カレー作って焚火囲んでお酒を飲みながら話す焚火に集う宿泊型ミーティング施設「TAKIVIVA(タキビバ)」って何!?
二村: 四谷さん! おもしろいニュースリリースを見つけたんですけど、取材に行っていいですか? 仕事仲間と焚き火や自炊したり、仕事ができたりする研修施設らしいんです。
四谷: 「焚き火を囲む、新しい宿泊型ミーティング施設 北軽井沢 『TAKIVIVA(タキビバ)』」…? 二村さん好きそうね(笑)。コラムとかレポート記事にするなら行ってきていいよー。
二村: じゃ、早速行ってきます!!
というやり取りがあり、早速「TAKIVIVA」を運営している有限会社きたもっくの土屋氏にコンタクトをとり、取材を申し込んだ。コロナウイルスの影響により、取材をお願いしてから半年以上が経過してしまったが、7月末に念願叶ったのでレポートする。
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「TAKIVIVA」運営会社へのインタビュー
ホールからモダンな北欧テイストのおしゃれな空間が広がる施設
折角なので編集部の名久井と、キャンプ好きな知り合いも数名誘って体験してもらうことにし、7月某日軽井沢に向かった。
現地に到着すると目に入ったのは大きなコンクリート打ちっぱなしのおしゃれな建物と広大な広場のような場所。
室内に入ると広々としたホールがあり、薪ストーブも設置されている。
建物内に入った途端に香る木の匂いとおしゃれさに圧倒される。スタッフの方々に挨拶を済ませ、荷物を部屋に置いたら早速体験スタートだ。
実際にご飯作ったり、火起こしをしたりしてみた
今回は実際に「TAKIVIVA」に宿泊し、協働作業のプログラムを体験してみた。ちなみに取材に同行して協力していただいたのは秋山大志氏、小畑陽一氏、本田浩一氏の3名だ。協働作業により仲良くなる、他者を理解することが目的と伺っていたので、リアルでお会いしたことが少ない方(だいたい2回目くらい)をお誘いした。
まずはスタッフさんから説明を受け、じゃんけんで以下のように夕食づくりの班と火起こし班にわかれた。
- 夕食づくり班:秋山氏、小畑氏、編集部 名久井
- 火起こし班:本田氏、編集部 二村
火起こし班のミッションは「焚き火空間を作る」
まず火起こし班のミッションは「焚火空間を作ること」! 映える空間を目指して作業する。具体的な作業は以下だ。
- 火起こし
- お湯を湧かす
- ランタンをセットする
ここからは写真付きでテンポ良くお送りする。まずは薪ラックから薪を取ってきて、火起こしだ。
火起こしが済んだら、お湯を沸かすためにトライポッドを立てる。
続いてランタンを吊すためのポールを打ち込む。
初めてガソリンランタンを使うので、スタッフさんにレクチャーしていただく。
ここで痛恨のミスなのだが、あまりにもガスランタンのポンピング作業(中の空気を加圧して燃料を送り込む作業)が辛くて動画と写真を撮り忘れた。
これで焚き火空間は完成だ! 仕事量が思ったより早く終わった火起こし班。「やることが終わったら、他の班の手伝いをしましょう!」とスタッフさんに促され、続いて夕食づくり班の手伝いへ。
夕食づくり班のミッションは「美味しいご飯を作る」
夕食づくり班の3名はピクルス、チキンカレーを作るのがミッションだ。「一から作ったら大変なんじゃない?」と思っても大丈夫! スタッフの方がチキンに下味をつけてくれたり、お米を炊くのを手伝ってくれたり、とめちゃくちゃサポートしてくれる。
手伝うと言いつつ、取材を兼ねているためほぼ写真と動画撮影をしていたが、他4名の方々とサポートしてくれるスタッフさんの手によってみるみるカレーが出来上がっていく。
食材の持ち込みも可能で、近くのスーパーで買ったマッシュルームやバケットも焼いて食べながら焚き火を囲み、お互いの作業がどうだったかなど話しながら、お酒を嗜む。
