インタビュー

コロナ禍で試食販売ができない…! Pascoが取り組んだデジタルサイネージ販促施策

食パンの「超熟」でお馴染みの敷島製パンが、店頭での試食販売施策ができなくなってしまったことをきっかけに、デジタルサイネージ販促施策を開始。動画活用の運営体制と今後目指していきたいことを聞いた。

2020年に創業100周年を迎えた敷島製パン株式会社。関東には1969年に「Pasco」ブランドとして進出し、親しまれている敷島製パンだが、1995年から原材料や製法にこだわった「PASCO SPECIAL SELECTION(以下、PSS)」も展開している。「PSS」のブランドでは品質を顧客に実感してもらうため、試食販売に力を入れていたが、コロナ禍の影響を受け中止になり、店頭での販売施策を模索する中でたどり着いた施策がデジタルサイネージだ。

店頭でのデジタルサイネージによる販売促進施策について、パスコイーストカンパニー販売促進グループの野仲祐希氏、今井美里氏、と動画制作サービス「LetroStudio」を提供しているアライドアーキテクツの亀田明日花氏、大坪夕起氏に話を聞いた。

左から、アライドアーキテクツ株式会社 大坪夕起氏・亀田明日花氏・/敷島製パン株式会社 パスコイーストカンパニー販売促進グループ 今井美里氏・野仲祐希氏

「ちょっと良いパンが欲しい」を叶える、「PASCO SPECIAL SELECTION」シリーズ

――まず、敷島製パンについて教えてください。

野仲祐希氏(以下、野仲): 創業者である盛田善平氏が、米騒動が起こる中、小麦を使ったパンが米の代用になると考え、1920年に名古屋で創業しました。今も「事業を通じて社会に貢献することを目指す」という創業当時の理念を貫いています。1969年には「Pasco」ブランドで関東へ進出し、2003年に全ブランドが「Pasco」に統一しました。

超熟」シリーズをはじめとし、国産小麦100%使用にこだわった「国産小麦」シリーズ、糖質が気になる人に向けた「低糖質」シリーズ、そして原材料や製法にこだわった「PASCO SPECIAL SELECTION(PSS)」などを展開しています。デジタルサイネージによる販売促進施策を行っているのは、この「PSS」シリーズです。

――「PSS」シリーズは、他のシリーズとはどこが違う商品なのでしょうか?

野仲: 街のパン屋さんで購入するようなベーカリー品質をもった、原材料や製法にこだわっている商品で、ナショナルブランド(以下NB)とは異なり、小ロットならではの製法で生産しています。全国に展開しておりますが、メインは首都圏になります。東日本では、約450店舗で展開しております。(2022年8月時点)

「PSS」シリーズの「パン・ド・カンパーニュ 10枚入」。オリジナル発酵種を使用した生地を、石窯で直焼きしている。

野仲: また、商品単位ではなく、棚1面分の場所を確保してくださる店舗に対して卸しているのも特徴です。「PSS」だけではなく、「Pasco」としてのブランド力をアップさせる目的でもあります。

敷島製パン株式会社 パスコイーストカンパニー販売促進グループ 野仲祐希氏

――「PSS」シリーズは他のNB商品よりも価格設定が高めですが、どんな方が買っているのでしょうか?

野仲: 価格に対して価値を感じられる方は、それほど広い範囲ではありません。メインターゲットは40〜50代です。さらに、年齢だけではなくスーパーでも、「よりよいパンが欲しい」「少し特別なパンが欲しい」と思っている方をターゲットにしています。

――通常とは異なる高価格帯の商品に対して、これまでどのような販売促進活動をされてきたのでしょうか。

野仲: NB商品との違いを実感して頂くためにも、店頭での試食販売に力を入れてきました。実際に味わって頂き、「美味しいから買おう」とリピーターになってもらうことが狙いでしたが、コロナウイルスの影響で試食販売はできなくなってしまいました。店頭のPOPではシズル感を大切にしていたり、メニュー提案やサンプル配布も行ったりしていました。また、5月は「PSS」が生まれた月なので、「PSS」だけに焦点を当てたお買い上げキャンペーン施策も実施しています。

今井美里氏(以下、今井): また、不定期ですが、SNSでBtoC向けの「こだわり食卓セット プレゼント」キャンペーンも実施しています。今(取材時)も実施しておりLINEまたは郵便ハガキで応募して頂くと抽選でこだわりの食器が当たる、というものです。このキャンペーンは高級感のある「PSS」シリーズのパンに合わせた、こだわりの食器をプレゼントすることで、食シーンを提案するという狙いがあります。

敷島製パン株式会社 パスコイーストカンパニー販売促進グループ 今井美里氏
2022年6月1日(水)~2022年7月31日(日)まで実施していたキャンペーンの画像

コロナ禍で試食販促ができず、魅力を伝える方法を模索して行き着いた店頭でのデジタルサイネージ活用

――コロナ禍により店頭での試食販促ができなくなってから、デジタルサイネージ販促施策に行き着いたきっかけは何でしょうか?

