ユーザビリティを向上させれば顧客ロイヤルティも上がるのか? 実際に調査してみた
「ユーザビリティを向上させれば顧客ロイヤルティも上がるのか?」NPSとユーザビリティの相関や、NPSにおける推奨者・批判者はSUS指標でどの範囲かを解説したこの記事の筆者でありUXリサーチの専門家であるジェフ・サウロ氏が来日し、UXの定量化・指標化に関して講演を行います(詳しくは記事の末尾)。
あなたは自分が使っている携帯電話を友達に薦めますか? 以前に借りた車のレンタカー会社はどうでしょうか?
顧客ロイヤルティは、製品やサービスの長期的な存続における重要な要素です。顧客満足度と顧客ロイヤルティの測定にはさまざまな方法があり、その多くにはアメリカン・カスタマー・サティスファクション・インデックス(米国顧客満足度指数)のようなアンケートが含まれます。なかでも最も利用されているのがいわゆるネット・プロモーター・スコア(NPS)と呼ばれるものです。
NPSは、「あなたはこの製品を友人や同僚に薦めますか?」というたった1つの質問を基にしています。回答の選択肢は0から10までの11段階で、数が大きければ大きいほど薦める可能性が高いということになります。9~10を選ぶ人は推奨者(プロモーター)、6以下の人は批判者、7~8の人は薦めもしなければ、批判もしない受動者となります。
ネット・プロモーターの「ネット(総数)」はその回答の採点方法から来ています。推奨者(プロモーター)の数から批判者の数を差し引いたものがネット・プロモーター・スコアとなるわけです。こういった極端な回答をする顧客のほうが、口コミで製品やサービスをほめたり、けなしたりする可能性が高いという考え方です。
この、たった1つの質問は、企業の長期的成長を予測する良い基準であると言われています。
NPSも論争とは無縁ではありません。なかにはその予測能力と信頼性を疑問視する向きもあります。一般的には、ロイヤルティやユーザビリティ、満足度といった構成概念を測りたければ、1つの質問に頼るのではなく、複数の質問があるほうがより信頼性が上がるでしょう。しかしNPSは、その単純さ、また直観性ゆえに企業に人気があります。また、1つの質問であっても意外にも多くの情報をもたらしてくれる [PDF] ものです。
ロイヤルティを向上させるものは何か?
だれもが、より高い顧客ロイヤルティを望んでいます。ですからロイヤルティを示す目盛りを上に振れさせるにはどの「レバー」を引けばいいのかを知っておくことは、とても重要です。ロイヤルティを向上させる変化を起こせるなら、収益も増加するはずです。
では、ユーザビリティを向上させれば顧客ロイヤルティも上がるのでしょうか?
その答えを見つけるために、ユーザビリティの受け止められ方を測定するものとして人気のシステム・ユーザビリティ・スケール(SUS) [PDF] に注目し、NPSに対する回帰分析を行ってみました。
レンタカー会社や財務アプリケーション、そしてアマゾン・ドット・コムなどのウェブサイトを含む12ほどの商品/サービスについて全体で146人のユーザーから得た回答を検証しました。データはラボで行われたユーザビリティ・テストとともに最近購入した製品のアンケート調査(同じユーザーがSUSとNPSの両方に回答)の結果が元になっています。
結論としては、NPSとSUSには0.61という強力なプラスの相関関係がありました。それはつまり、SUSのスコアはNPSの変動性のうちおよそ36%を説明できるということを意味しています。回帰分析の式は次のとおりです:
NPS = 0.52 + 0.09 (SUS)
したがって、SUSのスコアが70の回答者であれば、その人のNPSでのスコアはおよそ7となります。ある人がNPSで推奨者(9+)になるためには、SUSのスコアは少なくとも88が必要となります。
推奨者(プロモーター)と批判者のSUSスコア
データからもう1つ導き出せるのは、推奨者と批判者のSUSスコアです。推奨者のSUSスコアは平均82、批判者のSUSスコアは平均67です(p < 0.01)。目指すべきSUSスコアを求めるとすると、80より上であれば確実に推奨者の範囲に入ると私は思います。
NPSとユーザビリティアンケートが強い相関関係にあることは何も驚くことではありません。と言うのは、質問が大変に似通っているのです。たとえば、SUSの質問の1つは「ほとんどの人がこのシステムの使い方を簡単に学べると思う」かどうかを問うものです。
言うまでもなく、ユーザビリティのアンケートがユーザビリティのすべてではありません。実際にはおそらくユーザビリティの3分の1くらいに過ぎないでしょう(ISO9241 pt11の定義もあります)。ユーザビリティの測定にはタスクタイム(作業時間)や完了レートといった、タスク・ベース・パフォーマンスの評価指標もあります。こういった指標はSUSやNPSなどのテスト後に行うユーザビリティアンケートとはわずかな相関関係 [PDF] しかありません(Sauro & Lewis 2009)。
アンケートがユーザビリティの全体像の一部しか示していないにしても、やはり重要なものなのです。事実、アプリケーションのユーザビリティにおける1人のユーザーの認識のほうがタスク・パフォーマンス(いわゆる「入り口的」ユーザビリティ測定)よりも重要に感じることでしょう。
今回のデータは、ユーザビリティの向上が顧客ロイヤルティに実質的なインパクトをもたらすことを示唆しています。もし人々があなたの製品が使えるものだと思えば、彼らがそれを使う可能性が高まり、人に薦める可能性も高まり、そしてあなたの製品が売れる可能性も高まるのです。
UXを指標(メトリクス)の観点で考えるセミナーイベント
本記事の筆者でありUXリサーチの専門家であるジェフ・サウロ氏も来日して講演するセミナーイベント「ソシオメディア UX戦略フォーラム 2015 Fall」が、2015年10月7日~8日に、東京都千代田区のステーションコンファレンス万世橋で開催されます。
本記事を翻訳したソシオメディア株式会社が開催している「UX戦略フォーラム」シリーズの2015年第3弾で、今回のテーマは「メトリクスの探求」。
ジェフ・サウロ氏は、1日目のキーノートと2日目のセッションに加え、パネルディスカッションでも登壇します。
サウロ氏をはじめとする、「UX」「顧客ロイヤルティ」「NPS」とその指標化に関する国内外の専門家が集い、UXデザインの計測や分析、そしてそれらの数値をどうマネジメントに活用するかといったことを探るイベントです。
- イベント名称: ソシオメディア UX戦略フォーラム 2015 Fall
- 開催日時: 2015年10月7日(水)~8日(木)
- 開催場所: ステーションコンファレンス万世橋(東京都千代田区)
- 主催: ソシオメディア株式会社
- 詳細情報と参加申し込み:
https://www.sociomedia.co.jp/6073
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