山田養蜂場が景品表示法の措置命令を受けた。消費者庁は新型コロナウイルスの感染拡大以後、対策をうたう商品に繰り返し注意喚起してきた。初歩的な誤りに業界関係者からも厳しい指摘が相次ぐ。命令に至る背景には何があったのか。
「脇が甘いとしか言いようがない」。リスク認識の甘さに呆れの声
消費者庁からの措置命令を受けて山田養蜂場が発表した「お知らせ」
「やりすぎだ」。健康食品の表示に関わるものであれば、コロナ予防の表示リスクは「誰もがNGと認識できる」と業界関係者も呆れる。
消費者庁が新型コロナウイルスの対策をうたう商品を重点的に監視する中にあって、同社は「感染と重症化、どちらも予防したい……お客さまの声に応えて」「ビタミンDと亜鉛はともに新型コロナウイルス感染時の重症化を防ぐ可能性が研究報告されている」と、コロナに関連づけて自社商品をPRしている。
【画像】消費者庁は2022年9月、山田養蜂場の「ビタミンD+亜鉛」「1stプロテクト」「2stプロテクト」に措置命令を実施。山田養蜂場はコロナに関連づけて自社商品をPRしていた(画像は
消費者庁の公表資料から編集部がキャプチャ)
「明確に『予防』と言ってしまっている。一番注目されているところでやってしまった」「脇が甘いとしか言いようがない」と、業界内部からも擁護の声は聞こえない。
妥当性は評価できたはず。「サプリメント部会」部会長経験企業にもかかわらず――
山田養蜂場は、消費者庁の求めに応じ、根拠資料を提出している。
処分対象になった「1stプロテクト」などに含まれるプロポリスエキスについて、飲用した新型コロナ患者の入院日数が約3日減少したとするものや、PCR検査陽性者が陰性者に比べ、血中のビタミンD濃度や亜鉛濃度が低かったとするもの、ローヤルゼリーが免疫機能を活性化するというものだ。
いずれも可能性だが、商品情報とともに顧客向けDMで紹介されている。薬機法にも抵触する可能性がある。
【画像】ビタミンDや亜鉛の重要さを煽る文言を列記していた(画像は
消費者庁の公表資料から編集部がキャプチャ)
広告の経緯について、「コロナ禍でお客さまから不安の声が多く届いていた。年配客も多く、エビデンスを探し役立つものを開発していた。お伝えしたい思いが行き過ぎた」(同社)とするが、業界は機能性表示食品制度の導入からすでに7年が経過する。
機能に関する根拠の評価の指標は示されており、妥当性は十分評価できたはずだ。加えて、同社は日本通信販売協会が2008年、通販大手8社を構成メンバーに発足したサプリメント部会で、2012年から部会長の重責も担っていた。
本来、事業者に範(もはん)を示すべき立場でもあった。
表示は巧妙に使い分け? コロナの脅威を煽る文言も
当該表示のリスクは自覚なく出されたのか。「違反の認識がないため出てしまったということになる。気を付けていたが、結果として不十分だった」(同社)という。ただ、処分対象の商品について行われた別の広告と見比べると、巧妙に使い分けているようにも見える。
「1stプロテクト」「2ndプロテクト」について、違反の指摘を受けていないLINE広告では、「負けない身体づくりに!」「万全の対策ができる」など具体性のない文言が並ぶ。
「1stプロテクト」「2ndプロテクト」について、違反の指摘を受けていないLINE広告
一方、違反認定を受けたDMでは、新型コロナの脅威を煽った上で、同様の文言が「『免疫力』をサポートし、負けない身体づくりを!」「コロナ時代を生き抜く対策を万全に」などと異なるトーンで訴求されている。
広告は、制作部門が販売企画関連の部門や自社研究所に確認して作成していた。社内に品質保証や法務関連の部署もあるが、内容の確認は部署内にとどまり、部外者の確認を経ることがなかったという。
