北の達人コーポレーションが売上高100億円をめざす新規事業として立ち上げた電子タバコブランド「SPADE(スペード)」。ニコチンやタールを含まずとも紙巻きタバコに近い“吸いごたえ”を再現し、喫煙や受動喫煙による健康被害をゼロに近付けることを使命として普及拡大に努めている。SPADE事業を“社内起業”した新規事業企画室の城山貴浩氏は、商品の企画開発から広告、ECの運用まで社内リソースをほぼ使うことなくすべての業務を1人で担う。
北の達人コーポレーションの「売り上げ最小化、利益最大化」の原則に基づいた省人化の運用と、成長を見据えた戦略を両立できる秘訣について、城山氏に聞いた。
社内ベンチャーの第1号ブランドとして販売を開始した「SPADE」
北の達人コーポレーションは現在、売上高100億円以上の事業を複数展開し、さらなる成長を図る方針を打ち立てている。
D2Cの新事業を複数展開することを計画している(画像は「2022年2月期決算説明会資料」からキャプチャ)
この目標に向け既存事業の拡大だけでなく、2021年度は新規事業の計画を持つ人材を採用して、社内ベンチャーの形で新たなD2C事業を立ち上げる「新規事業企画室」を設置した。新規事業企画室から第1号のブランドとして販売したのが、電子タバコの「SPADE」だ。
2022年3月までに2つの新商品が新規事業企画室から発売された
(画像は「2022年2月期決算説明会資料」からキャプチャ)
開発責任者の城山氏は、これまでに電子タバコの商品企画や店舗開発を手掛けてきた経歴を持つ。新規事業企画室に入社して以降、城山氏は自身の経験と実績を生かして、紙巻きタバコの喫煙者が満足する新しい電子タバコの開発に取り組んできた。
社内ベンチャーの第1号ブランドとして販売している電子タバコ「SPADE」
タバコに近い“吸いごたえ”を得られる成分「シガニチン」を開発、特許も取得
日本ではニコチンを含む電子タバコのリキッドは医薬品に、吸入用のデバイスは医療機器に分類されるが、ニコチンやタールを含まずに香り付きの蒸気を吸って吐く形の電子タバコは雑貨として分類され、昨今では店頭やECなどで広く流通している。
しかし、雑貨に分類される電子タバコは有害物質の心配がほぼない反面、ニコチン特有の喉への刺激や“吸いごたえ”は得にくくなってしまう。メンソールを添加して代替的に刺激を与える製品もあるが、それではタバコらしいフレーバーが薄まってしまい、紙巻きタバコを愛用している喫煙者は物足りなさを感じることが課題だったという。
SPADE事業は、ニコチンやタールを含まない電子タバコで紙巻きタバコに近い吸いごたえを再現し、喫煙や受動喫煙による人々の健康被害をできる限り軽減していくことを使命として立ち上がった。「SPADE」の名称には「Save People And Diffuse Electronic-cigarette(電子タバコの普及により人々を救う)」の意味が込められている。
そして試行錯誤の結果、食品由来の原料でタバコに近い吸いごたえを得られる成分「シガニチン」の開発に成功し、特許を取得。シガニチンを用いた新しい電子タバコ「SPADE」は、喫煙者を対象としたモニター調査で85%が「タバコに近い味だ」と回答しており、2021年12月から本格的に販売を開始した。
新規事業単体で売上高100億円を達成する上でも、タバコによる健康被害の軽減をめざすSPADE事業は有力だと社内からも評価されているようだ。
日本では健康志向が高まり喫煙率が減少傾向にあるが、これからは海外の多くの国でも健康需要はますます高まっていくと考えられる。そうしたニーズを総合的に勘案すると、健康被害を軽減する電子タバコは市場の成長性が見込まれる。将来的には海外進出も見据えて事業を推進している。(城山氏)
北の達人コーポレーション 新規事業企画室 城山貴浩氏
ターゲット層は40代以上の紙巻きタバコの喫煙者
城山氏によると、国内の電子タバコ市場は200億円程度のため、このなかでパイを取り合うとなるとSPADE事業で売上高100億円は難しいと考えられる。
一方、タバコ市場全体で約2兆円あるうち、紙巻きタバコは約1兆8000億円を占めているという。また、紙巻きタバコの喫煙者の6~7割を40代以上の男性が占めるとされているため、「SPADE」のターゲット層は40代以上の紙巻きタバコの喫煙者に設定した。
昨今、電子タバコの種類や銘柄は次々と増え続けているが差別化できる要因はあまりなく、価格訴求やタレントキャスティングによるイメージ訴求で戦っている市場であったという。
そこに「吸いごたえ」というタバコ本来の価値を訴求すべく「シガニチン」という成分の開発に成功(特許取得)し、喫煙者のニーズのど真ん中に切り込んだ。広告も「タバコに近い味と吸いごたえの電子タバコ」という内容で訴求している。
