さくらフォレストの措置命令をめぐる行政対応
対象は、「きなり匠」「きなり極」の2商品。「きなり匠」は、中性脂肪低下(機能性関与成分・DHA/EPA)、血圧低下(同・モノグルコシルヘスペリジン)、LDLコレステロールの酸化抑制(同・オリーブ由来ヒドロキシチロソール)を、「きなり極」は中性脂肪低下(同・DHA/EPA)を表示していた。
措置命令の対象となった「きなり匠」(画像は消費者庁の発表資料から編集部がキャプチャ)
同じく措置命令の対象となった「きなり極」(画像は消費者庁の発表資料から編集部がキャプチャ)
SRと届出表示不一致を問題視。さくらは機能性の届出撤回
消費者庁の合理的根拠の提出要求(不実証広告規制)を受け、さくらフォレストは、DHA・EPAで30報を超える論文など根拠資料を提出。モノグルコシルヘスペリジンでは、トクホの許可論文も提出している。だが、消費者庁は、研究レビュー(SR)と届出表示の不一致を問題視。根拠と認めず「優良誤認」と判断した。
「きなり」2商品は、DHA・EPAを4~500ミリグラム配合(総量)していた。一方、提出論文の多くは、その倍近い量で検証したものが大半を占めた。医薬品、トクホも成分量は、860~1800ミリグラム(同)配合するものが中心。
一部論文は少量で機能を示す評価もあったが、同量で機能を否定するものも同程度あり、「SRは肯定・否定の両側面から評価する必要があるが、適切な評価と認められない」(田中誠ヘルスケア表示指導室長/取材時点)とした。
モノグルコシルヘスペリジンは、減塩しょうゆを対象に提出論文を評価。論文は、「成分+減塩」による効果を確認したものであり、「成分単独の使用の効果を裏付けるものではない」(同)とした。ヒドロキシチロソールは、摂取群とプラセボ群の有意差の評価手法を不適切と判断した。
さくらフォレストは、「処分は仕方がない。真摯(しんし)に受け止める」(西尾和剛取締役)とコメント。同日、届出を撤回した。
同種のSR製品88件、表示の根拠を再検証へ
制度を所管する食品表示企画課は、処分を受け、(1)2商品と同一の根拠(SR)を使用したもの (2)DHA・EPAは、とくに「きなり」の配合などを下回るもの――をメルクマール(編注:指標のこと)に、同種の届出を行う事業者に対し、根拠に基づく表示かを確認。7月17日を期限に回答を求めている。
さくらフォレストの違反事実
対象数は、DHA・EPAは31件、モノグルコシルヘスペリジンは12件、オリーブ由来ヒドロキシチロソールは47件(2成分の重複4件を含む)の計88件。
今後の対応は、「確認を求め、回答に応じて個別案件による」(食品表示企画課・蟹江誠保健表示室長/取材時点)と話す。加えて、業界団体に届出の再検証を通知した。
「合理性欠く」と判断する理由は不透明
「根拠」に踏み込み、他の届出企業を巻き込んだ今回の処分は反発を招いている。
消費者庁は、処分にあたり、不実証広告規制を適用している。規制は、企業に表示の裏づけとなる合理的根拠の提出を求め、これを認めない場合、優良誤認とみなすことができる“みなし規定”。
だが、機能性表示食品は、そもそも届出の根拠が事前に提出・公開される建付けだ。「あえて規制を適用して否定する意味がわからない。根拠の問題に踏み込み、“根拠がなかった”と説明するための適用」(業界関係者)との指摘がある。消費者庁は、根拠が合理性を欠く理由を「評価の一部」(田中室長)として詳細を明らかにしないが、説明責任を尽くすべきだろう。
「事後チェック指針」は機能せず
機能性表示食品は、「葛の花事件」、処方薬と同一の表現から複数社の届出撤回に至った「歩行能力の改善問題」など、制度育成の障害となる諸問題を解消するため、20年に「事後チェック指針」を策定した。
業界と協調的に届出の根拠の疑義、広告上の問題に対処し、景表法上のリスクを避ける調整が図られた。ただ、今回、さくらフォレストが調査以前に指導はなかったとみられる。
外部から一体に見える消費者庁だが、実際は、各省庁からの出向で構成する寄合所帯。公正取引委員会の出向を中心にする表示対策課、農林水産省からの出向を中心とする食品表示企画課の連携も密ではない。
