クラウドがもたらす3つの効能、Web担当者の仕事に役立つクラウド基礎解説 | 第1回
“クラウド”って聞いたことはあるけれど、ナニモノなのかはわからない。もしかしたら接点のない存在かもしれない。第1回は、そんな方のために「Webの業務に従事する人間にとって、クラウドは美味しいテクノロジーかもしれない」という情報をお届けします。クラウドをより立体的にとらえることができるようになるはずです。
- 自分目線でクラウドを理解できる
- 上司や同業の人々との意見交換の場に生かすことができる
- 社内SEや制作会社とブレストする際のヒントになる。連携がスムーズになる
- 今後、Web企画を立てる際にクラウドを活用できるかもしれないという気づきになる
クラウドは本当に知っておくべき? Web担当者のホンネ
Web担当者のクラウドへのインサイト(心の奥底)ってどんなだろう?
連載でクラウドコンピューティングの世界を紹介するにあたり、ふとこんなことを思いました。クラウドと聞いて、次のようなことを思い浮かべる人はいないでしょうか。
- 毎日忙しくて、クラウドを学ぶ時間もココロの余裕もない
- クラウドよりも「クライアントから予算を削られないか?」といったリアルビジネスの方が大切だ
- 未来のテクノロジーであるクラウドの話題は、どうも明後日の話のように聞こえてしまう
- システム寄りの話だからWeb担の自分が考えることじゃないし、専門外のままでいいと思っている
- とにかく本業であるWeb制作や企画・戦略に専念したい
サイト運営の本業が忙しい、クラウドは技術者向けの話題だからWeb担当者の自分にはあまり関係ないと思っている方もいるのではないでしょうか。しかし、意外に聞こえるかもしれませんが、クラウドを知ることで、そして日々の業務にクラウドを取り入れることでWeb担当者の仕事にも良い副作用がもたらされます。
たとえば、代表的なクラウド導入の効能として次の3つが挙げられます。
- 「時間」が生まれる
- 「予算」に余裕ができる
- 「リスク」が減る
具体的にどんな効能を得られるのか詳しく説明していきましょう。
時間(Time):急なアクセス増にも時間を問わず対応
長く、企業の情報システムは自社内で構築され、システムエンジニアにより管理運用されていました。これを「オンプレミス(自社運用/社内設置)」といいます。
Webサイトの立ち上げや更新を行う際には数日前にエンジニアに伝えねばならず、突発的なオーダーはご法度。「社内なんだからもっと融通きかせてよ」と、今日もどこかでだれかが叫んでいることでしょう。こんな時、要求に応じて使えるクラウドだったらどうでしょうか。これまでとは正反対の対応が望めるばかりか、いつでもすぐにサーバーを立てたり増強したりできるようになるため、Web担当者に時間の余裕が生まれます。
また、なかには自社のシステムを外部業者にアウトソースしている企業もあるでしょう。発注先には当然、「発注は●営業日前までに」という時間的な縛りが存在し、「納期に余裕をもって注文」が鉄則です。土壇場の依頼ともなれば「特急料金」を請求されることもあるでしょう。「来週までにサーバー100台」なんてオーダーにスピーディーかつ安価で対応してくれるのは、豊富なサービス資源を有し、利用者の要求に応じて瞬時に提供できるクラウドだけだといえるでしょう(フレキシブルに対応してくれる神様のような業者があったとしたら、絶対にその手を離さないでください)。
予算(Budget):システムの合理化で人件費をカット
Web担当者にとって、「予算」はサイトをより良いものにするガソリンであり、常に対峙しなければならない実務上の課題です。
予算は厳しい。でもクリエイティブをケチればサイトがダメになるし、外部パートナーの存在なしにはサイトは立ち行かない。
と悩みを抱える人も多いでしょう。さらに、会社から「コストカット」の命が下ったとしたら、あなたならどうしますか。「コスト」で思い浮かべるのは、まず人件費。あなたは信頼のおけるスタッフに、「すみません、ギャラは前回の半分でお願いします」とオファーするしかないのでしょうか。では、それが機械のギャラだったら。そこは安価なクラウドに一任して割り切る、という選択もアリなのではないでしょうか。クラウドにはネガティブな要素やしがらみは存在しないのですから。
