「3Dセキュア2.0」の義務化でECサイトのコンバージョン率、消費者行動はどう変わる? 先行導入した欧州事情などをAdyenの責任者に聞いた | ネットショップ担当者フォーラム

ネットショップ担当者フォーラム - 2024年4月22日(月) 08:00
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欧州では2018年、決済サービスに関する規制によって、「SCA(強力な顧客認証)」を加盟店に義務化。多くの多国籍企業が「3Dセキュア2.0」を利用しているという。その効果、事業者はどのような対策を施したのか?

2025年3月末までにECサイトに導入が義務化される「3Dセキュア2.0」(EMV 3-Dセキュア)。カード情報の保護、不正利用対策で導入が義務化される「3Dセキュア2.0」だが、多くのEC実施企業はコンバージョンの低下を懸念する。そこで、いち早く「3Dセキュア2.0」の導入が義務化されたヨーロッパのEC市場に詳しい、グローバル決済プラットフォームを提供するAdyenの最高リスク・コンプライアンス責任者であるマリエッテ・スワーツ氏にインタビューした。

るAdyenの最高リスク・コンプライアンス責任者であるマリエッテ・スワーツ氏マリエッテ・スワーツ氏
Adyenの最高リスク・コンプライアンス責任者。Adyen入社前は国際的な法律事務所に勤務、決済、債券・株式ソリューション、M&A、金融市場などの分野で企業支援に従事。Adyenでは最高法務責任者を務め、法務チームの立ち上げを経験。ユトレヒト大学で規制市場と企業法の学位を取得
「3Dセキュア2.0」導入でCV率は一時低下もV字回復、その理由は「安心感」などの浸透

――ヨーロッパでは2018年、決済サービスに関する規制「欧州決済サービス指令第2版(PSD2)」によって、「SCA(強力な顧客認証)」の規制が加盟店に課せられました。

オンラインでの支払いで安全性を担保し、不正を抑止する目的で規制がスタートしました。欧州経済地域(EEA)で事業を営む加盟店は免除・除外対象でない取引についてはSCAを実行する義務があります。「SCA」では買い物客が追加で本人認証をしなければならなくなったのですが、最も使用されているテクノロジーが「3Dセキュア」。現在、多くの多国籍企業が「3Dセキュア2.0」を利用しています。

「3Dセキュア2.0」とは

「3Dセキュア2.0(EMV3D セキュア)」はAmerican Express、Discover、JCB、MasterCard、銀聯、Visaという国際ブランド6社で構成した機関「EMVco」が定めた規格。各カードブランドは3Dセキュア2.0への切り替えを推進している。「3Dセキュア2.0」はライアビリティシフト(チャージバックが発生した場合、カード会社が売り上げ代金を補償する仕組み)が適用される。

「3Dセキュア1.0」は、カード所有者が登録したパスワードで必ず本人認証を行うが、「3Dセキュア2.0」は、①ECで使用するデバイスやネットワーク情報、配送先住所といった複数の情報をリアルタイムに分析して不正利用の可能性を判定する「リスクベース認証」を実施②これで不正注文の可能性が高いと判断した人にはワンタイムパスワードなどの本人認証を行なう「チャレンジ認証」を実施する。①の段階で85%のユーザーは通過するとされている。

「3Dセキュア2.0」のメリット、リスク判定と追加認証のイメージ「3Dセキュア2.0」のメリット、リスク判定と追加認証のイメージ

――「3Dセキュア1.0」はUXが阻害され、コンバージョン率が大きく落ちるといった声が圧倒的に多かった。「3Dセキュア2.0」の導入にもそのような懸念を抱く日本の事業者は多いが、欧州では事業者の反応はどうでしたか。

「SCA」の導入には大きな反発がありました。EC事業者は強力な認証によって、コンバージョン率への影響を懸念しますから。

――「3Dセキュア2.0」の導入後、コンバージョン率の変化はありましたか?

導入後、平均してコンバージョン率は1ポイントほど下がりました。しかし、一定期間が過ぎるとコンバージョン率は改善していきましたよ。2~5ポイントほど上昇したという業界もありました。

コンバージョン率が下がってその後回復した理由の1つにあげられるのが、この変化に携わった関係者の適応期間でしょう。消費者も事業者も、そして決済ソリューションベンダーも、「3Dセキュア2.0」に適応しなければなりません。その期間が必要だったということです。

――AdyenはUber、eBay、Spotify、Shopify、Microsoft、UNIQLO、LVMH、アマゾンジャパンなどグローバル企業の決済面をサポート。欧州の多くの加盟店もサポートしている。その立場から、コンバージョン率の改善にはどんな視点が必要ですか?

「3Dセキュア2.0」だけが原因ではないという視点を持つことも重要です。消費者の買い物行動は多種多様ですので、チェックアウトフロー、サイトの全体設計などもコンバージョン率に大きな影響を与えます。つまり、コンバージョン率が悪化したからといって、「3Dセキュア2.0」だけを原因にあげるのではなく、EC事業者が買い物フロー全体を見直して、最適化することも求められます。コンバージョン率を改善した欧州のEC事業者は、こうした改善行動を行ったのです。

コンバージョン率が改善していくには3つの要素が必要だと考えています。1つが「政府の後押し」。2つ目が「事業者の採用」。3つ目が「買い物客の受け入れ」です。この3つが達成される時にコンバージョン率は回復に向かうでしょう。ヨーロッパは回復までには2年くらいの年月がかかりました。

るAdyenの最高リスク・コンプライアンス責任者であるマリエッテ・スワーツ氏

――一方で、「3Dセキュア2.0」の導入メリットもあったわけですよね?

はい、もちろんです。最も大きなメリットは不正利用の減少です。導入後、50%程不正利用が減りましたね。「3Dセキュア2.0」はライアビリティシフトが適用されますので、たとえ「3Dセキュア2.0」を通過した不正利用の場合でも、不正損失を心配せずECサイトを運営できます。つまり、チャージバックリスクも大きく低減しているのです。

――ユーザー行動に大きな変化はありましたか?

モバイル端末を使ったオンラインショッピングが増えましたね。「3Dセキュア2.0」という新たな仕組みに慣れると、買い物客の安心感が高まりますから。

「3Dセキュア2.0」はパスワードやIDを用いるだけでなく、生体認証なども追加されています。仕組みへの慣れ、オンライン上での買い物に対する信頼・安全性の高まりを受け、買い物頻度、購入単価も向上し、クレジットカードの利用率も高まりました。

――日本では2025年3月末までに「3Dセキュア2.0」の導入が義務付けられます。

キャッシュレス決済が浸透し、DX化が進んでいます。タイミングとしては正しい時期と言えるでしょう。

欧州では事業者の反発がありながらも導入が進み、一定のコンバージョン率低下期間を経て、現在は消費者も事業者もオンラインショッピングで「3Dセキュア2.0」があることは当たり前の世界になりました。このような流れは日本でも起きることでしょう。

日本のEC事業者にお伝えしたいのは、変化を恐れないことです。「3Dセキュア2.0」の導入は、オンラインショッピングの安全性、安心感の向上につながります。それが、事業者にとって購入金額や買い物頻度のアップという好影響として返ってくるはずです。

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オリジナル記事:「3Dセキュア2.0」の義務化でECサイトのコンバージョン率、消費者行動はどう変わる? 先行導入した欧州事情などをAdyenの責任者に聞いた
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