EC事業におけるマーケティングを自動化するマーケティングオートメーション(MA)ツールは、売れているECサイトならほぼ導入していると言われるツールだが、日々の業務に追われるEC担当者にとって、MAだけにリソースを割く余裕はない。
EC向けMAツール「EC Intelligence」を展開するシナブル執行役員の曽川雅史氏が、そんな忙しいEC担当者でも活用できるツールと、カゴ落ちメールやサイト改善など、売れている自社ECサイトが実施している鉄板施策を解説した。
CRMに取り組めていないECサイトは「穴の空いたバケツ」の状態
「人材が足りない」「社内調整が大変」「売上予算の達成が不安」「データ活用できていない」「CRMに取り組めていない」など、EC事業を運営するなかでこのような課題を抱えている事業者は多いだろう。どれも大きな課題だが、「CRMに取り組めていない」という状態は深刻と言える。
獲得した新規顧客に対し、適切なフォローアップを行い、繰り返し購入してもらうためにはCRM(顧客関係管理)が欠かせない。シナブル執行役員の曽川氏は「CRMができていないECサイトは、“穴の空いたバケツ”と同じ」と指摘する。
今は「半年ぶりにサイトに訪問した顧客が何も買わずに帰ってしまった」という詳細までわかるようにデータを取得できる。この顧客に対してメールを送ってフォローする。これだけでも購入率が改善する。しかも、MAツールを利用すれば自動化できる。(曽川氏)
シナブル 執行役員 曽川雅史氏
顧客はAmazonや「楽天市場」のUIに慣れている
2021年のWebサイト訪問者数ランキングでは、2位がAmazon、3位に「楽天市場」がランクインしており、共に累計訪問者数は1100億以上と、日本で2番目、3番目に利用されている。
自社ECの顧客の多くはAmazonも「楽天市場」も使っていると考えられる。そのため、Amazonや「楽天市場」のUIやサービスに慣れており、自社ECは無意識にAmazonや「楽天市場」と比較されていると推測できる。このような状況下で自社ECの売り上げを伸ばすには、「Amazonや『楽天市場』のUIやサービスの真似できる部分は上手く取り入れて、自社の強みを打ち出すことだ」と曽川氏は提案する。
顧客データを生かして店頭と同じようなサービスを
自社ECの最大の強みは、顧客データを細かく取得できることだ。Amazonや「楽天市場」でも注文データから購入者の属性はわかるが、自社ECではさらに詳しい情報を時系列で取得できる。
たとえば、4月10日に会員登録をして、5月10日に商品を購入、2日後に別の商品も購入したが、1か月後のアンケートでは「あまり落ちが良くない」と回答していた――というように、顧客について深く知ることができる。ここから「このお客さまに対してどういう提案をすれば次にまた買っていただけるか」ということが考えられるようになる。
こうした自社ならではのデータを上手く活用することで、お客さまに対して最適な提案ができ、店頭と同じようなサービスを提供できる。これがCRMでリピート顧客を作るために非常に大事なこと。(曽川氏)
今すぐやるべき! カゴ落ち対策
目の前の顧客の動きから、顧客が興味を持ちそうな、関連性の高い商品を提案することは、すでにAmazonや「楽天市場」が圧倒的なデータを使って実装している。それらを上手く真似るには、買わずに帰った顧客に対して「お買い忘れはないですか?」といった内容を送る「カゴ落ちメール」が最適だ。
カゴ落ちメールはAmazonでも収益に貢献している重要な施策と言われていている。大変効果が高いので、もし実施していないサイトがあれば絶対に行った方が良い施策の1つ。(曽川氏)
下の図は、カートに入れても買わなかった経験について聞いた調査結果の年代別グラフだ。一番下の「全体」を見ると、79.8%が「買わなかった経験がある」と回答している。商品をカートに入れてもおよそ8割の人が買わないということがわかる。この8割の人たちにアプローチをしていくのがカゴ落ちメールである。
買わない理由は買い忘れではない
実際にカゴ落ちメールでよくあるのが、「お買い忘れはございませんか?」という文言だが、先の調査によると、カゴ落ちの理由は大きく2つにわかれている。1つは会員登録や支払い情報などの設定が面倒で断念した人たち。もう1つはカートに商品を入れた後に商品や金額について吟味したいという人たちだ。
