企業ホームページ運営の心得

オウンドメディアの雄、コカ・コーラパーク終了に見つける限界と課題

オウンドメディアの運営で忘れてはならない費用対効果、考えていますか
Web 2.0時代のド素人Web担当者におくる 企業ホームページ運営の心得

コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。

宮脇 睦(有限会社アズモード)

心得其の484

12月21日のさようなら

オウンドメディアの走りとして、さらには「エコシステム(マーケティング)」の成功事例とされた「コカ・コーラパーク」が2016年12月21日に幕を閉じます。2007年6月のサービスインから9年半の歳月に、私は「大成功」と賛辞を贈りますが、かき入れどきのパーティーシーズンにサイトを閉じるところに限界を見つけます。

12月21日の終了が発表されたコカ・コーラパーク

東西ボトラーが合併へ向けた協議を開始するなど、取り巻く環境の変化からの事業整理の一環かもしれません。ランニングコストを利益が上回る「費用対効果」でプラスなら、わざわざ停止することはないからです。

今回は一時代を築いた「コカ・コーラパーク」への敬意を込めて、オウンドメディアが内包する弱点を何かと話題の「WELQ(ウェルク)」への皮肉を込めてお届けします。

リアルの一部という現実

エコシステムとは「Web 2.0」の綻びが明らかになりつつあったころ、特撮ヒーロー番組における「追加キャラ」的に米国から輸入された言葉です。本来は「Webという生態系」を指すこの言葉に、日本語版ウィキペディアは「バズワード」と添えています。バズワードは、流行させるために仕掛けられるキャッチコピーという意味です。

緊急輸入されたエコシステムとは、リアルにおける「食物連鎖」のように、Webのなかで利益が消費と再生産を繰り返し循環する仕組みを指しましたが、そもそも構造的に不可能な絵空事です。なぜなら、ネットユーザーの「飲食費」に代表されるように、利益の一部は必ずWebの外に散逸する宿命を持つからです。冷静に考えれば当たり前の話。「リアルの中の一部」がWebだからです。

Webにおけるエコシステムとは、市場参加者(あるいはユーザー)が爆発的に増加する時期に一瞬だけ存在する「現象」に過ぎません。とりわけ「コカ・コーラパーク」は、「日産自動車」や「オリンピック」といった、知名度と集客力のある企業やイベントと連携したことによる成功体験が、過大評価へとつながったことは否めません。

囲い込みの限界

マーケティングとして見たエコシステムとは「囲い込み」です。オウンドメディアにおいても重要となるリピーターを確保するための戦術です。パン屋のスタンプカード、家電量販店のポイント還元と同じく、メリットを提供することでお客を囲い込みます。「コカ・コーラパーク」はスロットマシーンや宝探しといったゲームなど、数多くのコンテンツを無料で提供し、ポイントまで提供していました。しかし、どれだけ尽くしても、選択の自由はお客の側にあります。これが囲い込みの弱点です。

お客はいつでも退会できます。退会を宣言しないまま利用しなくなる幽霊会員もいます。「継続か退会」の二者択一の権利は、お客の側にあり、企業がどれだけ優れたオファー(提案、メリットの提供)をしても、継続という引き分けしかなく、均衡縮小という「負け戦」へと向かう性格を持つのが「囲い込み」です。

運命づけられた限界

負け戦に追い込まれないためには、新規会員を継続的に増やさなければなりません。また、囲い込んだお客が離れていかないよう、コンテンツやイベントを提供し続けなくてはならず、これはオウンドメディアも同じです。いずれにせよ必要となるのが運営の「費用(コスト)」です。

家電量販店のポイント還元は、受け取った代金の一部を原資とし、仕入れ値などから予め収支を計算して採算がとれているから持続できているのですが、「コカ・コーラパーク」はここに限界があったのでしょう。コンテンツを提供するためのコストは持ち出しながら、会員情報を管理するコストは継続的に発生します。販促には投じた費用以上の利益「費用対効果」が求められ、オウンドメディアにとっても避けられない課題です。

つい最近、費用対効果の重要性を示したのが、東証一部上場企業のDeNAが運営していた健康にまつわる情報を提供するキュレーションサイト「WELQ(ウェルク)」です。DeNAがWELQに期待したのは、(新規事業としての)収益性であることは、直近のIRから確認できます。それはサイトに掲載する広告費などからの収益で、すなわち高い費用対効果です。

見えない効果に投資できるか

すでに方々で触れられているため詳細は語りませんが、WELQは逆説的にランニングコストの大切さを考えることのできる事例です。

オウンドメディアに関わる運営コストは、直接のコンテンツ制作費だけではありません。外注するにせよ、内製するにせよ、さまざまな経費がかかっており、費用対効果は無視できません。特にWeb上で取引が成立する物販系のサイトではない、BtoB企業のような情報サイトの場合は効果が目に見えづらいため、ときには売り上げ以外を目標にすることも必要です。

囲い込み戦略で成功を収めながら、まもなく終演を迎える「コカ・コーラパーク」は、囲い込み戦略の構造的限界を示してくれた事例でもあります。そしていま、コカ・コーラは「Coke ON」という新たなマーケティングに取り組んでいます。従来のような狭い範囲の囲い込みではなく、お客の生活に溶け込んだ、よりオープンな取り組みです。

オウンドメディアの運営では、たびたび長期的な視点が重要だといわれます。正しい一面ですが、ただ丁寧にコンテンツを作り続けていれば成功するという時代ではありません。何を持って成功とするのか、当初から費用対効果を明確にしておくことが求められます。

今回のポイント

囲い込みには構造的限界がある

どんな販促も費用対効果に帰結す

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