インフレによって消費者の優先順位が変化しているため、小売事業者もそれに対応しています。商品構成の変更、業務効率の改善、利幅の縮小など、さまざまな対応策を進めています。
利益率の低い商品「儲からない仕事は割に合わない」
米国インディアナ州クラウンポイントのジュエリーショップ「Moriarty's Gem Art」の売上高の多くがオンライン経由のため、利益率の低い商品のEC展開は営業努力に見合わなくなっています。ゼネラルマネージャーのブライアン・アンダーソン氏は次のように言います。
インフレのため、利益率の低い商品はすべて取り除かなければなりませんでした。全体的にコストが上昇しているので、メーカーからの値上げがあっても痛手にならないように、利幅の大きな商品だけを提供するという戦略に切り替えました。
インフレによる事業戦略の見直しが迫られているのはMoriarty'sだけではありません。消費者の支出に関する優先順位が変化し、事業コストが上昇する環境下、小売企業はさまざまな対応を進めています。商品構成を変え、可能な限り効率性を追求し、利益率の低下を受け入れて販売価格の値上げを抑えているのです。
Moriarty'sでは、利益率の低い商品の販売をやめることで、商品数を20%ほど減らすことができたとアンダーソン氏は言います。
儲からないモノを売るために余計な仕事をするのは割に合いません。利益率の低い商品の販売をやめる方法であれば、全社的に価格を上げる必要はなく、インフレがあっても、高い収益性を維持し、お客さまを満足させることができるのです。
パーソナライズ提案がインフレ対策の1つ
米国労働統計局は先日、6月比で横ばいだった7月から、8月のインフレ率は季節調整済みで7月に比べて0.1%上昇したと発表しました。米国労働統計局によると、8月までの12か月間で、季節調整前のインフレ率は8.3%上昇したそうです。
小売技術企業Aptosのニッキー・ベアード戦略担当副社長は、インフレは人々のホリデーシーズンの買い物を変えるだろうと話します。
インフレの影響がまだ残っており、2021年のホリデーシーズンは消費者の予算が縮小するでしょう。より小さな贅沢品や、気分が上がるギフトを求めるようになると予想されます。小売事業者が需要を喚起し、消費者がより少ない費用でより多くのことを行えるようにする方法の1つが、パーソナライゼーションです。
消費者は、プレゼントにパンチを効かせるための、クリエイティブで安価な方法を評価するでしょう。よりパーソナライズされた提案に軸足を置くことができる小売事業者は、ぜひそれを強調すべきです。(ベアード氏)
同時に、小売事業者は、環境に優しい方法を見つけるべきであると言います。
消費の逼迫にもかかわらず、持続可能性は消費者の関心の的となっています。ギフト包装はスタイリッシュに見えるかもしれませんが、消費者はそれを無駄と考え始めています。再利用可能なギフトバッグやスタイリッシュなパッケージなど、代替品を提供できる小売事業者は、2022年の消費者を魅了することができるでしょう 。
価格上昇と「シュリンクフレーション」
栄養補助食品をオンラインと全米18店舗で販売するSupplement Warehouseでは、コスト上昇を消費者に転嫁することは避けられませんでした。プロダクトマネージャーのジェフ・モリアーティ氏はこう言います。
特にプロテインサプリメントの価格は20%以上上昇しました。そして、この種の商品はマージンが低いため、消費者にコストを転嫁せざるを得ませんでした。
値上げ分を相殺するためにメーカーと協力し、プロモーション用の粗品を作ったり、成分値上げの影響を受けないサプリメントを追加するなどの対応をしています。
これらの取り組みは間違いなく、商品の売り上げを維持するのに役立っています。(モリアーティ氏)
モリアーティ氏によると、小売事業者はコスト削減のために「シュリンクフレーション」と呼ばれる、「価格はそのままに内容量を減らして提供する」方法も含めて多くのメーカーと交渉しているそうです。
「シュリンクフレーション」は、1番目の選択肢ではありませんが、できるだけ多くの選択肢を導入しようとしています。(モリアーティ氏)
モリアーティ氏によると、配送会社の値上げに伴い、送料も値上がりしているそうです。Supplement Warehouseは最近、送料無料となる基準を75ドルから99ドルに引き上げました。
インフレ対応で賃金アップ、値上げにつながる
CBDやその他の健康・ウェルネス商品をオンラインと実店舗2店舗で販売するNuleevのマーケティング最高責任者のロバート・バーンズ氏は、「今のところオンライン価格は安定していますが、コスト上昇により店頭価格を引き上げました」と話します。
これまでのところ、インフレが原因でオンライン価格を上げたことはありません。しかし、インフレに対応するために実店舗の賃金を上げた結果、値上げにつながりました。やむを得ないことでした。eコマースと実店舗の両方でより効率的になるよう、今までのやり方をいくつか変更しました。(バーンズ氏)
