IoT時代のエクスペリエンス・デザイン

エクスペリエンス × IoTによる地殻変動で、マーケティングのランドスケープも大きく変化する

エクスペリエンスの予測と提案のメカニズム――ビッグデータ活用とアナリティクスによるエクスペリエンスの創出
このコーナーでは、書籍『IoT時代のエクスペリエンス・デザイン』の一部を特別公開しています。
書籍の 第1章「エクスペリエンス×IoTで何が変わるか」 の 「〈解説〉エクスペリエンスの予測と提案のメカニズム」 より

〈解説〉エクスペリエンスの予測と提案のメカニズム

ビッグデータ活用とアナリティクスによるエクスペリエンスの創出

IoTとは、コンピュータなどの情報端末や通信機器だけでなく、世の中に存在するさまざまなモノ(自動車、家電製品など)に通信機能を持たせ、インターネット経由で相互に通信することにより自動認識や自動制御、遠隔計測などを行う仕組みのことだ。IoTという名の「破壊的イノベーション」が今、エクスペリエンスそのものの持つ意味を変え、お客さまの生活にも大きなインパクトを与えようとしている。

エクスペリエンスは「場」から「時間」へ。〈エピソード1〉自動運転サービスで見たように、IoT時代、お客さまのエクスペリエンスは行動データの形でインターネットを経由して集積され、他のビッグデータとともにクラウド上のAIで解析され、最終的に近未来の予測と改善提案の形でお客さまへフィードバックされるということが繰り返されて行く。つまり、データを媒介にして、お客さまのエクスペリエンスの「過去」「現在」「未来」が意味のある一本の線でつながっていくのである。

理解を深めるために〈エピソード1〉で題材にした自動運転について、このサービスを下支えしているメカニズムとお客さまであるドライバーのエクスペリエンスの関係について詳しく見て行こう。

自動運転の進化レベルは、以下のように5段階に分類して考えるとわかりやすい。〈エピソード1〉では〈レベル5〉予測と改善提案によるソーシャルレベルでの最適化、という自動運転サービスのゴールのレベルを想定している。

一般に本格的な自動運転と考えられ、エクスペリエンスに大きな影響を及ぼすのは2016年現在、実用化に向けてチャレンジが続いている〈レベル3〉一般道路での概ね自動化、よりも上位のステージである。

〈レベル1〉制御(ブレーキ)だけの自動化

加速(アクセル)、操舵(ハンドリング)、制御(ブレーキ)のいずれかを自動車が行う状態。制御(ブレーキ)では衝突防止のためのブレーキシステムの開発などですでに実用化が進んでいるものの、ヒューマンエラーを機械が補うというパッシブな意味合いが強い。

衝突や追突のリスクは軽減されるものクルマの運転はドライバーにとって移動のための「肉体的、精神的な作業」であり、常に視覚、聴覚、判断力、集中力、それから主に手と足の筋力が必要とされるという状況は変わらない。

〈レベル2〉高速道路での一部自動化

加速(アクセル)、操舵(ハンドリング)、制御(ブレーキ)の複数の操作を自動車が行う状態。主に高速道路での使用を前提して実証実験が進んでいる。一定速度を維持するクルーズコントロールに衝突防止のためのブレーキシステムを連動させたアダプティブ・クルーズコントロールのシステムであれば、現在でも加速(アクセル)と制御(ブレーキ)の自動化は実現できている。

ただし、操舵(ハンドリング)はドライバー自身が行わなければならない。ドライバーが運転席という「場」に拘束されている点は手動運転と変わらないとも言える。もっとも長距離の運転ではドライバーや同乗者の多少の疲労軽減にはつながるだろう。

2015年1月に国土交通省から日本国内で初めて認可を受けたのは、米テスラモーターズである。自社の電気自動車テスラ モデルS向けに提供を開始した自動運転ソフトウエアでは、高速道路・自動車専用道路で自動運転が可能な「オートパイロット」、「オートパイロット」中にウインカーを出すと自動で車線変更してくれる「オートレーンチェンジ」、縦列と直角の駐車が可能な「オートパーク」の3つの自動運転をカバーしている。「オートパイロット」中にもステアリングに手を置くことが前提だが、ステアリングマークが表示されるとハンドルから手を離しても自動走行できるという。

〈レベル3〉一般道路での概ね自動化

加速(アクセル)、操舵(ハンドリング)、制御(ブレーキ)をすべて自動車が行い、緊急時のみ運転者が対応する状態。高速道路だけではなく一般道でも利用可能である。2013年11月9日に国会周辺で国内の自動車会社3社(トヨタ、ホンダ、日産)による公開実証実験が行われ、安倍首相が順々に3社の自動運転車の助手席に座って試乗した(この動画はYouTubeで観ることができる)。

