第三者配信で見える化されたユーザーの態度変容とシナリオの再設計
第三者配信で見える化されたユーザーの態度変容とシナリオの再設計
第三部に登壇したのは、大和ハウス工業 総合宣伝部デジタルメディア室長の大島茂氏。同社では2012年1月から、MediaMindを活用した第三者配信にいち早く取り組んでいる。
大島氏は、「第三者配信によるアトリビューション効果の見える化事例」をテーマに、第三者配信を活用するための運用体制構築や、運用の成果・課題について、具体的な数字を交えて説明した。
まず第三者配信を行うにあたってのチームづくりだが、大島氏は「第三者配信を行うとものすごい量のローデータ(生のデータ)が手に入る
」と強調する。このデータを活用するために大島氏は、「代理店に丸投げするのではなく、インハウスでの共有体制の構築が重要」だと考えた。膨大なデータ解析に対応するとともに、解析結果をマーケティング施策の改善に生かしていくためだ。
大和ハウス工業の場合は、宣伝部、情報システム部門、大和ハウスグループで広告代理事業を行う伸和エージェンシーの三者で運用体制を設けている。
第三者配信によっていろいろなデータが見えると、広告以前にコミュニケーションのシナリオそのものが不十分であることがわかってきます。広告のクリックやコンバージョンの数値を良くするという話ではなく、サイト全体を作り替えるなど、自社の事業も深く理解したうえでの改善につなげなければならない。そうしたノウハウを社内に蓄積するためにも、インハウスでの体制構築が重要です。
業務を担当するスタッフに必要なスキルとしては、統計処理とITの両方に通じていることが挙げられた。最新テクノロジーを理解するためのチャレンジ精神も欠かせない。また、技術だけでなく、独自に情報を得るためのコミュニケーション能力も必要だという。しかし、すべてのスキルを備えている人はまずいないため、組織対応が重要だと大島氏は話す。
大和ハウス工業では、データの解析ツールとして、カスタマイズしたエーシークルーザー(ac target:エーシーターゲット)を活用している。では、MediaMindの第三者配信を使ってアドネットワークに出稿したことで、どのような成果が表れたのか。まず「解決したこと」として挙げられたのは、ユーザーの態度変容過程が把握できるようになったことだ。
ビューで20経路、クリックで50経路、サイト内のリファラー履歴や流入時の検索キーワードが確認できるようになりました。エーシーターゲットを用いたことで膨大なデータを整理でき、バナー接触後の行動履歴も見やすくなりました。今はコンバージョンしたユーザーの経路を分析するなど、いろいろなトライをしながら第三者配信についての知見を深めているところです。
実際の成果では、資料請求や問い合わせをコンバージョンとして評価したところ、並行してバナー広告などを出稿しているYahoo! JAPANの行動ターゲティング広告と、同程度の広告効果が得られているという。
全体の配信量は第三者配信が6割、ヤフーが4割になります。一方、クリックスルーのコンバージョンは、ヤフーが7割弱、第三者配信が3割です。ラストクリックだけを見ると、やはり行動ターゲティング広告の獲得効果が高い結果になっています。しかし配信単価でみると、媒体費の他にサーバー利用料などを含めても第三者配信の方が低く、ビュースルーコンバージョン数も安定して獲得できています。
今回のデータは、2012年5月始めからのデータであるため、今後データを蓄積していくことで見え方が変わってくるのではないかと大島氏は話す。一方、現時点でも第三者配信のデータを解析し、ユーザーの姿がはっきりと浮かんできたことで、広告効果を高め、費用を圧縮する手応えもつかんでいるようだ。
住宅の購入を検討しているユーザーは、何度もアクションを起こし、何回もサイトを訪問してじっくり検討する方が多いとわかってきました。そうしたユーザーに合わせたシナリオとゴールを作り、サイトを再設計していくのが大和ハウス工業の課題です。第三者配信の広告は、ビュースルーのコンバージョンや、CTRなどを総合的に判断して、意図した誘導ができているかどうかがすぐにわかる。効果が高い媒体を見極め、予算配分を見直すことで、配信効率も上げられると思っています。
一方、第三者配信の課題として、配信先の媒体が少ないことも挙げられた。たとえば、Yahoo! JAPANは第三者配信の広告に対応していないため(セミナー開催時点)、他の媒体と同一の指標で広告効果を評価することができない。そして、DSPやアドエクスチェンジは、どのような媒体に配信されるかわからず、配信先サイトの品質が担保されないという問題もある。
また現状では、媒体費以外の費用が結構かさむので、もったいないとも感じます。もっと普及して、いろいろな会社が使ってくれれば、費用も下がってくると期待しています。
このほか、バナー制作やLPOに労力がかかること、利用できるオーディエンスデータが少ないことも指摘された。なお、配信先の品質に関しては、自動的に配信先を選別する「アドベリフィケーション」というツールを利用することで、ある程度解決できる可能性があるという。