体験してみると、火起こしや調理を通して自然と会話が発生し、ほぼ初対面の方もいることを忘れてしまう。協働作業を通してコミュニケーションをとり、緊張感が解れた頃には日が暮れて食事が出来上がる。その後は焚火を囲みながらカレーを食べて話をしていると、食事会をしたり、飲み会をしたりするより話しやすい。軽い近況報告から学生のころの話、最近の仕事の話、趣味の話など、ポンポンと会話が弾んでいた。
会社の仲間やプロジェクトのメンバーに限らず、クライアントや取引相手、外部の仕事仲間と一緒にプログラムを体験してみると、新たなアイデアや仕事に繋がるような話ができるかもしれない。実際に、「TAKIVIVA」では社内のメンバーでの研修に限らず、外部のビジネスパートナーや取引相手、顧客を交えてプログラムを体験することもできるそうだ。
なぜこのような研修施設ができたのだろうか? 気になったので、「TAKIVIVA」を運営している「きたもっく」の土屋氏に会社の概要と施設ができた経緯について聞いてみた。
循環型産業で地域の未来創りを目指す「きたもっく」
きたもっくは240Ha(およそ東京ドーム50個分)の山を所有し、林業や養蜂、薪づくり、キャンプ場や企業研修施設の運営を行っている会社だ。浅間北麓地域の未来を地域“循環”型産業を通じて創りだし、ひとつのあるべき社会モデルの実践/提示を行っていくことをビジョンに掲げたビジネスモデルを展開し、2021年にはグッドデザイン賞で金賞(経済産業大臣賞)を受賞している。
さまざまな事業を展開しているきたもっくだが、創業は30年程前に開業したキャンプ場「北軽井沢スウィートグラス」が最初の事業だそうだ。
元々は東京で事業を行っていた創業者が、地元に戻って仕事をしようとしたときにあったのは3万坪の荒涼とした大地だけでした。『自然の厳しくも豊かなパワーを多くの人に体感してもらいたい』という創業者の想いから事業が始まりましたが、まずは居心地の良い場所を創るために木を植えるところから始めました(土屋氏)
木を植えるところから始めたキャンプ場は、四半世紀かけて年間10万人が来る場所になったそうだが、なぜ林業や養蜂、企業研修施設の運営へと事業展開していったのだろうか。その根底には、フィンランド語で「ルオム(Luom)」、日本語で「自然に従う生き方」という価値観があるという。
自然と人との関係性がこの100年でいびつになっていると感じています。この北軽井沢にある浅間山は700年に一度大きな噴火を続けている活火山ですが、コンクリートの巨大な壁を作ったところで、噴火に抗うことはできません。人も自然の一部であるという当たり前のことを戒めとし、『自然に従う』という強い表現の言葉を大事にしています。そして、すべての事業は自然と人のあるべき関係性を基盤に考えて展開しています(土屋氏)
「自然に従う」価値観を元に事業を展開した結果、3次産業から1次、2次産業へと流れて行ったというが、まず手をつけたのはやはりキャンプ場からだった。
スタッフ雇用のため始めたキャンプ場の通年営業から、薪事業へ発展、林業、養蜂も展開し6次産業化モデルへ
5棟の手作りキャビンから始まったキャンプ場だが、北軽井沢の冬はマイナス20度になるので、最初は春から秋にかけての半年営業だった。しかし、事業の拡大には社員の通年雇用が必須と考えた結果、通年営業に踏み切った。そこで、冬も営業するため、当時20数棟に増えていた全てのキャビンに薪ストーブを設置した。現在52棟になっているコテージやキャビンも全て自分たちで作っているそうだが、当然薪ストーブも地力で設置したそうだが、その結果、良かったことが2点あったという。
- 薪ストーブを設置するノウハウも蓄積された
- 「火のある暮らしは豊かだ」と再発見した
