Amazonは、P2Pの個人間送金ができるモバイル決済サービス「Venmo(ベンモー)」(編注:PayPal傘下の企業が提供)で買い物料金を支払うことができるようにしました。
決済手段を拡充するAmazon
Amazonは現在、一部の顧客を対象に、チェックアウト時に「Venmo」で支払えるようにしていますが、ブラックフライデーからすべての利用者がチェックアウト時に「Venmo」を使えるようにする予定です。「Venmo」の親会社であるPayPal Holdingsのダニエル・シュルマンCEOは、「ホリデーショッピングの繁忙期に間に合わせる」と説明。次のようにコメントしています。
(Amazonの「Venmo」導入は)特に若い層における「Venmo」の広がりを反映したものです。この新しい決済方法の提供について、Amazonと密接に協力し、成果を上げることを楽しみにしています。
「Venmo」は2009年にサービスを開始し、2013年にPayPal Holdingsが買収しました。「Venmo」のユーザーは、自分の銀行口座をアプリにリンクさせ、「Venmo」の口座を持っている他のユーザーに支払いをすることが可能。そのお金は、後で使うために「Venmo」に残しておくか、預金口座に振り込むことができます。
「Venmo」を使うオンライン通販事業者は、1取引あたり0.49ドルのトランザクション費用、3.49%の手数料が必要です。オンライン通販事業者がクレジットカード会社に支払う平均約2.5%の手数料よりも高いと、比較サービス「Bankrate.com」とクレジットカードのマーケットプライス「creditcards.com」のシニアアナリストであるテッド・ロスマン氏は言います。
消費者はAmazonの支払い方法として「Venmo」アカウントを連携すると、チェックアウトの際に選択することができます。「Venmo」は約9000万件のアクティブアカウント(うち月間アクティブユーザートは5700万件)を抱えています。
現在、Amazonではクレジットカード、デビットカード、ストアカード、医療貯蓄口座(HSA)、フレキシブル支出口座(FSA)、電子給付金(EBT)口座などを使って支払いすることが可能。2021年後半には後払い(Buy Now, Pay Later)サービス「Affirm」を追加し、決済手段を増やしています。
米国の大手EC専門誌『Digital Commerce 360』の「北米EC事業 トップ1000社データベース」で、チェックアウト時に「Venmo」を提供しているのはわずか5.2%。上位1000社の小売事業者の決済手段では、Mastercard、Visa、American Express、Discover Bank、PayPalが上位にランクインしています。
上位1000社の小売事業者が提供する決済方法トップ10(2021年、出典:Digital Commerce 360)
『Digital Commerce 360』のトップ1000社(オンライン売上高で北米をリードする小売事業者)の45.7%が2021年にBNPLオプションを提供、2020年の28.2%から大きく増えています。2つ以上のBNPLオプションを提供しているのは7.4%で、2020年の1%から増加しました。
中小規模の小売企業もBNPLの提供を始めており、『Digital Commerce 360』の「Next 1000データベース」(オンライン売上高ランキング1,001位から2,000位までの小売事業者をリストアップしたもの)にランクインしている企業の32.9%が少なくとも1つのBNPLオプションを実装しています。
トップ1000社の47.5%、Next 1000社の32.9%が後払いサービスを提供
している(出典:Digital Commerce 360)
支払い方法の選択肢を増やして多くの消費者にアピールするAmazon
「Amazonは、消費者が購入を完了するために、さまざまな機会をできるだけ多く提供すべきだという従来の常識に従っている」。コンサルティング会社Brooks Bellのグレゴリー・ウンCEOはこう言います。
2021年10月にBrooks Bellが米国の消費者1000人を対象に行った調査によると、Amazonのチェックアウト・支払いプロセスを「優れている」と評価した消費者は半数(50%)にとどまりました。しかし、Amazonのチェックアウト・支払いプロセスを改善する必要があると答えたのはわずか9%。
ユーザーの大半は、スマホ(アプリ)が取引の手段であることに慣れてきています。「Venmo」はすでに決済手段のスタンダードになっており、このことは「Venmo」のようなブランドにとって大きな利点です。しかも、消費者の根本的な考え方は変わりません。消費者は、自分にとって便利な方法で買い物をしたいのです。そのことを踏まえ、経験豊富な小売事業者は、消費者のその要望を把握しているのです。(ウン氏)
「Apple Pay」「Google Pay」も導入する?決済のトレンドとアマゾン
決済処理ベンダーNMIのCEOであるヴィジェイ・ソンディ氏は、Amazonのチェックアウトに「Venmo」が加わることにどのような影響が出るか、「様子を見る」つもりだと言います。
そして、Amazonが今後、「Apple Pay」「Google Pay」を決済手段として導入するかどうかに注目しているそうです。 ただ、Amazonが「Apple Pay」「Google Pay」を導入するには、Appleへの手数料支払いを避けなければなりません。
AmazonはAppleに手数料率30%を払いたくないのです。それがAppleとAndroidの力です。彼らは、様々な決済手段を集約するゲート機能を果たしているのです。(ソンディ氏)
ソンディ氏は、Amazonが「Apple Pay」「Google Pay」をすぐに提供するとは考えていません。
「彼らはデジタル商品の販売で競い合っています。Amazonは、iOSデバイスのアプリを通じた販売において手数料を払わずに商品を売ることができない状況に腹を立てているのです。」(ソンディ氏)
「Venmo」支払いのリスク
消費者は「Venmo」で支払いをする際、銀行口座とアプリをリンクさせて資金の引き出しや預け入れを行うため、リスクがあるとソンディ氏は言います。消費者が取引を取り消したい場合、それを実行するのが困難なためです。
クレジットカードの場合、消費者はカードの紛失や盗難を報告することができます。そのため、消費者は不正な取引から保護され、その責任を問われることはありません。また、クレジットカードは与信審査と承認が必要となります。
一方、Venmoアプリは、消費者がデビットカードまたは預金口座をリンクする必要がありますが、信用調査は必要ありません。
Amazonが「Venmo」を提供していることを知ったソンディ氏は、潜在的なリスクを強調して説明していないことをこう言います。「Amazonは、デビットカードや預金口座の資金源である「Venmo」で支払う方がはるかにリスクが高いことをあまり指摘していません。」(ソンディ氏)
Amazonによると、「Venmo」の取引はAmazon独自のバックエンド技術によって保護。消費者が第三者の販売者に連絡し、その販売者が最初のメッセージから48時間以内に許容できる解決策を見出す必要があるというAmazonのA-to-z Guarantee(編注:日本で提供されているAmazonマーケットプレイス保障)に言及しています。
Amazonはまた、トラブルが発生した際の対処法として、多くのシナリオと行動指針を提示しています。販売事業者は少額の取引手数料を支払えば、「Venmo」独自の購入保護を、対象商品に対して適用することができるようです。
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オリジナル記事:Amazonが決済手段を拡充する理由とは。後払い、個人間送金サービス、今後は「Apple Pay」「Google Pay」も導入? | 海外のEC事情・戦略・マーケティング情報ウォッチ
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