望ましくないサイトに広告が掲載され、企業ブランドが下がる事態は避けなければなりません。大和ハウス工業では先日、広告が掲載ポリシーに適合した媒体に掲載されているか、ツールを用いてテストを行いました。今、2回目のテストをやっている最中ですので、いずれどこかの機会でご報告したいと思います。
このように締めくくる大島氏に会場からは大きな拍手が寄せられた。
広告主が求めるこれからのマーケティングツールとは
セミナーの最後は、日経デジタルマーケティング(日経BP社)副編集長の杉本昭彦氏をモデレーターに迎えたパネルディスカッションが行われた。パネラーはここまでに登壇した3名に、実際に大和ハウス工業の広告を運用している伸和エージェンシー 情報企画部デジタルマーケティング室の佐藤由紀氏を加えた4名だ。
まず、「どのようにして第三者配信を社内に説明して取り入れていったのか」と質問されると、大島氏は「社内を説得するのはなかなか難しい。外部の人が、会社の上層部に話をしてくれると動きやすくなる。外の力をうまく使って、上の人を説得するのがいいかもしれない
」と話す。そのためには、大島氏が講演で話したように、技術だけでなく、さまざまな情報を得るためのコミュニケーション能力が重要になってくるだろう。
続いて「他の広告主は第三者配信によって得られる大量のデータをどのように分析しているのか」という質問に対し、MediaMindの渡邊氏は次のように答える。
ユーザー次第だが、最も多いのは代理店が処理するケース。アクセス解析のシステムを拡張する場合は、どんなデータをどう見るかというイメージが必要。最初はだれかが“人柱”となり、普通のクライアントPCを使って自分で解析したり、ビッグデータをクレンジングしてくれる会社にアウトソースして対応しているケースが多い(渡邊氏)。
また、山田氏は「ローデータは、クラウドで分散処理する方向性に進むと思う。最終的には情報システム系のデータと、Webマーケティングのデータは、一元的に処理されるのではないか
」と、将来のデータ分析のあり方について話した。
一方、実際に大和ハウス工業の分析を行う伸和エージェンシーの佐藤氏は、次のよう説明した。
クリック数などの基礎的なデータはMediaMindで、そこからコンバージョンまでのデータはエーシーターゲットで見る。どの媒体でどのクリエイティブが刺さるのか、見込みのある媒体はどこかといったところを、数字でひもといていきます。広告の配信期間中は、最低でも1日に2回、異常値が出た場合やクリエイティブを変更した場合はもっと頻繁に見るようにしている。経路分析に関しては、だいたい1週間に1回くらい確認しています(佐藤氏)。
次に、「データをもとに方向性を変えるための判断基準はどこにあるのか」と質問されると、大島氏は次のように答えた。
普段ほとんどの人は、住宅という商材に興味をもっていない。一方、住宅を考え始めたタイミングではものすごい調べるため、コアとなるターゲティングは「調べる」というアクションを開始した人。結婚や子供の入学など、ユーザーが住宅購入を考え始めた理由を知るより前に、広告はユーザーに接触しなければならない。その接触効果がどのようにアクションや結果につながるのかを整理したうえで、サイトのストーリーを整理し直したい(大島氏)。
さらに、アドテクノロジーによって、将来の顧客になり得る潜在顧客をキャッチできるのかと聞かれると、「認知のためにノンターゲットで出す広告と、再訪問した人に出す広告では、本来はクリエイティブの仕掛けが変わってくるはず。第三者配信によって、ユーザーの興味関心に応じた、さまざまな“つなぎ”をつくれると思う。これからはそういうこともきちんと考えて広告施策をやらなければいけない
」と大島氏は答えている。
これを受けて、広告施策を打つ際の「シナリオづくりに王道はあるのか」という質問がされると、渡邊氏は「よく質問されるが、残念ながら王道はない。成功事例はたくさんあるが、勝ちパターンは個々の企業によって異なる。広告主単体で王道にたどり着くのは難しいかもしれないが、代理店には知見がたまっていると認識している
」と答えた。
最後に、杉本氏から第三者配信のコストについて質問される。これについて、大島氏は次のように話す。
第三者配信は、媒体への出稿料に加えて各種ツールの利用料がかかる。CTRで見ればヤフーの行動ターゲティングの方が良いが、第三者配信はインプレッションの単価が安く、ビジネス効果も見えるという利点がある。それらをどう評価するかによる。ヤフーの行動ターゲティングを半分にしたことで、コンバージョンが一時的に減るのは想定していた。しかし、第三者配信を始めることで次の展開ができる可能性がある。同じ施策ばかりやっていても仕方がない、ダメならまたヤフーに戻ればいいと思って踏み切った(大島氏)。
第三者配信というニッチなテーマながら、会場定員の3倍の申し込みがあったという同セミナー。最後に、セミナー主催者であるアクティブコアの山田氏は、「マーケッターの方々が広告効果を正しく、効率的にジャッジできるようなツールを提供していきたい
」と話し、セミナーを締めくくった。
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