ECサイトの構築などにかかった費用の一部を、補助金として受け取ることができる「IT導入補助金」。2023年度の申請が2023年3月28日に始まりました。企業の生産性向上やDXなどの取り組みを対象として、最大450万円が補助されます。クラウドシステムの月額利用料も最長2年分が補助対象になるため、ECプラットフォームでネットショップを立ち上げる際にも活用することが可能です。
この記事では「IT導入補助金2023」の内容、申請手順、応募枠の種類、申請の注意点、2023年度から新たに申請条件として追加された経営チェック「みらデジ」について解説します。「IT導入補助金2023」の申請をすでに準備している事業者はもちろん、新年度にEC参入やDXへの投資を計画している企業も、ぜひ申請条件をチェックしてみてください。
「IT導入補助金2023」とは?
IT導入補助金2023(サービス等生産性向上IT導入支援事業)は、生産性向上などに取り組む中小企業や小規模事業者を対象に、ITツールの導入経費の一部を国が補助する制度です。
補助金の対象はソフトウェアの購入費だけでなく、クラウドサービスの利用料、ハードウェア(PC・タブレットなど)の費用、ツール導入時のコンサルティング費用も含まれます。
【補助金の対象(一例)】
- ソフトウェアの購入費用
- ソフトウェアのオプション費用(機能拡張やデータ連携ツールなど)
- クラウドサービスの利用料
- セキュリティ対策ツールの導入費用
- ITツール導入に関するコンサルティング費用
- システムの保守・サポートといった役務にかかる費用
- PCやタブレットなどハードウェアの購入費
IT導入補助金2023の対象となるITツール
IT導入補助金2023の対象となるのは、IT導入補助金事務局に認められた「IT導入支援事業者」が提供し、かつ、事務局に事前登録されたツールや役務に限られます。
「IT導入支援事業者」とは、申請者(中小企業や小規模事業者)のパートナーとして、ITツールの説明や導入などのサポートを行う事業者のこと。補助金の交付申請や実績報告など、事務局に提出する各種申請の手続きもサポートします。
「IT導入支援事業者」の一覧は下記の「IT導入補助金2023 公式サイト」でご確認ください。
◆ IT導入補助金2023 IT導入支援事業者採択一覧
IT導入補助金2023の対象業種
IT導入補助金2023の対象となる業種は、飲食業、宿泊業、卸売業、小売業、運輸業、サービス業、製造業、建設業、医療、介護など、幅広く認められています。ただし、対象は「中小企業」や「小規模事業者」のみで、その定義は業種ごとに資本金や従業員数によって定められています。公募要項に記載された定義を確認してください。
IT導入補助金の活用事例
過去のIT導入補助金に採択された事業者の、生産性向上などの取り組みの事例も公開されています。ITツールを選択する際の参考にしてください。
ただし、2022年度以前のIT導入補助金に採択された事例であり、2023年度の申請要件とは異なる場合もあります。申請する際はIT導入補助金2023の交付規定・公募要項を必ずご確認ください。
◆ IT導入補助金2020活用事例
IT導入補助金2023の4つの申請枠
IT導入補助金2023において、中小企業や小規模事業者が単独で申請できるのは「通常枠(A・B類型)」「セキュリティ対策推進枠」「デジタル化基盤導入枠(デジタル化基盤導入類型)」の3種類です。
また、複数の中小企業・小規模事業者が連携して申請する「デジタル化基盤導入枠(複数社連携IT導入類型)」もあります。
申請する枠によって、応募条件や受け取ることができる補助金の額が異なります。それぞれの申請要項を確認し、自社の課題解決や生産性向上につながるものを選択してください。
1.通常枠(A・B類型)
業務プロセスの生産性向上などに貢献するITツールを導入した際に、導入費用などの一部が最大450万円補助されます。ソフトウェアの導入費用やクラウド利用料(最大2年分)、導入時のコンサルティング費用、ITツールの保守サポート費用などが対象です。
