データ計測にもガバナンスを! SUBARUが有償版Google アナリティクス 4で実現したデータ計測・分析統合基盤とは

自動車メーカーの「SUBARU」が取り組むWeb統合基盤の構築。インフラ、CMSの次に取り組んだのは「データ計測・分析」環境だった。
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企業規模が大きくなるほど、ブランドサイト、国内販売会社、関係会社のWebサイトなど、関連サイトが乱立し、しばしば統制がとれなくなってくる。独自の技術力を武器に、フォレスターやインプレッサなど安全性とデザイン・機能性を両立させる自動車メーカーの株式会社SUBARU(スバル、以下SUBARU)でも、関連サイトが200以上存在し、Webガバナンスが課題となっていた。

そこでSUBARUは、2021年から、Webサイトの全体最適化およびリスクマネジメントを目的としたWeb統合基盤の構築に取り組みはじめた。まずはインフラ基盤、続いてCMSを刷新したSUBARUが次に着手したのが、「データ計測・分析」基盤の統合だった。デジタルマーケを支援するアユダンテのサポートを受けながら、Google アナリティクス 4(以下GA4)の有償版であるGA360を活用した計測・分析基盤の構築を進め、データ計測の一元化を実現した。

本記事では、本プロジェクトをリードするSUBARUの荒木孝充氏、迎俊博氏に、目指した計測・分析基盤のかたちやプロジェクトの進め方、苦労したポイントまで詳しく聞いてみた。

荒木孝充氏、迎 俊博氏
(右から)SUBARUのWebガバナンス活動をリードする荒木孝充氏、迎 俊博氏

200以上の関連Webサイトがバラバラに運用されていた

まずは、Web統合基盤を構築する前のSUBARUの状況を確認していこう。SUBARUのWebサイトは、以前はほぼIT部門を介さず、各事業部や広報・マーケティングの各部門、国内販売会社、関係会社など各々が運営していた。そのため、国内だけでWebサイトやアプリが200以上存在し、Webサイトごとに、サーバー構築からCMS選定、計測・分析まですべてバラバラに行われていた。

Webサイトに関するルールがなく、各部署、部門がそれぞれで運用していました。部分最適はできていたものの、セキュリティレベルや制作ルールがサイトによって異なり、運用やメンテナンスが制作会社任せになっているサイトも多くありました(荒木氏)

荒木孝充氏
株式会社SUBARU IT戦略本部 ITインフラ部 Webガバナンスグループ 主査 荒木孝充氏

すでに各チームでバラバラに運用されているものに、後からガイドラインを策定し、共通化や意識統一をすることは不可能に近い。そこで、先に共通のWeb統合基盤を構築し、そこに全サイトを集約していくという方針を選択した。

この取り組みをリードしたのが荒木氏の率いるバーチャル組織「Webサイト運営事務局」である。荒木氏は2009年にSUBARUの子会社であるスバル・インテリジェント・サービス株式会社(SISL)に入社、Web制作の仕事を担当する中で、SUBARUのWebガバナンスの活動を開始、Webサイト運営事務局を立ち上げ、Web統合基盤の構築に着手した。そこに2022年から迎氏がジョインした。

迎 俊博氏
株式会社SUBARU IT戦略本部 ITインフラ部 Webガバナンスグループ 迎 俊博氏

Web統合基盤を構築し、全グループのWebサイト集約化を目指す

SUBARUのWebサイトに共通基盤があれば、インフラやCMSを統合し、セキュリティ対策や基盤メンテナンスなどもWebサイト運営事務局で一手に引き受けられる。各部門はコンテンツのみに集中すればよく、コスト削減効果も見込める。

そこで、まず、CMSを含めたインフラ基盤を統一することにより、アップデートやメンテナンスを一元管理できるようにした。CMSを統一しておけば、問い合わせフォームなどの動的コンテンツを独自に構築する必要がなくなり、セキュリティ対策にもなる。さらに、CMSのアカウントで権限管理ができるので、誤ったコンテンツ公開などのインシデントも防げる。必要があれば、セキュリティ基準をクリアしたSaaSを導入できるなど、柔軟性も確保した。