別に忘れているわけではなく、登録が面倒で途中で止めたか、とりあえずカートに入れて検討していることが多い。そこに「忘れていませんか?」と言われたら、「忘れてはいないけど」と、お客さまの感情とズレが生じてくる。(曽川氏)
ではどのような施策を行えば良いのだろうか。曽川氏によると解決策は3つある。
①会員登録を簡単にする
会員登録などが面倒な人にはポップアップなどで登録の簡素化を提案する。たとえば、利用者の多い「Amazon Pay」などを導入すると、アカウント登録が簡単になる。
②関連商品を提案する
カートに入れた後に商品を吟味したい人は、他に良いモノがないか探している可能性が高いので、カゴ落ちメールで関連商品を提案する。
③「パーソナルセール」を案内する
商品というより金額を吟味している人には、「パーソナルセール」という形で、その人専用、またはカートに入っている商品だけの個別割引を提示する。
カゴ落ちメールの効果が劇的に上がった事例
シナブルの「EC Intelligence」を導入しているアパレル企業が、通常のカゴ落ちメールから、関連商品を提案する形に変更したところ、売り上げが30%増になった。しかも、このカゴ落ちメールのシナリオだけで、MAツールの運用にかかる費用を回収できたという。
具体的には2つの改善策を実施した。1つは件名を「お買い忘れはございませんか?」から「●●さまへのおすすめ」に変え、「商品がカートに入っています」といった内容には一切入れず、商品を提案する形に変更。2つ目は、提案商品のなかにカートに入っている商品と、その商品と一緒によく見られている商品を自動で並べたことだ。
2つの改善施策
これは価格を検討したい人と商品を吟味したい人の両方に、興味がありそうな商品を提案することができて成果につながった例と言える。しかも、実際にはカートに入っている商品ではなく、関連商品の方が多くクリックされたという結果も出た。「こういったことが自動でできるのがマーケティングオートメーションツールの良いところ」(曽川氏)。
成功事例について
パーソナルセールについては、顧客がカートに入れた商品が在庫として滞留していた場合、その顧客専用に値引きクーポンを発行する。興味がある顧客にだけ案内するので、通常よりも反応率が高い。これはMAツールによって、どの顧客がどの商品をカートに入れたかがわかるからこそできることである。
コンバージョン最適化のベストプラクティス
曽川氏はその他にもコンバージョン最適化策として、入力フォームの例も解説した。以下の10項目について、顧客が使いやすい設定になっているかどうか、自社ECサイトを見直してみて欲しい。
① 余計なリンクを外す
カートのシステムによっては入力フォーム画面でヘッダーやメニュー、チャットまで表示しているケースがあるが、誤タップの可能性があるのでこれらはすべて取った方が良い。
②「カートに入れる」ボタンをわかりやすくする
「カートに入れる」ボタンの幅が狭く小さいと誤タップする可能性がある。右側のように、「カートに入れる」ボタンをほぼ横幅いっぱいに表示すると押しやすくなる。
③必須入力マークはわかりやすく
入力必須項目のマークを「*」(アスタリスク)で表示していることが多いが、わかりにくいことがある。「必須」のようにわかりやすくした方が良い。
④入力漏れやエラーを丁寧に
入力漏れやエラー項目を赤字で示すだけでなく、背景色を付けるなどして、どこが間違っているかをわかりやすく表示した方が良い。また、「エラーです」ではなく、「申し訳ございません。入力に間違いがあるようです」と丁寧な表現にすると顧客からの印象が変わる。
⑤入力モードの自動変換
Eメールの入力は半角英数モードに、電話番号入力は数字モードに設定しておく。シンプルだがこれだけでもユーザーのタップ回数は減る。「面倒だな」と感じる部分を減らすことができるのだ。
⑥電話番号欄は1つにする
電話番号は、市外局番、市内局番、加入者番号というように、3つの入力枠にわかれていることがあるが、タップ回数が増えて入力が面倒に感じる。電話番号は覚えている場合が多いので1つの欄にするとエラー率が下がり、登録完了率が上がるという結果が出ている。
