ECの成長につながるオンラインとオフラインの融合とは? オンワードデジタルラボ社長が語るOMO成功術 | 通販新聞ダイジェスト | ネットショップ担当者フォーラム

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EC売上を順調に拡大しているオンワードグループ。ブランド複合型店舗の出店拡大、チャネルをまたいだ顧客分析といったOMOの取り組み強化が成果につながっている

オンワードデジタルラボは、オンワードホールディングスグループのデジタル戦略を担う会社だ。通販サイト「オンワード・クローゼット」の運営を軸に、DXを通じて顧客のブランド体験を高めることに力を注いでいる。グループの2024年2月期の国内EC売上高は前年比6.5%増の約477億円と順調に拡大。そのうち自社ECが約410億円を占めているのもオンワードの特徴だ。「OMOサービスの利用者は熱量が高い」と語る山下哲社長に、コロナ禍を経て進化したECやOMOの取り組みなどを聞いた。

オンワードデジタルラボ 山下哲社長オンワードデジタルラボ 山下哲社長
コロナ禍も成長し続けるEC事業の軌跡 実店舗とECの顧客データと倉庫を一元化

――ECに長い期間携わっている。

オンワードデジタルラボの社長に就任したのは2023年3月だが、2012年からグループのEC事業に従事している。当時はOMOという言葉もなく、ECチャネルでトップラインを上げることに専念していた。積極的に集客をしたりEC在庫を確保したりして、プロモーションを仕掛けることを最初の5年くらいは重視していた。

――実店舗とECの連携を強化し始めたのは。

実店舗のお客さまを対象とした「オンワードメンバーズ」という会員プログラムが2014年に始動した。2016年にはそれまで実店舗とは別々に管理していたEC会員も「オンワードメンバーズ」に一元化し、1人のお客さまを販売チャネルに関係なく管理できるようにした。2018年には店舗とECの倉庫在庫も一元化した。

2020年度のEC購入者数は1.5倍

――コロナ禍でアパレル各社のOMO戦略が一気に進んだ。

コロナ禍に入ってすぐに実店舗が休業したので、店頭ではスタッフを活用したオンライン接客や、お客さまとのコミュニケーションとして「LINEワークス」を使った遠隔接客に切り替えた。

――ECはどうか。

自社ECはオンライン接客からの流入もあったし、実店舗を閉じていた分、ECにアクセスするお客さまが急増した。顧客ニーズに合わせてマスクなど品ぞろえの幅を広げたこともあり、2020年度は購入者数が1.5倍くらいに増えた。アクセス数がすごく増えてサイトが重くなったのと、セキュリティ面の万全を期すためにも2021年2月にECシステムをリプレイスした。

EC刷新を機にコンテンツを強化

――ECの機能やコンテンツ面は。

スタッフのコーディネートコンテンツを商品購入の直前に閲覧しているユーザーが約7割と多いことがわかったので、コーデの投稿頻度を高めた。ネットで購入する不安を和らげるために商品レビューを強化したり、過去に購入した商品と気になる商品のサイズ比較をできるようにしたりした。あとは、決済手段を増やして利便性を高めた

コロナ禍2年目もECの成長を維持

――コロナ禍2年目はEC事業がマイナス成長となるアパレル企業もあった。

オンワードグループの国内EC売上高は2020年度の27.5%成長に対して2021年度は5.7%成長で、コロナ1年目に急増した購入者数を何とか維持できた。

一方で、コロナが一段落した後の新規顧客獲得に苦戦したが、既存顧客の復活購入や継続購入といった指標を重視することで成長を続けてきた。

たとえば、「オンワード・クローゼット」はグループの商材だけでなく、EC独自のMDとして外部ブランドの商品取り扱いを強化し、品ぞろえの幅を広げることで継続購入につなげた。休眠顧客に対してはポイント付与などのアプローチで復活購入を促した。

OMO強化をけん引する「オンワード・クローゼット」が果たす大きな役割 ECなみのブランド展開が実店舗でも可能に

――ブランド数や店舗数が多い企業としてOMO戦略の基本的な考え方は。

一番大切なのはお客さまがストレスなく自由に買い物ができることで、ブランド複合型店舗「オンワード・クローゼットセレクト(OCS)」の展開に代表されるように、ブランドの垣根をなくす取り組みはグループの歴史としても非常に意義深いと思う。

