今回は、4P(Product:製品戦略、Price:価格戦略、Place:流通戦略、Promotion:宣伝戦略)の3つ目であるPlace(どこで、どのようにお客さまにコンタクトを取り、商品を販売するのか)といった流通戦略についてお話します。
流通戦略とは
流通戦略とは「供給サイドと需要サイドを効率よく引き合わせ、利便性を高めること」です。
自社ECサイトを始めたばかりの頃は、砂漠の誰もいない場所に店を構えたような状態です。そのため、いくら使いやすいECサイトを構築し、優れた商品を適正な価格で販売しても、消費者が来なければ自己満足に過ぎず、商品はほとんど売れません。
流通戦略を通じて、消費者へコンタクトし、自社ショップや商品を認識してもらうところから始める必要があります。
流通は生産者から消費者への販売ルート全般を指します。商品の移動に留まらず、どうやってお客さまにコンタクトを取って販売につなげていくか、また、流通に関する管理やコストの戦略立案も含みます。
7つの要素で成り立つ流通戦略
流通戦略は以下の7つの要素に分けられます。
- 調査:商品やサービス、取引計画など実施へ向けた情報収集
- プロモーション:ユーザーにどのような手段で自社商品・サービスを知ってもらうか広報手段の決定
- 接触:見込み客やユーザーにアプローチする
- 交渉:取引条件について自社とユーザーで擦り合わせ、落としどころを決める
- 適合:ユーザーのニーズを実現させる
- 物流:物流ルート、物流業者の管理運用、在庫管理
- コスト:物流コストの管理
各要素は独立しているのではなく、相互に関係し影響を受けあいます。たとえば、適合で得たお客さまのニーズから、プロモーションや接触方法を見直すといったことはよくあることです。
まず、これら7つの要素を「コミニュケーションチャネル」「販売チャネル」「流通チャネル」の3つのチャネルにまとめて戦略立案します。
7つの流通戦略は3つのチャネルに分け、チャネルごとに戦略を立てる
コミュニケーションチャネル(調査・プロモーション・接触)
ショップや商品を認知してもらい、まずはショップに来てもらう経路です。
オールドメディアである新聞やテレビ、ネット上の広告、オウンドメディア、SNS、展示会、実店舗など、さまざまな場所や方法が存在します。
「卒塔婆屋さん」でも、オールドメディアでの掲載、ネット広告、SNS、展示会とあらゆる手段を試してきました。商品やターゲット層によっても変わりますが、ECの場合はネット広告が一番販売に結び付きました。SNSや展示会は認知度向上に効果があり、見込み客獲得に有効でした。
どんな手段が有効かはいくら調査しても未知数なところが大きいのが実際のところ。少ない予算で、さまざまな手段をテスト・検証し、有効だと思われる手段が判明したら本格的に予算を投入した方がより効果的です。「やってみなければわからない」というのが実情です。
販売チャネル(交渉・適合)
お客さまが実際に商品やサービスを購入できる場所や方法です。ECの場合、サイト自体が販売場所となります。店舗側で商品戦略や価格戦略に基づいた品ぞろえと価格設定を用意します。また、決済手段、決済手数料なども予め自社で決定しておきます。
流通チャネル(物流・コスト)
配送や物流ルートのことです。自社の商品を直接お客さまへ販売するのか、卸売り事業者や小売業事業者を間に挟むのかなど経路はいくつかあり、自社商品の特性やそれぞれのメリット・デメリットを考慮して戦略を立てます。
流通チャネルは下記のように段階で分けられます。
- 0段階チャネル:製造→お客さま
- 1段階チャネル:製造→小売り→お客さま
- 2段階チャネル:製造→卸売り→小売り→お客さま
- 3段階チャネル:製造→卸売り→二次卸→小売り→お客さま
ユーザーに直接対応する「0段階チャネル」
「直販」と呼ばれるもので、生産者が直接お客さまに販売します。高級品や嗜好品、ニッチ商品に向いています。
生産者が直接消費者に商品を販売する「0段階チャネル」
生産者が直接お客さま1人ひとりに対応するため、大手企業よりも中小零細企業の方が向いており、「ブランドイメージを保つ」「直接お客さまからの意見などに対応できる」といったメリットがあります。反面、集客や顧客対応などにコストと時間がかかります。
生産者とユーザー間に事業者が入る「1~3段階チャネル」
生産者とお客さまとの間に事業者が入ることで、多くのお客さまにアプローチが可能となります。反面、「ブランドイメージを確立しにくい」「お客さまからの意見を反映しにくい」といったことがあります。数量を多く捌く一般大衆品に向いています。
生産者と消費者の間に小売りや卸売りが入る「1~3段階チャネル」
流通チャネルは複数あって良い
流通チャネルは1つに絞る必要はありません。「卒塔婆屋さん」でも直接お寺に販売する場合がほとんどですが、仏具店や商社へ販売し、そこからお寺に販売されるというルートもあります。
今では比較的安価かつ簡単なASPサービスでも、小売り向きと卸売り向きのサイトを切り替えることができるオプションがあり、小売りと卸売りを1つのサイトで運営することも可能になりました。
大手企業でも、物流チャネル別にスーパーなど小売店で購入できる商品と、自社ECサイト限定販売のプレミアム商品といったように、商品を変えて販売しているところもあります。
インターネットの普及により、今まで2~3段階チャネルが当たり前だった農産物や水産物も、今では0~1段階チャネルに変化し、生産者と消費者の距離はどんどん短くなってきています。
間接流通チャネルには3つの戦略がある
直販以外の間に事業者が入る間接流通チャネルには、「開放的流通チャネル」「選択的流通チャネル」「排他的流通チャネル」の3つの戦略があります。
