「グローバルワーク」「ローリーズファーム」などのアパレルブランドを手がけるアダストリアが、新たなマーケットとして注目しているのがメタバース市場。アパレルのデジタルコンテンツ販売、ユーザーとのコミュニケーションなど、EC実施企業のなかでもメタコマースで一歩先を行く。
メタバース市場の魅力と取り組み、将来に向けた構想をアダストリアのメタバースプロジェクトマネージャー島田淳史氏にインタビュー。「メタバースに関心があるが進出に踏み切れず、迷っている」という事業者に向けた、新規参入で成功をつかむためのポイントも聞いた。
なぜアダストリアがメタバースに挑むのか?
島田氏によると、アダストリアがメタバース事業に取り組む理由は大きく次の3つだという。
- 新たな顧客接点の創出
- メタバース事業の収益化
- 顧客に新たな付加価値を提供する
メタバースをアダストリアのブランドが新たな顧客と出会う機会とし、収益化を推し進めている。付加価値としては「.st」独自のポイント付与制度を提供。将来的には、「自分がリアルで購入した洋服をメタバース上のアバターにも着させることができる」といったインセンティブも計画しているという。
仮想空間たるメタバースは「近未来的」「すごく新しいもの」と見られることが多いが、実のところ、既存のSNSと大きな違いはないと思っている。Facebook、Twitter、Instagramをそれぞれ楽しむユーザーいることと同じように、メタバースを利用するユーザーがいる。そして、メタバースの利用者は今後、もっと増えていくと思う。
FacebookとInstagramのユーザー層は大きく違うように、メタバースのユーザー層もそれぞれのプラットフォームで違いがある。たとえば、30代のユーザーが多いメタバースプラットフォームには、ブランドは「グローバルワーク」がユーザー層に合う。このように、メタバースにおいても顧客のターゲティングが肝心だといえる。(島田氏)
アダストリア メタバースプロジェクトマネージャー 島田淳史氏
アダストリアのメタバース事業の取り組みをおさらい
アダストリアは2022年7月にメタバースファッション領域に参入。同社は2026年度を最終年度とした中期経営計画でEC売上高800億円をめざしており、メタバースはデジタルの顧客接点を拡大・強化していく戦略の一環だ。
現在、アダストリアは「.st」オリジナルのアバターとスキン(洋服)の販売を展開。アバターの「枡花蒼(ますはな あお)」と「一色晴(いっしき ひより)」が人気を博している。国内だけでなく、アジア圏など海外在住の顧客からの引き合いも多いという。
アバターとスキン(洋服)の販売状況は、発売した2022年10月からの3カ月間で、スキン(洋服)が6割近くを占めた。キャラクターの人気だけにとどまらず、バーチャル上の洋服の購買行動に結び付いていることから、アダストリアは新たなファッション市場創出の先駆けとなっている。
アバターだけでなく洋服もちゃんと売れているということは、ユーザーがメタバース上でちゃんと“着替えている”ということ。メタバースの中でファッションが成立することを意味している。この領域でのビジネスチャンスは大きいと思う。(島田氏)
「.st」オリジナルアバターの枡花蒼【右】と一色晴。アダストリアのブランドを身に着けている。アバターはVRChatに対応する
キャラクターの人気だけではなく、メタバース空間から洋服の購買につながっている
2022年の11月には、メタバースでの購入機会拡大のため、VRChat Inc.が運営するバーチャルショッピングモール「Carat(カラット)」に出店。2023年3月にはメタバース上でファッションコンテストの開催を予定している。
将来的には、さまざまなメタバースプラットフォームへの展開、メタバース内でのコンテンツ提供、イベント開催、IP(intellectual property、知的財産のこと)などの展開を予定しており、各事業者や個人のクリエイターとの連携も進めている。
どうすればメタバース商流で“勝ち馬に乗る”ことができるのか?
