【全5回配信】デジタル戦略によって実現される、顧客経験価値の創造【2】事例(ルイヴィトン・ユニクロ)から見るエクスペリエンス・ポートフォリオ戦略の重要ポイント

エクスペリエンスデザイン戦略の一つの類型としてのエクスペリエンス・ポートフォリオ・デザイン戦略について説明します。
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エクスペリエンスデザイン戦略のタイプ

エクスペリエンスデザイン戦略は、以下の2つの要素によりタイプ分けされます。「エクスペリエンスの提供レイヤー」と「エクスペリエンスの性格」です。
「エクスペリエンスの提供レイヤー」(下図縦軸)は、個別のカスタマーエクスペリエンス(顧客体験)のレイヤーとそれらの集積による総合的カスタマーエクスペリエンスのレイヤーとに分けられます。
「エクスペリエンスの性格」(下図横軸)は、リアルのエクスペリエンスかデジタルのエクスペリエンスに区別されます。
上記の2つの要素の組み合わせにより、以下の3つの領域のエクスペリエンスデザイン戦略が考えられます。

◇エスクペリエンス・ポートフォリオ・デザイン戦略:

企業としての総合的エクスペリエンス提供のための複数のエクスペリンス(プロジェクト)の最適の組み合わせをデザインするための戦略

◇リアル・エクスペリエンスデザイン戦略:

個別のリアル・エクスペリエンスをデザインするための戦略

◇デジタル・エクスペリエンスデザイン戦略:

個別のデジタル・エクスペリエンスをデザインするための戦略

エクスペリエンス・ポートフォリオ・デザイン戦略とは

個々の顧客接点で提供するエクスペリエンスの集積からなる企業としての総合的なカスタマーエクスペリエンスを提供し、顧客との絆を深めていくためには、リアルとデジタル、それぞれの性格から成る複数のエクスペリエンスをどのように組み合わせて最適化していくべきかについての明確な戦略が必須となります。これが、エクスペリエンス・ポートフォリオ・デザイン戦略です。
エクスペリエンス・ポートフォリオ・デザイン戦略の目的を改めて整理すると、以下となります。

  1. 企業として提供する総合的なカスタマーエクスペリエンスを顧客にとって最も快適なものとし、顧客満足度と顧客ロイヤルティを最大化する。
  2. そのために、個々の顧客接点で提供するエクスペリエンスの役割を明確にする。
  3. 提供するエクスペリエンス間のシナジー効果を評価し、最大化する。
  4. 提供するエスペリエンスの優先順位を明確にし、エクスペリエンス提供のためのサービス構築等に係わる投資を効率化する。

以上の目的を達成するためには、既存のエクスペリエンスと新たに提供しようとしているエクスペリエンスをそれぞれの提供手段を構築するためのプロジェクトとして捉え直し、個々のプロジェクトを評価していくことが必要となります。エクスペリエンスプロジェクトの評価手順と評価視点は、以下となります。

手順1:戦略的適合性の評価

  1. 経営戦略/事業戦略/ブランド戦略に適合しているか
  2. ビジネスモデルに適合しているか
  3. 競合との差別化につながるか。

手順2:顧客との関係構築へのインパクトの評価

  1. ブランド認知、ブランドイメージ向上につながるか
  2. 顧客満足度/顧客ロイヤルティ向上につながるか
  3. 顧客との絆の強化につながるか。

手順3:他のエクスペリエンスとの親和性の評価

  1. 既存および、新規の他のエクスペリエンス(プロジェクト)との親和性はあるか。

手順4:効果発現までの時間の評価

  1. 具体的な効果が発現するまでのタイムスパンはどの程度か

上記の評価視点により、個々の候補エクスペリエンスプロジェクトを評価し、それぞれのプロジェクトの実施の是非と優先順位を決定します。

ルイヴィトンのエクスペリエンスデザイン戦略

150年の歴史をもつルイヴィトンは、ラグジュアリーファッションブランドの最先端を走ってきました。そして、現在は、ソーシャルメディアとモバイルデバイスの積極的活用により、デジタル戦略においてもグッチやシャネル等とともに最先端を走りつつあります。ルイヴィトンのFacebook page は233万人(2011年4月25日現在)のファンを有し、コーポレートブランドのファン数のランキングでは、グッチ(38位)、シャネル(46位)、ラルフローレン(58位)に続く67位となっています。Twitter(U.S. feed)は、19万人(2011年4月25日現在)のフォロワーを擁し、コーポレートブランドのファン数のランキングでは、142位になっています。ルイヴィトンのデジタルメディアマネジャーは、“デジタルは、ルイヴィトンの戦略のコアコンポーネント”と明言しています。この言葉に、ルイヴィトンのデジタル戦略に対する取り組み姿勢がうかがえます。ルイヴィトンのデジタル戦略の中心には、常にLouis Vuittonのブランドサイトがありますが、現時点でのルイヴィトンのデジタル戦略の特徴は、「旅」をテーマとした“The Art of Travel by Louis Vuitton”のコンセプトのもとにリアル、デジタルを融合した物語性のあるエクスペリエンスポートフォリオを展開していることです。以下がその概要です。ルイヴィトンは、Facebook pageをリブランディングした上で、Facebook pageを起点とする“The Art of Travel by Louis Vuitton”キャンペーンを展開しています。

