原油・原材料価格の高騰や為替相場の動向は現在も企業活動に影響を及ぼしており、公正取引委員会は主体的に取引価格の引き上げ交渉を行っていなかった企業を公表するなど、価格転嫁を促進している。
こうした状況を踏まえて、帝国データバンク(TDB)は価格転嫁に関する企業の見解を調査。調査結果によると、価格転嫁率は39.9%にとどまっており、多くの企業が経費削減など自助努力でコスト上昇に対応していることがわかった。
価格転嫁進むも、転換率はいまひとつ?
調査結果の要旨
- 約7割の企業で価格転嫁できているが、価格転嫁率は39.9%で4割に届かず
- 卸売業を中心に価格転嫁が進むも、運輸業、医療、サービスなどでは転嫁は低水準
- 価格転嫁以外の対応策は「自社経費の削減」が58.6%でトップ
- 価格転嫁できない理由には、取引企業や消費者からの理解の得られにくさを指摘する企業が多い
価格転嫁率は39.9%にとどまる
「自社の主な商品・サービスにおいて、コストの上昇分を販売価格やサービス料金にどの程度転嫁できているか」と聞いたところ、コストの上昇分に対して「多少なりとも価格転嫁できている」企業は69.2%だった。
価格転換ができている企業は7割近くにのぼるが、転換率は4割を下回っている
「すべて転嫁できている」企業は4.1%にとどまった。「8割以上」は12.7%、「5割以上8割未満」は17.1%、「2割以上5割未満」は15.2%、「2割未満」は20.1%。一方、「全く価格転嫁できていない」企業は15.9%だった。
「価格転嫁をしたい」と考えている企業の販売価格への転嫁割合を示す「価格転嫁率」は39.9%と4割を下回った。TDBは「コストが100円上昇した場合に39.9円しか販売価格に反映できていないことを示している」と説明する。
価格転嫁はゆるやかに進んでいる
調査方法が異なるため単純な比較はできないものの、TDBは「2022年後半の急激な円安の進行などで物価上昇のスピードに価格転嫁が追いつかない状態となった2022年9月時点と比べると、緩やかに価格転嫁が進んでいる様子がうかがえる」としている。
価格転嫁の中心は卸売業。運輸業などでの転嫁は低水準
価格転嫁率を業種別にみると、価格転嫁率が比較的高い業種は「鉄鋼・非鉄・鉱業製品卸売」(66.0%)や「化学品卸売」「紙類・文具・書籍卸売」(それぞれ62.8%)で6割を超えた。
運輸業などでの転換率はいまだに低い
「価格転嫁はほぼできている」(鉄鋼卸売、千葉県)や「今や物価高が当たり前のような状況になっているので、価格転嫁についても取引先からの了解は得やすくなっている」(電気機械器具卸売、茨城県)とあるように「卸売」が上位を占めた。
「運輸・倉庫」(20.0%)、「旅館・ホテル」(21.7%)、「情報サービス」(21.8%)は低水準となっている。
一般病院や老人福祉事業などを含む「医療・福祉・保健衛生」(10.5%)や、映画・ビデオ制作業やパチンコホールなどを含む「娯楽サービス」(12.7%)も低く、1割程度にとどまった。
企業からは次のような厳しい声があがったという。
物流業界は競合他社との兼ね合いが強いため、自社だけで交渉することは難しい。価格交渉によって、受注の減少も懸念される。(一般貨物自動車運送、福島県)
公的単価設定は、喫緊(きっきん)の物価変動には対応できない。経費がかさむだけ。(一般病院、神奈川県)
このほか、“同時に付加価値向上も講じる”という解決策も聞かれたという。
価格転嫁以外の対策は「自社経費の削減」が最多
自社の主な商品・サービスのコスト上昇に対する価格転嫁以外の対応策について尋ねたところ、半数を超える58.6%の企業で「自社経費の削減」を行っていた(複数回答、以下同)。
経費削減など自助努力で原材料やコストの高騰を吸収しようとする姿勢が多い