ブランド複合型店舗「オンワード・クローゼットセレクト(OCS)」の一例ブランド複合型店舗「オンワード・クローゼットセレクト(OCS)」の一例

主力の通販サイト「オンワード・クローゼット」は元々ブランドの壁がないので、自社ECとほぼ同じブランドの展開、接客がオンラインでもオフラインでもできるようになったことは大きな転換点だ。

EC商品を取り寄せる「クリック&トライ」が売り上げアップに貢献

――自社ECで取り扱うほぼすべての商品を店舗に取り寄せて試着、購入できる「クリック&トライ」の利用件数が伸びている。

今年5月末時点の「クリック&トライ」対象店舗数は、前年から44店舗増えて404店舗となり、導入率は60%まで高まった。対象店舗の拡大に伴って、「クリック&トライ」の予約点数も増えている。また、導入店舗の売上高増減率は未導入店舗を17%上回り、実店舗の売り上げ拡大に貢献した。

「クリック&トライ」の利用イメージ「クリック&トライ」の利用イメージ

――「クリック&トライ」に取り組み始めたのはいつからか。

ららぽーとTOKYO―BAYなどにOMO型ストアを開設する前のトライアルのような位置づけで、2020年11月に有楽町マルイや北千住マルイなどに期間限定出店して試したのが最初だ。

ECの販売機会ロスを減らす取り組みを平行

――「クリック&トライ」の利用件数増による苦労は。

気になっている商品の在庫がお客さまのよく行く店舗にあれば「取り置き」対応で、在庫がなければECの倉庫から店舗に送る「取り寄せ」になるが、大半が「取り寄せ」になるので、ECの担当者目線では在庫がなくなっていく状況ではあるが、それはサービス設計時点でわかっていたこと。

「クリック&トライ」はEC在庫を届けてお客さまが店舗で試着をし、購入しなければEC倉庫に戻すフローで、開始当初はECで再販できるまで3~4週間かかっていたが、販売機会ロスを減らすために物流のフローを見直して、いまは10日~2週間後に再販できるようになった。

取り寄せされた商品の購買可否を可視化

――サービスの効率化や分析はできているのか。

2021年2月にECのシステムをリプレイスしたときに「クリック&トライ」の仕組みにも手を入れ、商品ステータスの管理をできるようにした。

いつ商品が倉庫を出たとか、商品がお店に届いたら店舗スタッフはステータスを更新するので、本部のメンバーも店頭スタッフも常に商品のステータスが分かる。取り寄せた商品が売れたかどうかの結果についてもスタッフが送信をするので、本部でデータ分析ができる。

何か課題が出てきたら原因を明らかにして改善を進めていて、来店日時を選択できるようにしたのも、日々の店頭業務のなかでお客さまが何時頃に来店されるかを事前に把握しているかどうかで、時間の使い方や接客の仕方も変わってくる。

熱量の高いユーザーに刺さるサービス

――「クリック&トライ」を予約して来店しないケースは。

キャンセルは数%程度で、熱量の高いお客さまに使って頂いていると感じる。以前、お客さまインタビューのなかで「クリック&トライ」のサービスを知っているか聞いたら、「知っているが予約をして来店することにプレッシャーを感じるので使ったことはない」と答えた方がいた。そういう風に感じる人がいるなかで、お店に来て試着するという判断をするお客さまは熱量が高いと言えるのではないか。

また、店舗スタッフからアドバイスを受けたいお客さまも「クリック&トライ」を使って来店され、取り寄せた商品以外のアイテムを購入して帰るというケースもある。

今後は複数販路の利用者+取扱商品拡大に注力

――OMOサービスの機能などは広がっていくのか。

私の思いとしては、「クリック&トライ」の導入店舗数を増やすことと、一時期の店舗閉鎖の影響で、あるエリアでは取り扱いがなくなってしまったブランドもあるので、そうした問題をOMO型ストアを中心に解消できればいい。