開放的流通チャネル
「開放的流通チャネル」とは、商品の販売先を限定せず、広範囲にわたって商品を流通させる戦略です。
販売先を一気に拡大でき、シェア拡大のスピードも早いというメリットがあります。一方、広範囲の販売先のコントロールが難しく、流通事業者同士で商品の価格競争が生じてしまい、ブランド力の低下やイメージダウンにつながる可能性が高くなります。
ブランドイメージが重要な高級品には不向きであり、薄利多売型の消耗品に向いています。
選択的流通チャネル
「選択的流通チャネル」とは、自社の商品を取り扱う流通事業者の販売力、資金力、協力度合い、競合商品の取り扱い状況などに応じて、流通チャネルを選定する戦略です。
流通業者を一定範囲に限定することで、チャネルのコントロールがしやすくなるメリットがある一方、「開放的流通チャネル」と比べてシェア拡大に時間を要するデメリットが生じます。
ブランドイメージを保ちつつシェアを拡大していくためには、販売パートナー選びが非常に需要になってきます。
排他的流通チャネル
「排他的流通チャネル」とは、特定の販売先に独占販売権を与える戦略で、一般的に代理店販売と呼ばれます。
チャネルのコントロールがしやすく、最も価格やブランドを維持できるメリットがある一方、販売コストが高くなる、価格競争がないため販売先のモチベーションが低下するデメリットがあります。
ECサイトで自社商品を販売する場合、間に事業者を挟むことは少ないと思いますが、「卒塔婆屋さん」では一部商品を卸売業者、小売業者にも販売しています。
「卒塔婆屋さん」の場合、卸売や小売、直販で販売価格を変えていません。購入数量で販売価格は変動しますが、これは販売先に関わらず平等になっています。卸売業者などからは「販売価格を下げてほしい」と頼まれることも多いですが、自社ECサイトの販売力が強くなってきたため、価格を下げてまで販売してもらう必要がないことを伝えています。
自社の状況、メリットに応じて検討する
直販はユーザーと1対1で対応するため、事務作業も増え運営の負担はありますが、それ以上に「ブランドイメージを堅持する」「価格競争を防止する」といったメリットがあります。更に、ユーザーの意見やニーズを直接汲み取り、フィードバックも素早くできるので、改善速度も上げられます。
現在では、受注から出荷までを代行する事業者も増えてきており、こういったサービスを利用すれば、販売は自社で行いつつ受注から出荷までの膨大な事務手続きは外注して、販売やユーザーとのコミュニケーションに注力することもできます。
自社で製造・販売する場合は直販がオススメ
「卒塔婆屋さん」のように、自社で製造・販売をする場合は直販がおすすめです。直販をする上で、ECサイトは営業部隊を持たない零細企業には最適です。ECサイトは24時間365日休みなく働いてくれる営業マンのような存在となります。
自社製造商品ではなく、問屋から仕入れて販売するECサイトの場合、商品の品揃えや価格では大手ECサイトには敵いません。この場合はバイヤーの目利きが勝敗を分けます。
大手ECサイトは大量に仕入れることで仕入れコストを抑え、格安で大量販売することに長けています。仕入れ量も膨大なため、中小零細企業の仕入れ価格とは比較にならないくらい安価に仕入れることが可能です。販売量も多いので、1商品あたりの仕入れから販売までのコストは低く抑えられます。
このことから大手企業のように一般の消耗品を中小零細企業で扱っても、適うことは大変難しいのです。そこで、大手企業が手を出しにくい、少量生産で付加価値の高い商品を探し当て、数量限定で販売していくといった戦略が中小零細企業には向いています。
こういった商品の販売を積み重ねていくと、お客さまに「このECサイトに行くと必ず良い商品と巡り合える」と認知されます。さらに「この瞬間に購入しないと二度と買えない」となれば、購入率も上がります。
最近では、業種を超えたセレクトショップのECサイトも増えてきており、コンセプトに合っていれば衣料品から食料品まで取り扱っているお店もあります。実店舗で言うと伊勢丹の「TOKYO解放区」、ユナイテッドアローズ、BEAMSといったセレクトショップのカテゴリーを広げたECサイト版です。
一番重要なのは「商品、ユーザーと真剣に向き合うこと」
難しい言葉が出てきましたが、私たちの目標は「どうやってお客さまに商品・サービスを知ってもらい、使っていただき、お客さまの課題を解決して喜んでいただけるか」ということに尽きます。
難しい言葉を覚えなくても、目標のために何が必要かを真剣に考えていれば、自ずとこういった戦略は立てられると思います。
最も重要なことは「商品・お客さまと真剣に向き合うこと」です。私もこういったことは後付けで学びました。実際にお客さまからの要望やデータ分析からサイト改善、トライアンドエラーを繰り返すなかで、いつの間にか「さまざまな施策はマーケティング理論に基づいていたんだ」と気付いたのです。
次回は4Pの最後となるPromotionについてお話して土台部分は終了となり、それ以降はいよいよECサイト構築編に入っていきます。
※このコンテンツはWebサイト「ネットショップ担当者フォーラム - 通販・ECの業界最新ニュースと実務に役立つ実践的な解説」で公開されている記事のフィードに含まれているものです。
オリジナル記事:商品を売るチャネルを考えよう! 自社ECサイトに最適な流通戦略を考えるポイントとは 【流通戦略検討フェーズ】 | 「卒塔婆屋さん」の「鬼塾」
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