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ノーミーツ主宰・広屋佑規インタビュー コロナ禍の「流行」をコロナ後もさらに成長させるリブランディングのポイント

Zoomを舞台に見立てた作品で旗揚げした「劇団ノーミーツ」。2021年10月に、「劇団」から「ストーリーレーベル」にリブランディングした背景などを聞いた。

1回目の緊急事態宣言が発令された2020年4月に旗揚げした「劇団ノーミーツ」。Zoomを舞台に見立てて行った1作目の有料公演は約5,000人の視聴者を獲得するなど、コロナ禍に起きたちょっとした社会現象としてメディアの注目を集めました。

しかし、コロナも近い将来、収束しそうな気配です。そのとき「劇団ノーミーツ」はどうするのかと思っていたら、昨年(2021年)10月、「劇団」の冠を外して、新たに「ストーリーレーベル ノーミーツ」としてリブランディング、今年に入ってからも活躍が続いています。

なぜノーミーツは注目され、活躍を続けられるのでしょうか。今回は若きクリエイティブ集団、ストーリーレーベル ノーミーツ主宰の広屋佑規さんに話を聞きました。

(文:椎原 よしき、取材・構成:Marketing Native編集部・早川 巧、撮影:矢島 宏樹)

旗揚げ2年目にしてリブランディングに至った背景

――コロナ禍に話題になったオンラインサービスの中には、「コロナが収束したらどうするのだろう」と心配になるプロダクトがありました。「劇団ノーミーツ」もそのひとつだったのですが、「劇団」の冠を外して、新たに「ストーリーレーベル ノーミーツ」にリブランディングしたとのこと。興味深さの一方で、オフラインでもこれまでのように独自のポジションを築いて輝き続けられるのだろうかと気になっています。いつ頃から、どんなきっかけでリブランディングを考えていたのですか。

最初にリブランディングが頭に浮かんだのは昨年(2021年)2月くらいです。「劇団ノーミーツ」を旗揚げしたのは2020年4月。その時点では正直、「まだ1年も経っていないのにリブランディングか」と思うところはありました。ただ、コロナはいつか収束するでしょうし、もちろん早く終わってほしい。そうなったときに劇団ノーミーツの存在意義や「会わずに作る」ことの価値をどう定義すべきかという考えは常に頭の中にあり、僕たちの中で自然と議論が始まりました。

――どんなことを話し合ったのですか。

それまで面白がっていただいた「会わずに作る」「リモート演劇」という形態が、どこまで広がりや継続性を持ち得るのかという点から話を始めました。僕たちはコロナ禍に「NO密で濃密なひとときを」というキャッチーなコンセプトと、Zoomを舞台に見立てたリモート演劇の形態を打ち出した結果、幸い広く話題になりました。このリモート演劇の形態が演劇界に拡散して他の劇団の人たちにも影響を与え、発展性を持ちながら広がりを見せればいいなと期待していたのですが、実際はほとんど追随されませんでした。

それには大きく2つ理由があると考えています。1つは「劇団」ではありますが、チームメンバーには演劇畑の人間は少なく、映像などエンタメ業界所属の20代やエンジニアを中心にしたテック系に強い人たちが集まっていることです。「そういうチーム構成だからリモート演劇にすぐ取り組めたのであって、ほかの劇団が真似をするにはハードルが高い」という声はよく聞きました。

もう1つは、やはり演劇は舞台、劇場で芝居をするものだと捉えている人が多いことです。リモート演劇はPC画面の前で芝居をします。しかし、役者はPCの前で芝居をしたくて稽古を積んできたわけではありません。演出家も舞台で最高に栄える演出を考えています。コロナで世の中がもっと緊迫していた当時は劇場で芝居ができなかったため、役者や演出家をリモート演劇に巻き込めましたが、その人たちもコロナが落ち着いたら舞台に戻りたいわけです。

「会わずに作る」ことを面白がれるのは劇団ノーミーツ特有の事情が大きくて、アフターコロナになったときにリモート演劇はカルチャーとして残らないのではないか。「劇団ノーミーツ!?そういえばコロナ時代にそんな劇団あったね」で終わってしまうのではないかとの危機感が早い段階から持ち上がり、「コロナ収束に合わせて潔く解散すべきではないか」という選択肢も含めて議論を重ねました。

