ジュンが進めるEC強化策とOMO戦略とは? 中嶋取締役に聞くチャット接客、マイクロフルフィルメントシステムなど | 通販新聞ダイジェスト | ネットショップ担当者フォーラム

ネットショップ担当者フォーラム - 2022年12月21日(水) 07:00
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ジュンの中嶋賢治取締役執行役員に、EC強化策とOMO戦略の現状を聞く。チャット接客で優位性発揮し、顧客にとって期待以上の体験を提供しているという

ジュンは、自社ECの顧客体験を実店舗に近づける取り組みの一環としてチャット接客を強化しており、チャット利用者の満足度は高いようだ。また、商品欠品時にリアル店舗から直接、購入者に配送するマイクロフルフィルメントシステムの本格運用に乗り出すなどOMO戦略も推進している。EC事業統括情報システム室ロジスティクス部の中嶋賢治取締役執行役員に、自社ECの強化策やOMO戦略の現状を聞いた。

ジュン EC事業統括情報システム室ロジスティクス部 中嶋賢治取締役執行役員ジュン EC事業統括情報システム室ロジスティクス部 中嶋賢治取締役執行役員
営業利益は前年比22%増、EC施策が奏功

――アパレル各社のEC売り上げはコロナ1年目に急伸した反動もあって、今期は成長曲線が緩やかだ。

中嶋氏:当社も同じで、EC売上高は2021年9月期の前年比25%増に対して22年9月期は3%増だった。ただ、売り方を変えたことで営業利益は前年から22%伸びた。前々期はコロナ1年目の在庫問題があり、少なからず割引クーポンの配布やタイムセールなども含めて在庫を整理せざるを得ない状況だったが、前期はリアル店舗と同様にECもプロパー販売にこだわったことで利益面は改善した。

――EC施策も変化した。

中嶋氏オフ率で販売する施策は控え、商品訴求の部分を強化した。ECチャネルは自社ECと「ゾゾタウン」「楽天ファッション」で大半を占めているが、外部モールについてもクーポン施策はかなり絞った。EC化率は前年比微減の34%で、自社ECの構成比は40%程度だった。

「ECチャネルはすごく伸びている」

――2020年9月にコスメやライフスタイル商材を扱う「ライフアンドビューティー バイ ジュンオンライン」を新設した。

中嶋氏:コロナ禍でお客さまの消費行動の変化を見越してスタートした業態だ。「ファッション=アパレル」ではない。当社ではお客さまのニーズを注視しながら、コスメやスポーツ、インテリア雑貨、飲食などをいかにファッション領域ととらえて事業展開するかを大事にしている。力を注いでいるし、ECチャネルもすごく伸びている

「ライフアンドビューティー バイ ジュンオンライン」トップページ(画像は同サイトから編集部がキャプチャ)「ライフアンドビューティー バイ ジュンオンライン」トップページ(画像は同サイトから編集部がキャプチャ)

――同サイトが伸びている背景は。

中嶋氏:ライフスタイルの高度化に伴って、モノの購入の仕方がアパレル偏重型ではなくなったのだと思う。服は新品とユーズドとを組み合わせたりしながら、工夫して着回しを楽しむようになっている。

一方で、自宅で過ごすときの香りやインテリアなどをリッチにすることで、心地の良い生活を送りたいというニーズが高まっていると感じる。

――衣料品のEC化率は高まってきたが、フレグランスなどはECチャネルとなじむのか。

中嶋氏:ECになじむのか少し心配だったが、香水やお香などもしっかり売れている。ルームフレグランスなどは頻繁に買うものではないと思っていたが、意外に購入率が高い。

香水やお香も購入率が高いという(画像は同サイトから編集部がキャプチャ)香水やお香も購入率が高いという(画像は同サイトから編集部がキャプチャ)
目的買いの顧客利用進む

――アパレルとそれ以外の商品を買い回りしているのか。

中嶋氏:「ライフアンドビューティー」は目的買いが多い。欲しい商品がどこにあるのかを調べてから訪問するお客さまが多い印象だ。当社で扱うアイテムはどこにでもあるような商材ではなく、比較的販路が絞られているので、ECモールと比べられることも少ない。利益面への貢献度はこれからが、成長の芽として期待できる領域だ。