通常枠は「A類型」と「B類型」の2種類があり、「A類型」はITツールを使って生産性向上を図る業務プロセスの数が1つ以上、「B類型」は生産性向上を図る業務プロセスが4つ以上であることが条件です。
補助金の金額は「A類型」が5万~150万円未満、「B類型」は150万~450万円以下となっています。補助率はどちらも経費の1/2(50%)以内です。
「通常枠」は働き方改革や賃上げ、被用者保険の適用拡大、インボイス制度への対応といった経営課題に直面する中小企業・小規模事業者を支援し、生産性向上を後押しすることが目的です。そのため、賃上げ計画 (A類型は加点項目、B類型は必須要件)など、生産性向上に取り組む事業計画を提出する必要があります。
詳しい応募条件については、IT導入補助金2023 通常枠の公募要領(2023年3月15日更新)をご確認ください。
IT導入補助金2022との違い
前年度(IT導入補助金2022)との違いは、通常枠A類型の交付額の下限が30万円から5万円に引き下げられたことと、通常枠(A・B類型)のクラウド利用費の補助対象期間が1年から2年へと延長されたことです。
また、次に解説するデジタル化基盤導入枠(デジタル化基盤導入類型)は、補助金の下限が撤廃されました(前年度は下限5万円)。
2.デジタル化基盤導入枠(デジタル化基盤導入類型)
デジタル化基盤導入枠(デジタル化基盤導入類型)は、対象となるITツールを「会計ソフト」「受発注ソフト」「決済ソフト」「ECソフト」に特化しています。
ソフトウェアの導入費用やハードウェア(PC、タブレット、スキャナ、レジなど)の購入費用、クラウドサービスの利用料(最大2年分)、導入時のコンサルティング費用、ITツールの保守サポート費用などの一部が補助されます。
補助額の上限は、ITツールの導入費用は350万円まで(下限なし)。補助率は50万円以下の部分が経費の3/4以内、50万円を超える部分は経費の2/3以内です。
また、ハードウェアの導入費用に対する補助額の上限は「PC・タブレット等」が10万円、「レジ・券売機」は20万円となっています。ハードウェア導入費用に対する補助率は経費の1/2以内です。
デジタル化基盤導入枠(デジタル化基盤導入類型)の主な審査項目
デジタル化基盤導入枠(デジタル化基盤導入類型)の主な審査項目(加点項目および原点項目)は次の通りです。
【事業面からの審査項目】
- インボイスにも対応するための、生産性向上にもつながる効果的なITツールを導入しているか
- 自社の経営課題を理解し、経営改善に向けた具体的な問題意識を持っているか
【政策面からの審査項目】
- 生産性の向上及び働き方改革を視野に入れ、国の推進する関連事業に取り組んでいるか
- 国の推進するセキュリティサービスを選定しているか
- 以下の「加点項目について」の3にある賃上げに取り組んでいるか
「加点項目について」
審査の加点対象となる取り組みは以下の通りです。
- 地域未来投資促進法の地域経済牽引事業計画(IT導入補助金の申請受付開始日が当該計画の実施期間内であるものに限る)の承認を取得していること。
- 交付申請時点で地域未来牽引企業に選定されており、地域未来牽引企業としての「目標」を経済産業省に提出していること。
- 以下の要件を全て満たす3年の事業計画を策定し、従業員に表明していること
- 計画期間において、給与支給総額を年率平均1.5%以上増加 (被用者保険の適用拡大の対象となる中小企業・小規模事業者等が制度改革に先立ち任意適用に取り組む場合は、年率平均1%以上増加)
- 事業計画期間において、事業場内最低賃金(事業場内で最も低い賃金)を地域別最低賃金+30円以上の水準にする。
審査項目の詳細はデジタル化基盤導入枠(デジタル化基盤導入類型)の公募要項をご確認ください。
◆ デジタル化基盤導入枠(デジタル化基盤導入類型) 公募要項(2023年3月15日更新)
3.セキュリティ対策推進枠
サイバー攻撃に対するセキュリティ対策を目的に、ITツールを導入する中小企業・小規模事業者に対して、サービスやツールの導入費用の一部を補助する制度です。補助金額は5万~100万円、補助率は1/2以内。サービス利用料の最大2年分が補助の対象となります。