コロナ禍で浴びた脚光と、演劇界の冷めた反応

――称賛の言葉しか見えていなかったのですが、演劇界ではアウトサイダー的な扱いだったのですか。

そうだったかもしれません。特に初期は「PCの前で話しているだけなんて芝居ではない」「演劇とは認められない」などの声が聞こえてくることもありました。

でも僕たちは、コロナ禍に自分たちでできることを模索して、旗揚げ1カ月後から短編の作品を発表し続け、幸いSNSなどでかなり話題にしていただくことができました。さらに、リモート演劇の取り組みに持続性を持たせるため、長編のリモート演劇を有料販売にしたところ、まだ旗揚げ2カ月目なのに約5,000人の方に購入いただくこともできました。ところが、それを面白く思わない人もいるわけです。特に長編3作目の『それでも笑えれば』の脚本が「演劇界の芥川賞」といわれる岸田國士戯曲賞の最終選考にノミネートされたときは、「さすがにそれはおかしいだろう」という拒否反応のような声も上がりました。

――議論の中で「『会わずに作るリモート演劇』が価値として注目された劇団なのだから、コロナ収束後もそのスタイルを続けるべきだ」という意見はありましたか。

ほとんどなかったですね。みんな「リモート演劇だけを続けていても発展性がない」と薄々感じていて、異なるアプローチが必要だという点は共通認識として持っていました。だから『それでも笑えれば』の最後に、僕たちが大切にしていた「会わずに作る」の壁を取り払うべく、初めて役者たちが実際に会うシーンを組み込んだのです。それは「劇団ノーミーツは『会わずに作る』からスタートしたけど、これからは会って芝居を届けることにも挑戦していきます」という僕たちなりのメッセージでもありました。

一方、オンライン配信については別に捉えていました。アフターコロナになり、「会わずに作る」はなくなったとしても、オンラインで芝居を配信して観賞してもらう形式は、残ったほうがいいと思ったのです。

僕はもともとリアルのライブエンタメや興行を作っていたリアル畑の人間なのですが、コロナ前までは「場」のキャパシティに上限のあることが演劇界やライブエンタメ業界にとっての課題であり、宿命だと感じていました。それがコロナによって幸か不幸か、オンライン上でライブで視聴できることがわかりました。もちろん、できることなら劇場で作品を見るのが一番楽しいと今も思いますが、一方でオンラインが切り開いた可能性も大きくて、キャパシティの概念を取り払うことができたのはオンラインの功績だと思います。良い作品ができて、良い評価・口コミが広がればいくらでも見ていただけるオンラインのシステムは、ビジネスモデルとして優れています。だから「会わずに作る」はなくしてもいいけど、オンライン上で観劇、観賞する体験は残ったほうが広がりがあると感じました。

そうした考えを基に昨年2月、サンリオピューロランドさんとコラボレーションして『VIVA LA VALENTINE』という公演を行いました。閉館後のサンリオピューロランドを舞台に、人間の演者とキティちゃんやダニエルくんらのキャラクターたちが演じる芝居で、リアルの場所でありながらお客さまを呼ばず、ワンカットのオンライン生配信で演劇を届ける方式にしました。これが一般の方だけでなく、演劇界でも好意的に受け止められたのです。リモート演劇では難しかったけど、役者がPCの前ではなく、オフラインの場所でフィジカルを使って芝居を行い、しかも生配信されて演劇性もあるのであれば、「面白いし一緒に組めそう」という感想を初めて業界内から頂きました。

「会わずに作る」のコンセプトから卒業できると考えたのは、『VIVA LA VALENTINE』で手応えを感じたことも大きかったと思います。

「ストーリーレーベル」として定義し直した自分たちの価値と可能性

――「劇団」を外して、新たに「ストーリーレーベル」という冠をつけました。検索しても見つからなかったので、「ストーリーレーベル」という言葉は広屋さんたちの造語だと思いますが、どんな思いを込めているのでしょうか。

「会わずに作る」というコンセプトを外したときに、自分たちに何が残るのかと議論する中で、出てきたキーワードの1つが「物語」でした。僕たちが大切にしてきたのはあくまで作品作りであり、「今、どんな物語を届けるべきか」を徹底的に考え、追求してきたからだと思います。

また、ノーミーツが一定の評価を頂けた理由の中には、ノーミーツ自体の物語性もあったのではないかと考えています。もともと「三密」なリアルイベントが大好きで、たくさん作ってきた僕が、コロナで仕事ができなくなりました。ただ、その状況で自粛するだけでなく、何かできないかと考え、思いついたのがZoomを使って芝居をすることです。そのアイデアを持って一緒に主宰している林健太郎に声をかけたところからノーミーツは始まり、リモート演劇を作って、さらにはお金を稼げる有料公演を実現するなど、スピード感を持ってインディペンデントな挑戦を続けてきました。そんなノーミーツの取り組み全体がストーリーとして評価されている部分もあると思い、「物語」を基軸にしていこうと決断しました。