「SPADE」が展開するフレーバーは、タバコの味を再現した「MILD」「STRONG」「MENTHOL」の3種類に絞った。他社製品の電子タバコには、フルーツ、コーヒー、ドリンク系などのフレーバーも数多く出回っているが、喫煙者は「タバコを吸いたいが、健康が心配」というニーズが大きいため、タバコ本来の味にこだわった。
「SPADE」は3種類のフレーバーから選べる
また、喫煙者がタバコを愛用する理由は単にニコチンに依存しているというよりも、タバコの味や香りを楽しむ文化的な要素や作業の合間にリラックスするためといった要素も少なくない。タバコが原因の健康被害を減らすことをミッションにしながらも、吸って吐く行為で味や香りを楽しむ文化やリラックスできる習慣はなくしたくないという考えも重視しているようだ。
商品の企画開発から広告運用まで、1人で手掛けるSPADE事業
「SPADE」は北の達人コーポレーション内の新規事業ではあるが、顧客対応のカスタマーサポート以外は社内のリソースをほぼ使わず、城山氏1人で運用している。
その理由は、北の達人コーポレーションも元々は木下勝寿社長が1人で起業したところから始まった会社であり、また新規事業企画室も起業家を育成することで新たなD2C事業を立ち上げる目的で設置されているためだ。
加えて、電子タバコという商材の特性上、化粧品や健康食品を取り扱う既存事業のノウハウや手法が踏襲しにくいことも理由にあげられる。
たとえば、大手媒体での広告戦略に特に強みを発揮する既存事業に対し、電子タバコはGoogle、Yahoo!、Facebookなどには広告出稿できないなど、あらゆる面で採用する戦略が異なってくる。このため、「SPADE」はゼロから開拓しなければならないことが多いという。
商品の企画開発から倉庫やシステムの選定、広告の制作・運用まで、既存事業とは分けてSPADE事業独自で進めているが、北の達人コーポレーションの「売り上げ最小化、利益最大化」の法則、満足度を追求する「お客さま第一主義」の姿勢は共有している。
商品を買ったお客さまのベネフィットを追求し、「買って良かった」という満足の声が積み上がっていけば、ブランドは自然と育っていくという考えが当社の根底にある。
満足度を高めるためにまず重要なのが品質だ。既存事業の化粧品や健康食品では約800項目の検査基準をクリアしたものしか製品化しないルールがあるが、その項目のなかで電子タバコでも利用できる項目は適用しながら、「SPADE」も厳しい品質管理のもとで製品化している。味のこだわりはもちろん、ハード面でも壊れにくく長く使っていただける製品をめざして品質を高めてきた。
また、ほぼすべての業務を1人で回しつつもカスタマーサポートだけは社内のリソースを活用しているのは、問い合わせへの返信を原則として当日以内に対応できるようにするなど、顧客対応の品質を重視した結果だ。(城山氏)
味は満足でも、電子タバコの使用自体に慣れてもらうためのコミュニケーションが課題
「売り上げ最小化、利益最大化」を原則とする北の達人コーポレーションでは、LTVに基づいて上限CPOを設定し、上限CPOを超える広告配信は停止しながら広告出稿を最適化している。
「売り上げ最小化、利益最大化」の法則について(画像は「2022年2月期決算説明会資料」からキャプチャ)
始まったばかりのSPADE事業も闇雲に広告投資するのではなく、回収期間に応じて設定した上限CPOのなかで新規顧客を獲得し、同時にLTVを伸ばす施策を講じているという。
「SPADE」のような電子タバコは、法律上年齢確認の必要はないものの、EC立ち上げからしばらくは生年月日を入力する項目を設けていた。すると70代や80代のユーザーも多くいることがわかったという。
ネット注文で利便性を損なわないよう注文フォームをシンプルな構成にしたことで、注文方法に関する問い合わせはかなり抑えられている。
ただ、継続率を伸ばす上では「“伝え方”の試行錯誤が続いている」という城山氏。30代の喫煙者は電子タバコを試した経験のある人が比較的多い一方で、「SPADE」がターゲットとする中高年の喫煙者は電子タバコを一度も使ったことがない人の割合が多いからだ。
そのため、タバコ本来の味を再現した製品であっても紙巻きタバコを喫煙し続けてきたユーザーは電子タバコ自体に慣れずに、数回で使用をやめてしまうケースもあるようだ。
「味自体は大半の喫煙者から評価を得られているため、まずは使い慣れてもらうためのコミュニケーションで工夫を凝らしたい」と城山氏は話す
複雑な構成の定期販売にも対応できるカート「ecforce」の導入を即決
