攻めながら守るソーシャルメディアマーケティング、継続した対話こそが価値を生み出す

イベント「攻めと守りのソーシャルメディアリテラシー」を前に行われた講演者対談をお届けする

オプンラボ主催の勉強会イベント「攻めと守りのソーシャルメディアリテラシー」が11月29日に開催される。この記事では、“攻め”と“守り”という2つの視点でソーシャルメディアリテラシーを議論するイベントを前に行われた、講演者による対談をお届けする。

対談を行ったバーソン・マーステラの熊村剛輔氏(左)とアジャイルメディア・ネットワークの上田怜史氏(右)。

試行錯誤の終焉

アジャイルメディア・ネットワーク株式会社
取締役
上田怜史氏

●上田 今のソーシャルメディアは一昔前の企業サイトの立ち上げブームに似ています。ソーシャルメディアサービスを提供するコンサルティングや制作会社が無数にでてきて、Facebookを立ち上げ、運営を担う。ソーシャルメディアを活用する企業側の傾向としては、コミュニケーション機能を社内に持たず、アウトソースしたいと考えるケースが増えています。

●熊村 確かにアウトソーシングしたがる企業は多いですね。このため、ソーシャルメディアのサービスを提供する側は二極化し、「企業の中枢に入ってコミュニケーション戦略を一緒に考えるコンサルティング業務を担う」または、「現場でコミュニケーションを行う運営業務に徹する」のどちらかになるでしょう。

●上田 アジャイルメディア・ネットワークでは、現在コンサルティングと運営の両方をてがけています。企業がどのようにソーシャルメディアに取り組むのかというところから一緒に考え、TwitterあるいはFacebookなどのプラットフォームを選択し、体制を作り運営をしていきます。トライアルのケースが多いですね。

●熊村 今ならまだ「発展途上だから」という言い訳がききますが、Facebookも取り組みが遅くなればなるほどメリットはなくなるでしょう。

●上田 かつてのセカンドライフのように(笑)

●熊村 ソーシャルメディアについても上手いところは上手いなと思いますね。常に早い段階で新しい仕掛けに挑戦する。メディアに取り上げられるので、先進的なイメージも作りやすい。最終的な投資対効果は高いと思います。

●上田 企業のなかには、熱心なソーシャルメディアの担当者がいる一方、疲弊している担当者も最近はよく見かけます。特に広報関係者は後者が多いように思います。

●熊村 宣伝は発信が中心で、キャンペーン期間中にメッセージをどれだけだせるか重視することが多いですが、広報は発信しつつ受信もする役割を果たさなければいけない場合もあるので、炎上リスクに対して、よりセンシティブになっているのでしょう。

●上田 ソーシャルメディアの仕事に関わるという意味では、熊村さんはあこがれのキャリアステップを進んでいますよね。

●熊村 事業会社でソーシャルメディアを担当して代理店に移る、マーケティングに携わって、広報にも携わる。ソーシャルメディアというくくりは一緒ですが、異なる領域を行き来するなかで、結果的に貴重な経験を積ませていただいていると思います。

実は、あるとき思ったのですが、ソーシャルメディアに多少なりとも関わっていくなかで、いろいろな形でソーシャルメディアを担当される方の地位を上げていくようなこともできればと思っています。たとえば自分の場合、希望するキャリアへのパスを示すことで、その役に立てればと思っています。

継続と積み重ねによって効果が生まれる

●上田 ソーシャルメディアバブルと思えるほど、今、引き合いが増えています。部門でいうと広報部よりも宣伝部の方が多い。本来なら受信機能が重要な広報の方が相性が良いと思うのですが。

株式会社バーソン・マーステラ
リードデジタリスト
熊村剛輔氏

●熊村 どちらかというと予算をもっているのは宣伝部の方ですからね。

●上田 ただ課題もあります。相談される広告キャンペーンは、スクラップ&ビルドのケースが多い。3ヶ月のキャンペーン期間が終了すると、すべて消してしまう。

●熊村 スクラップ&ビルドが多いのですか。

●上田 トライアルであるという意識と、広告予算でキャンペーンとして取り組むケースが多いからでしょう。また、老舗のブランドのキャンペーンもその傾向があります。

●熊村 ブランドを持っているところはブランドを資産として厳重に管理するので、ソーシャルメディアのアカウントを持つことさえも難しいケースが少なくないですからね。

●上田 経験上、次の2つが当てはまる場合は、ソーシャルメディアの特徴である「ストック」はあまり効かないことを感じています。1つ目は専任の担当者を置く意思がないこと、2つ目は社内のコンテンツの棚卸しをしないことです。