逆に、クレジットカード番号はカードを見ながら入力することが多いので、4ケタずつにわけた方が親切と言える。
⑦生年月日はプルダウンで
生年月日は、入力形式だと間違えることがあるのでプルダウン形式が良い。また、最初に表示する年代は顧客層の中心年代にしておくと、選択する年の範囲が少なくて良い。
⑧文字を押しても反応するようにする(ラベル対応)
チェックボックスやラジオボタンを選択するか所について、ボタン自体をタップしないと反応しないのではなく、文字の部分をタップしても反応するようにすると良い。
⑨中心顧客をあらかじめ選択しておく
性別などの選択肢は、顧客の多い方にデフォルトでチェックを入れておくと多くの顧客の手間を省ける。
⑩メールを受け取らない人にはオファーを提示
メール配信について、顧客がメールを「受け取らない」とした時だけ、メルマガ購読のメリットを訴求するオファーを表示させると、「受け取る」を選択する率が上がったという実績がある。
120サイトで導入されているEC向けMAツール「EC Intelligence」とは?
シナブルは、EC構築事業で10年以上の経験者が集まって2014年に創業し、今年で10期目となる。同社が提供するMAツールが「EC Intelligence」だ。「EC Intelligence」は現在、国内外の約120サイトで導入され、導入企業のROAS(ツールの費用対効果)は2000%超えという実績がある(集計期間:2022年8月〜10月)。
「EC Intelligence」の機能概要
シナブルではECのマーケティングに必要な機能を「オールインワン」で、「ちょうど良い価格」にこだわって提供している。同社がそこにこだわる理由は、創業メンバーがEC構築事業に携わっていた経験からだという。
ECサイトが盛り上がり出した頃は、事業者側もお客さまからどういうニーズがあるかわからないところからスタートし、お客さまからの要望やサイトの不便な部分をその都度ベンダーに依頼して改善していたが、これでは効率が良くない。コストもかかるのでやりたい施策がなかなかできない。そこを解消したいという思いがあった。(曽川氏)
多くの企業で事業成長に伴って追加したい機能は似通ってくるため、それらの機能を最初から1つのプラットフォームで、段階に合わせて使える形にすれば問題が解消できるのではないかと考えた。また、エンジニアに効率のいい働き方をしてもらうことで「ちょうど良い価格」で提供できると言う。
価格にもこだわるのは、実際にECの販促やマーケティングが大変だと感じているからだ。周知の通り、消費者はメールやSNSなど、日々さまざまなチャネルで情報を得ている。「今は複数のチャネルで情報発信しないとお客さまには情報が届かない時代になっている」(曽川氏)。
加えて、スマホに適したサイトの構築やアプリの開発、購入履歴や好みに合わせた顧客体験など、消費者がECサイトに求めるものも多様化しており、EC事業者は日々の業務やサイト改善に加えて、こういった要望にも対応していかなければならない状況になっている。
しかし、シナブルのクライアント企業の多くはECの担当部門は5人以下が多く、1人、2人体制という企業もあるという。受注処理や問い合わせ対応といった日常業務を問題なく回すことが最優先で、売り上げを上げるためにCRM施策やサイト改善が大事だとわかっていても、どうしても優先度が下がってしまう状況なのだ。
リソース不足で現場が非常に忙しい状況をなんとか解決していきたい。その都度、膨大な数からツールを選ぶ苦労や、価格のことであまり悩まなくても良いように、サービス提供している。(曽川氏)
※このコンテンツはWebサイト「ネットショップ担当者フォーラム - 通販・ECの業界最新ニュースと実務に役立つ実践的な解説」で公開されている記事のフィードに含まれているものです。
オリジナル記事:「Amazon」「楽天市場」に引けを取らない自社ECになる! 売れているECサイトが必ずやっているカゴ落ち施策と入力フォーム改善策を解説
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