2011年には20代~40代の若年層のインターネット利用率はほぼ100%と、すでに飽和状態にあった。一方で、50代以上はまだ利用率が低く、特に、デジタル広告やSNS広告では獲得しづらいとされていた。しかし、この10年間でミドル層・シニア層のインターネット利用率は大きく向上。SNSの利用も進んだ。この変化が、デジタル広告への移行を後押しした。
自社ライブコマースは、2021年の夏に企画段階に入った。当時、日本におけるライブコマースの事例はほとんどなかったため、システムの開発、撮影、台本作り、配信頻度などについて、セオリーがまったくない所からのスタートであった。
協和が配信している動画の一例。配信動画はライブコマースだけにとどまらない(動画は協和の「fracora(フラコラ)公式チャンネル」より)
「フラコラ」流ファンマーケティングの秘訣
ライブコマースの運営開始から1年が経過した今、竹腰氏が感じている運営のメリットや、ライブ配信時に意識すべきポイントを紹介する。
ライブコマース運営のメリット
顧客情報の獲得
ライブコマース運営のメリットの1つは、テレビショッピングなどのマス広告に比べ、顧客データをより詳細に取得できることである。併せて、視聴数や商品ごとの売り上げ、クロスセル率なども把握することで、さまざまな角度からのケーススタディが可能となり、サービス向上に生かすことができる。
ライブコマースは顧客情報の獲得やコミュニケーションのしやすさに強みをもつ
顧客とのコミュニケーション/顧客への、より詳細な情報提供
ライブ配信では、コメントによって顧客と直接やり取りができるのも魅力だ。「パッケージが開けづらい」「こんなセット商品があったらうれしい」といった意見を吸い上げ、即座に反映させることができる。また、1人ひとりの悩みや知りたいこと(たとえば、アレルギーへの対応や飲み合わせ)について、こちらから語りかけ、必要な情報を届けることもできる。
顧客の疑問や関心に寄り添った対応ができることもライブコマースの魅力
SNS連動
「フラコラ」では、Instagramや公式LINEなどのSNSを用いて、過去に獲得したファンや休眠顧客をライブコマースに誘導している。実際に「昔使っていました」「リニューアルを機に戻ってきました」というように一度離れた顧客が戻ってくることもある。竹腰氏は、ライブコマースは顧客の呼び戻しに有効であると感じている。
顧客同士のコミュニケーション
配信中、コメント欄で顧客同士の会話が発生することも多い。出演者が話せる状態にないときに、顧客からフォローが入ったり、商品をおすすめしてくれたりなど、顧客同士がやり取りし、配信を盛り上げてくれるのも、ライブコマースならではの魅力である。
ライブコマースではリピーターが非常に多い。ライバー(出演者)のキャラクターを立たせるよう工夫したこともあり、徐々にファンがついてきた。会話を楽しみたい顧客が「買わないけど遊びに来た」ということもあり、楽しい場を提供できている実感がある。顧客の動きが「見える化」するという点で、ライブコマースは本当におすすめ。(竹腰氏)
ライブ運営(配信)のポイント
顧客とのコミュニケーションを重視
「フラコラ」のライブ運営を始めた当初は、事前に話す内容、役割分担などを細かく決め、きっちりとした台本を作成していた。しかし、現在は台本をあまり作り込まず、ライブ感や視聴者とのコミュニケーションをより重視している。
特に、視聴者のコメントに対してリアクションすることは最優先事項だという。「フラコラ」では、出演者が話に夢中になるうちにコメントが流れてしまうことを防ぐため、運営側から出演者に合図を送り、コメントに応じるよう促している。
出演者のほかに「天の声」を出すこともある。「天の声」は、出演者が画面から外れてしまうなど、ライブ配信で起こるさまざまなハプニングを画面外から声でフォローする。その掛け合いもまた、ライブコマースを盛り上げる。
企業側の一方的な「講演会」にしないことが大切。ライブ配信では、視聴者とコミュニケーションをとり、観に来てくれたことへの感謝を伝える方が好印象で、場も盛り上がる。
