今や当たり前となった個人向け宅配。「赤字になる」「会社をつぶすことになる」と社内から猛反発の声があがった個人向け宅配市場を切り開き、「宅急便」を全国に浸透させたのがヤマト運輸2代目社長の小倉昌男氏。
小倉氏が切り開いた個人向け宅配市場など、ヤマトグループのイノベーションの歴史などが学べる「ヤマトグループ歴史館 クロネコヤマトミュージアム」が2020年7月2日、東京都港区にオープンしました。
ヤマトグループ創業100周年を記念して設立されたミュージアムでは、創業から現在までの歴史を世の中の出来事とともにパネルやミニシアターなどを用いて展示しています。
クロネコのネコマークが誕生した秘話、ヤマトグループの歴史、お子さんも楽しめる体験コーナーなど、ミュージアムの様子をレポートします。
1910年代、創業時のトラック模型や制服、創業者の音声も聞ける
ヤマトグループ歴史館 館長の白鳥美紀氏とアテンドツアースタッフの下平氏の解説を聞きながら見学。ミュージアムは建物外周のスロープを活用したユニークな作りで、スロープを下っていくごとに見学対象となる資料などの年代が新しくなっていきます。
最初の展示は創業時(1919年)。制定された社訓や年表、創業者・小倉康臣(おぐらやすおみ)氏に関する展示が行われています。見どころは創業当初に使用していたトラックの模型と当時の制服レプリカの展示。
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当時使用していたトラックの模型。1台あたり現在の価格で750万円相当で購入したそう
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運転手専用の制服のレプリカ。当時、運転手の制服は珍しかったそうです
ヤマトグループの歴史を人々の人生に重ねたストーリー
創業時代の展示の隣には、約14メートルの大型スクリーンを設置した円形シアターがあり、ヤマトグループとある家族4世代の100年間の物語を楽しめます。
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近くの席で見ると迫力のある映像、遠くの席で見ると全体を見られる設計です。上映の合間には開始までの時刻とネコたちの映像が流れていました
1920年代、大和便と事業多角化の時代
シアターを抜けると、1920年代から1960年代までの資料などが展示されています。ヤマトグループがさまざまな事業に取り組んだ時代。日本初となる定期便の内容、ネコマークが生まれた背景について学べます。
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1920年~1940年代についての展示箇所。日本初の定期便は1929年に東京~横浜間をスタートし、1935年に関東一円にネットワークを拡大しました
実はヤマトグループは3つの日本初を実施しています。それがトラックを使った運送会社、定期便、宅急便です。創業者も2代目の小倉昌男(おぐらまさお)もイノベーターとして新しい事業を創造するチャレンジ精神の持ち主で、今もその精神が受け継がれています。(ヤマトグループ歴史館 館長 白鳥氏)
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定期便について書かれたパンフレットやチラシ。対象となるお客さまが今とは違いますが、この時代から電話をかけたら荷物を集荷してもらえる仕組みがあったそう
定期便だけではなく、引っ越しや美術品の輸送業務も行っていました。
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マッカーサー元帥の引っ越しを行ったのもヤマトグループ
有名なネコマークの原画が見られる!
歩みを進めると、有名なネコマークが誕生した経緯やネコマークに込められた思いを知ることができます。
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誕生のきっかけになったアメリカのアライド・ヴァン・ラインズ社のネコマーク。小倉康臣氏が訪米した時にマークに込められた思いに共感、「マークを利用したい」とお願いし、日本ではヤマト運輸のみ使用許可をもらっているそう
親猫が子猫をくわえているマークには、「親猫が子猫を優しくくわえて運ぶように、お客様の荷物を丁寧に扱う」という思いが込められています。(アテンドツアースタッフ 下平氏)
貴重な絵の原画も展示されています。当時の広報担当者のお子さんが書いた絵がヒントになっているとのこと。
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ずっと右の絵が原画だとされてきましたが、2016年によりマークに近い左の絵が発見されました(左の絵はレプリカ)
絵を描いたご本人にお話をうかがいましたが、幼い頃だったので覚えていらっしゃらないとのこと。ただ「当時、黒猫と白猫を飼っていたのでその猫たちを書いたのかもしれない」と仰っていました。(白鳥氏)
1970年代、経営危機からの脱出
1970年代以降の展示では、2代目社長の小倉昌男氏が宅急便を開発した経緯や浸透までの軌跡、小倉昌男氏に関する資料などが展示されています。
高度経済成長期だった1960年代は、多くの運送会社が長距離輸送サービスを始めていた中、時代に乗り遅れたヤマトグループが経営危機に陥った時代です。
この時代が一番、危機に陥った時代で、100年間ずっと業績が伸びていたわけではなかったんです。(白鳥氏)
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両壁に1960年代に起きた主な出来事を、象徴的な内容がフロアに展示されています。これは「時代からこぼれ落ちたヤマトグループ」をイメージしているそう。
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2代目社長の小倉昌男氏が経営を立て直すために参考にした企業のアイテムを展示。アイテムの下に生えている多くの芽は「宅急便の芽」を表しているそう
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小倉昌男氏は宅急便を始めるために奔走しましたが、保守的な会社だったため役員から猛反対を受けたそう。飛び出た文字は猛反対を受けたイメージを表しています
個人間の荷物輸送を便利にした「宅急便」スタート
宅急便を開始した後の展示スペースでは、当時の宅急便のCMや取扱店の看板を展示しています。
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当時流れていた宅急便のCMと懐かしの黒電話
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当時、宅急便取扱店に設置されていた看板。今でも取扱店をしているお店から寄贈されたとのこと
消費者の要望から生まれたサービス
今も活躍する「クール宅急便」や「スキー宅急便」などの展示もあります。
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「スキー宅急便」サービス開始時の様子や梱包について展示しています
「お客さまの立場に立つ」という経営理念をきちんと反映した結果、いろいろな商品やサービスが生まれています。そのおかげで取扱量も右肩上がりにどんどん増えていきました。(白鳥氏)
宅急便を開発した小倉昌男氏とはどんな人物なのか?
