コロナ禍、歴史的な円安を経て、海外販路を積極的に拡大するために越境ECを始める企業数は大きく増えました。海外の越境ECモールへの出店、「Buyee(バイイー)」のような海外向け代理購入サービスの利用、越境ECサイト構築サービスを活用した自社サイト運営など、取り組みは多岐に渡ります。ただ、自社で越境EC対応を始めた企業のなかには、手探りで運用しているケースは少なくありません。ここでは、自社商品を海外に配送する上で重要なポイントを解説します。
国際配送のポイントは「破損対策」「禁制品の確認」
国際配送の留意点は、荷物の汚損・破損、紛失リスクの高さがあげられます。いくら発送前に責任を持って商品を丁寧に扱っても、配送業者に商品を託した後は商品の扱いをコントロールすることができません。
また、国際配送では、配送業者だけでなく税関や空港など、日本国内以上にさまざまな人の手で荷物が扱われます。その過程で、荷物は日本の丁寧かつ高品質な配送サービスに慣れた私たちからは驚くような過酷な状況にさらされる可能性があります。
そこで、梱包の段階でさまざまなリスクをできるだけ減らすことが重要となります。たとえば、破損対策では、緩衝材や箱の素材を工夫し、国際配送に耐えられる梱包にすると良いでしょう。「Buyee」でも、商品の品目が多い時や破損の危険性が高い商品に対しては、専用容器を用意するなどの対応を行っています。
一方、梱包を厳重にするほど重量が増増え、送料が高くなります。容積・重量をなるべく抑え、配送料を安くするための工夫も必要です。たとえば、衣類などは箱で梱包せず、防水性・耐久性のある袋などを利用し、配送コストを抑えるといった対応が考えられます。
自社商品が禁制品でないか確認する
2つ目の留意点は、国によって配送できない禁制品が存在すること。国ごとに禁制品の対象は異なるため、自社の取扱商品が該当しないか把握しておく必要があります。
たとえばハンコ、ベルト類、バッグ、靴、ギターなどでは、ワシントン条約で国際取引が規制されている象牙や特定の皮革・植物が使用されていないか確認しておきましょう。特にこうした素材が規制されていなかった頃のアンティーク品、ヴィンテージ品を扱う場合には注意が必要です。
日本国内では問題なく取引されていても、国によっては禁制品の場合もあります。たとえば女性の写真集、特定の生産地の陶器、ゲームに登場する武器を模したおもちゃなども問題になるケースがあります。
こうした細かい規制に対し、すべての国の禁制品を確認することは現実的ではないでしょう。まずは、自社のECサイトにおいて購入者が多い国の禁制品をあらかじめ政府のWebサイトなどで確認しておき、海外発送時に注意すると良いでしょう。さらに細かいモノについては、事前に配送先のユーザーに禁制品かどうかを確認してもらうといった対策も考えられます。
万国共通の禁制品の一部(画像は「Buyee」サイトから編集部がキャプチャ)
手続きの違い、書類作成作業の負荷など考慮する
こうした配送に伴う留意点以外にも、国内と海外では手続き上の違いもあげられます。国際配送では通関のためにインボイスが必要になります。また、航空機に載せられない商品もあるため、品目のチェックが必要で国内配送よりも煩雑になります。
海外からの注文が増えてきた場合、手動で行う作業が増え、負担が大きくなってきます。そのため、海外配送の物量がある程度見込める場合は、書類作成作業がスムーズになるようにシステム対応をしておくことが理想的です。配送業者によっては、システム連携のメニューが用意されていることもあります。
海外ユーザーの懸念点は「送料」「配送業者の選定」
国際便の運行回復が進む一方、ウクライナ情勢の影響などにより空輸コストが増加しています。また、温室効果ガス削減の世界的な取り組みも大きな影響を与えています。
航空各社はサービス料金を値上げすることで、環境負荷の低い設備への投資を強化したり、持続可能な航空燃料であるSAF(Sustainable Aviation Fuel:サフ)の導入を進めたりしています。温室効果ガス削減は各企業が連携して解決すべき重要な課題であり、こうした取り組みが送料に影響を与えることは避けられません。
一方で、海外ユーザーが越境ECを利用する上で最も気にしているのが「送料」です。少し古いデータですが、「Buyee」がユーザーに行ったアンケートでは、商品を購入する際に最も気にすることは「送料」という結果が出ています。
2021年7月に「Buyee」ユーザーへ行ったアンケートより
経済産業省の「電子商取引に関する市場調査」の過去データでも、配送において「購入前における配送料金の情報提示」「一定額以上の配送料金の無料化」をとても重視している割合が高く、越境ECを利用する海外ユーザーが国際配送料を非常に重要視していることがわかります。
