コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。
宮脇 睦(有限会社アズモード)
心得其の六十七
言葉の裏側に秘められた意味
言葉には額面通り受けとるものと、隠喩や暗喩のように「裏側」の意味があるものがあります。たとえば、京都では「ぶぶづけ(お茶づけ)でもどうどす」と言われれば、「そろそろお引き取りください」という意味だといいますし、同じく京都の「一見さんお断り」も、高飛車な「いけず」だと思っていたのですが、初めてのお客さんでは好みもわからず、十分なおもてなしをすることができないことが理由だという説明に、なるほどと頷きました。
単なるスローガンと捉えるか、実践するかで「報連相」の意味は異なります。前号はほんの序の口で、実戦で実践することで「セーフティーネット」や「根回し」、さらに「リソースの活用」「元気玉」へと発展させることができます。
今回は報連相の実践編。上司には見せない方が宜しいかと、という内容です。
夜逃げ新人記録樹立
報連相に出会った広告代理店の新人時代「夜逃げ王」という不名誉な綽名を頂戴しました。取り込み詐欺同然の計画倒産に、知り合いの紹介で取引を始めたカフェ・バーは言葉通りの夜逃げをし、有名レストランチェーンが民事再生を申請したときはテレビのニュース速報で知りました。入社1年目の「夜逃げ(された)記録」を更新したのです。
ある役員が私の責任を追及しようとしました。偶然が重なったものですが「記録更新」ともなれば動かずにはいられません。取引開始に至った「経過」を紐解くと、そこには責任追及の先頭にいる役員の判子がありました。新人に決裁権はなく、上司の「ご裁可」を仰いで取引は始まっており、この役員も「ゴーサイン」をかけた1人だったのです。
社会復帰をかけた再就職です。違和感を覚えても愚直に「報連相」を実践していました。それも口頭ではなく書面で。口約束はいつ反故にされるかわからないのはフリーター時代に学びました。
報連相はセーフティーネットになります。
根回しのススメ
「報連相」は攻撃的に使うとより輝きを放ちます。「根回し」に使うのです。
根回しというと良いイメージがないかも知れませんが、換言すれば社内の合意「コンセンサスを得る」ということです。
取り組んでいる案件やプロジェクトをまめに報告・連絡します。会議の席で論破をするより「雑談」のような形で状況を理解させる方が円満で簡単です。さらに部外者でも社内の有力者に相談するのが「根回し」のポイントです。挨拶同様、答えには期待しません。「相談した」という既成事実が重要なのです。
有力者になればなるほど、社内で自分の知らない話があることを嫌います。そのため、「相談を持ちかける部下」を憎からず思います。これにより部外者が当事者となることもあります。
私が新事業を立ち上げられたのは、所属した「営業部」以外の応援の賜です。ちなみに、直属の上司に「部外者に相談したという報告」を忘れてはなりません。
上司の資質。報告書のまとめ方
ビジネスハウツー本では「報告」によって適切なアドバイスを得ることができるとありますが、これは「そうなればいいな」という理想論だと割り切っておいた方がいいでしょう。なぜなら
「報告を見てない(精査していない)上司は多い」のですから。
告白しますと、新事業立ち上げ後、私も部下を持ちましたが報告を受けるのは面倒でした。起承転結もオチも山場もない口頭報告に笑いはなく、素人の作文は読むのも一苦労です。部下の数が多ければ受ける報告も比例して多くなり、さらに「見ない率」が上がります。しかし、勝手にやられては自分の立場に影響するので、上司として「とりあえず」提出させるのです。あえて擁護するなら「忙しい」故でしょう。
これを逆手に取ります。報告書は「演出」します。事実関係は「セーフティーネット」となるので正確に記しますが、解釈のわかれる微妙なものは「私見」でまとめてしまうのです。裏づけとなるデータも付け加えられればなお良しです。そして報告としてあげたのですから、そこから先は「上司」の責任というワケです。
これからのウェブ担当者像
90年代初頭のSE(システムエンジニア)は顧客との折衝から予算、行程管理までできる人への称号でした。「非IT系企業」の社長と話していて望まれるウェブ担当者像と重なります。
商売用ホームページの重要度の高まりは今後一層増していくことでしょう。すると割り当てられた予算でこなす受動的なタイプより、「予算をぶんどるウェブ担当者」、つまり収益部門の責任者のように能動的でアグレッシブな人物が必要となっていきます。「社長の肝いり」で擁護することなく、独立した一部門長としてのウェブ担当者が求められているのです。
商売用ホームページの重要性が増せば増すほど、ウェブ担当者は社内政治と無関係ではいられなくなります。セーフティーネットを保険として、根回しでコンセンサスを得ます。報告書を「活用」して歴史を操作します。つまり、「大人の戦い方」を求められるのです。そしてその時、伸びる芽を摘む上司にはご注意を。
報連相を究める
最後に「応用」についてさらっと触れて締めとします。
報連相とはまわりの力を少しずつ借りるところが神髄です。アニメ作品「ドラゴンボール」の「元気玉」のように、周囲から少しずつエネルギーを借りて、1つの力とするのです。報告ではアドバイスを得たり、責任の一部を拝借し、連絡により情報が共有され探しているリソースとの距離を近づけます。相談は経験やアイデア、時間のレンタルです。
実践編は「社内」にフォーカスしましたが、社外にも広げます。社内の有力者に相談するのと同様にクライアントを頼り、こまめな報告や連絡で信頼関係を構築します。社内外を味方につければ、ほとんどのプロジェクトは成功します。
Web 2.0的に言い換えるなら、集合知というところです。
社内外の連携で完成させた元気玉の跡には、あなたを中心とした放射線が描かれています。これがプロジェクトの成否以上の「成功」なのですが………これについては別の機会に。
♪今回のポイント
これからのウェブ担当者は元気玉を使いこなせ。
保身も根回しも目的のためのツールと割り切る。
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コメント
宮脇さんの記事を拝
宮脇さんの記事を拝見すると、現実的で、ウィットに富み、でも分かりやすいので大変勉強になります。「元気玉」は言いえて妙ですね。Web担当者、SEさんは、技術屋さんでありながらも、コミュニケーションが得意でなくてはならない、結構マルチな能力が必要とされるのだと思いました。