入浴剤メーカー・バスクリンの通販事業が近年、堅調な成長を見せている。通販限定で展開する育毛剤などの商品が売り上げをけん引し、Web戦略の強化を背景にEC売上も順調に推移しているという。バスクリンの通販事業の歩み、Web戦略強化の経緯などについて取材した。
通販事業を第二の柱に
バスクリンの前身である津村順天堂(現・株式会社ツムラ)の創業は、1893(明治26)年。創業当初から現在に至るまで、100年以上にわたり生薬の研究開発に取り組んできた。その知見を生かし、通販・ECにおいては、バスクリンならではの生薬を配合した通販専用商品を展開している。主力の女性向け育毛剤「髪姫(はつひめ)」と男性向け育毛剤「髪殿(はつとの)」を中心に、通販専売の化粧品や薬用入浴剤を展開する。
通販事業は2008年にスタート。流通チャネルでは扱わない自社通販専用商品を展開し、バスクリンの第二の柱となる事業へと成長している。
商品の差別化ポイントは、「研究開発へのこだわり」「生薬の組み合わせによる相乗効果」だ。価格訴求はとらず、生薬研究の実績や製品開発への想いを丁寧に伝えることで、顧客の信頼と支持を獲得している。
獲得チャネルは新聞の15段広告をメインに、テレビでのインフォマーシャルやラジオなど、オフライン施策を中心に展開してきた。最近では、通販事業の広告費の約7割をWebに投下し、Web上での顧客接点の強化を進めている。注力している商材の売り上げも伸長しており、ECでの売上比率は、全体の約10%を占めているという。
バスクリンの通販事業のビジネスモデルは、いわゆる「単品リピート型通販」。定期購入では、2か月に1回の商品発送時に会報誌を同封し、自社研究所の紹介や研究内容、商品の特長など、きめ細かな情報の発信を心がけている。顧客の年齢層は50〜70代が中心で、10年以上にわたって定期購入を続けている顧客も少なくない。男女比は、およそ男性4:女性6で、近年はWebでの集客を開始したことで、男性顧客の割合も増加傾向だという。
定期購入のアップセル、主力は「電話」
バスクリンの定期購入の社内処理は少々特殊だ。F2購入以降のすべての購入分を定期購入の成果として扱い、ECサイトからの初回購入分のみをEC売上として計上している。
バスクリンの定期購入は電話でのアップセルを基本としており、初回購入後に電話による定期購入のアップセルを実施し、引き上げにつなげるためだ。
電話での接続率は非常に高く、電話口では商品説明や弊社の生薬研究へのこだわりを丁寧に伝えることで、お客さまに納得いただいたうえで継続購入につなげている。Webからの流入顧客においても電話の接続率は高い。(相浦氏)

