2時間でメンバーの相互理解を深める「コンセプトマップワークショップ」の手順とは?
プロジェクトメンバーとのコミュニケーションや共通認識をすり合わせるのに役立つノウハウの1つ、「コンセプトマップワークショップ」のやり方について紹介します。主にロフトワークの重松がよく行うワークショップなのですが、毎回皆に「やってよかった」と好評だそうです。
チームビルディングのためのコンセプトマップをつくってみよう
コンセプトマップとは、デザインとして視覚化される前の段階で、「言葉で共通認識をあわせるのに有用なツール」です。これを作ることでプロジェクトメンバーがユーザーに提供する価値・体験・印象を言語化し、その関係性を視覚化できる効果があります。
たとえば、「かっこいいデザイン」「シンプル」「安心感」「わかりやすい」という言葉は、人によってそれぞれのイメージが違います。それと同じようにプロジェクトのゴールを決めたとしても、それを達成するために必要なプロセスやユーザーが思い描いているゴールが必ずしも一致しているとは限りません。
そのままプロジェクトが進んでいくと、結局デザインを作った際に「思っていたのと違う」、という意見が出てくることにつながります。それらの解消に役立つのが、今回紹介する2時間で実践する「コンセプトマップワークショップ」です。
キックオフミーティングの後に、2時間かけてつくったとしても、お互いの理解度が深まるのでその分のリターンは得られるはずです。また、そこで可視化されたメンバーの「思考の癖」は、プロジェクトマネージャーにとっても有益な情報となります。
そのため、コンセプトマップ作成のワークショップは、キックオフミーティングの次のステップなどプロジェクトの初期に行うケースが多く、チームビルディングのために行うことが多いです。
ちなみに、コンセプトマップはデザインコンセプトとは異なります。チームメンバーそれぞれの頭の中にある認識・解釈を見える化することによってお互いを理解するためのコミュニケーションツールとして使うのが効果的です。
準備
テーマを決める、テーマに沿った「モノ」を用意する
まずはテーマを決めます。テーマは「かっこいいデザイン」のように抽象度の高いものでも構いません。プロジェクトにおいて何を作ろうとしているのかをテーマとすると良いでしょう。
そして、テーマに沿った「モノ」を持ってくるようにチームメンバーに頼みましょう。もし「かっこいいデザイン」がテーマであれば、各自がかっこいいと思うデザインのモノをミーティングに実際に持ってきてもらうように依頼します。
モノの数は1人あたり2つくらいが丁度良いです。「モノ」に実際触れることでその良さを皆で理解しやすくなります。お互いを理解することがワークショップの目的なので、できるだけもってきてもらうようにしましょう。
例:「かっこいいデザイン」がテーマならば、羽付照明器具(今回は写真)を持っていったとします。
WORKSHOP 1
ワークシートに記載する
プロジェクトメンバーが集まり、次の内容をワークシートに記載します。
- 自分が考えるテーマに沿ったモノな何か?
- そのモノを使いたくなる理由は?
- 使うことによって起こる感情や行動の変化は?