チャットで顧客との距離を近く

――コロナ禍でEC利用が定着してきた。

中嶋氏:今までリアル店舗しか体験されてなかったお客さまがECの利便性などに気付いて、リアルとECのどちらで買ってもいいと感じているのではないか。

――この2年間でECに慣れていない顧客が訪れても不安を感じないようにサービスや機能面を磨いてきた。

中嶋氏:とくにチャットサービスを導入してから、「この写真ではわからない」とか、「このキャプションでは伝わらない」といったご意見が毎日上がってくるので、その日のうちにサイトに反映させるという取り組みが定着しているし、そのスピード感を大事にしている。

JUNが展開しているチャットサービス(画像は同サイトから編集部がキャプチャ)JUNが展開しているチャットサービス(画像は同サイトから編集部がキャプチャ)
チャットシステムは「チャネルトーク」に刷新

――チャットもコロナ禍の早いタイミングで導入した。

中嶋氏:最初に導入したシステムから「チャネルトーク」に変え、さらにLINE連携することで、LINE公式アカウントに届くリアルタイムのお問い合わせも「チャネルトーク」で管理できるようになった。

旧チャットシステムのときはボットをまったく使わずに人だけで運用していたが、今はCS系のお問い合わせはボットが対応し、商品に対するお問い合わせはスタッフが回答している。チャットチームには元販売スタッフなど15人が在籍しているが、チャットを介した問い合わせが増えていて、少し増やす必要も出てきた。

2022年4月にチャットサービスを刷新した(画像は同サイトから編集部がキャプチャ)2022年4月にチャットサービスを刷新した(画像は同サイトから編集部がキャプチャ)
画像付きの回答で顧客満足度をアップ

――問い合わせ内容については。

中嶋氏:それはリアル店舗と同じだ。サイズ感や全身のバランスの問題などが多く、「私の身長だとどちらのサイズがいいか」とか、「この色のボトムに合わせるならどちらのトップスがいいか」といったお問い合わせがくる。

そうしたお悩みに対し、チャットではテキストだけでなく、画像を付けて回答している。イメージしやすいように通販サイトの商品画像を切り抜いてコラージュするなど、お客さまごとにパーソナライズしている。

お客さまも「そこまでしてくれるの」とびっくりされることが多く、ほかのアパレル企業と比べても優位性の高いチャットサービスになっていると思う。

――チャット接客の満足度が85%と非常に高い。

中嶋氏:お客さまのお悩みを解消することについては、かなり高い水準にあると思うが、これからやりたいのは、お客さまが期待されている以上の提案をすることだ。

リアル店舗のように、お客さまの好みの傾向などを十分にわかった上で、販売スタッフの感性を反映させた提案をしていきたい。それができれば、リアルであろうがECであろうが、顧客体験の差はなくなっていく

スタッフの質を落とさないトレーニング

――販売経験の豊富なスタッフがチャット担当をしている強みが生きてくる。

中嶋氏:その通りで、結局、顧客満足を得るにはシステムよりも「人」が大事。当社が一番やらなければいけないのは、「人」のレベルを落とさないことで、商品情報の吸収など日々のトレーニングを積み重ねることだ。

リアル店舗のスタッフであればひとつのブランドに精通していればいいが、チャットスタッフは自社ECで取り扱うすべてのブランドが対象となるので、吸収すべき情報量はかなり多い。

問い合わせ件数が増える中で、チャット接客の質と量を両立していけば、他社ブランドや外部ECモールに対する差別化要素になるのではないか。

倉庫の在庫を直接顧客に届ける仕組みを開始

――商品欠品時に実店舗から購入者に直接配送するマイクロフルフィルメントシステムの本格運用を始めた。

中嶋氏:自社ECの「ジャドールジュンオンライン」では、お客さまの希望する商品がない場合、チャットスタッフに相談すると、在庫のある実店舗で商品を確保し、お客さまの自宅に直接配送する「ラクトリ」サービスを2021年10月から展開していて、この仕組みをリアル店舗での欠品時にも広げた。

お客さまが来店された店舗に在庫がなくても、倉庫や別の店舗に在庫があれば、そこからダイレクトに届ける。従来はリアル店舗の在庫をいったん倉庫に送ってから出荷していたが、運賃も時間もかかるので、より早く、より安く届けるためには店舗出荷の運用が不可欠だった。

「ジャドールジュンオンライン」のトップページ(画像は同サイトから編集部がキャプチャ)「ジャドールジュンオンライン」のトップページ(画像は同サイトから編集部がキャプチャ)
配送は距離数だけの料金体系を採用