独立行政法人情報処理推進機構(IPA)の「サイバーセキュリティお助け隊サービスリスト」に掲載されているサービスのうち、IT導入補助金2023におけるIT導入支援事業者が提供し、かつ、IT導入補助金事務局に事前登録されたサービスが補助の対象です。
「サイバーセキュリティお助け隊サービス」は、IPAの「サイバーセキュリティお助け隊サービス制度」のサイトから確認してください。
セキュリティ対策推進枠の申請条件について、詳しくはセキュリティ対策推進枠の公募要項をご確認ください。
◆ セキュリティ対策推進枠 公募要項(2023年3月15日更新)
4.「デジタル化基盤導入枠(複数社連携IT導入類型)」
デジタル化基盤導入枠(複数者連携IT導入類型)は、サプライチェーンなどでつながった複数の中小企業・小規模事業者が連携してITツールを導入し、生産性向上を図る取り組みを対象とした補助金です。
補助金の対象となるのは、先に説明した「デジタル化基盤導入枠(デジタル化基盤導入類型)」の対象である会計ソフト・受発注ソフト・決済ソフト・ECソフトの費用およびハードウェアの費用に加え、消費動向分析にかかった費用や、代表事業者が参画事業者をとりまとめるために使った事務費や旅費などの一部も含まれます。
グループの構成員数によって補助金の交付額が決まり、上限は合計3200万円、グループ構成員は10事業者以上である必要があります。
補助金の対象となる事業の例は、インボイスへの対応や企業間決済手続きの効率化、キャッシュレス化によるサービス向上(電子地域通貨の導入)など。EC関連では、複数事業者のECサイトに分析ツールを導入し、顧客のニーズを的確に捉えた情報発信を行い、オンラインとオフラインとをあわせた販売戦略や効果的な受発注、在庫管理などを図る取り組みも対象になるとしています。
詳しい応募条件などは、デジタル化基盤導入枠(複数社連携IT導入類型)の公募要項をご確認ください。
◆ デジタル化基盤導入枠(複数社連携IT導入類型) 公募要項(2023年3月15日更新)
補助金の申請手順 8つのステップ
「IT導入補助金2023」の申請は、次の8つのステップで進みます。IT導入補助金の申請を検討している方は、まずは全体の流れを把握してください。
【ステップ①】IT導入補助金2023の内容を理解する
IT補助金2023のWebサイトや、応募枠それぞれの公募要項を読み、IT導入補助金2023の内容を理解してください。
【ステップ②】「IT導入支援事業者の選定」と「ITツールの選択」
補助金の申請は「IT導入支援事業者」と一緒に行います。自社の業種や事業規模、経営課題を踏まえて「IT導入支援事業者」と「導入したいITツール」を検討してください。
「IT導入支援事業者」の一覧は下記のサイト(IT導入補助金2023 公式サイト)でご確認ください。
IT導入補助金2023 IT導入支援事業者採択一覧
【ステップ③】アカウント取得と経営チェック(みらデジ)
申請には「gBizIDプライム」のアカウント(ID・パスワードなど)が必須です。また、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)の「SECURITY ACTION」を宣言することも必要になります。
さらに、「みらデジ」と呼ばれる経営チェックを受けることも申請の条件です。「みらデジ」とは、中小企業庁が実施する中小企業・小規模事業者の経営課題をデジタル化により解決することをサポートする制度。詳しくは「みらデジ」のWebサイトをご確認ください。
【ステップ④】交付申請
IT導入支援事業者と商談を進め、交付申請の事業計画を策定した後、申請マイページから申請に必要な情報を提出します。申請者(中小企業・小規模事業者)は以下の流れで交付申請を行います。
- IT導入支援事業者から「申請マイページ」の招待を受け、代表者氏名などの申請者基本情報を入力
- 交付申請に必要となる情報を入力し、書類を添付
- IT導入支援事業者が、導入するITツールの情報や事業計画値を入力