届出根拠の精査など「事後チェック指針」の運用は、食表課傘下の保健表示室の所掌。ヘルスケア表示指導室は、疑義のある根拠について有識者に意見を求めるセカンドオピニオン事業などを担う。「根拠」の問題は制度を所管する保健表示室が食表法で対応するのが筋だが、表対課がこれを侵し処分に至っている。
措置の公平性が不均衡になる懸念も
さくらフォレストは中核商品に打撃
措置の公平性の問題も生じる可能性がある。
さくらフォレストは、景表法による措置命令の公表、今後、課徴金調査も受ける。同社の売上高は、63億円(22年3月期、民間調査機関調べ)。取り扱う約40品目のうち、「きなり」は、「新規獲得に使う商品の一つ」(同社)。中核商品であり、「半分までいかないが、相当量を販売していた。半分近く占めるのでは」(OEM関係者)という者もいる。
届出表示そのものを対象にしているため、違反表示は「容器包装=販売期間」におよぶ。表示期間は、「きなり匠」が約1年半、「きなり極」は少なくとも約3年。課徴金が課されれば億単位が予想される。根拠を否定する処分の影響は甚大だ。
「不公平感が強い」「指導で済んだのでは」――。措置に疑念の声
一方、同種の届出製品に想定される他社への措置は、行政指導のほか、食表法に基づく撤回の指示・命令。業界関係者からは、「単独での処分公表と課徴金、かたや指導、撤回ではあまりに影響が違う」「不公平感が強い」「指導で済んでいた案件ではないか」との声がある。
発売以降、国民生活センターのPIO―NETに寄せられた2商品の相談も約4年で「取引関連」が32件、効果に関する苦情は4件だった。
課徴金は、事業者が「相当の注意」を払っていれば免責される。指標は、表示管理体制の整備。表示管理責任者の配置や表示根拠の確認などがある。免責されるかも今後のポイントになる。
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制度を所管する食表課保健表示室は、処分に「非常に遺憾。届出者は関係通知をよく理解して届出してもらう。絶えず見直すことを周知したい」と話すが、本来、「事後チェック指針」が適切に運用されていれば避けられた処分。消費者庁内の連携不足からくる怠慢が招いた処分ではないか。
消費者庁・田中誠室長が離任。10年にわたり影響力
消費者庁表示対策課・ヘルスケア表示指導室の田中誠室長が7月1日付で同職を離任した。公務員の異動が一般的に2年周期とされるなか、約10年にわたり同課に籍を置き、事件調査で影響力を行使してきた。
田中 誠 氏
「トクホの初勧告かな」。ライオンに対する健康増進法での初の勧告を、最も思い出深い事件にあげる。事件は16年。通販を拡大していたライオンは以降、勢いを削がれ、今年5月、日清食品に機能性表示食品事業の譲渡を発表した。
以降も機能性表示食品の初処分となった「葛の花事件」(17年)、認知機能関連の機能性表示食品に対する一斉監視(22年)など大型事件を手がけた。最後の置き土産が、さくらフォレストの処分だ。
事件による業界の動揺を背景に、「事後チェック指針」「切り出し表示」の業界自主基準への反映など、規制強化も求めた。長期期間の在職は組織において職務の専門性を高める一方、裁量行政のリスクをはらむ。一人の行政官の思想信条が、業界に影響を及ぼすことこそ、裁量行政そのものだろう。
今後は、消費者教育推進課食品ロス削減推進室長専任として、食品ロス削減法の改正作業にあたる。
業界に対しては、「機能性のエビデンスは努力されている。一方、根拠に問題がなくとも広告には配慮が必要。これは制度の育成が進んでも変わらない」との言葉を残す。離任にあたり、「公正競争規約の策定が道半ばという思い。トクホも規約策定以後は1件の指導・処分もない。ルール化されればリスクはぐっと減る」と提言する。
後任は、今年4月、食品表示対策室長に就任した農水省出身の綾戸隆英氏が兼任する。