バスクリン マーケティング本部 グロースマーケティング部 部長 相浦多美子氏
Web集客では、生薬研究の強みなど商品開発に関する訴求を重視しており、価格訴求は行っていない。この戦略が奏功していると考えられる。相浦氏は「価格訴求ではなく、商品への理解や継続の重要性をご理解いただいているお客さまが多いため、電話接続率も高いのではないか」と分析する。
そのほか、紙のDMを活用したステップメールも実施し、顧客の引き上げにつなげている。F2転換率も高く、電話による丁寧なコミュニケーションでの商品説明や、それによる安心感の提供が顧客の支持を集めているようだ。さらに休眠顧客からの復活購入も多く、「バスクリン以外の商品を試された後でも、再び弊社の商品をご利用いただくケースも多い」(相浦氏)。休眠からのリピート率はさらに高い数値となっている。
運営体制は少数精鋭。そのチーム体制とは?
バスクリンの通販事業は運営体制も特徴的だ。数名の社内メンバーと外部パートナーの力を融合させたチーム体制を構築し、バスクリンの通販チームとして運営している。
社内のメンバーは少人数の少数精鋭体制だが、通販データの分析や集計をしながら、外部のメンバーと連携して運営している。(相浦氏)
バスクリンがWeb強化に本格的に乗り出したのは2021年頃。以前よりECサイトは構えていたものの、「メイン顧客の年齢層が高いこともあり、オフラインを主戦場としていた。そのためECには十分に注力できていなかった」(相浦氏)。そこで2018年に「EBISUMART」を導入し、従来のECサイトを刷新。その後、Webを活用した施策強化を進め、現在ではEC売上が毎年前年比約115%のペースで成長をするなど、好調に推移している。
バスクリンが「EBISUMART」を選んだ理由と今後の展望
バスクリンがセキュリティ強化など、EC周りの整備を進めていくなかで選んだプラットフォームが、インターファクトリーの提供するクラウドコマースプラットフォーム「EBISUMART(エビスマート)」だった。
バスクリンが掲げる、さらなるEC強化に向けた方針とは? システムリニューアルの経緯と今後の展開を、バスクリンと、「EBISUMART」を通じてバスクリンをサポートするインターファクトリーが対談する。
2018年にECサイトを一新
――通販事業を開始したタイミングで構築し、Webで流入するお客さまの“受け皿”として機能していたECサイトを、「EBISUMART」導入で刷新したのは2018年。その後、ECの強化をスタートしたのが2021年です。その経緯を教えてください。
インターファクトリー 取締役 クラウドコマースプラットフォーム事業責任者 兼井 聡氏(以下、兼井氏):バスクリンさまはECサイトの役割について、「リピート施策を重視して運用する」というよりも、Webから流入する顧客をキャッチアップする「最初の入り口の部分の機能を果たす」ことを主眼に置いて、ECプラットフォームの選定を進めていたと記憶しています。
兼井氏:F2転換などリピート施策は基幹システム側で管理するため、ECサイトのフロント部分は新規顧客の獲得施策をスピーディに動かせるようにすることが重要視されていました。バスクリンさまは従来、自社にサーバーやネットワーク機器を設置して運用するオンプレミス型のシステムを採用し、随時メンテナンスを行う体制でした。
しかし、そのような従来の体制から、インターファクトリーが提供するSaaS型のECプラットフォームの方が、よりスピーディにWeb施策を展開することができ、セキュリティ面でも強化できると判断し、「EBISUMART」を導入していただいたと認識しています。
現在は大きなカスタマイズは行っていませんが、事業拡大に伴って、将来的にはカスタマイズによる機能強化も視野に入れていただけるのではと思います。「EBISUMART」はカスタマイズ可能なSaaS型ECプラットフォームですので、バスクリンさまのEC運用のニーズに合致したのだと思います。

インターファクトリー 取締役 クラウドコマースプラットフォーム事業責任者 兼井 聡氏
バスクリン マーケティング本部 グロースマーケティング部 部長 相浦多美子氏(以下、相浦氏):インターファクトリーさまとはサイトの構築だけでなく、現在はバスクリンの通販チームの一員として、密に連携を取っている関係性です。
セキュリティ面の盤石さを重視
――導入後、EC売上高も好調です。要因として考えられることは何ですか。
相浦氏:Web集客に注力し始めたこともありますが、インターファクトリーさまとの連携が大きな力となっています。現在のEC利用比率は、スマートフォンが75%、PCが20%です。以前はご高齢のお客さまが多かったこともあり、PCからの利用が多く、お客さまのなかには「心配だから決済はPCサイトで」という方も少なくありませんでした。
しかし、こうした状況は大きく変わり、現在はスマートフォンで決済いただくお客さまが増えています。特に「EBISUMART」との連携により、セキュリティ面が強化されたことで、お客さまがスマートフォンでも安心してスムーズに決済できているのだと思います。
これからはコンテンツマーケティングやOne to Oneマーケティング、「LINE」アカウントを活用した販促にも取り組んでいきたいと考えています。現在は、電話でのコミュニケーションがメインですが、もっと手軽にお客さまとつながっていけるチャネル構築にもチャレンジしていきたいと考えています。こうした施策を進めるうえでもセキュリティの問題は重要ですので、今後もインターファクトリーさまにしっかり支えていただきたいと考えています。