――「劇団」という冠まで外したのはなぜですか。

ノーミーツの取り組みや強みを活かせば、もっと幅広いエンターテインメントジャンルで作品作りに貢献できると思うからです。「劇団」と付いていると、どうしても演劇だけに限定されたイメージが強くなりますし、実際ノーミーツに対して、初期のZoom演劇の印象を持っている人は今も多いのではないかと思います。「劇団なのに会わずに作るノーミーツ」というコンセプトはキャッチーで、だからこそ伝わったところも大いにあったと思いますが、これから先を見据えると「劇団」を思い切って取り払い、ストーリー作成を軸にしたクリエイティブ集団であると示すほうが良いと考えました。また、「ノーミーツ」も「会わずに作る」ではなく、「まだ見ぬ新しい物語を作るチーム」と言葉の定義を捉え直して、「ストーリーレーベル ノーミーツ」としてリブランディングしたのです。

――「劇団」や「会わずに作る」の冠をなくした結果、普通のクリエイティブ会社になり、他社と差別化できずに埋没してしまうという懸念はなかったですか。

それは正直、今もあります。でも、「ストーリーレーベル」は今までにない冠ですし、その新しさ自体が差別化要素になるのではないかと思います。これまでの演劇縛りから挑戦できる範囲も、方向も大きく広がりますし、あとは作品勝負です。リブランディングして正解だったかどうかは、自分たちがこれから世に送り出していくアウトプットで評価されると思います。

――その作品ですが、オールナイトニッポン55周年記念公演『あの夜を覚えてる』などの話題作のほか、ストーリーゲームレーベル「POLARIS」(ポラリス)を立ち上げて、マーダーミステリー『RED LINE』のリリースと好調さが続いているようです。こうした作品作りとリモート演劇で何か違いは感じますか。

作品作りという点で、違いはないですね。ノーミーツが制作を担当するオールナイトニッポンさんの55周年記念公演についても、これまでの積み重ねの上に築き上げていくイメージです。

もともと僕たちは企画の出発点で、市場調査やアンケート調査を取ることは基本的にしておらず、チームの各メンバーが、今自分は何が好きで、何を見たいか、どんなことを課題に感じているのかなど、パーソナルな興味関心を基に作品作りをしています。誰かの後ろ盾があるわけでもなければ、どこかの資本が入っているわけでもないインディペンデントな組織ですから、個人の純粋な思いから良いと思うものを無邪気に、一生懸命提案してきただけです。

『RED LINE』を作りたかったのも、あるメンバーがマーダーミステリーにハマっていたことがきっかけです。自分もプレイしてみましたが、確かに面白い。物語への没入体験が新しくて、プレイヤー同士が1つの物語に向けてコミュニケーションを取りながらゲームを進めていくから、それまで知り合いでなかった人たちがゲーム終了後には仲良くなっているのです。その感覚が面白い映画を見た後の充実感に似ていると思い、これはコロナ後にこそ必要なものではないかと考えました。ずっと会えなかった人たちが、コロナ後に自由に会えるようになったとき、会うことをより楽しめて、より盛り上げてくれるゲームという文脈であれば、ノーミーツが新たにゲーム作りに参入することに納得感があると自分自身、感じたことが「POLARIS」立ち上げにつながりました。

――ノーミーツは知名度が高いのでいろいろな企業から「コラボしませんか」とお誘いがあると思うのですが、仕事の受発注はどんなふうに行っているのですか。

確かにご提案を頂くことはあります。でも、単純な受発注の受け仕事を増やすことには少し抵抗があって、相手がクライアント様だとしても、物語を軸として互いに作りたいことをぶつけ合える関係性を築けるかどうかに判断の基準を置いています。そういう企業とのコラボレーションのほうが過去のプロジェクトもうまくいきました。現在はノーミーツの作品作りを面白がってくださるパートナーやクライアント様と仕事をする機会が多いのですが、今後は企業の課題とノーミーツが作りたいもの、作りたい方法がうまくマッチしそうだと感じたら、僕たちから積極的にご提案して巻き込んでいきたいと考えています。

ノーミーツが立ち上げたストーリーゲームレーベル「POLARIS」のマーダーミステリー『RED LINE』

今だからわかるノーミーツ成功の2つの理由と世界への挑戦

――ここであらためてノーミーツが成功したポイントについて、今だから感じることを教えてください。コロナ禍で苦境に陥った劇団が多い中、ノーミーツはコンセプトを変えることで異例の成功を収めました。何が良かったと思いますか。