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一難去ってまた一難となるか。もう一つ、業界に影響を与えそうな人事が7月3日付、同庁食品表示企画課保健表示室・蟹江誠室長の離任だ。
後任は、厚労省の今川正紀氏。昨年、同省新開発食品保健対策室長として、機能性表示食品を含む「いわゆる健康食品」について、因果関係が不明確なままで健康被害情報を公表すると政策を仕掛けた人物だ。かつて、消費者庁で食品表示法の策定に携わったこともある。
着任後、初めて担当するのが、田中氏が置き土産として残したさくらフォレスト関連の届出製品の再検証。届出企業に根拠の確認を求め、食表法に基づく撤回の指導等を判断する。健康被害情報の公表をはじめ、安全性管理を軸にした健食の制度化に意欲を持つ。今後どのような判断が飛び出すか注視する必要がありそうだ。
同種SR88件の根拠「確認」、届出撤回の可能性も
同様のSRを行う企業を巻き込み燃え広がる「根拠」に踏み込む処分は、業界に混乱を招いている。制度自体が大きく揺らいでいると言えよう。制度を所管する消費者庁食品表示企画課の担当官(課長補佐)に、88件に対する今後の対応を聞いた。
――――調査の理由は。
「機能性表示食品は、『根拠がある』ことを前提に自己責任で表示できるもの。根拠がないことが明らかになったので確認している」
――――どのような確認を行っているか。
「『表示の根拠を十分説明できているか』という確認を行っている」
届出の段階では「1つひとつ見ていない」
――――制度は食表課が所管する。届出の段階で根拠は確認していないのか。
「制度は、事業者責任が前提。1つひとつの論文まで見ているわけではない」
――――届出から公表まで時間を要しているのはかねてからの課題だ。確認していないのであれば、時間をかける必要もない。
「内容確認はそれなりに時間がかかる。SRの記載内容と届出表示の齟齬(そご)がないかを確認している。たとえば血圧関連の根拠で中性脂肪の表示を行っていては問題なので形式的に確認している」
――――届出が不備事項の指摘で受理されないことがある。形式的な確認であれば、記載漏れがなければ受理すればよいのではないか。
「SRと届出表示が正しければ受理する。一定の根拠は見るが、詳細までわからない」
――――処分は、食表課が受理したものを表示対策課(以下、表対課)が問題視し、処分を受けて食表課が企業に確認する構図だ。職分に踏み込み、食表課が窓口に見える。
「見えてしまうということはあるかもしれないが、それぞれの所掌がある。制度は一定の根拠があれば届出できる。表対課は、表示を調査する。今回は、その内容が根拠にまで及んでしまったため当課が対応することになった」
――――食表課の保健表示室は、「事後チェック指針」の運用を担う。処分に至らないための指針ではないのか。
「一義的に届出者が注意してもらう必要がある。問題ないようにしてもらいたい」
撤回の指示は「あり得る」
――――確認後の法律上の措置の可能性は。
「食品表示法上は、撤回の『指示』、これに従わない場合の『命令』がある。いずれも公表される。命令に従わない場合は、300万円以下の罰金もしくは3年以下の懲役という罰則がある」
――――撤回の指示はあり得るか。
「そうなる」
――――指導は。
「やり取りを行うなかで企業側が気づかれて自ら撤回するかもしれない」
――――根拠を問題視する点は同じだが、景表法の処分と措置の影響が大きく異なる点はどう考えている。
「法律が異なる。食表法の範ちゅうで確認、対処するのが限界といえばそうなる」
――――対応が異なるのも仕方がないと。
「そうなる」
――――根拠に問題が見つかった際に表対課と連携して対応しないのか。
「別になる。88件に対応して従わないからといって景表法違反にはならない。これと別に景表法に基づく調査がされれば、判断されることもある」
――――情報提供など緊密な連携はとらない。
「広告関連の情報提供があれば担当課が異なるので伝えることはあるが、今回の対象は根拠。当課としても今回の商品以外に調査しているかはわからない」
――――互いの動向は関知しない。
「というより関知できない」