「物流2024年問題」が1年後に迫っている。ドライバーの賃金アップのため、配送業者が荷主や利用者に転嫁することによる運賃値上げが懸念されており、EC事業者が受ける影響は甚大だ。また、物流・配送周りの自動化・効率化も進んでおり、EC事業者が取り組むべき課題は山積している。EC物流の最新事情や、これからEC事業者が取り組むべき施策について、200社を超えるEC事業者のフルフィルメントに携わってきた筆者(編注:スクロール360 取締役の高山隆司氏)が明かす。
高山隆司氏。1981年スクロール(旧社名ムトウ)入社以来、42年にわたり通販の実戦を経験。2008年、他社のネット通販事業をサポートするスクロール360設立に参画、以後200社を超えるネット通販事業の立ち上げから物流受託、システム受託を統括
物流の「2024年問題」が通販・EC業界に与える影響とは
そもそも2024年問題とは?
2024年4月1日からトラックドライバーの「年間時間外労働」の上限が年間960時間に制限される。これまで若手不足と高齢化による労働力不足が問題視されてきたなか、さらにEC市場の急成長に伴う宅配便数の増加や再配達の増加などにより、長時間労働が常態化していたことに対する政策となる。
一見、物流業界がホワイト化するきっかけとなるように思われるが、これまで残業で支えられてきたEC物流が停滞してしまう危険性も指摘されている。
そこでこの問題に精通している流通経済大学の矢野裕児教授に、2024年問題がEC業界に与える影響についての取材を行った。
トラックドライバーの高齢化
まず日本のトラックドライバーの実態を調査するにあたり、2010年から2021 年で、トラックドライバーの年齢編成がどのように推移しているかを矢野教授に尋ねてみた。
グラフはトラックドライバーの年代別構成比を10年(黒)と21年(グレー)で比較したものだ。黒の棒グラフにいたトラックドライバーが11年経つと10歳年を重ねてグレーの棒グラフに移動している。このグラフによると若い20~30代が増えず、トラックドライバーの高齢化が進んでいることがわかる。
トラック運転者の年齢推移
ということは2031年になったらグラフは同じように10歳年をとり、EC配送は50代、60代を中心に担うことが予想される。
トラックドライバーという仕事は3K(きつい、汚い、危険)な職種とみられることから、現在若い世代から敬遠されがちだ。さらに最近では、新3K(きつい、帰れない、厳しい=給料が安い)という言葉も生まれており、トラックドライバーはそれにも当てはまるとされている。
今回の「年間時間外労働時間の上限設定」は、ドライバーの働く環境改善のために施行される。同時に、残業時間減による収入減が予想されるため、給料の引き上げも想定されている。
それではこの法律の施行によりどれだけの労働時間が削減されるのだろうか? 実際、トラックドライバーの労働時間のなかにどれだけの残業時間があって、そのうち何%の残業時間が上限を超えてしまうのかも矢野教授に教えていただいた。
2024年からは2割の商品が配送できなくなる⁉
グラフはトラック運転者の労働時間別の構成比を示している。現在の基準でもすでに、全体の4.3%が3516時間を超えて規定を上回っている。
トラック運転者の労働時間別構成比
さらに24年4月1日の改善基準では3300 時間以上(17.4%)も規制対象となるため、合計すると21.7%は長時間労働ができなくなる試算となる。単純計算で2割の商品が配送できなくなるのだ。
さらに深刻なのは、長距離輸送で3割強の労働時間が失われることである。北海道の産品はフェリーで茨城県大洗港に輸送されるため、ドライバーの長時間労働にはならず影響は少ないが、九州の生鮮品が関東に届かなくなる危険性があると矢野教授は指摘している。
長時間労働ができなくなるため、九州から東京に来る途中でドライバーの交代が必要になる。その結果宮崎のマンゴーが届かなくなる、もしくは鮮度が落ちたものしか東京に届かなくなる可能性がある(矢野教授)。
2024年問題への対応策
規制まであと1年、対応待ったなしという状況のなかで、物流事業者の間ではどのような対策が打たれているのだろうか? 本稿では2点の施策を紹介する。
①モーダルシフト
モーダルシフトとは、トラックなどの自動車による幹線貨物輸送を、「地球に優しく、大量輸送が可能な海運または鉄道に転換」することをいう。海運と鉄道による輸送は、少人数で大量に物を運べるというメリットだけでなく、CO2の排出量もトラックと比べて大幅に少ないという点でも優れているといえる。
運送会社の営業用トラックにおけるCO2排出量は216g‒CO2(2トンキロ当たり。以下同様)であるのに対し、船舶は43g‒CO2とトラックのわずか5分の1、鉄道に至っては21g‒CO2と10分の1以下にとどまる。「2024年問題」を契機にモーダルシフトが加速することが予想される。
②中継輸送
2018年9月、新東名浜松サービスエリアに「コネクトエリア浜松」という中継物流拠点が開設された。ネクスコ中日本と地元企業の遠州トラックが連携整備したものだ。
2018年に開設された中継物流拠点「コネクトエリア浜松」(画像は「コネクトエリア浜松ホームページ」より)
東京から来たトラックと大阪から来たトラックが、この中継地点でトラックを交換し、それぞれ来た東京と大阪に帰る仕組みだ。これによりドライバーは自宅でしっかり休息をとることができる。
中継地点でトラックを交換する(画像は「コネクトエリア浜松ホームページ」より)
このような中継基地が日本各地にできれば、乗り継ぎで長時間労働から解放され、朝出発して夕方までに自宅のあるエリアに到着することができる。
宅配クライシス再来の恐れも
これまでに紹介した2024年問題の対策以外にもいろいろな試みが官民で進められているが、失われる労働時間をすべてカバーできるわけではない。運賃の値上げ、集荷時間の繰り上げ、配送日数の繰り下げなどさまざまな宅配クライシスが再来する恐れがある。防衛のために新たな配送キャリアを準備する必要があるかもしれない。
置き配やロッカー配送のような不在再配達のない配送方法も、トラックドライバーの残業削減のために増やしていく必要がある。
2024年度はそういった配送上のマイナス要素があることを想定したビジネスプランの策定が必要と思われる。
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オリジナル記事:EC物流のプロが解説、宅配クライシスの再来「2024年物流問題」+通販業界に与える影響 | 通販新聞ダイジェスト
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