島田氏にメタバース空間でファッションの購買行動を促すために、抑えておくべきポイントを聞いた。島田氏によると、「ユーザーが自分のアバターを“誰かに見てもらう”環境を創ること」と「メタバース上で“出掛ける場所”を作り、オシャレをする機会を創ること」の2点があげられるという。
現実と一緒で、オシャレをして出かける機会があることは、新しい洋服を買うきっかけいになる。メタバース上でのファッションショーや、仲間との集まりなど、“見られる”機会を創出することも同様だ。当社はメタバースの中で洋服を売るだけではなく、着る機会を創ることも肝心だと考えている。(島田氏)
島田氏は「現実と同じように、自分(のアバター)の洋服をほめてもらえるのはうれしいこと」だと指摘
誰かに“見られる”機会となるファッションショーもメタバース上での洋服の購買行動を後押しする
ファッションアバターの資産拡大に向けた「3つのフェーズ」とは?
ファッションアバターがメタバース市場で存在感を増していくためには、3つのフェーズがあるという。その内訳は次の通り。
- モノ売り:「どのようなマーケティング手法をとればアバターが売れるか」を推し進めるフェーズ。既存のブランドと絡めた商品販売といえる。島田氏は「マーケティングノウハウが重要」と説明。アダストリアは2022年にこのノウハウを蓄積した。
- コト売り:エンゲージメントを高める体験を提供するフェーズ。2023年、アダストリアは2023年は「コト売り」を拡大するべく、メタバースにおける“体験の場”をつくることに力を入れる。
- カチ売り:自社が培ったノウハウをもとに、事業者との協業やメタバース関連サービスの提供を行うフェーズ。消費者(toC)だけにとどまらず、事業者(toB)からの収益も獲得できるようになる。
アダストリアは今年、エンゲージメントを高める体験の充実に力を入れていく
アダストリアでは、メタバース上でユーザー同士が集まる“集会”が毎日のように開かれているという。“集会”では、ユーザー自身がデザインしたスキン(洋服)を見せ合うことも多い。
メタバース上で自分のアバターを買って、自分の好きな色に髪型を変えたり、服を着飾る……といった行動は、日常生活で普段行っていることと同じ。みんなが着飾っているメタバース上の集会に、デフォルトのアバターのままで参加すると『恥ずかしい』という気持ちになることすらある。メタバースはリアルの感覚と地続きにある。(島田氏)
めざす未来は“メタバースと日常生活の共存”
「メタバースといえばアダストリアだよね」。こう言われるようになることが島田氏の目標だ。消費者からも事業者からも広く認知を獲得し、収益化に努めていく。
近い将来、メタバースが当たり前のように日常生活に組み込まれる未来がくると思っている。
たとえば、朝起きてからメタバース空間でエクササイズ、友人とメタバースランチ、メタバースと空間で同僚と会議、メタバース内の食料品スーパーで買い物、自宅からメタバース内でのアーティストライブにログインして楽しむ……というように。
食料品スーパーでは実店舗と同じように「ついで買い」が期待できるし、エンターテインメントは会場に移動する労力や人数制限の制限がなくなる。(島田氏)
島田氏はメタバースならではの利便性を多くあげている
アダストリアがめざす、メタバース事業における今後のマイルストーンは次の図の通り。2024年下期までに、先述の「カチ売り」のフェーズまで推し進める方針だ。
2024年までを見据えたメタバース事業の拡大を計画している
メタバース領域におけるアダストリアのビジネスモデルは、①アパレル ②イベント ③制作受託 ④企業アライアンス ――の4つ。この4つの軸から収益化を図る。アダストリアはメタバース業界で力を発揮できるクリエイターの育成にも力を入れている。
4つのビジネス案で収益化をめざす
メタバース参入に足踏みしている事業者は相談を
「メタバースの参入に興味があるが、資金的に体力のある企業でないと運営が難しいのではないか」「やってみたいが、自社だけでメタバース事業を自走させるのは不安がある」――。このような悩みをもつ人は、「ぜひ声を掛けてほしい」と島田氏は呼び掛けている。
大きな金銭的負担をしなくても、メタバースに参入するやり方はたくさんある。これまでの当社の取り組みを踏まえてアドバイスすることができるし、場合によっては協業も前向きに考えていきたい。(島田氏)
島田氏はメタバース事業に関心がある事業者に自社への声掛けを呼び掛けている
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オリジナル記事:「メタバースは大きなビジネスチャンスになる」「先行者利益を得るなら2023年がカギ」。アダストリアが語るメタコマースの可能性と描く未来
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