リスク(Risk):無駄とリスクを排除。使った分だけ支払う明朗会計
Web担当者のリスクは挙げたらキリがありません。
まずは「納期」。会社の顔でもあるサイトをオンタイムで公開・更新することは大命題です。
そして「アクセス数」。キャンペーンサイトなどは、正しくアクセスを読み運営しなければなりません。せっかくの人気企画も、アクセス殺到でサイトがダウンしてしまっては、ブーイングの対象になります。サイト訪問者の離脱を招くばかりか、企業にとっては致命的な機会損失です。
しかし、クラウドにはそのようなトラブルはありません。なぜなら、クラウドは突発的な高負荷にも柔軟かつ素早く対応できるプラットフォームを備えているから。もちろん、いくらでも予算を投じることができるのなら、最多アクセスを見越してサーバーをマックス状態に増強しておけば安心ですが、アクセスが少ない時間帯にもそれらを維持し続けるにはコストがかかります。そんな時でも、クラウドはサーバーの負荷状況が自動的に計測され、使用した分だけ支払う明朗会計を担保します。「アクセスに囚われて気が付けばコストが膨大に膨れ上がっていた」という悲劇から、Web担当者を救います。
コンピュータのシステムや事業を有効に機能させるための基盤として欠かせない設備や制度のこと。具体的には、サーバーやストレージ、システムに組み込まれた設定などを指す。
以上が、クラウド導入がWeb担当者にもたらす良い副作用です。これらはあなたが“いつ”“どこ”にいても享受することができます。なぜなら、クラウドを利用すれば、外出先からでもインフラの状況を逐一把握できるばかりか、不測の事態にも対処できるからです。従来のオンプレミスの環境では社内の技術者にしか対応できなかったことが、クラウドではいつ、どこからでも、インフラ※の知識をもっていないWeb担当者でも対処できます。
クラウドを採用することのアウトラインが、つかめてきたのではないでしょうか。
クラウドコンピューティングの5つの定義
クラウドブームとも言えるなかで、さまざまなクラウドサービスが登場しています。ここでは、巷で目にするクラウドの特長を整理します。
- 初期費用がゼロ。もしくは安価
ハードやソフトウェア、その他新たな機器の購入が不要。デポジット(補償金)も不要
- スピード感
構築・導入が即時、もしくは短期。工期が短くすばやく導入できる
- 導入費・運用費が大幅ダウン
サーバーや機材の保守・メンテナンス、バージョンアップが不要。省エネ・省スペース
- スケーラビリティ
ストレージやメモリ、CPUを必要な容量だけ増減しながら利用できる
- アクセシビリティ
ネットワーク環境にあればPC、タブレット、スマホと機器を選ばずどこからでも利用できる
かつては企業や個人などがコンピュータ(ハードウェア、ソフトウェア、データ)を所有し管理していたのに対し、クラウドコンピューティングでは、それらをインターネット経由の「サービス」として利用します。この解釈から発展して、現在では「クラウド」の名のもとに、有償・無償を含むさまざまなソリューションが提供されています。上記のクラウドの特長も、実に魅力的です。
しかし、注意してください。世の中にはホンモノのクラウドとは少し違う「クラウド風」サービスもあるのです。クラウド風のサービスでは、クラウドコンピューティングの利点を最大限に享受することができないケースがある、ということも覚えておいてください。
NIST定義のクラウドコンピューティングを超訳
ここでは、「クラウド」と「クラウド風」を区別するための物差しとなる、米国国立標準技術研究所(NIST:National Institute of Standards and Technology)が示す「クラウドコンピューティング」の5つの定義を紹介します。真のクラウド技術とメリットに触れて、賢く活用してみましょう。難しい英語はスルーして、超訳バージョンで紹介します。上司に「クラウドってなに?」と聞かれたときのヒントにも活用ください。