専任の担当者を育てず外部に丸投げにしてしまい、新しいキャンペーン用のコンテンツだけを発信し、キャンペーン期間が終わったら(アカウントを)消してしまう。このような形では、積み重ねがないのでソーシャルの効果を得られにくくなります

攻めて守るマーケティング戦略

●熊村 今やソーシャルメディアの「守り」は、マーケティングなど「攻め」ていない場合でも必要です。これまでは、ソーシャルメディア上で問題を起こしたくなければ、近づかなければよかった。アカウントを作らず、発言をしない。しかし、今は放っておいても知らないところで炎上し、予想外の形で企業に跳ね返ってきます。

●上田 上場企業が入社時にインサイダー取引について説明するように、ソーシャルメディアについての教育ニーズも高まっています。

●熊村 教育は必要だと思います。ソーシャルメディアの炎上は実際に増えており、今年の夏の時点で、去年の件数を超えています。最近改めて、企業の行動規範と照らし合わせてソーシャルメディアポリシーやガイドラインを策定する企業が増えています。

●上田 店舗従業員による芸能人目撃報告によって企業がリスクを抱えたり、ソーシャルメディア上でネガティブな評判が広がり、会社の前にデモがくるほどの事態になるなどリスクへの備えも重要になっていますね。

●熊村 グローバル展開している企業は、先行している海外の支社が日本の本社に「ポリシーはどうなっているのか」と問い合わせてくるケースもでてきています。このため、アジャイルメディア・ネットワーク(AMN)が10月26日に発表した、欧米のリサーチ企業Statsit社と連携して提供する「ソーシャルメディア傾聴リサーチ」は上手いなと思いました(笑)。アジア進出を考えている日系企業はAMNに頼めばStatsit社のソーシャルメディアのリソースを活用し、ワンストップで現地のリサーチを依頼できる。金額も手ごろなはずです。グローバルのソーシャルメディアのポリシー策定もサービスとして組み込めば、ビジネスとしても可能性が広がりますよね。

●上田 ご指摘のとおり、アジャイルの企業戦略としても、今回の提携は非常に重要だと考えています。グローバルで展開する日系企業の多くは、米国には支社はありますが、アジア・パシフィックには法人をかまえていません。調査も手間がかかり、言語も大きな壁となるなか、Statsit社と組むことで、安価でスピーディにアジア進出の支援ができる。全体を俯瞰できるコンパクトなリサーチレポートも経営者から評価が高い点です。すでに、大手メーカーとの商談がはじまっています。

●熊村 いずれにしても、大企業になるほどソーシャルメディアの取り組みは重要になりつつあります。積極的に発言しないまでも、最低限モニタリングをしておくことは必須です。ただ、基本的にマーケティングにおいては、先手を打って攻めておくことが最大の守りになると思います。

消費者の声を傾聴する

●上田 ソーシャルメディアでは情報を流通させることを目的としたプロモーション活用だけでなく、生活者の発言に耳を傾ける、「傾聴」することが重要だと言われています。

●熊村 ソーシャルメディア業界では御社代表(徳力基彦氏)が、一番使っている言葉ですよね(笑)

●上田 そうです(笑)。それには、我々自身がハイボールブームが起こるまでの成功体験を通じて、傾聴の大切さを知ったという理由があるからなのです。

サントリーさんのお仕事で、ブロガーさんたちとウイスキーの蒸留所見学に行き、美味しいハイボールの作り方講習をした際に反応が非常に良かった。そこからハイボールをテーマにしたイベントやテレビCMを展開し、角ハイボールが飲めるお店を増やしていったことで流通でも角ハイボールセットが売れた。実際に美味しいからこそですが、こういったハイボールブームの裏にはサントリーさんの生活者の発言に耳を傾ける姿勢があったと感じます。

●熊村 これまでのマーケティングでも、ユーザーが語ることに潜むヒントやリスクを見つけるために、「マジックミラーの部屋に数名集めて雑談してもらう」「葉書をたくさん送付して返信を待つ」といった手法はありました。しかし、ソーシャルメディア上ならそこまでの手間とコストをかけなくても、ユーザーの声を聴いて、ある程度のインサイトを得ることができます。

●上田 企業がソーシャルメディアを活用する際に大切なことは、目的を明確にし、それに適したプラットフォームを選び、継続して運営することです。そして、反応があった人の声を大切にして、つなげて積み重ねていく。ソーシャルメディアを一過性のブームに終わらせないためにも、この基本的な価値をきちんと啓蒙していきたいと思います。

攻めと守りのソーシャルメディアリテラシー概要
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