コスト削減のCMSからカスタマー・エクスペリエンスを向上するWEMの時代へ
Webコンテンツ管理システムの役割は
コスト削減からカスタマー・エクスペリエンスへ
2000年頃から、国内Webサイトでも導入が始まったWebコンテンツ管理システム(WCM、Web Content Management)。今では多くの企業が導入していますが、WCMを何のために導入するかは、ここ4~5年で変化が見られます。
2008年頃までの導入目的は、効率化とコスト削減でした。たとえば次のようなものです。
- テンプレートを導入することによって、コンテンツ作成を簡易化し、外注費を削減する。
- ワークフローを導入し、コンテンツ更新の時間を短縮する。
- 履歴を管理し、何かあったときにすぐに以前のバージョンに戻せるようにする。
- テンプレート化することにより、コンテンツの見た目を統一し、ブランディング力を高める。
- WCMで作成したコンテンツをHTMLとして生成し、Webサーバーに配信する。
しかし不況によって企業のさまざまな予算がカットされ、単純にコスト削減のためにWCMを導入することに企業が疑問を持ち始めたのが、2009年頃です。
それと時を同じくして、企業のWebマーケティングがチャネル最適化からユーザー最適化へと進化していったため、WCMを単なるコスト削減のためのツールではなく、さらにカスタマー・エクスペリエンスを向上させる役割をもたせた「Webエクスペリエンス管理システム」(WEM、Web Experience Management)」だととらえる流れが生まれました。
それまでは、「企業Webサイトのコンテンツ管理」と「顧客管理」「マーケティングコミュニケーション」「効果測定」「最適化」のためのツールが別々でした。しかし、WCMはそうした機能を統合する「マーケティング統合スイート」という新しい姿に生まれ変わり、マーケティングデータとコンテンツ管理を連携させるようになったのです。
これにより、顧客の属性や行動に応じてサイト上でどんなコンテンツを表示するかをより細かく最適化できるようになったWCMは、顧客により良いエクスペリエンスをもたらすWEMへと進化しました。
日本ではまだポピュラーな呼び方ではない「WEM」ですが、欧米ではWCMの次のキーワードとしてすでに普及している用語です。
ここからは、WEMについて考えてみたいと思います。
Web担当者も「エクスペリエンス向上」を求めている
ここに興味深いグラフがあります。これは、世界各国のWCMの導入決定者が次に何を実施したいかというアンケートの結果です。
「モバイル対応」「ビデオストリーミング対応」などと同様に、「コンテンツのターゲティング」「ユーザーにレビュー、コメントを付けさせる」「ソーシャルネットワークとの連携」が興味深いところです。
これらすべてが、カスタマー・エクスペリエンス力を上げる要素になると筆者は考えています。
ここからは、上記アンケートの結果から4つのキーワードを抽出し、Webコンテンツ管理システムでどのように実現できるか見ていきます。
Webコンテンツ管理システムで実現できるカスタマー・エクスペリエンス
1. モバイル対応(マルチデバイス対応)
いわゆるシングルソースでマルチユースを実現する方法です。
顧客はすでにさまざまなデバイスを使っています。そのため、それぞれのコンタクトポイントで適切な形でコンテンツを提供できるようにしつつ、コンテンツ管理が煩雑にならないようなシステムが必要とされます。
以前ならば「PC向けサイト」「ケータイ向けサイト」の2種類を用意しておけばよかったのですが、今やタブレットやスマートフォン、さらにはWiiなどのゲーム機、スマートTVなど、インターネットに接続するデバイスの種類は多岐にわたります。また、コンテンツを統合的に管理するようになれば、印刷物やデジタルサイネージなど、さらに異なるチャネルでもコンテンツを配信することになるでしょう。
昨今では、顧客が利用しているデバイスの画面サイズや機能に応じてサイト表示を切り替えられる「レスポンシブWebデザイン」が主流になっているため、この仕組みに対応できるシステムを選ぶことは重要です。
とはいえ、レスポンシブWebデザインであれば何でも対応できるわけではないため、ネットワーク速度や特性が大きく異なるデバイス向けに、あらかじめ用意したデザインテンプレートで対応できるようにしておく必要があります。
チャネルごとにテンプレートを柔軟に設定できるシステムを選択しなければ、今後さらにデバイスが多様化していくにつれ、各コンタクトポイントでのカスタマー・エクスペリエンスを維持できなくなってしまうでしょう。
2. ターゲティング・パーソナライズ
最近では、アクセス状況などに応じてターゲティング、パーソナライズ、レコメンデーションなどを行えるWCMが増えてきています。
- どのチャネルからサイトを訪問したのか
- どんな検索キーワードでサイトを訪問したのか
- 過去にサイト上でどんなコンテンツを閲覧したのか
- サービス解説の動画を最後まで見たのか
- 顧客データベース上の属性
- 過去の購買履歴
- 過去に配信したどの内容のメールマガジンに反応したのか