野仲: 同じくらいの時期に、弊社の「冷食部門」が、バイヤーに向けて商品を提案する際、厨房やベーカリーに入って作り方まで紹介する営業活動を行っていましたが、これもコロナ禍で難しくなったため、動画を導入し始めたと聞きました。このとき弊社「冷食部門」が利用していた動画制作サービスがアライドアーキテクツ様の「LetroStudio」というものでした。同じツールを使えば、我々の部署でも動画を活用できるのではないかということで、動画でのデジタルサイネージ販促施策へと繋がりました。

今井: 動画を使って訴求することで、購買意欲につなげようというのが狙いです。

野仲: 試食販売で盛り上がっていた店頭も、コロナ禍ですっかりさみしくなってしまいました。さまざまな商品が並ぶスーパーの中で、お客様の目に「PSS」が止まるためには、“ライブ感”が欠かせません。店頭に設置するデジタルサイネージの動画には音も盛り込み、お客様に楽しんでもらいつつ、商品に対する期待を高める役割を期待しています。

――デジタルサイネージはどこで活用しているのでしょうか。

今井: 代表的なところでは、2022年6月札幌にオープンした直営店「Pasco夢パン工房APIA店(以下、Pasco夢パン工房)」でデジタルサイネージを展開しています。それ以外は、これまで動画作成を外部業者に委託しておりました「PSS」シリーズを中心に7月から本格的に運用する予定です。現在の運用予定ですが、不定期になりますが80店舗に設置することが決定しています。

――さまざまな店頭施策の選択肢があるなかで、あえて「動画」という形態を選択した理由はありますか?

野仲: お客様が新商品と出会う場として、一番多いのは店頭です。まずは店頭で注目されることを狙って、動画を選択しました。

今井: 動画によるデジタルサイネージ施策の一番大きな目的は ”「PSS」シリーズの新商品をリピート購入してもらう”です。「PSS」シリーズの中でも、月に1〜2品は新商品が出ますが、なかなか定着しにくいのが現状です。ただ陳列するだけでは埋もれてしまう商品のこだわりを伝え、定番へと育てるために動画を活用できればと考えております。

動画制作は未経験からスタートし、新製品の発売にあわせて運用も行う

――動画制作の体制を教えてください。

今井: コストを抑えつつ、フレキシブルに動画を作るために、内製化を進めております。現在は、私がメインで制作を行っています。

野仲: ゆくゆくは他のメンバーでも動画を作れるよう、ベースアップを図っていきたいと考えています。

――現在は一人で制作しているのですね。クリエイティブ制作の経験はあったのですか?

今井: これまでクリエイティブ系の仕事経験は全くなかったので、0からのスタートでした。参考にしたのはYouTubeや他社のサイネージ動画です。売り場でどれくらいの長さなら見てもらえるかを考えたり、自分が営業したりしていたときのことを思い出しつつ、取り組んでいます。

――はじめて動画を制作することになり、困ったことはありましたか?

今井: 初めて動画制作をするので不安はありました。先ほどもお話したとおり、弊社では「LetroStudio」という動画制作ツールを使用していますが、動画制作ツールも初めて使うので不安でした。ツールの使い方などについてはアライドアーキテクツ様に細やかに支援して頂いたので、使い方についての不安も早くクリアにできました。撮影についても相談に乗っていただくことがあります。

大坪夕起氏(以下、大坪): アライドアーキテクツでは動画の企画、デザインなどの見せ方、施策の振り返りなどのサポートやコンサルティングも行いますが、撮影時の小物の組み合わせも今井さんと話し合うことがありますね(笑)。お皿の選び方やライティングなど、今井さんがすごくこだわって動画制作なさっているので、私もデザイン研修を受けて、的確なアドバイスができるように務めています。

アライドアーキテクツ株式会社 大坪夕起氏

――撮影機材はどのようなものを使っているのでしょうか。

今井: 主にスマートフォンです。食べ方やアレンジレシピも社内の会議室などを使って撮影しています。蛍光灯をつけたり消したりと試した結果、自然光の中で撮ることが一番多いですね。中には懐中電灯をあててみたら、おいしそうに撮れたこともあります。ライティングなどは日々試行錯誤しています。

――どのくらいのペースで動画を作成しているのでしょうか。

今井: 今は月1〜2本、新商品の発売に合わせて新しい動画を作るようにしています。

亀田明日香氏(以下、亀田): デジタルサイネージの動画活用だと、動画を作ったらそのまま使い続けるという企業様が多い中、「Pasco夢パン工房」では、朝夕で流す動画を変更するなど「運用」を意識した使い方をされていています。

アライドアーキテクツ株式会社 亀田明日花氏

今井: ありがとうございます。「Pasco夢パン工房」は駅の商業施設に入っているので、朝は通勤の人向け、夜は家族や観光・仕事から帰る人を意識した土産需要を意識した動画にしています。

朝用のデジタルサイネージ動画
夜用のデジタルサイネージ動画

――たとえば広告では「運用」するのが基本ですが、デジタルサイネージ施策では珍しいのですか?