ムダやムラの削減など「ロスの削減」(42.4%)が続き、設備機器などの入れ替えなどを含む「生産の効率化」(23.4%)、「内部留保による対応」(17.3%)など、多くの企業で自助努力によって対応している様子がうかがえた。
また、「仕入先・外注先への値下げ交渉」(16.9%)を行う企業も一定数みられたようだ。値上げ金額をできるだけ少なくする交渉のほか「転嫁はできているが、仕入先への価格交渉は行っている」(石油卸売、山口県)といった声もあったという。
“値下げ交渉”は理解のされにくさがネックに
自社の主な商品・サービスのコスト上昇に対して、価格転嫁ができない、難しい理由について尋ねたところ、「取引企業から理解が得られ難い」が39.5%で最も高くなった。
消費者や取引先の企業から理解を得られにくいことが価格転嫁のネックになっている企業が多い
また、「自社の交渉力」を理由にあげる企業は25.0%にのぼり、4社に1社の割合となった。回答企業からは次のような回答がみられたという。
価格転嫁について、実際のところはなかなか言い出しづらいのが現状。しっかりと理解を得られるように準備し完璧に説明をするほど、顧客との溝ができてしまい同業他社へ流れてしまう。(一般貸切旅客自動車運送、愛知県)
「自社の交渉力」に続いたのは、「消費者から理解が得られ難い」(20.1%)や「(年度など)契約の制限がある」(13.1%)。
一方、「交渉自体行えない」(7.5%)や「正常な商習慣に照らして不当な要請がある」(6.4%)といった取引企業との交渉そのものができていない企業もあった。
すべてを価格転嫁できている企業はごくわずか
調査結果によると、自社の商品・サービスのコスト上昇に対して、大なり小なり価格転嫁ができている企業は約7割だった。TDBはこれについて「さまざまなモノの価格が上昇していることに対する認知や理解が、少しずつ進んでいることを示している」と分析。
2022年9月時点と比べると価格転嫁は緩やかに進んでいるものの、原材料やコストの上昇をすべて価格転嫁できている企業は数パーセントにとどまっており、全体の価格転嫁率は4割を下回る結果となった。
値上げに伴う“付加価値”を重視する企業も
認知や理解が進んでいても、自社の商品・サービスの価格が高まれば、取引企業や消費者から選ばれなくなることを心配する企業は多い。経費やムダの削減といった自社内の企業努力も多くみられる。
一方で、価格転嫁が進まない要因として交渉自体が行えない点をあげる企業もあり、TDBは「政府はさらなる取引の適正化に資する取り組みが必要不可欠」と指摘している。
価格転嫁にあたって丁寧な説明や付加価値の向上に取り組む企業もみられる
TDBは「今後も商品・サービスの価格上昇は懸念されるなか、価格転嫁率は4割を下回り、企業がコスト上昇分を負担している状況も限界に近づいている」と説明する。
そうしたなかでも、次のような解決策を講じている声も聞かれるようだ。
根拠のない値上げと思われないように、値上げの中身・要因・比率を正確に説明するよう努めている。(雑穀・豆類卸、東京都)
クライアントから選ばれる存在であるために、必要な分だけの価格転嫁を行いプラスアルファの付加価値を心掛けている。(ソフト受託開発、岐阜県)
特に商品・サービスの価値向上は、競合他社との差別化においても非常に重要なファクターとなる。「こうした状況を好機と捉え、将来を見据えた取り組みが必要になる」(TDB)。
調査概要
調査概要
- 調査期間:2022年12月16日~2023年1月5日
- 調査対象:全国2万7163社
- 有効回答企業数:1万1680社
- 回答率:43.0%
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オリジナル記事:原材料高騰の価格転嫁率は39.9%。消費者や取引企業からの“理解の得られにくさ”がネックに
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