Web広告研究会セミナーレポート

iPhoneは視覚障害者にも使いやすい!? 当事者が語るバリアフリーとユニバーサルデザイン【WAB月例セミナーレポート】

視覚障害者が感じる3つの不便とその対策とは? バリアフリーとユニバーサルデザインの決定的な違いとは? アクセシビリティの根底となるポイントを解説。
Web広告研究会セミナーレポート

この記事は、公益社団法人 日本アドバタイザーズ協会 Web広告研究会が開催およびレポートしたセミナー記事を、クリエイティブ・コモンズライセンスのもと一部編集して転載したものです。オリジナルの記事はWeb広告研究会のサイトでご覧ください。

iPhoneやセブン銀行のATMが、日本に30万人いるという視覚障害者にとって「アクセシブル」なのは、なぜなのか? 視覚障害者が感じる3つの不便とその対策とは? バリアフリーとユニバーサルデザインの決定的な違いとは? アクセシビリティの根底となるポイントを解説。

公益社団法人日本アドバタイザーズ協会Web広告研究会(以下、Web広告研究会)は7月23日に月例セミナーを開催。「誰のためのUX? ~アクセシビリティを再確認しよう~」というテーマのもと、第1部の基調講演では、自らの全盲の体験を踏まえて東京大学の大河内氏が登壇し、「視覚障害とバリアフリー」について話した。

視覚障害者が感じる3つの不便とその対策

大河内 直之 氏(東京大学 先端科学技術研究センター バリアフリー分野 特任研究員)
右は支援スタッフの天野 克彦 氏(東京大学 先端科学技術研究センター / バリアフリー分野 / 福島研究室)

先天性緑内障の大河内氏は、生まれたときはわずかに見える弱視であったが、4歳の時に完全失明した。現在は、東大において、
・盲ろう者の支援活動の研究
・映画のバリアフリーに関する研究
・障害理解に関する研究
などを行っている。

日本では現在視覚障害者は30万人おり、そのうち大人になってから失明した中途失明者が8割。先天性視覚障害者は子どもの頃から点字に慣れ親しんでいるが、中途失明者にとっては点字の触読は困難である。視覚障害のうち、点字が読めるのは2割にとどまるという。

大河内氏は「視覚障害はさまざまな困難があるが、大きく分けると3つの不便がある」と紹介した。その3つの不便とは、次のものだ:

・情報入手の不便
・移動の不便
・周囲の状況把握の不便

情報入手の不便の対策としては、点字、オーディオブックなど音声読み上げ、音声によるテレビ・ラジオなど、パソコンの音声読み上げ、点字など、ツールが普及してきている。移動の不便の対策では、世界で共通の白杖に加え、日本で発明された点字ブロック、音声認識の信号、盲導犬、歩行ナビゲーションシステムなどの仕組みが整備されてきている。

視覚障害者にとってアクセシブルな製品やサービスの例として大河内氏は、次のようなものを挙げる:

・セブン銀行のATM
・iPhone
・シャンプーのボトルに付けられているエンボス(でこぼこ)
・酒類に付けられている「おさけ」の点字表示
・日本銀行券

たとえばセブン銀行のATMは、サポートへの連絡用に設置されている受話器のソフトウェアを改修し、ブッシュボタンを押すとタッチパネルの操作ができるようにしていると大河内氏は説明する。ATM自体のUIハードウェアには手を加えていないため、ゆうちょ銀行などが採用している方式に比べて安価で、多い台数を視覚障害者にアクセシブルにしたのだ。

iPhoneは、登場した当初から音声読み上げのスクリーンリーダーが用意されていた。大河内氏は「タッチパネルは視覚障害者にとっては操作しにくいのだが、音声読み上げによって、だれもが使いやすいすばらしい機器になっている」と評価する。

このように、視覚障害者でも認識できるような仕組みは多い。

バリアフリーとユニバーサルデザインの決定的な違い

大河内氏はバリア(障壁)とは「自然界に存在するものではなく、人が作ったときにできるもの」と定義する。バリアは一般的に
・物理的なバリア
・情報文化のバリア
・法律のバリア
・心・意識のバリア
に分類されるが、大河内氏によれば一番バリアを作るのが「心・意識のバリア」であり、ここを変えることで他の3つのバリアを減らせるという。

“アクセシビリティ”や“障害をもつ人への対応”というと技術的なことや難しいことと身構えてしまう人もいるかもしれない。しかし大河内氏は「自分とは違った立場の人がいることを意識せずに物を作ってしまうとバリアができる。違う人がいると意識するだけでバリアは軽減できる」と述べ、アクセシビリティの根底となるポイントを明確に指摘する。

続いて、バリアフリーユニバーサルデザインの違いについて取り上げた。この2つは似ているようではあるが、次のようにアプローチが異なる。

・バリアフリーは、困難を軽減することを目指している
・ユニバーサルデザインは、たくさんの人が共用できることを目指している

大河内氏は「ユニバーサルデザインは、皆が使えることを目指している一方で、障壁を除去する視点が漏れている場合がある。そのため、障壁が除去されているかどうかをバリアフリー観点で点検する必要がある」と指摘した。

その点検の一つが、“立場によって選択肢がどれだけ違うのかを考える”ことだ。

たとえば、多機能トイレ。以前は「バリアフリートイレ」と呼ばれており、障害者専用だと思われていた。しかし呼び方を「多機能トイレ」に変えたことで、だれでも使えるようになった。しかし、通常のトイレも利用できる人が多機能トイレを使うようになったことで、多機能トイレしか使えない人が待つようになってしまった。

駅のエレベーターでも同様のことが発生している。
・階段、エスカレーター、エレベーターのいずれでも利用できる人
・エレベーターしか選択肢しかない人
がいる状況において、ここでもエレベーターをだれでも使うようになることで、後者の人がエレベーターを待たざるを得ない状況が発生している。

大河内氏は映画のバリアフリーにも取り組んでいる。そこで講演の最後に、
・視覚障害者にとって映画がどんなものに感じられるか
・映画に音声解説が追加されることで映画の理解がどれくらい向上するか
を体験できるバリアフリー映画を上映した。

「Webアクセシビリティ」は、HTMLで画像にalt属性を付けることではない。さまざまな人がWebコンテンツに触れられる世界に近づけることだ。そのWebアクセシビリティを考えるにあたって、その対象となる人たちの状況やバリアを取り除く考えを把握することはおおいに価値があることだろう。

(C)2019Web Advertising Bureau. All rights reserved.

Web広告研究会サイト掲載のオリジナル版はこちら:
「iPhoneは視覚障害者にも使いやすい!? 当事者が語るバリアフリーとユニバーサルデザイン」2019年7月23日開催 月例セミナーレポート(1)(2019/09/30)

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