――ECの成長率を落とさないためにすべきことは。

自社ECと実店舗の両チャネルで買い物をしてくれるクロスユース率を増やすのはもちろんだし、ECのトップラインを上げるという側面では、カテゴリーの広がりも必要になる。年間購入額の高いお客さまは購入しているカテゴリーの幅も広い。

ブラウスだけでなくコートも買っているなど、カテゴリーシフトしているお客さまが多い。また、ブランドをまたいで買い物をしているお客さまも購入金額が高い傾向にある。ライフスタイル雑貨の取り扱いを増やすなど、アパレル以外の品ぞろえも拡充したい

――グループ内のブランドだけで広げられるのか。

たとえば、雑貨のカテゴリーについては、ブランド内で展開している雑貨もあるが、外部企業ほど品ぞろえがあるブランドをグループ内に抱えているわけではないので、「オンワード・クローゼット」で外部ブランドの取り扱い商品を広げていくことや、グループとしてもカテゴリーを広げていくことが大事だ。提案の幅を広げてLTVを高めていきたい

顧客を5つにセグメントしマーケティング

――「オンワード・クローゼット」の認知拡大に向けては。

マスに向けてデジタルとの親和性が高いユーチューブやTverなどコネクテッドTVでも露出している。

――マーケティングにもさまざまな手法がある。

現状は、顧客を「未認知顧客」「認知・未利用顧客」「離反顧客」「一般顧客」「ロイヤル顧客」の5つのセグメントに分けた上で、未認知顧客を除く各セグメントで自社ブランドを買いたい「積極顧客」と、競合ブランドを選ぶ「消極顧客」に分けて分析するマーケティング手法を試している。

「オンワード・クローゼット」には各セグメントにどれくらいの顧客が属しているのかをモニターサイトなどを使って調べることで、言わば健康状態がわかる。

その上で、たとえば「認知・未利用顧客」のボリュームを増やすために認知拡大施策を打ってみて、認知が高まったかどうかを見たり、少し長いタームで当該層の利用してくれる人がどれくらい増えたかを調査する。

――マス向けの施策はそうしたマーケティング手法で必要と判断したからか。

その通りだ。それまではリスティングやディスプレイ広告などに広告宣伝費を投じてきたが、コストも上がっているし、そうした広告経由の新規獲得自体が難しくなっているので、ある程度、「オンワード・クローゼット」を知っている人に対する広告は出し切ったと見ている。

次に広告を投下すべきところを考えたときに、「未認知」の割合はどれくらいあるかを調査した上で施策を打ち、「認知・未利用」のボリュームを増やすことで、リスティングやディスプレイ広告をあてられる幅が広がる。

チャネル横断のデータ活用で顧客満足度アップ 両チャネルから獲得したデータを接客に活用

――グループの中長期経営ビジョンの改訂版を発表した。

顧客との関係構築をより強めていく必要がある。そのためにも、今期は顧客のデータ活用に重きを置いていて、ECでも実店舗でももっと活用していく。販売スタッフを含めて良い接客を実現するために、デジタルとリアルの横断的なデータを活用することで、お客さまの満足度を高めることにつながる。

AI活用で顧客1人ひとりの好みに寄り添う

――データ活用でカギになるのは。

どういうデータを活用するかという点では、これまでのデータは購入履歴などすでに完了している情報がほとんど。これからは、お客さまの趣味嗜好など感性的なデータを大事にしていきたい。ファッションは感覚的な部分が非常に多いし、年齢を重ねることで趣味嗜好も変化していくので、お客さま1人ひとりの「好き」にもっと寄り添えるよう、データとして定量的にとらえていきたい。

――具体的な活用イメージは。

ECでは徐々に始めているが、AIを活用して、お客さまが好きだと思われる情報やキーワード、たとえば「オーバーサイズ」とか「ゆったりめ」といったインスタグラムなどのハッシュタグになるような情報を閲覧データなどから貯めた上で、お客さまが好きそうな系統の商品を提案する。

アイテムの閲覧データだけでなく、「オンワード・クローゼット」には読み物コンテンツも多いので、たとえば、セレモニー服に関する記事を読んでいたら、子どもがいる、キレイめな服を探しているといったことも推察できるので、閲覧情報を分析することで提案力を高められる。