宅急便を開発した2代目社長の小倉昌男氏の著書などから抜粋した主要な発言を、テーマごとに展示。貴重な当時の講演の映像を見ることもできます。
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パネルには小倉昌男氏の主要な発言が表示されています。写真に写っているパネルとは別に、講演の内容を聞けるモニター展示があります
来場者に人気の宅急便体験コーナー
ミュージアム内で人気の体験コーナー。セールスドライバーの制服を着て撮影したり、配送に使用されている実物のウォークスルー車の内部を見学できたりします。
写真撮影はこの宅急便体験コーナーのみ可能です。
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歴代のセールスドライバー制服も展示されています。子ども用の制服も用意されており、写真撮影OK!
ウォークスルー車のフロントガラスは視界を広くするために大きく。運転席側(右側)から降りると走行中の車と接触する可能性があるため、左側のスペースを広くして安全に降車しやすい設計になっています。
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ナンバープレートは「96-25(クロネコ)」。ウォークスルー車の生産自体は終了してしまっているそう
そのほか、宅急便の「積みつけ体験コーナー」では、実際の2分の1サイズのボックスに、上手に荷物を積めるかチャレンジできます(残念ながら2020年8月時点では新型コロナウイルスの影響で中止になっています)。
未来へのチャレンジ
最後の展示スペースは2000年代以降の歴史や未来へ向けたヤマトグループの取り組みについて知ることができます。
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社章にもなっている桜の木をモチーフとしたオブジェに、2000年代に取り組んだ施策を「実」と表現して展示。ここにもアイデアの芽が生えています
アテンドツアースタッフいちおしの「未来創造ラウンジ」
展示が終わると、来館者が「コメントシート」を書ける「未来創造ラウンジ」があります。ラウンジの壁面には、未来の街を創造したイラストが描かれています。
イラストには「これからもお客様と一緒に歩んで未来の街を創造したい」という気持ちが込められているそう。「コメントシート」には「こんな未来があったら良い」と思う内容を書き、壁面に貼り付けられるようになっています。
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貼る場所がないほどたくさんのコメントシート。アテンドツアースタッフの下平氏はこの壁面を見るのが本当に好きなようで、とびきりの笑顔で説明してくれました
新型コロナウイルス感染拡大防止対策を徹底
クロネコヤマトミュージアムでは、博物館協会のガイドラインに従い新型コロナウイルス感染拡大防止策を講じています。
来館者向けにお願いしている内容や、ミュージアムスタッフが行っている主な対策は以下の通りです。
<来館者>
- 受付時に非接触型体温計を用いた検温と手指の消毒、マスク着用
- 受付時に氏名、連絡先の記入
- 館内の混雑状況により、入館時間の制限を行う場合がある
- 団体やアテンドツアーの案内人数を1グループ10名以下に制限
<ミュージアムスタッフ>
- 体温測定の義務化。体調のすぐれないスタッフは出勤停止
- マスクの着用、こまめな手洗い、うがい、消毒の実施
- 日常清掃、衛生対策を強化して、展示や手すりなど人の来館者が触れる箇所の消毒・除菌作業
- 館内の換気システムによる、常時換気の徹底
◇◇◇
貴重な創業者の肉声やミニシアターや展示など、100年という長い年月に起こったヤマトグループの歴史をじっくりと知ることができる大変興味深い施設です。展示方法もただパネルなどが展示されているだけではなく、文字をオブジェ化するなどユニークで視覚的にもとても楽しめる内容になっていました。
ヤマトグループの歴史に沿って時代の流れや出来事も記載されているので、物流を身近に感じられるかもしれません。
次回は「クロネコヤマトミュージアム」館長の白鳥氏が語る、設立の経緯やミュージアムに込められた思いについてお届けします。
ヤマトグループ歴史館 クロネコヤマトミュージアム
- 開館時間:10:00~17:00(入館は16:30まで)
- 休館日:月曜日・年末年始 ※月曜日が祝日の場合は開館、翌営業日を休館。臨時休館日などあり
- 所在地:〒108-0075 東京都港区港南2丁目13-26 ヤマト港南ビル6F
- 電話番号:03-6756-7222
※入館無料で予約なしの自由見学。アテンドツアーを希望の場合や10名以上で来館の場合は事前予約が必要
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オリジナル記事:「赤字になる」「役員全員が反対」――宅急便を生んだイノベーションなどが学べる「クロネコヤマトミュージアム」探訪記 | 物流女子の旅
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