- どんな内容のセミナーに参加したことがあるのか
アクセス解析ツールやメール配信システム、顧客管理システムなどと連携してこうした情報を取得しておいて、「こうしたセグメントの顧客はこういった情報を提示すれば好感を持って反応するはずだ」という仮説をもとに、ルールを設定して表示するコンテンツを自動的に切り替える仕組みです。
しかし、こうしたマーケティング施策の要点は、仮説を元にテストを頻繁に行い、その結果データをみながら施策の内容を改善してくPDCAサイクルをまわし続けることです。
ところが、ルールを変更するのに技術者がプログラムコードを変更しなければならないシステムでは、こうしたPDCAサイクルを頻繁にはまわせません。
よりスピーディーにカスタマー・エクスペリエンスを向上するためには、システム部門に依頼するのではなく、マーケティング部門やEコマース部門など、実際に業務を行っているユーザーが、簡単な操作でパーソナライズやレコメンデーションのルールを設定できるかどうかが大きな差別ポイントとなります。
「顧客が見るWebサイトでどんなことを実現できるか」だけでなく、「技術に明るくない人でもマーケティング施策を管理・分析・設定しやすいか」という使いやすさも意識する必要があるのです。
3. ソーシャルメディア対応
ソーシャルメディア対応といってもさまざまな方法がありますが、まずは「いいね!」ボタンやツイートボタンなど、ソーシャルメディアでコンテンツを共有してもらうためのウィジェットを簡単に設定できるかどうかがポイントとなります。
顧客はすでに気に入ったページに対して「いいね!」をしたりツイートしたりすることを行っています。となれば、その行動に対応できる仕組みをサイトが備えていなければ、せっかく好感を持って友だちに共有したいと思っている気持ちが「いいね! ボタンがない」という落胆に変わってしまい、カスタマー・エクスペリエンスが損なわれてしまいます。
可能ならば、それらのソーシャルメディアボタンを顧客がどのように利用しているのかのデータを前述のパーソナライズに統合できることが望ましいでしょう。
また、Eコマースサイトや会員登録するようにサイトでは、FacebookやTwitterのアカウントを使ってログインできる機能も備えておくことで、顧客にとってはより使いやすいサイトになるでしょう。
さらには、FacebookやTwitter以外のさまざまなソーシャルメディアにも対応できる仕組みになっていることは大切です。現在日本ではLINEが伸びてきているように、今後、どんなサービスに対応する必要がでてくるかはわかりませんから。
4. ユーザーにコメント、レビューを付けさせるサイト
ソーシャルメディア対応に近いものがありますが、特にFacebookやTwitterとは連携しない形であっても、サイト内でコメントやレビューを付けることができる仕組みは、特にEコマースサイトなどでは重要になります。
顧客は企業が正式に出す「表向きの情報」だけでなく、本当に役に立つ情報を求めています。商品を購買しようか迷っているときに、第三者の感想を確認できることは、カスタマー・エクスペリエンスを向上させる大切なポイントなのです。
マーケティング的な観点からは、文章で書かれる定性データだけでなく、定量データとして扱えるレーティングの情報を得られるかどうかもポイントとなります。
さらには、サイト上でアンケートを簡単に実施できる機能があれば、より良いでしょう。システム担当者の手を借りずに、マーケティング担当者が自分でアンケートを作り、サイト上で投票を受け付け、その結果を分析したりサイト上に表示したりできる機能です。
投票結果の表示スタイルが切り替えられる仕組み(チャート/テキストなど)があれば尚良いでしょうし、実施期間を設定できれば、締め切り後にページをわざわざ再生成する必要がありません。
カスタマー・エクスペリエンスの輪における「リサーチ→絞り込み→購入」、さらにその後の「共有」「推奨」の段階においては、自社サイトが重要な役割を果たします。そこでカスタマー・エクスペリエンスを向上させるためには、Webコンテンツ管理システムがどんな役割を果たすべきか、理解いただけましたでしょうか。
「Webコンテンツ管理システム」が果たすべき役割は、すでに単純なページ管理だけではなくなっています。さまざまなコンタクトポイントにおいて、より良いカスタマー・エクスペリエンスを提供するための基盤となるべきなのです。
WCMからWEMへ、Webコンテンツ管理ベンダーの顔ぶれや提供する製品の方向性も、少しずつ変化があるように思います。
また、今後より一層進むであろう技術革新や世代間の違いによって、情報の受発信、購買方法や利用するデバイスなどは常に変化していきます。今この現在にとって最適な仕組みももちろん重要ですが、今後の変化に柔軟に対応できる仕組みにしておくことが求められます。
これからのWebコンテンツ管理システムは、コストを削減するためのものだけではなく、カスタマー・エクスペリエンスを向上し利益を生み出すWebサイトを構築するためのものだととらえることが、成功の鍵となるでしょう。
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