亀田: そもそもデジタルサイネージに対しては運用という概念がない方が多いのです。デジタル広告のようにターゲットや時間に合わせて出す情報を変える、運用するという活用をしている事例は少ないですね。

大坪: デジタルサイネージ施策自体は広がりを見せているのですが、既存のポスターやPOPをそのまま動画に落とし込み、固定の情報を流している事例が多いです。そんな中で、敷島製パンさんはターゲットに合わせて流す動画を変えたり、新商品に合わせて動画を作ったりと、しっかり運用されているので、素晴らしいと感じています。

動画へ情報を盛り込むために、商品について考える機会が増えた

――POPやポスターと動画では情報の伝え方が違いますよね。制作時に気をつけていることはありますか?

野仲: POPはどのような製品特徴があるのか、重要な部分だけを切り取って書き込みます。しかし、動画は盛り込める情報量が静止画に比べてとても多いです。動画へ情報を盛り込むために、以前よりも商品について考えるようになりました。

今井: 社内で製品についての情報を共有するシステムがあるので、それを活用して情報収集したり、開発や製造に関わっている部門の社員から直接話を聞いたりして、お客様に刺さりそうな情報だと感じたら取り込むようにしています。

――デザインや動画の構成でのこだわりはありますか?

今井: 既存の販促物があるので、高級感やシンボルカラーの緑など、世界観が変わってしまわないように注意しています。また、今はどの画面サイズでも同じ動画で展開しているので、小さい画面でも伝わるように文字数を少なくしたり、強弱を付けた表現をすることで視認性をアップしたアピールになるよう工夫したりしています。動画がお客様の目にとまり、気になって商品へ手を伸ばしてもらえば、商品特徴など細かい情報を見て頂ける、という流れを想定していますが、売り場に合わせた動画の使い分けは今後の課題ですね。

野仲: パンコーナーに滞在する時間は一般的に30秒ほどと言われています。そのため、動画1本の長さはだいたい20〜30秒。その中でシナリオがわかる構成にしています。

亀田: 動画は大きく「アテンション(注意を惹きつけるもの)」と「しっかり説明をするもの」の2種類に分かれます。今回の場合は特に「アテンション」を重視した動画の作成・展開を行っていると言えます。

――動画を制作するにあたって、どういったターゲットを意識しているのでしょうか?

今井: スーパーに来られる方は、女性、主婦層がメインだと考えています。たとえばNB商品は、家族分の食事を買いに来られた方が手に取ってくれますが、「PSS」シリーズは「ゆとりがある時に、自分のためのご褒美に」というイメージで、手に取っていただくシーンを想定しています。

野仲: 食パンは気に入っている商品を指定買いされるので、さほど目立つ場所に置く必要はありません。菓子パンなどの嗜好品は、いかにお客様の目に止まるかが重要なのですが、「PSS」シリーズは基本的にスーパー内で陳列場所が決まっているので、その範囲内で設置場所を選定する為に、お取引先様と共に試行錯誤しています。

――現時点で、デジタルサイネージ施策を導入した効果を感じられていますか?

野仲: 試食販売施策では、マネキンさん(売り場で試食販売を行う販売員)とお客様の間で双方向のコミュニケーションがありましたが、デジタルサイネージは一方通行でしか情報を届けることが出来ません。そのため、販売数にどのように影響したか、効果検証しづらいのが現状です。

今井: だからこそ、営業部隊とより密接にコミュニケーションを取り、現場の声を吸い上げて改善していく必要があると感じています。

今後はYouTubeやBtoBにも動画を活用していきたい

――デジタルサイネージ販促施策や、動画をどのように活用していきたいと考えていますか?

野仲: 今はお客様向けのBtoC施策として行っていますが、対お取引先様の商談資料にイメージ動画を作るようにしていきたいと考えています。たとえば、食料自給率の工場に向けて国産小麦を活用した商品づくりを行っているのですが、こういったSDGsにまつわる商品は共感していただかないと前に進みづらいのが現状です。商品だけでなく、こういった取り組みについても共感いただけるようなBtoB向けのメッセージ動画作成をスタートさせる予定です。

また、9月頃には各営業部門の支援部門にも動画を作成できる権限を付与し、商談資料に動画を入れたり、お取引先様の要望にフレキシブルに対応できるように動画を組み込んだりできるような環境作りを行っていく予定です。

今井: あとはYouTubeチャンネルで、動画を活用していきたいですね。コロナ禍により、BtoB向けの営業で行っていた工場見学が出来なくなっているので、こだわりと掘り下げた工場紹介を発信していきたいと考えています。

※工場見学は一般公開を行っておりません

――ありがとうございました。

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