グライド・エンタープライズが展開するフェイスマスクブランド「LuLuLun(ルルルン)」が10周年を迎えた。東日本大震災をきっかけに誕生した「ルルルン」は、自社ECを軸に成長を遂げ、店頭販売で全国的な認知度を獲得。このほどブランドサイトとECサイトの統合に取り組み、顧客体験向上の取り組みなども進めている。「ルルルン」立ち上げの背景から成長の軌跡、多様化する消費者ニーズや時代の変化に対応するための課題解決のアプローチなどを取材した。
東日本大震災を機に誕生した「ルルルン」
フェイスマスクブランド「LuLuLun(ルルルン)」を展開するのは2009年創業のグライド・エンタープライズ。当初は広告代理店として企業のPR業務を手がける一方、広告測定やノウハウ蓄積の目的から自社で化粧品や雑貨などをそろえる総合通販サイトを運営していた。
フェイスマスクブランドで圧倒的な知名度を誇る「LuLuLun(ルルルン)」
グライド・エンタープライズが広告代理事業からフェイスマスクの販売に大きく舵を切ることになったきっかけは東日本大震災。話は2011年にさかのぼる。
当時、震災の影響を受けた多くの企業が広告費を削減、その影響でグライド・エンタープライズの経営も大きな打撃を受けた。イベントの相次ぐ中止、広告予算の縮小――。本業が厳しいなか、総合通販サイトで展開していた化粧品の売り上げだけは落ちていなかった。マーケティング本部広報・PRチームの土谷有希氏はこう振り返る。
そうした状況を受けて、どんな状況でも女性にとって大切なモノ、気持ちを明るくするアイテムが化粧品ではないかと気づきました。(土谷氏)
マーケティング本部広報・PRチームの土谷有希氏
「震災前は当たり前に過ごしていた毎日がとても貴重なものだった」と感じ、同時に「特別じゃない日なんてない」ということにも気づかされたという。
当時は一般的にフェイスマスクというと「スペシャルケア」と認知されていた。つまり、例外的な場合に限って使用する商品だったのだ。それに対し、グライド・エンタープライズはスペシャルケアを脱却し、「毎日使いのフェイスマスク」をめざすことに。1枚38円で32枚以上の大容量のフェイスマスクを販売し、より多くの人に高品質なフェイスマスクを使ってもらいたいと考えた。
ちなみに、この「特別じゃない日なんてない」というのはブランドのコンセプトの基礎となっている。
こうして誕生したフェイスマスクブランド「ルルルン」。従前は仕入れ商品で展開していたが、それを転換。自社オリジナルアイテムとしての扱いを始めた。
ブランド名はオノマトペ(擬音語・擬態語を象徴的に表した語)を意識し、気分がごきげんな時になんとなく「ルンルン」と鼻歌を口ずさむ感じから名付けたそう。
震災が会社の経営に大きな打撃を与えるなか、その打開策として「運営していたECサイトの中の一商品に光明を見出して開発を進めていきました」(土谷氏)というわけだ。
大容量フェイスマスクの潜在ニーズを開拓
「ルルルン」を立ち上げ、まずは自社ECで販売した。大手同業他社のように大きな予算をかけることができないなか、見込み客にリーチしながら売り上げを増やしていく最適な方法が、ECサイトの運用だったという。
販売にあたっては広告代理業で培ったノウハウなどを武器にマーケティングを仕掛けた。ECサイトはスタートからすぐに売り上げを伸ばした。特に、芸能人のブログに紹介されたことで人気に火がついた。
新規の顧客を獲得して商品を使っていただき、口コミを投稿していただいて、その口コミがさらに新規のお客さまを連れてくるという良い循環が生まれました。(土谷氏)
同時に、「楽天市場」や「Yahoo!ショッピング」「Amazon.co.jp」といった仮想モールにも出店、Webの領域で販路を拡大していった。2020年には仮想モールの販路を広げ、「Qoo10」にも出店している。
自社ECと仮想モールというWeb上での販売で順調に売り上げが拡大。2011年からは試験的に生活雑貨店の「PLAZA」で商品を展開したところ、さらに認知が広がった。ECサイト、PLAZAでの展開によって認知度がさらに向上、その後、ドラッグストアを中心に全国の店頭で商品を販売するようになる。
店舗での販売はECに比べて売り上げが大きいことが魅力だが、リアルの出店はグライド・エンタープライズにとって別の意味合いもあった。「ルルルン」は「誰でもきれいになれる日常」を提供したいという想いがある。だが、ECサイトではリーチできる層に限界がある。より多くの人に使ってもらうには、全国展開の店舗で販売することは外せなかったのだ。