ホリデーシーズンの売上予測はインフレ懸念を反映
Salesforceが先日、発表したデータによると、インフレがオンライン通販事業者のホリデーシーズンの不振の一因となる可能性があるとのことです。
インフレは、世界中の消費者支出を減少させるでしょう。世界のオンライン価格は2021年に比べて7%、2020年に比べて15%上昇し、消費者のオンライン注文総額は2021年のホリデーシーズンに比べて7%減少する(米国では5%減少)見込みです。(Salesforceの発表)
Salesforce Shopping Indexは、11月と12月のオンライン小売の売り上げが「コロナ禍前のレベルを凌駕する」と示しており、2019年の売り上げと比較して世界で55%増、米国で61%増となっています。
しかし、2021年と比較すると、11月と12月のオンラインホリデー売上は、世界で2%減少し、米国で3%増にとどまる予想しています。Salesforceのデータは、10億人以上の消費者のグローバルデータを分析しています。
Deloitteが発表した米国の年末商戦では、11月から1月にかけてのeコマース売上が12.8%~14.3%に上昇すると予測。その結果、今シーズンの年末商戦のeコマース売上高は2600億ドル~2640億ドルに増加する予想しており、2021年の2310億ドル(前年比8.4%増)から拡大しています。
Deloitteのニック・ハンドリノス副会長は声明で、「消費者が支出を最大化するためにオンライン取引を探し、eコマース売上をさらに押し上げる可能性がある」と説明しています。
消費者は必需品を優先
片頭痛や光過敏症の影響を軽減するために設計された眼鏡を製造するAxon Opticsのベン・ロリンズ共同創業者は、インフレの影響を感じていません。
インフレが消費者の買い控えを引き起こしているという明確な兆候を見て取れません。なぜなら、売り上げに劇的な変化が見られないからです。それは、私たちの商品が贅沢品ではないからかもしれません。必要な人は、必要な買い物として捉えているのでしょう。
もし、売り上げが減少しているとしたら、それは人々のお金が減っているせいかもしれません。しかし、価格は上げていないのですから、インフレが原因ではないでしょう。(ロリンズ氏)
Axonの偏頭痛用メガネのコストは変わっていません。しかし、食料品など他の必需品については、急激に値上がりしています。
米国農務省によると、スーパーマーケットの食品購入費は2022年6月から2022年7月にかけて1.4%上昇。2022年7月の食品価格は、2021年7月に比べて13.1%上昇しました。
小売事業者は、食品と燃料の価格上昇が2022年の買い物習慣を劇的に変化させたと口をそろえます。Walmartや Target Corp.などの小売事業者は、動きの遅い大量の在庫を割引販売したことが、収益に打撃を与えたと発表しています。Walmartのダグ・マクミロンCEOはこう説明しています。
食品インフレが上昇し続けるなか、売り上げが変化しています。多くの市場で食品と消耗品の売上構成が高くなり、それが全体的なマージンを圧迫しているのです。
お得な情報を見つけやすくする&消費者の負担を減らす
お買い得品に敏感な消費者を惹きつける方法の1つに、気に入ったお買い得品を見つけやすくすることがあります。
フラッシュセールを行うZulilyは最近、ECサイトとモバイルアプリを刷新し、消費者が欲しい商品やブランドをより簡単に探せるようにしました。Zulily は、新しいサイトがバーゲン好きの母親というコアな顧客層を引き寄せ、顧客ロイヤリティを高めることを期待しているのです。
Zulilyは、72 時間以内に終了するフラッシュセールを毎日100 回以上提供。また、BOGS、Carter's、Champion、Burt's Bees Baby、 Fisher-Price、LEGO、Levi's、Melissa&Dougなど300以上のバーチャルストアを追加。「日々の必需品と基本的なもの」を毎日割引価格で購入できるようになりました。
また、89ドル以上の注文で送料が無料になるサービスも開始。これまで同様、特定の期間に注文することで送料無料をゲットすることができます。Zulilyは通常、これらの期間中に購入された商品をまとめ、できるだけ多くの商品を1つの箱に詰めて配送しています。Zulilyの商品責任者であるジョン・ローナス氏はこう言います。
配送料はすべてのeコマースビジネスの一部です。我々は顧客の負担を減らし、コストを節約することをめざしています。
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オリジナル記事:【インフレ対応策まとめ】パーソナライズ、シュリンクフレーション、利益の低い商品減、商品構成の変更など小売事業者の対策 | 海外のEC事情・戦略・マーケティング情報ウォッチ
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