持ち寄ったモノ1つに対して、ワークシートを1枚使います。ワークシートに記載する時間は、1シートあたり5分程度です。
WORKSHOP 2
それぞれ発表し、それをポストイットに書き出す
プロジェクトメンバーが1人ずつ、上記で書き出した内容を発表していきます。同時にファシリテーター役の人(多くの場合はプロジェクトマネージャーが兼任します)が、発表の際に出てきた言葉をキーワードとして次々とポストイットに書き記していきます。そのときポストイット1枚に付き1つのキーワードを記入してください。
ワークシート1枚を1回の発表として、1人2回発表を行います。1回の発表で5枚以上のキーワードをポストイットに書ければ十分です。
たとえば、6人のチームで1人2回発表があり、1回の発表で5枚以上のキーワードがポストイットに書き留められた場合、発表後のキーワードポストイットの数は60枚以上集まります。
キーワードは、思考の広がりや解釈の幅がうまれるように、単語だけでなく短い文章で書くことがコツです。
WORKSHOP 3
ポストイットを整理する
チームメンバー全員が発表を終えたら、ファシリテーターが書き溜めたポストイットを整理していきます。近い意味のキーワード同士でグループを作り、グループ名をつけていきます。1つのグループのポストイットは5~7枚程度が目安です。
WORKSHOP 4
整理した内容を「原因と結果」に分けていく
60枚のキーワードポストイットがある場合、グループの数はおそらく10前後になるでしょう。次はそれらのグループを「原因と結果」に分けていきます。
模造紙を用意し中心に縦線を引きます。模造紙に左側のエリアと右側のエリアを作りましょう。そして左側のエリアに大きく「原因」、右側のエリアに大きく「結果」と書きます。
キーワードグループのなかでも「原因」となりえるキーワード群を左側のエリアに、「結果」となりえるキーワード群を右側のエリアに配置していきます。
たとえば、キーワードグループに「作り手のこだわりが感じられる」「個性が際立つ」などのグループ名がある場合、「作り手のこだわりが感じられる」から「個性が際立つ」という因果関係が見られます。その場合は「作り手のこだわりが感じられる」を左側の原因エリアに、「個性が際立つ」を右側の結果エリアに配置してください。
WORKSHOP 5
さらに整理していく
大きく「原因と結果」に分けることができたら細かく整理をしていきます。
左側の原因エリアと右側の結果エリアのそれぞれの中心に縦線を追加します。模造紙上に合計で縦線が3つ並んでいる状態です。原因エリアの中でも「より気軽な原因(根本)」を左端に、結果エリアの中でも「より本質的な結果」を右端に整理していきます。
私たちのこれまでの経験上、多くの場合、左端(より気軽な原因)には「見た目が好き」「持った感じが丁度良い」など初回のタッチポイントにおける印象がきます。そして右端(より本質的な結果)には「自己肯定感が増す」「前向きな気持ちになる」など、個人の気持ちに影響を及ぼすものが多くなります。
WORKSHOP 6
「つながり」を示していく
最後の作業です。それぞれのグループのつながりを示す線を模造紙上に書いていきます。
左側にある原因がどのように右側の結果につながるのか。関係性を示す線を書いていきます。関係性の線が模造紙上に書ければ、後はそれを清書すれば、コンセプトマップができあがります。
グループ名(黄色のポストイット)を大きめに書いて、それに付随するキーワードは小さく書きます。
これらをまとめると、冒頭に紹介したコンセプトマップができあがります。
- いつやる?: キックオフミーティング後のプロジェクトスタート初期が望ましい
- 何人ぐらい?: プロジェクトに参加する全員。特にプロジェクトの決定権がある人には参加してもらう
- 進行役(ファシリテーター): プロジェクトマネージャーなど
- どのくらい時間を設ける?: 参加者が5~6名であれば2時間くらい
- 場所: 会議室
- 必要な文具: 模造紙、ポストイット、ワークショップシート、ペンなど
- コンセプトマップはどう使う?: メンバーの相互理解を高めるツール
プロジェクトチームには外部性をもたせてみる
プロジェクトには、必ず外部のクリエイターや有識者を入れるのがロフトワーク流です。
もともとロフトワークはディレクター集団で、社内には手を動かすインハウスデザイナーやエンジニアはいません。ロフトワークでは常にプロジェクトの性質に合わせてデザイナーやイラストレーター、建築家、エンジニア……など、最適なチームを組成しています。常に同じメンバーで同じものを作り続けることはありません。
プロジェクトによってケースバイケースですが、キックオフミーティングの最初の時点からデザイナーに入ってもらい、一緒にワークショップを行ったり、クライアントとの視点を合わせたりすることも多々あります。
「発注側(クライアント)」「受注側(ロフトワーク)」という関係性に、外部性をもたらすことは特定のバイアスを外すことにつながり、その結果として新しい価値を発見しやすくなります。
言い換えれば外部性をもたすことで、「クライアントのためのデザイン」ではなく「ユーザーのためのデザイン」を考えることができます。
これは、ユーザー視点の「体験のデザイン」を一緒に創っていく上で、重要なファクターです。
外部のクリエイターもクライアントもロフトワークも、受発注の関係性を超えて「戦友」になることで、コミュニケーションが良くなりプロジェクトチームとしての一体感が生まれ、結果として良いプロジェクトにつながります。
最終回は、を紹介します。
ソーシャルもやってます!