グライド・エンタープライズによると、自社ECと店頭販売では客層に大きな違いはないという。接点がWebであれリアルであれ、顧客が欲しいと思ったタイミングでどこでも買えるブランドであり続けることをグライド・エンタープライズは重要視している。
このように震災をきっかけに大容量フェイスマスクの市場がなかったところに商品を展開、潜在ニーズを掘り起こした。「ルルルン」は、日本中で購入されるブランドに成長していった。
潜在ニーズの掘り起こしに成功した「ルルルン」土産物として認知度アップ
「ルルルン」の認知度を全国で高める上で鍵となるのが、ご当地フェイスマスクの「旅するルルルン」だ。
「旅するルルルン」はその地域ならではの原料にこだわった地域限定で展開している商品で、空港や地域の土産物屋などを販売チャネルとしている。旅先で「旅するルルルン」を購入し、それを友人や知人、家族に渡すことでさらにブランドの認知を高めるという戦略だ。
箱根のバラを原料で使用した「箱根ルルルン(やさしいバラの香り)」、箱根のアジサイを原料で使用した「箱根ルルルン(しっとりアジサイの香り)」
この「旅するルルルン」では、自社だけの利益ではなく、商品開発に協力してもらった地域の人にも利益を還元できるような仕組み作りをしている。
美容成分やパッケージなどは地元の店舗や問屋と共同で開発。こうした取り組みにより、現在では国内で26商品、海外(ハワイ)を併せると28商品をラインナップしている。
旅行先で購入いただいた商品をお土産として友達や家族に渡していただくという画期的なマーケティングとして、「ルルルン」というブランド認知に欠かせないシリーズになっています。(土谷氏)
北海道、東北、関東、山梨、長野、関西、瀬戸内、小豆島、九州、沖縄、ハワイで地域限定「ルルルン」を展開している優良顧客の育成へ定期購入を導入
順調に事業拡大を遂げ、全国で販売を行う「ルルルン」だが、スタート時の販路である自社ECは今でも重要な位置づけを占める。
グライド・エンタープライズの方針としては、ECと実店舗のどちらも伸ばしていくことをめざしている。そのため、新規獲得のための宣伝から、広告宣伝費の回収までを一気通貫できるのがECサイトの強みだという。
たとえば、たまたまランディングページ(LP)やバナーを見たお客さまが、街を歩いていてお店で「ルルルン」を売っていたら購入する。そのように欲しいと思ってもらえるクリエイティブを世に出していきたいです。Webで宣伝した際に、ECで買ってもらうのか店で買ってもらうのかは、どちらでもいいのです。あくまでお客さまが好きなタイミングで買ってもらうことが大事だと感じています。(土谷氏)
基本的に「ルルルン」はセールを行わない。商品のリニューアル時に型落ちしたものをアウトレット価格で売ることはあるが、現行品を割安で販売することはない。
こうした販売方針を掲げるなかで、顧客が商品を割安で購入する方法が1つだけ存在する。それが定期購入だ。
毎月の定期購入であれば、商品が定価よりも10%安く手に入る。また、通常の通販では3500円(税込)以上の購入で送料無料になるが、定期購入は常に送料無料。
定期購入の位置づけは、「いつも買ってもらっているお客さまに一番便利であるという信念のもと、定期通販を採用している」(同)とのことで、ロイヤルカスタマーの創出を狙ったサービスとして数年前に開始した。
定期購入のメリットがわかるECサイトのデザイン“聞いてくれる姿勢”に惹かれて導入したECシステム
このようにウェブとリアルの双方の販路を活用してブランドの拡販を図っているグライド・エンタープライズだが、このほど「ルルルン」のECサイトのシステムを変更した。
システム刷新の背景として、「ルルルン」はそれまでブランドサイトとECサイトがわかれており、ユーザーが商品名を検索してブランドサイトに移行してなかなか購入できないといった不便さがあった。そこでブランドサイトとECサイトを統合しようと考えたのだ。
グライド・エンタープライズでは新たにカートシステムを選定する上で、以下の点を考慮したという。
マーケティング手法や世の中の流行の移り変わり、さらには販売手法の変化など、ECサイトの運営をしていると常に新しい機能や集計方法が求められます。それを最速で実現できるように二人三脚で改善努力をしていただける企業というのが絶対条件でした。(土谷氏)
そして、グライド・エンタープライズが新たなシステムとして選んだのが、SUPER STUDIOが展開する「ecforce」だった。
「ecforce」はスタートアップから年商数百億を超える大規模ショップまでのEコマースサイトの構築・運用業務を支援するECプラットフォーム。「ecforce」を導入しているショップ数は500ショップを超えている。(21年10月時点)