「EBISUMART」では、
ユーザーに向けた「セキュリテイ対策機能」のWebページも用意。たとえば、アタック種別として「大量アクセス」「不正カード登録・利用」「不正注文」「不正会員登録」「不正ログイン」「不正なパスワードの変更」「不正なお問い合わせ」「不正なメルマガ会員登録」「不正な入荷お知らせ登録」ごとの、ケース別対応方法および機能を紹介している
兼井氏:インターファクトリーでは、セキュリティ面を重要視しています。「EBISUMART」の場合、導入企業さま側で特別な準備をしていただくことはなく、インターファクトリー側で常にバージョンアップを実施、セキュリティを強化しています。
導入企業さまがセキュリティ部分のアップデートを考えなくても済む、インターファクトリーにお任せいただける――というのは、ECの運用上、かなり楽になる部分でしょう。
こうした部分はインターファクトリーが全面的にバックアップ。導入企業さまは「EBISUMART」の機能などを活用し、プロモーションといった“販促施策”に注力していただきたい。
さらなる深い顧客コミュニケーションを実現へ
――ほかに今後強化していきたい部分などはありますか。
相浦氏:お客さま向けの会報誌では、自社研究所や研究開発に関する情報を積極的に取り上げていますが、こうしたコンテンツのWeb化が進んでいないという課題があります。通販専用商品の根幹となる開発背景や研究のこだわりといった情報を、Web上でも発信できる体制を整えていきたいです。また、基幹システムの連携といった技術面も、今後取り組むべき重要な課題だと認識しています。
また、私たちの最大の目的は、お客さまとのコミュニケーションをより深めることです。ご購入はその接点の1つに過ぎません。重要なのは、その接点をいかに安心してご利用いただき、長くお付き合いいただくかということです。チャットボットなど、新たな取り組みも進めていますが、お客さまとの接点となるWebの領域で「今以上に何ができるのか」を模索しています。
「EBISUMART」を導入することで、私たちがやりたいと考えていたことが少しずつ実現できるようになりました。インターファクトリーさまとは、ECプラットフォームの提供という枠を超えて、私たちと同じチームの一員として、一緒にお客さまにとってより良い仕組みを構築していきたいと考えています。

相浦氏は「インターファクトリーさまとは近い距離感でさまざまな話をし、共に考えていくなかで取り組みが実現につながる可能性が膨らんでいくことが楽しい」と話す
兼井氏:インターファクトリーは今後、「EBISUMART」を活用した定期施策の促進もサポートしていきたいと考えています。また、基幹システムとの連携によるデータ統合などが進めば、Web施策もさらに強化できるため、基幹連携についてもバスクリンさまと相談していきたいと考えています。
また、これまでに多くの企業さまと取り組みをするなかで培った知見を生かし、良いアイデアを積極的にバスクリンさまにご提供しながら、ECビジネスの発展に貢献していきたいですね。

「近い距離感でさまざまなお話ができれば一番良い。ECにとどまらずサポートしていく」と兼井氏は話す
相浦氏:Webやネットの世界はシステマティックに物事を進めなくてはいけない場面が多くあります。ただ、「EBISUMART」を活用させていただくなかで、新しい取り組みや知見のない施策を行う際、インターファクトリーさまは、必ず対話する機会を設けてくださるため、とても安心しています。そして、レスポンスが早い点も非常に助かっています。
私たちと同じ目線に立ち、一緒に悩み、どうすれば良いかを共に考えてくださいます。バスクリンの通販事業においては、そういった視点を非常に大切にしています。同じ視点で物事を考え、伴走してくださる――そんなインターファクトリーさまがチームの一員として活動してくださり、とてもありがたい存在となっています。
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オリジナル記事:バスクリンがEC売上115%成長を達成できたワケとは? Web強化戦略、通販事業の歩みなどを聞いた
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