コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。
宮脇 睦(有限会社アズモード)
心得其の336
この秋のブーム
息子の不祥事により番組降板に追い込まれた「みのもんた」さんに、阪急阪神ホテルズを皮切りとした一連の「食材偽装」、みずほ銀行グループによる反社会勢力への融資に、楽天市場の優勝セールにおける「二重価格」など日本全国で「謝罪」が溢れています。まるで「謝罪ブーム」です。そういえば「あまちゃん」の宮藤官九郎氏の脚本による映画「謝罪の王様」も封切られていました。
コンプライアンスの高まりと、叩きやすいものを叩く風潮によって、不祥事を起こした企業にメディアは残酷です。一方で、謝罪する側の過ちによって怒りを拡大させている事例も多く、「ブーム」にまで発展した理由もここにあります。謝罪が失敗するとネットは炎上します。
今回は効果的な「謝罪」のための「謝罪の心得」。
頭の下げどき
本題に入る前に、頭を下げるタイミングについて。本コラムでは以前、「自分が優位に立っているとき」と指摘したことがあります。また「すぐに頭を下げるのが上策」と紹介したこともあります。その場凌ぎに適当なことを書いている訳ではなく、状況により使い分けるもので、この場を借りて整理しておきます。
密室での個別交渉などでは、安易な謝罪はマイナスに作用することがあります。反対にサイト上などで謝罪が必要な場合、特に不特定多数が相手ならば、迅速に頭を下げるとよいでしょう。前者はBtoB、後者はBtoCと色分けできます。
みのもんたさん、レストラン・ホテルの釈明も、それぞれ「密室」ならば通じたかもしれません。しかし、カメラの向こうにいるのは不特定多数の視聴者やお客。「迅速に頭を下げる」が「最適解」だったのです。
謝罪の基本ステップ
謝罪に期待できる効果は3つです。
- Level-1:怒りの拡大を防ぐ
- Level-2:理解を促す
- Level-3:信頼を得る
段階的に難しくなり、基本的に「飛び級」はできません。
まず、謝罪とは相手や周囲の怒りが拡大することを防ぐためにするものです。謝罪で怒りを「鎮め」ようとしてはなりません。怒りとは相手の心の問題であり、許しを請う立場が求めるのは筋違いです。具体的には率直に過ちを認めたうえでの「誠実な謝罪」しかありません。
次の段階が「理解を促す」。状況が許すなら淡々と事情を説明します。状況を理解することで「事情はわかった」と同意感情が芽生え、怒りが中和されることがあるからです。ただしあくまで説明です。釈明や言い訳を試みれば反感を買うことを教えてくれたのは、ニュースを賑わせたみのもんたさんであり、食材偽装が疑われるホテルやレストランです。
逮捕が怖くて墓穴
食材偽装が、より良く見せて利益を得ようとする目的の「優良誤認」と認定されれば懲役刑もあります。一方、「誤り」ならば過去の事例から「指導」どまりです。そこで日常的にバナメイを芝エビと偽っていたことを「誤表記」だったと主張します。故意なのか単純ミスなのか、真相は定かではありませんが、これが命取りになりました。世論の怒りは拡大、監督官庁を動かし、消費者庁が当該施設へ立ち入り検査に動いています(本稿執筆の2013年11月12日時点)。
その点、楽天はみごとでした。プロ野球「楽天」の日本一を記念したセールで、通常価格を吊り上げた二重価格の疑惑について、当初は「楽天に非はない(決算発表での発言要約)」とトップが断言します。ところが社内調査の結果、不備が見つかると緊急記者会見を開き、トップ自身が前言撤回し、率直に謝罪しました。これにより「怒りの拡大」を阻止します。
反社会的勢力への融資を問われたにもかかわらず、すぐにトップが対応せずに周囲の怒りを拡大させた、みずほ銀行と対照的です。
見事な楽天の危機管理
なにより事実の説明が秀逸でした。当事者を利用者と出店者に設定したことで「楽天市場のなかのできごと」に限定したのです。調査結果や再発防止策には首を捻る内容も多かったのですが、「楽天市場のなかのできごと」にしたことで、主催者が改善を約束したのなら、外部のものは様子を見るしかないと思わせたのです。謝罪にとどめて弁明は加えませんが、状況設定をコントロールすることで理解を促す高等テクニックです。
その先にある「信頼を得る」には、まず「怒りの拡大を防ぎ」、一連の事実について「理解を促す」ことが必要であり、謝罪前の信頼関係が左右します。楽天市場に信頼置くものなら、先の対応で「さすが楽天」と唸り、反対なら「うまく逃げやがって」と舌打ちします。日ごろの行いがものをいうのは、すべてのビジネスシーンに共通します。
歴史の浅い消費者庁は、世論に反応して動く傾向が見られます。世論を沸騰させないためにも、怒りの拡大を防ぐ「謝罪」の重要性は今後高まることでしょう。もちろん、ウェブにおいても同じです。
伝説の謝罪とブーム
ここで「伝説の謝罪」を紹介します。かつて4大証券会社と呼ばれた「山一証券」が破綻した際、当時のトップは号泣しながらこういいました。
私ら(経営陣)が悪いんです。社員は悪くありません。
わずか3か月前に就任し、破綻につながる不祥事を知ったのは社長に就任してからだったのに、過ちを引き受け、部下を庇う姿に批判の刃が鈍ります。「謝罪ブーム2013」ではついぞ見なかった光景です。
それでは「謝罪」の「心得」です。
命までは取られない。しかし、立場がなくなることを覚悟すること。
一般的に仕事の失敗で命が奪われることはありません。誠心誠意は当然としながらも、命までは取られないと開き直ることで、卑屈な態度を回避します。謝罪において、卑屈な態度は相手の怒りの炎に油を注ぐのです。
究極の心得とは
ただし降格や減給、ときには解雇まで甘受する覚悟も必要です。その「覚悟」が誠実さを裏打ちするとは経験則。会社員時代、私が謝罪に出向き、収まらなかったケースがなかったのは、この「覚悟」の違いです。「伝説の謝罪」と同列に語るのはせんえつですが、半端な覚悟は見透かされます。これはメールやウェブ上での謝罪にも通じます。
さらに、こちらの心得も重要です。
自分が社長のつもりで謝罪する。
会社員時代、私は勝手に「社長の名代」を名乗っていました。あながちウソではありません。お客から見れば、みな会社を代表しているからです。
私は豊富な「謝罪」経験を持ちます。決して自慢できることではありませんが、ウェブ業界風に言うなら「シェア」ということでお役に立ちましたら……コホン。ですが、一番良いのは謝罪の必要な事案が発生しないこと。この連載で初めて、読者のお役に立たない原稿であることを祈っております。
今回のポイント
謝罪で命までは取られないが、覚悟を持つべし
卑屈な謝罪はトラブルを悪化させることあるので要注意
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コメント
こんなんWeb担フォーラムじゃない別のところでいくらでも見
こんなんWeb担フォーラムじゃない別のところでいくらでも見れるやん。
いくら現場主義と言えど脱線しすぎ。
Webの情報知りたくてWeb担フォーラム来るんだから、それに合わせて書くもの考えていくべき。
編集部の池田です。ご意見ありがとうございます。 宮脇さんに
編集部の池田です。ご意見ありがとうございます。
宮脇さんにはオンラインに限らず、ビジネスの現場で培ってきた経験を伝えていただいております。ときにはWebから離れたテーマもあるのですが、今後の企画の参考に共有させていただきます。