今後は外部の専門家など第三者によるチェック体制を強化。「広告は媒体考査があるが、プレスリリースはチェックが甘い部分があった」(同)としてすべての表示物を対象に責任者の承認を得なければ配信できないよう変更するという。考査のないDMもチェックが甘かったとみられる。
ただ、処分は必然といえる。山田養蜂場には、今回の事態を前に立ち止まり、表示を見直す機会があったからだ。背景には、長年に渡りその不見識を正すことなく、助長してきた行政の不作為の問題もある。
山田養蜂場はなぜ「コロナ予防」の表示に突き進んだのか
「お客さまには、国によって保障された『知る権利』があります」。処分からさかのぼること10年、業界関係者の間で山田養蜂場のある宣言が話題になった。同社が会報誌「健やかに」の発行にあたり掲載したあいさつ文だ。
山田養蜂場が同社が会報誌「健やかに」の発行にあたり掲載したあいさつ文。健康素材の情報を積極的に発信していくと表明した
これによると、同社は、これまで薬事法(現薬機法)に抵触することをおそれ、機能性の詳しい説明を避ける対応をしてきたという。
だが、説明責任を果たせていないと悩んだ末、健康素材の情報を顧客の求めに応じて「積極的に発信していく」と方針転換したという。
薬事法の趣旨を踏まえ、発信する情報は、「消費者が正しい判断をするために必要な情報」「自社の商品を対象にせず、一般的な健康素材の成分に関する情報」「信頼できるさまざまな研究によって、科学的に根拠が明確にされたもの」を条件にするとしている。
文面からは表示規制の現状を熟知した上で、景表法など規制法を避けて条件を設定し、判断したようすがうかがえる。
山田英生社長、業界の健全発展を決意表明の過去も
措置命令を受けた広告の掲載当時、山田養蜂場は日本通信販売協会サプリメント部会の副部会長だった。
協会は広告表示や安全性のチェック体制など「サプリメントの取扱いに関するガイドライン」の順守状況を把握する目的でサプリメント登録制を開始。
副部会長として山田英生社長も「規制撤廃など企業側の論理ではなく、消費者トラブルを起こす一部事業者を自主的に規制する」と、業界の健全発展にかける決意を表明している。
すでに機能性表示制度創設の機運も高まっていた。翌2013年には、政府の規制改革会議が成長戦略に健康食品の「機能性表示容認」を盛り込み、規制緩和は一気に進む。2015年に機能性表示食品制度が誕生した。
一方で、科学的根拠のない健康食品に対する規制は厳しくなった。2021年6月には、消費者庁が「コロナ予防」をうたう43事業者の49商品の表示を対象に健康増進法に基づく一斉監視・改善指導を実施。
「ビタミンDでコロナ予防」など処分で指摘を受けたものと同様の表示も対象だった。
ひとりよがりの信念、行き過ぎた情報発信
「伝えたい思いが行き過ぎた」(山田養蜂場)。会報誌の文面からも顧客に寄り添おうとする思いは伝わってくる。
ただ、根拠があいまいな健食があふれ疑念を抱く消費者もまだ少なくない中、これから信頼を獲得しようという業界にあって、ひとりよがりの信念に基づく情報発信はその妨げになる。
処分で指摘を受けた内容も自ら定めた情報発信の「条件」と整合性がとれるものではないだろう。
措置命令の対象となった商品について、山田養蜂場が顧客向けのDMで掲載していた表示(画像は
消費者庁の公表資料から編集部がキャプチャ)
同社が行政の指導に含まれるメッセージや、「条件」との不一致を知らなかったとは考えにくい。それだけではなく、同社にはより直接的に自らの表示を見直す機会もあった。
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オリジナル記事:山田養蜂場はなぜ「コロナ予防」の表示に突き進んだのか?景表法違反で措置命令を受けた背景 | 通販新聞ダイジェスト
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