失敗しないWeb制作 プロジェクト監理のタテマエと実践

PMBOK思考を組み込むとWebサイト制作はどう変わるか | 書籍『失敗しないWeb制作』特別公開(3/4)

PMBOK思考を仕事に組み込むと、Webサイト制作はどう変わるのか聞いた。
失敗しないWeb制作 プロジェクト監理のタテマエと実践
この記事は、書籍 『失敗しないWeb制作 プロジェクト監理のタテマエと実践』 のChapter 4 「Talk Session SIDE A Webを運用する事業者からみた"PMBOK視点のススメ"」を、Web担の読者向けに特別に公開しているものです(本書について)。

話者の増井氏についてはWeb掲載の第1回をご覧ください。

PMBOK思考を組み込むとWebサイト制作はどう変わるか

増井 ■ 現在、PMBOK思考や実践ができているWebサイト制作会社は、ほとんどないように感じます。なぜないのかというと、発注する企業側にもその意識がないからです。発注者側が要請しなければ、そうした思考がなくても仕事ができてしまうからです。でも弊社と仕事しようとする皆さんは、PMBOKの考え方を知っておく必要がありますね(笑)。

みどり ■ システム開発業界やソフトウェア開発の業界では、PMBOKはもっと浸透していますか?

増井 ■ プロジェクトマネジメントのフレームワークはPMBOKだけではないと思いますが、SEであればその考え方を勉強しています。弊社の場合、1万5000人くらいのグループ企業の社員の中で、3分の1、つまり5000~6000人程がSEです。残りの3分の2の方も、その名前や内容を知っているかは別として、日々の業務でプロジェクトマネジメントの手法に触れていますし、なかには勉強している人もいるでしょう。

みどり ■ なるほど、そのような企業文化だからこそ、PMBOKの重要性も受け入れられていることに納得しましたし、運用されていった経過を伺っていくと、ぜひ積極的にマネできる場所はどんどんマネするべきだと思えてきます。

増井 ■ 実際に私が以前コンサルティングを担当した企業では、今日お話しているようなことをコンペで提案し、採用されました。その会社は流通関連の会社で、Webの専任部署はなく事業部門や広報が会議体で運用していました。デザインも古くいろいろと問題があったのでリニューアルすることになったのですが、やはり弊社のようには専任部署は作れないので、担当者でプロジェクトチームとしてのWeb管理部門を作りました。弊社と同じような7つのひし型をベースにしてガイドラインも作成し、運用することになりました。

みどり ■ 7つのひし型は、汎用性も高いのですね。このリニューアルによって、その流通関連の会社が達成した最も大きな問題解決は、どのようなことでしょうか。

エビデンス

証拠、根拠。システムが正常に動いていることを示すもの。

増井 ■ みんなが同じガイドライン(ルールドキュメント)にのっとって仕事できるようになったことです。きちんとワークフローを回せばエビデンスとして残っていきます。

みどり ■ 仕事がやりやすくなったのでしょうか?

増井 ■ やりにくくなった部分もあるかもしれません。最初は面倒くさいと思うところもあると思います(笑)、慣れていないわけですから。

みどり ■ Webサイト制作を受注する立場からの疑問になりますが、このような仕事を行なう際、最終的な成果の判断は、どこでされると考えればよいでしょう?

Webサイト制作の場合、1ページのなかの1文字を更新をしてくださいと言われたときも、同じプロセスになると思うのです

増井 ■ それはまたPMBOKの基本になると思いますが、リニューアルをはじめるときに、何をもって成功とするかを決めなければなりません。目的とは、リニューアルすることではなく、リニューアルによって何を変えたいのかです。それを聞かなければ制作もコンサルもできないはずです。外部評価でも、アクセス数でも、何でもよいと思うのですが、目的のイメージが何もないのに発注はできないはずです。RFP(提案依頼書)を書くためには最初にプロジェクトの目的が定義ができていないとダメでしょう?

みどり ■ 現状では成果尺度を最初に決めずにスタートするプロジェクトがあまりにも多いように思います。たとえば、発注者がRFPを書いてくれない、どのようなことを求めているかがわからないといったことすらあります。そして進行している内に、RFPで書かれておくべきだったことがバラバラ出てくるという経験もあります(笑)。

増井 ■ 発注者自身が完璧なRFPを書けなければダメということはありませんが、確かに、制作者としては「何か」言ってほしいですよね。依頼したいからには、課題はゼロではないはずだと思うので…。

Web担当者や発注者の方が認識するべきなのは、自社サイトをどういうWebサイトにしたいかは、制作会社にはわからない、ということです。発注する立場として、発注の意図を明確に伝えることを常に意識しなければなりません。それがすべてと言ってもよいと思います。

たとえばユーザビリティが大事だという場合、プロダクトごとに自由気ままなとんがったWebサイトはできません。そういった説明も何もなく、「好きにしてください」というオーダーをすると、クリエイティブの人は自由に作ってしまうので、できたものを見て「違います」と言うことになるでしょう、それでは困りますね。「Flashを使ってもいいけど、アクセシビリティを担保したい」と伝えれば、必ずHTMLの代替サイトを作らなければならない、動画を載せるときにも「動画のキャプションを入れる」など必要なことを最初に伝えなければなりません。

Canon.jpの場合は、対外的にアクセシビリティについて守るべきものを宣言しているので、動画を使用したプロモーションサイトを作る場合も、それを補完するHTMLのプレーンなWebサイトを作るよう依頼しています。だから当然コストもかかるし、制作の手間と時間もかかります。納期が決まっているのであれば前倒しで考えて制作してもらいますし、守れないのであれば発注はしません。

みどり ■ 明確にそこまできちんと落とし込まれていればいいのですが、発注時に制作者も発注者もあいまいな場合がありますね。

増井 ■ そうだと思います。面倒ですが明確にすべきです。「何でもいい」と言われるほうが制作者としてはつらいのではないでしょうか。

実際の現場で、このプロセスを意識していないばかりに、仕事を分解せず、「修正しました」と流してしまうのはダメですね
失敗しないWeb制作
  • みどりかわえみこ 著
  • 定価:2,600円+税
  • ISBN:978-4-86267-127-1
  • 発行:ワークスコーポレーション

『失敗しないWeb制作 ~プロジェクト監理のタテマエと実践~』

この記事は、書籍 『失敗しないWeb制作』 の内容の一部を、Web担向けに特別にオンラインで公開しているものです。

Webディレクションをめぐる知識やスキルセットは、さまざまなセミナーで議論されるホットなアジェンダです。本書は、Web制作のプロジェクトマネジメントに特化してキャリアを重ねてきた著者のノウハウを凝縮し、「効果的な仕事の進め方(計画、レビュー、チェック)」にフォーカスを絞り込んだ内容となっています。

下敷きにしたのは、プロジェクトマネジメントの知識体系PMBOKです。ただし、PMBOKに限らずフレームワークの多くは、よほど実経験の中で研鑽を重ねない限り血肉化しません。そこで、著者の体験をもとにしたプロジェクトでの実践方法を解説しています。

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