した最初の年は、7割くらいの施策が失敗しているんです。

――失敗した場合はどうするんですか?

なかったことにします(笑)

――そんな…(笑)

いや、半分本気で言っていて、マーケティングのポイントは素振りの数なんですよ。打席数と言ったほうが正しいかな?

野球でバッターとして成長するためには、いろいろなタイプのピッチャーと、たくさんの対戦経験を積んだほうがいいですよね。そのためにはできるだけ多く打席に立つことが大切です。そうした経験を積んでフェーズが上がると、打率が上がり、結果的に出番も増えていきます。マーケティングも同じで、いろいろなことをたくさんやってみないとわからないんですよ。特に今は何かあるとすぐにネットに流出しますから、テストマーケティングの実行がなかなか難しいんです。だから実際にやってみないとわからない。

とはいえ、大きな経営資源をよくわからない施策に投下するのは経営としてリスクがあるので、失敗しても痛くない程度の施策でいくつか実践してみて、うまくいったケースを拾ってきて大きくするというのが私のやり方です。いっぱい実行すると当然ですが、たくさん失敗もします。

――「なぜ失敗したんだ!」と責められたらどうするんですか?

謝ります。イチローだって3割しか打てないですから、全部成功するわけがない。全部失敗したらまずいですが、全体として成功させていればいいんです。

宴会の幹事をさせればわかるマーケターの資質

――次にコミュニケーションについてお聞きします。感情が大事なのは言うまでもないですが、足立さん流のコミュニケーションの極意はありますか?

新しい仕事や会社に赴任したときは、基本的に笑わせることと、自分の熱意を伝えることを心がけています。海外でも同様で、笑いの効用はユニバーサルです。海外は自動車通勤が多くて飲み会は難しいので、ランチや普段の会議の場が勝負です。そのときに楽しく、かつ本気だということを見せればいいわけです。

――接する相手によって最適解は変わると思うのですが、こういうタイプの人にはこうしたほうがいいというようなパターンはありますか?

自分がどういうタイプだからというより、コミュニケーションのスタイルを相手に応じて変えることが重要です。

これはよく言うんですけど、その人がいいマーケターになれるかどうかは、宴会の幹事をさせれば一発でわかります。参加する人のことをきちんと考えて、どういう人が来るから、どんなことをすれば楽しいか、2時間から3時間かかる宴会を最初から最後まで楽しんでもらうためにはどうすれば良いのか。そういうことを考えて実行できる人と、考えようとしないし、実行もできない人が世の中にはいます。相手のことを考えて、どうすれば楽しんでもらえるのかについて知恵を絞ることはマーケティングの基本です。1対1でも同じことです。相手の心を動かして好きになってもらう、楽しんでもらう、やる気になってもらう。それは小規模マーケティングなんですよ。良いマーケターになりたいなら、その練習として宴会の幹事は一生懸命やったほうがいいと思います。

その際、1つだけポイントを挙げると、「サプライズ」が効果的です。相手が想像もしていなかったこと、期待以上のことをしてあげると、人と打ち解けるのに大いに役立つでしょう。

CMOを目指す千載一遇のチャンスは今

――最後に足立さんから若いマーケターに向けて、どんな勉強をすべきか、どうすればCMOになれるのか、アドバイスをお願いします。

「若い」って何歳くらいですか?

――20代から30代半ばくらいですね。

なるほど…。

若い人に言いたいのは、もし本気でCMOを目指しているのであれば、働き方改革も大事なんでしょうけど、「まずは2~3年に1回は昇進するくらいの気合いで仕事をしたほうがいいですよ」ということです。

世界を見回すと、CMOって大体40代です。CEOでも40代かもしれない。そういう人たちの中に「ワーク・ライフ・バランスで、余裕を持って楽しく…」なんて仕事の仕方をしている人はいません。ジャック・ウェルチ(※2)は、「偉くなりたいなら、ほかのものは全部捨てろ」とはっきり言っています。

なぜかというと、経験の量なんです。先ほども申し上げたように、打席にいっぱい立って、たくさん素振りをすることが大事なんです。でもそれには時間がかかります。

仕事でも勉強でもそうですが、「効率」を追求したところで、5%から10%くらいの差しかつきません。しかし、時間の場合は、もちろん密度にもよりますが、50%多くかけたら50%多く身に付くものです。