自動運転車の外見は市販されているクルマとほとんど変わらないが、実は見えない部分に自動運転を可能にする最先端テクノロジーがぎっしり埋め込まれている。人間の目の役割をする多機能カメラ、360度の視野で前後左右の障害物を監視するサラウンドビューカメラシステム、GPSと連動して道路に引かれた車線(レーン)まで正確に把握する高精細地図、遠距離監視レーダーなどである。

これらのデータはセントラルゲートウエイで一元管理され、瞬時に判断を下すために自動運転コントロールユニットに送られる。

YouTube上の実証実験映像を観る限り、現時点ではドライバーはハンドルから手を離しても良いものの、不測の事態が起きた時にはすぐにハンドルが握れる状態にあることが義務づけられているようだ。この状態ではむしろドライバーにとって通常の手動運転よりも心理的な負担は高まると想定され、快適なエクスペリエンスを提供できているとは言い難い。

〈レベル4〉スタンドアローンでの完全自動化

加速(アクセル)、操舵(ハンドリング)、制御(ブレーキ)をすべて自動で行い、ドライバーが運転にまったく関与しないシステム。

グーグルは2012年からトヨタ・プリウスをベース車両にしてカリフォルニア州の市街地で実証実験を行ってきた。そして、2014年5月にはハンドルやブレーキのないオリジナルの試作車(プロトタイプ)を発表し、世界を驚かせた(これら一連の動画もYouTubeで観ることができる)。2016年1月現在は、自動運転車の大敵である雪の状況を想定して、冬季の走行テストを実施している。大雪の状況では、道路の縁石やセンターラインが物理的に見えなくなってしまうため、多機能カメラやサラウンドビューカメラを使って微妙な位置の確認ができなくなるケースが想定されるからだ。

開発の当初からグーグルが目指すのは高齢者や重度の身体障害者といった、物理的にクルマを運転することが困難な人を目的地まで運ぶ乗り物である。しかしながら、これまで自動運転車には理解を示して来たカリフォルニア州車両管理局が2015年12月末、自動運転車には「自動運転車運転免許証」の取得者が乗車することを義務づけると発表、思惑が外れたグーグルとの間でちょっとした物議を醸している。万が一、自動運転車が事故を起こした場合、その責任の所在はどこにあるのか、という法的な問題がクリアにならない限り、規制か緩和かという議論は尽きないだろう。

日本では、内閣府が地域限定で規制を緩和する国家戦略特区の事業として、2016年1月から神奈川県藤沢市で自動運転タクシーの実証実験を始めることを発表した。自動運転タクシーの事業化を目指すDeNAの子会社、ロボットタクシーが実験に参加する。モニターとして参加する住民50人を自宅周辺から幹線道路を走り、3キロメートル先のスーパーまで送迎する。

安全面を考慮して自動運転タクシーには2名の乗務員が乗車し、不測の事態が起きた場合は乗務員が運転して危険を回避するという念の入れようである。2020年の東京オリンピック・パラリンピックまでの実用化を目指す、と言われている。

いずれにしても、〈レベル4〉では、ドライバーが運転席という「場」から解放され、加速(アクセル)、操舵(ハンドリング)、制御(ブレーキ)という一切の「肉体的、精神的な作業」との関与がなくなることで、自動車での移動時間が周囲に気兼ねをせずに研究や創作活動に没頭したり、自分だけのエンターテインメントを楽しんだりする「時間」に変わる可能性が高い。

夜の東京を巡りながら趣味の曲づくりのためにインスピレーションを得るための時間を作る、仲の良い友人と桜の名所を巡りながらカラオケパーティをして楽しい時間を過ごすなど想像は拡がるだろう。

〈レベル5〉予測と改善提案によるソーシャルレベルでの最適化

〈レベル4〉の状態に加え、クルマに搭載された通信モジュールを介して、リアルタイムでクラウドと情報のやり取りをしたり、近くを走るクルマ同士で通信したりすることが可能になる。

クルマから集められた情報はビッグデータとしてほぼリアルタイムでクラウド上のAIに集約され、解析(アナリティクス)されて、「次はこうなるはず」(将来予測的な分析)、「次はこうすべき」(改善提案的な分析)といった形で瞬時にクルマにフィードバックされる。しかも、AIには学習能力もあるので、時系列的にその予測や提案の精度は高まって行く。〈エピソード1〉で見た渋滞発生直後での代替ルートの提示は典型的な事例だろう。