――国内アパレルではほとんど例がない。

中嶋氏:ハードルの1つが配送会社さんの問題で、通常は1つの拠点から距離数換算で運賃を支払う契約のため、マイクロフルフィルメントシステムを運用するには、全店舗で運賃契約を結ばなければいけない。当社は今回、日本郵便さんと契約して店舗ごとではなく、距離数だけの料金体系としてもらったことで、システムの運用を始めることができた

料金体系は距離数のみ。これによって配送会社の問題をクリアした料金体系は距離数のみ。これによって配送会社の問題をクリアした

――ほかのハードルは。

中嶋氏:もう1つは個人情報保護の問題だ。お客さまの住所を聞いて手書きで送り状を書くわけにはいかないが、個人情報が残らないように送り状を印刷するシステムが、当社が導入した「ショッピファイ」のアプリに実装されていることが大きい。

店舗スタッフに負荷をかけない仕組みを構築

――販売スタッフの業務も増えている。

中嶋氏店舗スタッフになるべく負荷をかけないことが大事だ。業務が複雑になったり、時間がかかったりして本来の接客業務に支障をきたしてはいけない。そのため、当社では「楽天ファッションオムニチャネルプラットフォーム(RFOP)」のアプリも入れた。店舗スタッフには「LINEワークス」に受注商品の通知が届くので取り置きする商品がすぐに分かる。出荷完了のボタンを押せば本部にも通知が届く。

これまでは、そうした工程をメールや電話で行っていた。店舗間の商品移動や問い合わせの時間をなくさないと店舗スタッフの業務負荷が増える。

店舗スタッフにできるだけ負担をかけない仕組みを構築した店舗スタッフにできるだけ負担をかけない仕組みを構築した

――年間どれくらいの店間移動が発生しているのか。

中嶋氏:当社では、客注として店舗からほかの店舗に動かしている商品が年間22万点あり、約2億5000万円の経費を使っていた。

――店舗出荷の対象店舗数は。

中嶋氏:当社は全国に約380店舗を構えているが、まずは200店舗でマイクロフルフルフィルメントシステムの運用を進める。

2022年、年内に店舗試着予約機能を実装計画

――自社ECに店舗試着予約の機能も実装する計画だ。

中嶋氏:「RFOP」を導入したので、年内をめどにスタートしたい。実は3年前からトータルロジスティクスコントロールの仕組みを、ゆくゆくは導入したいと考えていた。

倉庫に在庫を集め過ぎるとリアル店舗の在庫は薄くなってしまうため、店舗に在庫をしっかり持ちながらも機会ロスを減らすには店舗出荷しかないだろうと思い、さまざまなテストを行ってきた。

「RFOP」は楽天と共同開発

――楽天のシステムを選んだ理由は。

中嶋氏:自社でそうした仕組みをすべて開発するのは時間とコストがかかることもあって、何かの機会に楽天さんに相談させてもらい、より業界のインフラとして活用できるように共同で開発してきた経緯がある。

――店舗試着予約はECで決済をしてもらった上で、希望の店舗に取り置く形だ。

中嶋氏:当社では決済されていない商品は動かさないというポリシーだ。お客さまには事前に決済してもらうが、売り上げは試着予約を受けた店舗に計上する。

――OMO戦略の基盤が整った。

中嶋氏:システムを導入してもまだ3割で、残り7割のオペレーションが伴わないといけない。接客の中でスムーズに案内できるようにするのはもちろん、店舗出荷では商品を正確に、良い状態で届けられるようにするには商品のステータス管理も必要になる。エラーを出さずにオペレーションが回るまでのチューニングには労力と時間がかかる。

定価で売り切ることにチャレンジ

――今後の課題は。

中嶋氏:これからの世の中を考えたときに、無駄な販促費や不要な値引きをせず、定価で売り切ることにチャレンジしないといけない。従来型のセールを見込んだモノづくりはダメ。今期は約9割を定価で販売する設定でしか商品を作っていない

在庫量は減るが、それでも売り上げを下げないためには、機会ロスを削減することが大事で、どこかに在庫があれば販売できる仕組みを整えておくことがリアル店舗にとって武器になる。機会ロスを防ぎ、より少ない在庫でプロパー販売比率を高めていくことが、これからのファッションビジネスには不可欠な要素だと思う。

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