実店舗であれば、なじみのお客さまが来店されたときに、スタッフは過去の接客をベースにお客さまが好きそうな商品を提案したりするので、それに近いことをECでも実現したい。

外部メーカーや異業種との協業進む

――自社ECの強化コンテンツは。

外部企業との共創の観点では、この1年間くらい、外部メーカーとのコラボや異業種とのコラボを展開している。

異業種で言うと、るるぶさんなどとコラボを実施した。双方にとって送客メリットがあるだけでなく、見せ方としても従来はアパレルに寄りがちのコンテンツが多いが、ライフスタイルという幅広い視点のコンテンツを強化している。異業種とのコラボはすぐに売り上げにつながるコンテンツではなく、新しい切り口のコンテンツになればいい。

新規顧客にもリーチできる動画活用に意欲

――動画活用は。

動画の使い方は模索しているところで、商品ページ内での動画活用はなるべく早く取り組みたい。また、リールやショートムービーなども他のアパレル企業と比べると少ないので、スタッフコンテンツの一環として取り組みたい。既存顧客向けだけでなく、新規ユーザーにリーチする上でもUIの観点から変えていく必要がある。

――動画活用の課題は。

販売スタッフの協力といったソフト面だけでなく、ハード面もかかわってくる。たとえば、商品の色味を正確に見せるためにも、静止画と動画でライティングの仕方を変える必要がある。ただ、そうしたことを厳密にやり過ぎても前に進まなくなるので、もっとライトにお客さまに見て頂けるような形で動画活用を強化していきたい

販売スタッフ協力のもとデータ活用強化

――EC・OMOで今期の重点取り組みについては。

データまわりの部分では、実店舗もECも垣根なく接客に活用できるデータを蓄積して利用できる状態にする。とくに実店舗では、販売スタッフの協力が不可欠だ。オペレーションフロー上、データを貯めるのも活用するのも手間がかかってはダメなので、スタッフとよく話をしながら、負荷をなるべくかけないフローを構築する。

また、すでにECの行動データは膨大な量が貯まっているので、活用するのを見越した上でデータの適切な保管の仕方、貯める構造自体も見直す必要がある。数年前にリプレイスした際にデータを集約することになったが、今度は集約したデータをどのように最適分配するかが課題になっている。

実店舗とECの顧客データ蓄積とその利用を強化する実店舗とECの顧客データ蓄積とその利用を強化する

――アプリなどは。

「オンワード・クローゼット」の公式アプリも2017年に立ち上げたが、リプレイスは一度も実施していないし、他のアパレルが積極的に取り組んできているロイヤリティプログラムについても改変していない。そういう意味では、データを蓄積する場所やアプリ、ロイヤリティプログラムそれぞれの見直しが必要になっている。成熟しかけてきた部分を再構築していく。

――アプリで改修が必要な部分は。

ヘビーユーザーほどアプリからのセッションが多いということがわかっているが、もっとライトに使ってもらうことで、アクティブユーザー数の拡大につなげたい。アプリユーザーからは「重たい」「サクサク動かない」といった声もあるので、使い勝手を高めないといけない。

また、リプレイスに当たっては、アプリとWebの違いを明確にすべきだと思っている。アプリを使うお客さまにとっては、「オンワード・クローゼット」のようにすべての情報が並んでいるのではなく、自分に適した情報がカスタマイズされて表示されることが大事だ。

ネイティブアプリ化も検討していくし、OMOのサービスをアプリに付加していくことも重要になる。

購買行動以外のアクションにもインセンティブ付与

――ロイヤリティプログラムの改変は。

これまでは購買に対するポイント還元で、買うというアクションがベースになる。ただ、商品のお気に入り登録などから始める一連の買い物行動を楽しむことがすごく多いため、購買以外のアクションや、環境負荷軽減につながるようなアクションに対してもインセンティブを付与していければいい。

推奨サイズを知らせる仕組みを計画

――その他に新しい取り組みや挑戦したいことは。

体型を瞬時に計測できる機器があるが、今後は既製品についての推奨サイズを知らせることなどができると思っている。オンワードグループは型紙のデータも持っているので、採寸データと商品ごとのパターンデータをかけ合わせれば、お客さま1人ひとりの推奨サイズがわかる。

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