2020年から、Web統合基盤の構築を開始し、2024年現在は、全体の半数以上のWebサイトが基盤に移行済み、残りは、サイトの統廃合なども交えながら段階的に移行を進めている最中だという。

そこで、次の一手として取り組みを開始したのが、Webサイトのデータ計測・分析におけるガバナンスである。ちょうど、「ユニバーサルアナリティクス」から「Google アナリティクス 4」に切り替わるタイミングで着手した。

統一されていなかったアクセス解析ツール

統合以前は、Webアクセス解析もWebサイト単位で独自に行われていた。SUBARU社内では以前から有償版のGA360を採用していたが、利用部門のうち、その中の一部門が契約や費用負担をしていた。一方で、国内販売会社や関係会社では、無料のユニバーサルアナリティクスが使われているケースが多かった。

バラバラに運用されているため、きちんと設定して運用できている会社もあれば、できていない会社もあり、会社によって情報格差がありました(迎氏)

社内はすでにGA360を運用していましたが、一部部門での利用に留まっていました。そこで、グループ全社での利用を目的に、Webサイト運営事務局が管理を申し出て、承認されました(荒木氏)

また、広告運用に必要な広告タグについては、「Google タグ マネージャー(以下、GTM)」を使っていたが、これまでWebサイト運営事務局は関わっていなかった。そこで、運用体制についても見直しを行い、複数の企業に提案をしてもらった結果、アユダンテに決めたという。

アユダンテを選定した理由は、移行コストに手厚いサポートが含まれており、今まで自分たちで対処していた課題を相談できることに安心感がありました。さらに、移行後においても定期的に社内勉強会を開催してもらえるということも決め手になりました(荒木氏)

「統合」「個別」の計測・分析を両立できる環境を目指す

GA4に切り替えるタイミングで、SUBARUグループが立てた、計測・分析に関する方針はどのようなものだったのか。

目指したのは、グループ全体を統合して計測・分析できるだけでなく、各サイト個別の項目についても計測・分析できる環境です。GA4だけでなくGTMについてもグループ全体の設計を考えていく必要がありました(迎氏)

SUBARUが目指した計測・分析環境は、「統合」と「個別」を両立できる環境

有償版GTM360の「ゾーン」機能を活用

「統合」と「個別」の計測・分析の実現にあたっては、全サイトにSUBARUグループの統合計測タグを入れると同時に、各サイトがこれまで運用してきた広告タグ、解析タグなどを併記しなければならない。これを実現するには有償版のGTM360の「ゾーン」機能が必須だった。

「ゾーン」機能は、有償版GTM360限定の機能のため、利用には有償版のGA360を契約している必要がある。この「ゾーン」機能を使うことで、SUBARUグループの統合計測タグの中に、入れ子のような形で各社の個別計測タグを設定でき、統合と個別のタグを共存させられる。こうすることで、Webサイト運営事務局は統合レポートを、各社は個別レポートを確認できるようになるのだ。

GTM360の有償版の「ゾーン」機能を活用し計測環境を構築

GA360の「サブプロパティ」で権限管理

もちろん、部門ごとのサイトは、担当者も制作会社も異なるので、それぞれ必要なサイトのレポートのみにアクセスできるようにする必要がある。そこで、GAの有償版である「GA360」の「サブプロパティ」機能によって権限管理を行った。

レポートや分析環境は、SUBARU社内と国内販売会社・関係会社に分けて管理しています。各部門は、全体のレポートよりも、自分に関係のある部分のレポートだけを見たいでしょう。そこで、SUBARU社内では、レポートにサブプロパティを付与して、Webサイト運営事務局は全体レポートにアクセスでき、各部門は個別レポートにアクセスできるようにしています(迎氏)

GA360の「サブプロパティ」機能によって権限管理

有償版であるGTM360とGA360を契約したのは、主にゾーンとサブプロパティ機能の利用のためだが、他にも、SLA(Service Level Agreement:サービス品質保証)があることや、SLAにGoogleのサポート機能が含まれているといった点も評価しているという。