さらに、薪ストーブ設置の知見を活かし、周辺地域の方々への薪ストーブ施工販売業「ASAMA STOVE」をスタート。その後、良質な薪の必要性を痛感し、広葉樹を上手く乾燥させるための技術を開発し、薪製造に着手した。山主から山を借り、伐採からはじまる薪製造事業をはじめたが、ある日山主から「そんなに山が好きなら自分たちの山を持ってみるか?」と言われ、山を取得する機会を得て林業を始めた。現在では60〜100年先をバックキャスティングしながら自伐林業を行い、木材のカスケード利用をとことん追求しているという。
林業を始めましたが、この事業は木が育つ60~100年のサイクルになってしまいます。単年度である程度収益を出さないとサスティナブルな事業にならないので、新たな森の価値化を考え『ミツバチと一緒に働こう』と決めました。5年前に1箱の巣箱から始めて今は150箱になり、年間3トン程の蜂蜜が収穫できるようになりました(土屋氏)
キャンプ場という3次産業から始め、2次産業、1次産業と拡がり、1次産業で生み出した地域資源の50%を自社で価値化することで自律・持続的な6次的な地域産業が形成された。このビジネスモデルがデザインとして評価されてグッドデザイン賞も受賞したという。
地域の未来を豊かにするためには『地域産業インフラの構築』と『コミュニティの再生(場づくり)』の二軸が必要不可欠だと考えています。弊社では様々な事業を展開していますが、どの事業もこの二軸に位置づけ、意味づけを行って事業展開を図っています(土屋氏)
「TAKIVIVA」の狙いは他者理解と内省
宿泊型ミーティング施設「TAKIVIVA」を創設したきっかけは、5年ほど前に行った「自社のキャンプ場がなぜ人気なのか」という社内対話が元だそうだ。この対話では、「家族が一緒にテントを建てたり、火をおこしたり、料理をすることを通じて、家族の関係を再生するような場を提供してきたことが評価された」という結論に行きついた。
ちょうど、1次産業を支える収益を作るためにもBtoB事業を始めようと思っていたところだったので、キャンプ場で培ってきた「場づくり」のチカラを武器に「企業をはじめとした“目的をもった集団”の活力を再生するための場づくり」として「TAKIVIVA」の事業構想がうまれたという。
コロナ禍になり、企業はミッションやビジョン、パーパスをオンラインでどう共有するのかという課題を感じているのではないかと思います。事業を展開するには仲間と信頼関係をいかに作っていくかがとても大事です。その信頼関係は言い換えれば、『本音で話せる関係性』ですが、会議でいきなり『本音で話そう』と言われても無理ですよね。そこで、火を中心に食と協働作業を通じて、まず本音で話そうと思える環境を創り出そうと考えました(土屋氏)
「TAKIVIVA」は大きくわけて以下3つのスペースにわかれている。
- 炊火食房…仲間と一緒に地産の食材を使って炊事を行い、他者を感じる場所
- 炎舞台&火野間…焚火を囲みながら話し、他者理解をすすめる場所
- シェルター…静かな室内で1人の時間をとり、相互理解を深めつつ内省する場所
以上のように、それぞれの場所にコンセプトと目的がある。施設を訪れ、ディスカッションしたあと、調理の共同作業によって仲間の存在を再認識してもらい、さらに、火を囲みながらお酒を飲むことによって他者理解を進めるのが狙いだ。
他者理解には、同じ方向を見ることが大事です。焚き火はみんなが囲んでいても視線は中央の火に集まっていきます。その環境で話をすることで理解を深められます。そして、みんなで話したあとは、自分一人で咀嚼して腹落ちさせる時間が大事だと考えています。不透明な時代に相互信頼を築き、互いを尊重して認め合う関係性が不可欠ですが、『作ろう』と言って作れるものではないので、自然と相互信頼ができるような関係性を作れる“場”を提供したいと思っています(土屋氏)
いつか編集部で利用したり、オフ会で利用してみたりしたいと夢が膨らむ取材だった。
――取材にご協力いただきました、有限会社きたもっく様、秋山大志様、小畑陽一様、本田浩一様、ありがとうございました。
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