- On-demand self-service(オンデマンドのセルフサービスであること)
利用者自身が必要なときに、サーバーやストレージなどを自由に利用できる。
ここで重要なのは、使う側が必要に応じて自動的、かつオンデマンドで人手を介さずしてサーバーのリソースを調整できるかどうかです。業者に電話して「2営業日後にはなんとか……」と言われるようなら、あなたが利用しているサービスはクラウドではないと考えて間違いありません。
- Broad network access(広範なネットワークによる利用)
ネットワークを介して世界中のどこからでもアクセスが可能であり、ノート型PCや携帯電話、スマホやタブレットなど、様々なクライアント環境から利用できる。
クラウドはいつ、どんな機械・端末から、だれがアクセスしてもいいようにできている。デバイスを限定しない受け皿の広さも魅力の1つであり、オフィスの外や出張先でも、オフィスと同じクオリティでWeb業務を遂行できる。
- Resource pooling(蓄積されたサービス資源)
サーバーやストレージは共有資源として提供され、複数の利用者の要望に応じて割当・開放を行うことができる。また利用者は、それらサーバーやストレージがどこにあるかを意識しない。
クラウドによるリソース(資源)は、CPUやメモリ、ディスクを蓄えるマルチテナントモデルで提供され、いつ、どんな要求にも即時に応えられる。一般的には、サーバーやストレージがどこにあるのかをユーザーが意識することはない(導入する技術者はデータをどの地域のサーバーに置くのかを選べる)。
- Rapid erasticity(スピーディーに対応する柔軟なサービス)
利用した分だけ使用料を払う従量課金であり、必要に応じた処理能力のスケールアウト/スケールインをすばやく行える。
スケールとは利用する容量のサイズのこと(ちなみにサーバーを10台から11台に増やすのは「スケールアウト」という)。それらの台数は、PCの画面上で自在に操作できる。「ちょっとアクセスが増えたな」と思ったら、数クリックでサーバーの増強が完了する。「アクセスが落ち着いたな」と思えばすぐさま台数を減少でき、料金は使った分だけ支払う明朗会計の従量課金制です。
- Measured service(データ分析可能な従量制サービス)
サーバーやストレージなどのリソース使用料は、自動的に計測され最適化される。
クラウドは適切な計測によりサービスの透明性が担保されている。依頼者が実際のサーバー台数を把握できないのは道義的に問題があるためであり、今、自社のサイトが何台のサーバーで運用されているのかがオープンになっていないサービスは、クラウドとは呼べない。運用状況も価格形成もすべてがスケルトンであることがクラウドの強みでもある。
クラウドがどのようなものなのか、理解いただけたでしょうか。Webサイトの素材やアプリケーションを処理したり保管する機材(サーバーやストレージ)を、所有するのではなくネットワークを経由して利用することで業務時間に余裕が生まれ、予算が余り、リスクが減る。ちょっとステキなサービスだということを意識の奥底に置いてみてください。
ここをスタートに、社内や外部のスタッフと、小粋なクラウドトークを展開するのもアリ。次回からは、もう一歩踏み込んだクラウドの側面にアプローチしていきます。
明確な意味をもたない曖昧なキーワード、用語。
クラウド、クラウドコンピューティングの由来には諸説あります。かつて、システムエンジニアたちがネットワーク図を描く際に、インターネットを「雲のカタチで得体の知れないもの=インターネットを模した雲」と表したこと、クラウドコンピューティングを「雲の向こうのサービス」と捉えクラウドと呼ぶようになった話は有名ですが、実はバズワード※です。記号的な意味合いにとらわれず、その本質を知るところから理解を深めていきましょう。
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