システムベンダーを選ぶにあたって、「ブランド公式としてのEC機能」と「LPを駆使した定期通販の獲得施策」を同一システム上で実現できるカートシステムの選択肢がなかった。
そんな状況で、「ecforce」は月間20~30個ものシステム改善・追加を行っており、その点が他社より優れていると判断。「運用の効率化とお客さまの利便性を考慮して統合を計画した際に、『ecforce』が最適という判断に至りました」(同)
「ecforce」の特徴的な機能
「ecforce」をパートナーに決めた理由は機能面だけではない。合わせて評価したのが、クライアントの要望を最速で具体化できるように二人三脚で進めようとする改善努力への姿勢だ。
機能に加えて、こちらが「こうやりたい」「こんなことを実現したい」と話したときに応えてくれる体制があると感じました。今回のカートシステムの移行ではそれが一番重要なポイントとなったんです。結局は人がやっているので、パッケージを入れて終わりではなく、細かい施策や希望を聞いてくれる姿勢があるかどうかで全然違います。単にパッケージを導入するだけではなく、コミュニケーションをとりながら、ともにプロジェクトを進めていけると感じました。(土谷氏)
グライド・エンタープライズでは最終的に「ecforce」側の“聞いてくれる姿勢”に惹かれて、「ルルルン」のECサイトを託すことにした。他にも定期通販で「初回購入のお客さまにはこのフェイスマスクをサンプルとして同梱する」といったように、定期回数ごとに同梱物を設定できることも「ecforce」の魅力的な機能の1つだったという。
「ブランド公式としてのEC機能」「LPを駆使した定期通販の獲得施策」を「ecforce」で実現した結果、ブランドサイトとECサイトの統合によりスタッフの工数など各種コストが従前比で50%削減。そして、コスト削減だけではなく、ECビジネスで最重要視される買い物体験の向上にもつながった。
従前のユーザー目線では、「購入しようと思ってアクセスしたのにECサイトではなかった」など、混乱を招きかねない状態でした。サイトの統合により、使いやすくなったため顧客体験が向上したと感じています。(土谷氏)
「ecforce」を導入し、ブランドサイトとECサイトを統合した「ecforce」を使いこなしてCRMを強化へ
「ルルルン」はブランドを立ち上げて10周年となる。
このタイミングで、今までの「フェイスマスクのルルルン」から、「スキンケアブランドのルルルン」へとブランドチェンジする。
以前から他のアイテムも取りそろえていたが、2021年からは、フェイスマスクもそれ以外も含めてコスメブラントとして打ち出したのだ。フェイスマスク以外の商品のシェア獲得も強化していく。土谷氏はこう言う。
フェイスマスク以外にもいろいろなスキンケア商品を販売しています。他のアイテムについても、基本は「ルルルン」と同じ思想。他社ブランドもあると思いますが、「ルルルン」のファンに、「ルルルン」が思う正解の商品はこれだよと提案していきます。
めざすのは、スキンケアブランドの「ルルルン」作り
こうした方針のもと、ブランディングの観点からも自社ECは戦略上、重要なチャネルとなる。
今後は自社ECを通じてCRM領域を強化していく計画。まずは「ecforce」とSMC(Salesforce Marketing Cloud)を連動させた施策を試している。
たとえば、ブランドイメージを壊さない範囲で、継続率を上げるための取り組みに着手したところだ。その施策をどこまでやるのが可能か、あるいはどこまでやると顧客に敬遠されるかなどをテスト。合わせて、フェイスマスクのみを購入している顧客に他の商品をアップセルするような提案にも着手している。
また、ECサイト「ルルルン」でEC専売商品の展開も検討しているという。
また、カートシステムを「ecforce」に切り替えてまだ間もないこともあり、多くあるecforceの機能を使いこなせてはいないという。今後、「ecforce」の機能活用で、コスト面や購買体験といった部分の最適化を進めていく意向だ。
※このコンテンツはWebサイト「ネットショップ担当者フォーラム - 通販・ECの業界最新ニュースと実務に役立つ実践的な解説」で公開されている記事のフィードに含まれているものです。
オリジナル記事:知名度ゼロのフェイスマスク「LuLuLun(ルルルン)」が全国ブランドに育った軌跡&自社EC強化施策の事例を解説
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