旅をテーマとした展開は、Webサイトlouisvuittonjourneys.comとiTunes appでも行われています。

iTunes appは、Louis Vuitton Core Valuesが表題のPodcastで、その解説によると、このappは旅のコンセプトをエモーショナルな感覚で捉えるCore Values campaignの一環として、自己発見のプロセスとしてのパーソナルジャーニーを提供しています。さらに、The Journey of a Wardrobeのサイトでは、世界各地への旅をルイヴィトンが作りあげた独特の世界観の中で疑似体験することができます。

YouTube channel は、92万ビュー(2011年4月25日現在)を超えていますが、ここでもthe Journeysのテーマでのビデオが投稿されています。

以上の“The Art of Travel by Louis Vuitton” のコンセプトのもとでのルイヴィトンのエクスペリエンス・ポートフォリオ・デザイン戦略は、顧客との絆の強化につながる以下の特徴をもっています。

  1. ルイヴィトンブランドの潜在顧客である若い世代(ジェネレーションY)をターゲットとしている。
  2. 「旅」をテーマに大きな物語を語っている。
  3. ルイヴィトンブランドにまつわる夢を語っている。
  4. ルイヴィトンブランドに係わるライフスタイルを提示している。
  5. 上記を通じて、徹底してエモーショナルな感覚に訴えかけている。

一方、ルイヴィトンは、Facebook pageとiPad and iPhone appsのfashionshow.louisvuitton.comでファッションショーをオンラインでストリーミング配信しています。

ユニクロのエクスペリエンスデザイン戦略

ユニクロは、ギャップとともに、カジュアルファッションブランドにおけるデジタルエクスペリエンス戦略をリードしています。ユニクロの場合、以下の言葉にある柳井社長の明解な思想が、デジタルエクスペリエンス戦略に反映されていると考えられます。

    “ウェブの本質は、双方向性にある。企業の考えを伝えるだけではなく、世界中のユーザーが「いや、そうではなくて、こうだろう」と、一緒になってメディアを作っていく。もはや、「内」とか「外」とかの区別もなく、完全にボーダーレスな世界がやってくる。そこで我々のビジネスがどうなるのか、よくよく考えていかなければならないと思う。”
    “「良い商品」というだけでは、モノは売れない。お客さんに「良い商品だ」と思ってもらえて、はじめてモノは売れるのだ。だから、お客さんを説得させるためのプロジェクトを立ち上げることが必要だ。しかし、言葉だけで説得しようとすると、必ずエモーショナルな部分が抜けてしまう。最終的には、お客さんに対する熱意や感謝の気持ちといった「企業姿勢」そのものが「説得力」になるのだと思う。”
    「ユニクロ思考術」監修・柳井正 新潮社刊より

上記をもとに、ユニクロのデジタルエクスペリンス戦略の前提となる考え方を以下のように整理することができます。

  1. 「ウェブの本質は双方向性」にあるとの理解のもとに、インタラクティブなエクスペリエンスを徹底して提供する。
  2. エモーショナルに訴えかけるデジタルエクスペリエンスを追及する。
  3. そのために、既存の枠組みにとらわれず、新しいメディアをユーザーといっしょに作り上げていく。
  4. 商品そのものを通じてのリアルなエクスペリエンスを補完するデジタルエクスペリエンスを提供するプロジェクトを立ち上げ、推進する。

ユニクロのコーポレートサイトには、UNIQLO CREATIVE PROJECTとして、2006年以降の主要なデジタルプロジェクトが時系列で紹介されています。

ここで紹介されているプロジェクトを分析してみると、ユニクロのエクスペリエンスプロジェクトは、以下に挙げる特徴をもっていることが分かります。

1.リアルイベントとの連動

UNIQLO GRID(2007年11月リリース)は、欧州初のグローバル旗艦店・ロンドンオックスフォードストリート店のオープンに併せて制作されています。UNIQLO 88 COLOR(2010年4月)とCOLOR TWEET(2010年5月)は、上海の世界最大級の旗艦店のオープンに併せた企画となっています。