ずっと会社にいて仕事をしろとは言いません。自宅で勉強するのでもいいし、いろんな人に会って学ぶのでもいい。大事なのは、自分の成長のためにたくさん時間を使っていろいろな経験をすることです。それが一番手っ取り早いのは、仕事上でさまざまな修羅場に飛び込んでいくことです。修羅場に飛び込むと、濃い経験を短時間でたくさんできます。「若いときの苦労は買ってでもしろ」ということわざが日本にありますが、それくらいのつもりで仕事をしたほうがいいのではないでしょうか。

――「修羅場を経験しろ」と言いますけど、今の時代、若いマーケターの中には、「しにくさ」のようなものを感じている人もいるのではないでしょうか?具体的には会社の中でなのか、外に飛び出すほうがいいのか、どのように修羅場を選べば良いのでしょうか?

会社の中にいるにせよ、外に飛び出すにせよ、みんなが嫌がることを進んで引き受けて実行していくと、自然と鍛えられ、経験値がたまるでしょう。その経験値は自分の武器になります。

CMOになるには専門家では駄目です。CMOは俯瞰の人だから。俯瞰するためには全体を何となくわかっていることが大切です。何となくでいいんですよ、判断さえできれば。全体を俯瞰できるようになるためには、マーケティングという名前のつく仕事にこだわることなく、いろいろなところに飛び込むことです。そうすることで経験値が上がっていきます。

――ひたすら経験値を積むことが大事であると。

もちろん、経験を積むだけでは駄目で、結果を出さなくては昇進しません。だから常に結果にこだわり、結果を出すという意識を持ち続けることが大切です。結果を出し続けないと、2~3年で昇進することなどできません。優れたマーケターや経営者で、負けず嫌いでない人はいません。目の前の仕事で誰にも負けない成果を出して、勝ち続けるように努力してください。

もし今、自分の希望とは違う部署や仕事に就いていたとしても、そこで頑張って2~3年で誰にも負けない成果を出せば、希望するところに行ける可能性が高いと思います。

最後にもうひとつ重要な点を挙げると、ピープル・スキルを身に付けることです。CMOは自分では何もしない仕事です。方向性は決めるかもしれませんが、実行するためには部下はもちろん、社内のさまざまな部署の方々の協力を取り付けることが不可欠です。その人たちに「あなたのためならやってやろう」と思ってもらえるようなピープル・スキルを身に付けてください。自分の周りに、そういう「人徳」のある方、「人たらし」と呼ばれるような方がいらっしゃるなら、その方々の真似から始めるのもいいでしょう。人は論理ではなく、感情で動きます。ピープル・スキルに関する自分なりの方法を身に付けるのが、CMOだけではなく、経営者として昇進していくためには不可欠だと思います。

今も、そして多分今後も、マーケティングの世界には圧倒的に人材が足りません。なぜなら、若くしてたくさんの経験や人徳を積み、全体を俯瞰できるようなキャリアを持っている人が少ないからです。だからCMOを目指すなら、今が千載一遇のチャンスではないでしょうか。

――本日はありがとうございました。


※1
セオドア・レビット:「マーケティング近視眼」などの論文で知られる米マーケティング界の巨匠の一人。ハーバード・ビジネス・スクール名誉教授、『ハーバード・ビジネス・レビュー』編集長などを務めた。

※2
ジャック・ウェルチ:ゼネラル・エレクトリック(GE)社の元最高経営責任者。「20世紀最高の経営者」と評される。経営手法に賛否はあるものの、日本の経営者の中には今も信奉者が多いとされる。

足立 光(あだち・ひかる)
1968年、米国テキサス州生まれ。一橋大学卒。P&Gジャパン、ブーズ・アレン・ハミルトン、ローランド・ベルガーなどを経て、ドイツのヘンケルグループに属するシュワルツコフヘンケルに転身、2005年に同社社長。2011年にはヘンケルのコスメティック事業に関する北東・東南アジア全体を統括。その後、アパレルメーカーのワールドで国際本部長/執行役員に就任。2015年から日本マクドナルドのマーケティング本部長/上席執行役員としてV字回復を牽引する。現在はポケモンGOで知られるナイアンティックでアジア・パシフィック プロダクトマーケティング シニアディレクターを務めながら、ローランド・ベルガーのエグゼクティブ アドバイザー、スマートニュースのマーケティング アドバイザーも兼任する(2019年1月時点)。オンラインサロン「無双塾」も主催。
著書は『マクドナルド、P&G、ヘンケルで学んだ 圧倒的な成果を生み出す「劇薬」の仕事術』(ダイヤモンド社)。

 

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