“ブラック・テキスト芸” 4タイプを検証、グレーからブラックぎりぎりまで
コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。
宮脇 睦(有限会社アズモード)
心得其の弐百伍十弐
ステマを非難できない理由
私にはステルスマーケティング(ステマ)を一方的に批判することはできません。「食べログ」の不正投稿事件を受けて注目されたステマとは、利益供与を受けている事実を隠した販促活動を指しますが、現代広告において第三者を装い商品を礼賛させることは日常的な手法だからです。
利益供与の有無は明らかにされませんが、バラエティ番組でタイアップ商品を、わざとらしく「旨い」と唸るタレントなど枚挙に暇がありません。氾濫する理由は、それだけステマ的手法には効果があるからです。
私が「ブラック・テキスト芸」と名付けた文章術も、そうした用法に応用できます。使い方によってはブラックに染まってしまいますのでご注意を。
1. 全体像や細かな数字をスルー
以下はあるWeb業界著名人のソーシャルメディアのイベントでの発言の要約です。
ソーシャルメディア経由の来店が1割で、その1割で黒字になっている店が結構ある
たった1割の客により黒字になるならば「成功」とだれもが思うことでしょう。しかし、ブラック・テキスト芸としてみたときに、初歩の「根拠のない数字の披瀝」という手法が使われています。実はこの証言には、ざっと挙げただけでも以下の4つの疑問があるのです。
- ソーシャルメディア利用以前の来店動機分布がわからない
- 全体の来店客数が示されていない
- 黒字額が明らかにされていない
- 「結構」とは絶対数か、相対的割合か
簡単な例を挙げれば、5人も座れば満席となるバーと、100人規模の宴会ができるレストランでは、1割の持つ意味が大きく異なります。そこを「スルー」することで、ゆるぎない成功例のように錯覚させるという手法で、提示された「数字」だけで判断したがる人間の習性を利用しています。
これはステマとは別物ではありますが、客観的に事象を語っている人が、利益該当者であるという外形的な構図は重なります。
2. 根拠を示す方法
実はこの手法、企業広報などでは頻繁に使われています。2~3年前にWeb業界を賑わせた、パソコン通販の「Dell」がツイッターにより多額の売上を計上したというネタもこれで、全体の売上から見ればささやかな売上であったことは以前に本欄で指摘した通りです。
実戦の場で「根拠のない数字の披瀝」は、次のような方法として使えます。売れゆきが悪く、1ヶ月に一個しか入荷しない商品なら、
毎月限定1個のみ入荷の○○
と紹介。限定している理由=すなわち根拠は述べません。根拠の示されていない数字はあてにならないのですが人は数字を信用します。「それでは根拠が示されていれば正しいのか」と、素直に思うあなたはブラック・テキスト芸にとって上客です。
3. 都合の良い数字とグラフ
上客である理由は「都合の良い根拠付きの数字」など、いくらでも用意できるからです。たとえば、「地球温暖化」で検索すれば、悪化を伝える数値をいくらでも拾えます。これに「嘘」と加えて検索すれば簡単に「懐疑論」から数値を引用できます。さらに根拠付きの数字は組み合わせることで、より効果を発揮します。
大学進学率はバブル崩壊以降、急激に伸びたことは文科省のホームページにあるPDFで知ることができます。次に「一人当たりの名目GDPの推移」のグラフをみると、大学進学率の急激な伸びと対照的に「停滞」しており、両者のグラフを重ね、
大卒は社会の役に立たない
という結論につなげてしまいます。もちろん本稿のために用意した暴論ですが、数字と「グラフ」を並べると納得する人は少なくありません。そして「グラフ」は恣意的に加工できる定番ツールですが、これについてはいずれ機会があれば。
4. 私見に過ぎないが
さらに中立を装いながら、客を誘導するのに役立つのが「仮定、架空、思考実験」というバーチャル三姉妹です。たとえば、先ほどの大学進学率の話に加えて、国立大学だけで1兆円を超える運営費交付金、という名の税金が投じられている現状を嘆きます。そして、「仮定の話だが」と切り出し、交付金を半減していれば、バブル崩壊後の20年間で10兆円もの大金を別の事業に充てることができたはずだ、といった感じで使います。交付金をいきなり半額にすることなどできないのですがね。
三姉妹はリアルと地続きに暴論を吐くときは「仮定」、ファンタジーを語るときは「架空」、少し気取るときには「思考実験」と使い分けています。
さらに議論を誘導しやすいのが「私見」。先の大学進学率についても、
私見に過ぎないが大量の大卒者が世に出たことにより、経済低迷を食い止めているという見方もできる
と、同じデータから正反対の結論を述べることも可能です。「語弊を怖れずに」や「戯れを述べれば」と枕詞をおけば、暴論の印象を和らげることができます。文章の構成的には先の「バーチャル三姉妹」と同じですが、私見ではより偏った意見を述べやすいようです。
実戦配備には
いま、少し筆が……キーボードを堅く感じているのは、私の良心のサボタージュによります。「説得力を持たせた暴論」を作るノウハウを商品の推奨に使えば、(お客をだま……)誘導しやすいというのが本稿の結論です。そして、架空や私見と断ることで、ステマと一線を画します。それは、
表現の自由と思想信条の自由
架空や私見と明示することで憲法の保護下に逃げ込みます。「ステマすれすれ」の手法は広告表現では日常的な技法で、今回、商品の紹介などの実例を登場させなかったのは、意図していないところで迷惑をかける恐れがあり、これは俗に言う「大人の事情」という奴です。
さらに黒さは止まりません。「ブラック・テキスト芸」を駆使した作文に「客の声」や「アンケート結果」を添えることで販促効果はさらに高まります。そして好意的に書かせる「客の声の集め方」や、都合の良い結論を得るための「アンケート方法」も実在していますが……今回はここまで。
今回のポイント
印象操作は文章の得意とするところ
ただし、心に誠実さを抱えて……いてほしいなぁと
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