2.シリーズとしての展開

UNIQLOCKは、2007年6月にリリースされた第1弾から第6弾(2009年8月)までシリーズ展開されています。
UNIQLO CALENDERは、季節をテーマにSPRING(VOL.01)からWINTER(VOL.08)まで展開されています。
UNIQLO TRY(2008年5月)は、初回はブラトップを対象商品とし、UNIQLO TRY#2(2008年11月)ではヒートテックが対象商品となっています。

3.ソーシャルメディア活用・連携

MIX PLAY(2006年12月)は、YouTubeでも公開されました。
UNIQLOCKは、第3弾(2008年4月)からMySpace等のSNSと連携しています。
UNIQLO JUMP(2010年6月)は、Hatena、Flickr、YouTubeと連携しています。
SPORTWEET(2010年6月)、COLORTWEET!(2010年5月)、UTWEET!(2010年5月)は、Twitterと連動したプロジェクトです。

4.多デバイス展開

UNIQLOCKは、2008年10月にリリースされた第4弾からiPhone版を展開しています。
UNIQLO CALENDERは、iPhoneおよび、iPad版を展開しています。

上記の特徴から、個々のエクスペリエンスプロジェクトがユニークで創造的であるばかりでなく、リアルとデジタルを融合したエクスペリエンスプロジェクトのつながりによって、トータルのエクスペリエンスを提供するポートフォリオが形成されていることが分かります。
これが、ユニクロのエクスペリエンス・ポートフォーリオ・デザイン戦略であり、他社が簡単に模倣できない差別化の源泉になっていると言うことができるのではないでしょうか。

一方で、ユニクロは、Facebookの活用を加速しつつあります。ファンページのファン数は、UNIQLO JAPANが4.4万人(2011年4月25日現在)、WORLDWIDEで45万人と、グローバルブランドに比較して大きく出遅れていますが、ファンページには、UNIQLO INTRODUCTION、UNIQLOCK、UNIQLO CALENDER等の主要デジタルコンテンツへのリンクが張られ、Facebookを起点として活用していく意図がうかがえます。

また、2011年2月には、Facebookと連動したファッションコミュニティUNIQLOOKSを公開しています。同社のニュースリリースによると、以下がその概要となっています。

    “UNIQLOOKSは、大手アパレルブランドが手がけるウェブサイトでユーザー自身が投稿でき、写真をストックしたりコメントを書いたりとユーザー間でのコミュニケーションができる世界初のサイトです。ユニクロのグローバルコミュニケーション戦略の一翼を担い、これまでのユニクロのWebマーケティングをさらに進化させたものとなっています。”
    ニュースリリース(2011年2月17日付)より

さらに長文ですが、同じニュースリリースで説明されている同社のWebマーケティングへの取り組みの考え方を以下に引用します。

    “ユニクロWebマーケティングは新たなステージへ:
    ユニクロは、ブログパーツ/スクリーンセーバーの「UNIQLOCK」、Twitterやmixiと連動した「UNIQLO LUCKY LINE」など、数々のWebマーケティング施策に取り組んできました。これまでの施策でユニクロが学んだこと。それは言語の制限に縛られることなく一瞬でその魅力が伝わる「コンテンツのチカラ」です。また、SNSの急激な進化と発展を機にユニクロは「Power of People to People(P to P、人から人へと伝えるチカラ)」というコンセプトにたどり着きました。情報過多の時代だからこそ、商品の作り手からの一方的なメッセージや不特定多数の知らない人による検索ランキングのような情報ではなく、「知り合い」や「友達」からの情報こそが信用されます。
    「UNIQLOOKS」はユニクロの考える"Made For All"を実現すべく、「コンテンツのチカラ」と「P to P」を融合させた新たなWebコミュニケーションとなっています。”
    ニュースリリース(2011年2月17日付)より

UNIQLOOKSは、ユニクロのエクスペリエンス・ポートフォリオ・デザイン戦略において、ユニクロの考える「Power of People to People(P to P、人から人へと伝えるチカラ)」というコンセプトを実現するためのメディアとして非常に重要な役割を担っていると考えられます。

グローバル展開をますます加速しつつあるユニクロが、今後、Facebookをプラットフォームとしてのエクスペリエンスデジタル戦略の展開を本格化していくことは確実と考えられます。そして、UNIQLOOKS等の新たなメディアを通じて、人々の情感に訴えかけるより豊かなカスタマーエクスペリエンスの提供を目指してチャレンジを続けていくのではないでしょうか。

 

■本コラムの元記事はこちら
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株式会社マイクロウェーブは、Webを活用した事業戦略立案、マーケティング、
Webサイト構築、Webシステム開発から、スマートフォン/タブレット用アプリ
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HP: http://www.micro-wave.net/

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