「初参加です」とコメントが来たら、話を止めてでも「ようこそ」と言う。購入者には必ずお礼を言う。細かいことだが、視聴者にとっては、話を止めて自分に話しかけてくれたということがうれしいはず。
こうしたやり取りを重ねることでファンになってくれる人が多い。ファンが増えれば、結果的に売り上げにもつながる。(竹腰氏)
盛り上がりが見える仕掛け作り
視覚的なわかりやすさも重要だという。たとえば、紙でポップを作ったり、手書きのメッセージを写したりと、大きくわかりやすいものを散りばめると、視聴者の求心力が高まる。また、時折、視聴者に「ハートを押してください」などと呼びかけることで、スマホの小さな画面上でも場の盛り上がりを共有できる。
スタッフによる商品紹介。ポップや手書きのメッセージを活用している
来場者特典
「フラコラ」のライブ配信は、平日の14時からなど、スタッフにとっても持続可能な時間設定で行っている。夜間や休日しか視聴できない人のために、アーカイブ期間は長めにとる。
ライブ配信の時間に合わせて観に来てくれた人へは特典を用意し、その時来てくれた人だけがちょっとうれしい仕組みにしている。(竹腰氏)
これも、ライブ視聴者への感謝を伝える仕掛けだ。
出演者の育成
視聴者を飽きさせない工夫の1つとして「フラコラ」では出演者を育成し、その数を増やした。これは、同じ商品スタッフによる商品の紹介でも話し手によってその印象が変わるからである。
現在、配信に出演している社員は7人ほど。それぞれ、専業ではなくライブ配信以外にも業務を持つ社員だ。商品について話すためには、成分や効能など、化粧品特有の専門用語を覚えなければならず難しさもあった。しかし、共に学んだことで出演者同士のつながりが強まった上、互いのフォローもできるようになったという。
走り出しはKPIを売り上げで見ない
「ライブコマース運営はファン作り。初めのうちは売り上げよりも視聴者数などの指標を意識した方が良い」と竹腰氏は指摘する。
当初はどれだけ売り上げにつながるかが未知数だったため、出演者がプレッシャーを感じないよう「売り上げは気にしなくて良い」と伝えた。初めのうちは売り上げにこだわらず、来場者とコミュニケーションを取ること、楽しむことを意識すると良い。(竹腰氏)
元五輪選手による運動レクチャー。顧客の運動習慣をサポートし、「フラコラ」の考え方を伝える
ライブコマースから派生した企画
「フラコラ」では、2022年春から、商品を使ってくれているインフルエンサーを集めて組織化し、勉強会などを通して「フラコラ」の考え方を伝えている。1人のファンでもある「フラコラアンバサダー」を通じて、より多くの人に商品の魅力やコーポレートメッセージを届け、新規顧客の獲得につなげようという試みだ。
「フラコラアンバサダー」を招いた配信。美意識の高いインフルエンサーには説得力がある
竹腰氏は、現在の課題感および意識しているポイントとして①新規顧客の獲得 ②既存顧客の満足度とLTV向上 ③飽きないコンテンツ作りの3つをあげる。「ショート動画なども活用しながら、楽しいコンテンツをより多くのお客さまに届けたい」と竹腰氏は話す。「フラコラ」の挑戦はこれからも続く。
ファン作りの秘訣と日本のライブコマース市場のこれから
協和は、ライブコマースの活用により自社商品・ブランドのファンを増やし、リピーターの増加とLTV向上に成功している。ライブ配信の際、竹腰氏は「スマホの外側でも皆が笑顔で、同じ雰囲気でいること」を心がけているという。
一方的な商品紹介による売上追求ではなく、顧客とのコミュニケーションに徹し、顧客と運営側が一緒に場を盛り上げ、楽しむ姿勢が、根強いファンを作っていると言えるだろう。
日本のライブコマース市場はいまだに発展途上で、一社の努力で盛り上げることは難しい。業種を問わずさまざまな会社がライブコマースに関わることで、市場を共に盛り上げていけたらと考えている。(竹腰氏)
自社商品のファンを作り、リピーターを育てるために、ライブコマース運営という新たなマーケティング領域に踏み出してみてはいかがだろうか。