2つあります。1つは「なぜ今、リモート演劇が必要なのか」「なぜノーミーツはリモート演劇をするのか」など明確に打ち出した僕たちのコンセプトやスタンスが、緊張した社会状況の中で世間の人たちに興味を持って受け入れられたことです。

もう1つはスピードです。2020年4月5日、いよいよ最初の緊急事態宣言が発令されそうだというタイミングで林健太郎に一緒に新しい劇団をやろうと声をかけ、コンセプトから考え始めました。2日後の4月7日に実際に緊急事態宣言が発令されましたが、さらにその2日後の4月9日には劇団の旗揚げを発表しています。初めての緊急事態宣言が発令されて、世間では「ついに緊急事態宣言か。これから世の中はどうなるんだ?」「自分たちは何をすればいいんだ?」と迷いや不安に襲われたわずか2日後にコロナ禍真っただ中でも楽しめる劇団の旗揚げを発表できたことから、「なるほど、そういう打ち手があるのか」と興味を持ってもらえたのだと思います。その後、素晴らしいクリエイターたちがノーミーツに集まってくれたのも、スピードへの共感が背景の1つにあったようです。

旗揚げしたときは、まさかこんなに社会に受け入れられるとも、会社組織にするとも思っていなかったし、ニッポン放送さんと組んでプロジェクトを手掛けるなんて想像もしていませんでした。そんな僕たちが世間に受け入れていただけたのは、細かいことは走りながら考えるスタンスでスピード感を重視してきた点が大きかったと思います。

――最後に、会社としてのノーミーツの方向性や今後の事業展開に関する構想を経営者の立場から教えてください。

ストーリーレーベルとして物語を軸に展開すると決めた以上、演劇に限らず、さまざまな領域で物語を作って届けていきたいと考えています。1つは「POLARIS」で、ストーリーゲームを作って、今までにない物語体験をゲームとして届けていきたいです。また、チームには映像出身のクリエイターも多いので、ドラマや映画にも挑戦していきたいですね。

さらに、物語を届ける先は国内にとどまらず、世界を視野に入れています。国内で閉じていると縮小していくパイの奪い合いになって、プラスのサイクルがなかなか回らないと感じます。一方、例えば韓国のエンタメを僕自身も単純に面白いと思って見る機会が増えましたし、アジア圏のほかの国や地域でもエンターテインメントの作品作りが盛り上がっている状況を見ると、自分も微力ながら日本のエンターテインメントを少しでも盛り上げて、世界に届ける当事者の1人であるという自覚を持つべきではないかと思い始めています。

オンライン演劇でも、世界の人たちとリモートでつないで芝居をしてもいいかもしれないですし、マーダーミステリーも今は日本で作っていますが、まず本場の中国で展開して中国の人たちに楽しんでもらい、それから日本に逆輸入する形があってもいいと思います。

世界に向けて発信できると挑戦の幅が大きく広がるので面白い展開が仕掛けやすいですし、そのとき物語に軸を置いていると、物語をIPと捉えたスピーディな2次展開も可能だと思っています。物語は、良い作品さえ作れれば言語の壁を超えて普遍的に届けられます。そこに挑戦できるチームにしていきたいと思います。

――本日はありがとうございました。

Profile
広屋 佑規(ひろや・ゆうき)
ストーリーレーベル ノーミーツ主宰。株式会社Meets代表。
1991年生まれ。2020年4月の1度目の緊急事態宣言下においてリモート演劇を主軸に活動する「劇団ノーミーツ」を旗揚げ。3作の長編公演でリモート視聴した観客数が累計28,000人を突破。ほかにサンリオピューロランドやHKT48とのコラボ公演なども実現。
2021年10月、劇団ノーミーツから「まだ出会ったことのない、新しい物語を生み出す」をコンセプトにした「ストーリーレーベル ノーミーツ」にリブランディング。
ACCクリエイティブイノベーション部門「ゴールド賞」受賞、文化庁メディア芸術祭エンターテインメント部門「優秀賞」、AMDアワード年間コンテンツ賞「優秀賞」受賞。
ニッポン放送とコラボしたオールナイトニッポン55周年記念公演『あの夜を覚えてる』が2022年3月20日から3月27日までニッポン放送から生配信。

「Marketing Native (CINC)」掲載のオリジナル版はこちらノーミーツ主宰・広屋佑規インタビュー コロナ禍の「流行」をコロナ後もさらに成長させるリブランディングのポイント

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