「SPADE」は定期販売も行っているが、決まった商品・個数を定期的に送る商材と異なり、ユーザーが2色のデバイスから1色を選べるほか、リキッドも3種類のフレーバーから2種類を選べる複雑な構成になっている。
そのため、定期販売に対応可能なカートのなかでも、この要件に対応できることがカート選びの必須条件だった。
カートを選定する際、SPADE事業の立ち上げを支援していた外部のアドバイザーからSUPER STUDIOが提供するECプラットフォーム「ecforce」の紹介を受けたという。「ecforce」担当者にカートに対するニーズを伝えたところ、こうした複雑な仕組みも実装できることが初回の打ち合わせで明白になったため導入を即決したと城山氏は話す。
スモールスタート向けのカートシステムでも「SPADE」の販売は可能だとは思うが、将来的に売上高100億円をめざす上では規模が大きくなっても耐え得る機能を持つカートが必要だと考えた。
また、「ecforce」は担当者が付くので困ったときにスムーズな対応をしていただけることや、D2Cのノウハウを豊富に持っている点も魅力だった。定期販売の複雑なセット組みがあるのでECサイトの構築も複雑になりそうだと予想していたが、担当者があらゆる設定方法を丁寧にサポートしてくれた上わかりやすいマニュアルも用意してもらえたので、スムーズに構築することができた。(城山氏)
BULK HOMME、タマチャンショップなどのECサイトが導入する「ecforce」
さまざまな機能を自動化できる「ecforce」が省人化と業務効率化に貢献
ほぼすべての業務を1人で担っているSPADE事業にとって、さまざまな作業が自動化できる機能が業務効率化に役立っているという。
その1つがクレジットカード決済で与信が通らなかったユーザーの確認作業だ。逐一確認しなくとも、与信の通らなかったユーザーにはフラグが立つ自動化設定をしたことで迅速に対応できるようになっている。特に定期販売は決まった頻度で商品を届ける必要があるため、素早く対応できるメリットは大きいという。
「ecforce」で構築した「SPADE」のECサイト
「ecforce」は導入企業からのニーズをもとに自動化できる機能を続々と増やしており、SPADE事業もシステムに任せられる作業は順次自動化を進めているところだ。城山氏は「このまま売り上げ規模が30億円、50億円と成長していっても、あまり人員を増やさずに運用していけるのではないか」と期待を寄せる。
また、広告のLPをワンクリックで複製できる利便性、充実した分析機能なども高く評価している。売り上げや定期継続率の分析も別途ツールを導入せずとも細かく見ることができ、定期販売の細かなニーズにも十分対応していると実感しているようだ。
「ecforce」の主な機能
さらなる資金投入で拡大期へ。将来的には店頭販売も開始し、さらなる普及拡大へ
北の達人コーポレーションのD2C起業家育成プログラムは、フェーズを5段階に分けて指導育成される。
- 商品を企画する
- 発売準備を整える(商品製造、バックヤードの準備)
- 発売してユニットエコノミクス(1ユニットあたりの採算性)を完成させる(上限CPO内で獲得できる販売スキームを完成させる)
- ユニットエコノミクス内で1000件獲得する
- 資金を投入して拡大させる
最初に1500万円の資金が渡され、1年でフェーズ3まで持っていくスケジュールで毎日木下社長とマンツーマンで打ち合わせしながら事業を立ち上げていく。
SPADE事業はフェーズ4を卒業し、これから本格的に資金を投入するフェーズ5に進む段階に来ている。
また、ECだけではなく電子タバコという商品の特性上、将来的にはコンビニエンスストアなどでの店頭販売も展開していきたいと考えている。
通常のタバコ製品は、コンビニエンスストアに行けば大体の銘柄は取り扱っているほどどこでも買えるものだ。しかし、ECのみでは仮に定期購入のお客さまから「配送を早めてほしい」と要望があっても最低1日はかかってしまう。そうなると日常使いとして不便さを感じてしまい、普及拡大も難しい。リキッドだけはコンビニエンスストアに置くなど店頭での取り扱いもしていかなければいけないと考えている。
また、北の達人コーポレーションではまだまだD2C起業家を募集しているので、興味がある人は是非エントリーしてほしい。私も仲間として協力を惜しまないつもりです。(城山氏)
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オリジナル記事:北の達人コーポレーションの「D2C起業家育成プログラム」から誕生した電子タバコブランド「SPADE」が省人化と成長を両立する秘訣とは?
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