Cookie許諾とGTMとの連携設定、裏側の苦労

統合にあたって、もう一つの懸念点が、Cookieデータの収集にあたっての同意を管理する「Consent Management Platform(同意管理プラットフォーム、以下CMP)」とGTMとの連携である。

訪問者の同意が得られなければ、GTMのタグを有効にしてはいけないため、制御する必要があります。以前は独自のやり方で実装していましたが、アユダンテから「その方法はGoogleが推奨していないやり方であり、SLAの対象外になる」と忠告を受けたため、ゾーンを使って実現するように方針を変更しました(迎氏)

しかし、国内販売会社や関係会社のサイトに、ゾーン機能によるタグの挿入を実装するのも苦労があった。もともとタグを挿入していなかったサイトは、新規でタグを追加すればよいだけなので簡単に設定が完了したが、その一方で、すでにタグを導入している企業には、変更する理由を説明し、一社一社説得しなければならない。

世の中の動きとして、Cookieの同意管理はしていかなくてはいけません。そこで、「CMPを使って制御するためにゾーン機能を使うんですよ」と、GTMで管理する理由を説明し、作業はこちらで実施すると伝えて納得してもらっています(荒木氏)

基盤移行のメリットを丁寧に説明し、乗り換えを促進

こうして、統合基盤への移行を推し進めてきたものの、それでも、乗り換え費や移行後の運用費などの問題で、まだ統合基盤への移行が難しい会社もいる。特に、それまで独自のCMSを使って構築しているサイトほど、移行にコストがかかってしまう。

経営層に対しては、セキュリティ対応や法規対応のためのWeb統合基盤の必要性を伝えています。これまで分散管理をしていて費用がかかっていた分、統合することでコスト削減ができ、ガバナンスを効かせられるのは大きなメリットだと思います。

IT戦略本部の中期計画で、「ITガバナンスと標準化に注力すること」が明記されているので、会社として向かっている方針はこちらですよ、という伝え方をしています(荒木氏)

基盤移行のメリットのひとつとして、SUBARUが契約している有償版のGTM360とGA360を利用できること、SLAがあることも伝えて、移行を促しているという。

社内コミュニティで理解度を底上げ、他社との知見共有も

こうして、SUBARUグループのWeb統合基盤が整い、GA360、GTM360で「統合」「個別」の計測・分析ができるようになった。今後は人材育成にも力を入れていく予定だという。

全体の整備が進んできたので、これからは多くの人が徐々に活用していくフェーズに移りたいです。これまでは、誰がどのサイトを管理しているのか、分析しているのかもわかりませんでしたが、統合していくことで把握できるようになってきました。今後は担当者のWeb解析の理解度に応じて、教育を実施していきたいですね。アユダンテの教育サポートに期待しています(荒木氏)

今後、Webサイト運営事務局にアクセス解析に関する相談が増えてくれば、活用が定着しつつある証左となる。実際に、最近、Webサイト運営事務局に初めて解析に関する相談が寄せられたという。今後、多くの担当者がアクセス解析をするようになると、Webサイト運営事務局では対応しきれなくなる可能性が高い。

そこで荒木氏が考えているのが、「担当者同士で相談しあえるコミュニティ」の形成だ。Webサイト運営事務局がコミュニティの管理人となり、担当者同士で質問・解決ができるようになれば、大きく工数を割くことなく全体の底上げができる。

今後は、人材採用も強化していきたい考えだ。迎氏は、「Webガバナンスは領域が広く、対応すべきことが増えているので、新しいことにチャレンジする意欲のある方はマッチすると思います。興味がある方はお問い合わせください」と呼びかけた。

Webガバナンスの活動はお手本となる事例が少ないですし、教科書もありません。他社がどう取り組んでいるのか、会社の垣根を超えてWeb担当者同士で相談しあうことが勉強になります。先日もCMPの自主的な勉強会を開催しました。やればやるほど新しく取り組むべき事柄が増えていくので、悩んでいる企業の方と情報交換をしていきたいです(荒木氏)

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