越境ECでは購入したい商品があっても、送料がネックで購入をためらうユーザーは少なくありません。購入の機会損失を減らすためにも、送料の課題には向き合う必要があるでしょう。
「Buyee」では、物流事業者の選定・組み合わせで、さまざまな国際配送サービスを開発し、この課題に向き合っています。たとえば、2023年5月には米国向けに軽量帯の荷物がお得になる「Buyee Economy Air」を開始しました。
送料の値下げは自社でコストを負担する、配送業者と交渉を行うなど、複合的な要因によるものなので簡単には実現できないかもしれません。
しかし、たとえば海外ユーザーが「到着までに時間がかかっても問題ない」と判断できるような商品であれば、船便を選べるようにすると送料を抑えることにつながります。
直接的な送料の値下げが難しい場合でも、配送手段の選択肢を複数用意することで、結果的に「送料を安く抑えたい」というユーザーのニーズに応えられるのではないでしょうか。
自社に合う配送業者を選定する
日本から海外に商品を発送する場合、一般的に信頼性などの観点から日本郵便を選ぶ人が多いかもしれません。
しかし「配送コストを抑える」という観点から見て、複数の配送業者から自社にベストな業者を検討することも必要です。配送業者を選ぶ上で、配送業者によって配送できる商品に違いがある、国によっては中古品が運べないということがポイントになります。
配送業者独自で配送のクオリティチェックを行っているか、といった点も参考になります。先述したように、商品を発送するまでは自社で商品の扱いに責任を持てますが、発送後は配送業者のクオリティに左右されるためです。
また、先ほど紹介したアンケート結果から「購入前に配送料金の情報を明示すること」も重要視されていることがわかります。特に国際配送の場合、ユーザーの安心感のためにも送料・関税を含めトータルでいくらコストがかかるのかを明示することは重要です。
なるべくコストを抑えられる配送業者の選定、ECサイト側で購入前にトータル金額を明示する、配送手段を選べるようにするなどで、国際配送に対するユーザーの不安を解消し、購入の後押しにつなげることができるでしょう。
ユーザビリティ向上を実現した、台湾の事例
配送におけるユーザビリティ向上事例として、ローカルの習慣に対応した配送手段をご紹介します。
台湾では、ECで購入した商品の受け取り方法として、コンビニ受け取りが主流です。そこで、国際配送でもコンビニ受け取りができるサービスを開発しました。この配送方法は台湾ユーザーのライフスタイルに合わせた配送方法の提供だけでなく、ユーザーの自宅まで運ぶ「ラストワンマイル」の配送費がかからないため、結果として送料負担の軽減にもつながりました。
こうした配送方法のローカライズも、利便性とコスト両方の観点からユーザビリティ向上の手段の1つと言えるでしょう。
コロナ禍、ウクライナ情勢、SDGs――世界情勢の影響を考慮した対応策を講じる
新型コロナウィルスの感染拡大により、国際物流が大きく混乱したことはまだ記憶に新しいでしょう。世界的な外出自粛を背景にEC利用が飛躍的に増加した一方で、国際便の減少による輸送スペース不足が続く状態でした。日本から海外への越境ECにおいては、「海外からの需要が増えていても発送ができない」という状況だったといえます。
「Buyee」でも、当時主力の配送方法だった「EMS(国際スピード郵便)」の配送が停止し、それに変わる配送手段として船便も検討していました。しかし通常の配送方法より時間がかかり、場合によっては商品到着まで数か月かかることもあります。膨大な種類の商品を扱い、商品をなるべく早く手に入れたいユーザーのことを考えると、ユーザビリティの観点からも他の手段を検討する必要がありました。
そこで、自社で国際航空機を保有している国際配送会社との契約を締結。さらに、国・地域によっては「ラストワンマイル」を結ぶために現地業者と新たに契約することで、航空機の減便による影響が少ない配送手段の確保に努めました。
コロナ禍に限らず、国際配送は世界情勢による影響を大きく受けるため、それまで利用していた配送手段が使用できなくなる可能性もあります。そうした場合に備えて、複数の配送手段を持っておくことや、通常時には配送手段・配送会社を1つだけ利用していたとしても、非常時に備えて複数の選択肢を持っておくことが重要になってきています。
※このコンテンツはWebサイト「ネットショップ担当者フォーラム - 通販・ECの業界最新ニュースと実務に役立つ実践的な解説」で公開されている記事のフィードに含まれているものです。
オリジナル記事:送料、配送業者の選定、破損・汚損対策、禁制品の確認――国際配送で気を付けるべき4つのポイント | プロが解説! 越境EC運用ノウハウ
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