自動運転〈レベル5〉の近未来の予測や改善提案を支えるシステムは「クルマ」「AI」「地図」それから「クルマ」と「AI」のデータのやり取りに対して外部からの不法な侵入を監視する「セキュリティ」の4つの要素からなる。これらの要素がOSプラットフォーム上で統合的に連繋して初めて意味を持つものになる(図2参照)。

自動運転<レベル5>予測や改善提案を支えるシステム:クルマ・AI(クラウドサービス)・地図 自動運転アプリケーション(OSプラットフォーム) アプリケーション 自動停止プラットフォーム OSカーネル ハードウエア センサー ストリームコンピューティング ビッグデータ アナリティクス インフラストラクチャー サービスプラットフォーム 最新の地図データ 駐車場情報 ロケーションベースサービス リアルタイムトラフィック 先進運転支援システム付加情報 安全なモバイルIPネットワーク セキュリティ デジタルマップ

さらに深く見て行くと、自動運転サービスにおいて〈レベル5〉予測と改善提案によるソーシャルレベルでの最適化、が実現した場合、その目指すところは個人のエクスペリエンスの充実だけにとどまらない。交通事故の撲滅、渋滞の解消、省エネルギーや有害な排気ガスの削減など、AIのさらに積極的な関与によって、全体最適の形でソーシャルレベルでの豊かなエクスペリエンスの実現が同時に達成されることになるだろう。

たとえば、ドイツのダイムラーは商用トラックの自動運転車の開発を真剣に進めていることが知られている。今後、オムニチャネルの規模が拡大した時に円滑なロジスティックスをどうやってオペレーションするかは社会的に大きな課題になる可能性が高いが、自動運転車はその有力なソリューションのひとつになり得るはずだ。また2016年1月には学生らスキー客を乗せた深夜バスが速度超過で横転し多数の死者を出すという痛ましい事故が起きたが、もし仮にこのバスが自動運転で運行されていたとすれば、運転手の経験不足や操作ミスによる事故のリスクがなくなるばかりか、安全でなおかつ渋滞のないルートを選択して走行する、ということもできたはずである。交通事故は現在でもなお大きなソーシャルの課題のひとつであるが、同時にIoTの導入によって解決の筋道が明確に見えている課題でもある。

そういった意味合いでは、自動運転に代表される、IoTによる新たなエクスペリエンスの創出についてはソーシャルの課題解決を優先的なテーマとして、「AI」を中核にした業界横断的でオープンな提携が前提になって行くだろう。自動運転を実現するための、「AI」以外の他の主要3要素、「クルマ」「地図」「セキュリティ」との統合運用をわざわざ妨げるような形で複数のタイプのスタンダード(共通基盤)が乱立、群雄割拠するような状況は考えづらい。なぜならば〈レベル5〉の自動運転を実現するために「クルマ」「AI」「地図」「セキュリティ」4つの構成要素は相互補完性、相互依存性が共に高いひとつのサービス・パッケージであり、シームレスに連繋してこそ初めて高いシナジーを生み出すものであるからだ。

最終的には1グループ、もしくは多くても2~3グループによるグローバルスタンダード(共通基盤)の成立という未来予想図が見え隠れする。

「エクスペリエンス × IoT」によるマーケティングの地殻変動は、実現のタイミングにタイムラグはあるにせよ、自動運転サービス「以外」の分野でもお客さまのライフスタイルを次々に進化させて行き、結果、マーケティングのランドスケープも大きく変わることになる。

『IoT時代のエクスペリエンス・デザイン』

  • 著者:朝岡 崇史(電通 エグゼクティブ・コンサルティング・ディレクター)
  • 定価:本体1,500円+税
  • 発行:ファーストプレス
  • ISBN:978-4904336946

企業が立ち向かうべきもの

デジタルのテクノロジーの進化では泣く、お客さまの気持ちや行動の変化、つまりエクスペリエンスそのものの進化である。

企業はIoTに適応する前提として、マーケティングを企業主語の発想からお客さま主語の発想へと転換しなければならない。これは同時に、組織運営や企業文化の刷新を含む、大がかりな改革(企業の体質改善)を意味するのである。

エクスペリエンスは「場」から「時間」へ

生き残りのために、すべての企業はIoTで武装したハイテク企業へと業態を変革する必要に迫られる

もはやモノとモノの戦いではない

既存のサービス業はもちろんのこと、すべての製造業は新しい形のサービス業へと形を変える。

AIによるビッグデータ活用とアナリティクスにより、お客さまの近未来のエクスペリエンスの予測と改善提案が企業のサービスの根幹として提供され続けることになる。

いずれにしても変化の激しいマーケットでは市場の競争ルールをその手にしたものだけが生き残るのだ。

エクスペリエンスとエクスペリエンスの戦いになる

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