- 「申請マイページ」上で入力内容を確認し、申請に対する宣誓を行った上で、事務局へ提出
【ステップ⑤】ITツールの発注・契約・支払い
IT導入補助金2023事務局から「交付決定」の連絡を受けた後、ITツールの発注・契約・支払いを行います。なお、補助金の交付決定の連絡が事務局から届く前にITツールの発注・契約・支払いなどを行った場合、補助金の交付を受けることができませんので注意してください。
【ステップ⑥】事業実績を報告
補助事業の完了後、実際にITツールを導入し、支払いを行ったことを証明する書類を提出します。実績報告は以下の流れで行います。
- 申請者(中小企業・小規模事業者)が「申請マイページ」から事業実績報告に必要な情報を入力し、事業実績報告を作成
- IT導入支援事業者が事業実績報告の内容を確認し、必要情報を入力
- 申請者が最終確認し、IT導入補助金2023事務局に事業実績報告を提出
【ステップ⑦】補助金交付の手続き
実績報告が完了し、補助金額が確定したら、「申請マイページ」で補助額を確認できるようになります。内容を確認した後に、補助金が交付されます。
【ステップ⑧】実施効果の報告
ITツール導入後の効果を提出します。決められた期限内に「申請マイページ」から必要な情報を入力し、IT導入支援事業者の確認を経て提出します。
IT導入補助金2023の注意点
IT導入補助金2023を申請する際の注意点を解説します。
補助金の交付は枠ごとに1回まで。複数枠への申請は減点になることも
IT導入補助金2023で補助金の交付を受けられるのは、通常枠・セキュリティ対策推進枠・デジタル化基盤導入枠のそれぞれ1回までです。なお、審査で不採用になった場合には、同じ枠に再度申請することが可能です。
なお、IT導入補助金2023において、同一の申請者が複数の枠に応募した場合には、追加で申請した枠の審査で減点対象となり、審査が通りにくくなる場合があるため注意が必要です。たとえば、「デジタル化基盤導入枠(デジタル化基盤導入類型)」にすでに申請している事業者が、追加で「通常枠」にも申請した場合、「通常枠」の審査では減点対象になります。
また、前年度(IT補助金2022)で補助金の交付を受けた事業者が、今年度(IT導入補助金2023)に申請する場合にも、枠によっては審査で減点対象になったり、審査要件を満たさなかったりすることがあります。
申請に関する詳しい条件については、各応募枠の公募要領をご確認ください。
申請後すぐに補助金を受け取れるわけではない
IT導入補助金を申請しても、すぐに補助金を受け取れるわけではありません。前年度(IT導入補助金2022)では、申込の締切日から交付決定までの日数の目安として1か月半ほどかかるとアナウンスしていた時期もありました。
また、交付が決定してからITツールを導入し、事業実績報告が完了してようやく補助金が交付されます。申請から交付まで数か月程度かかる前提でキャッシュフロー計画を立てる必要があるでしょう。
賃上げ計画が未達成なら返金を求められる場合も
従業員の賃上げが条件になっている応募枠で補助金を受け取ったにもかかわらず、賃上げ計画が未達成だった場合には、返金を求められることがあります。
たとえば、「通常枠B類型」では下記のような賃金引上げ目標が申請条件となっており、事業計画終了時点で目標を達成できなかった場合、補助金の返還を求めるとしています。
以下、IT導入補助金2023Webサイトより引用
- 事業計画期間において、給与支給総額を年率平均1.5%以上増加させること。ただし、被用者保険の適用拡大の対象となる中小企業・小規模事業者等が制度改革に先立ち任意適用に取り組む場合は、年率平均1%以上増加させること。
- 事業計画期間において、事業場内最低賃金(事業場内で最も低い賃金)を地域別最低賃金+30円以上の水準にする。
※例外規定あり。詳しくはIT導入補助金2023のWebサイトをご確認ください。
その他ECサイト構築に使える補助金(ご参考)
ECサイト構築やECシステムの導入などに使える補助金は、IT導入補助金の他にもあります。EC事業の強化や新規参入を検討している事業者は参考にしてください。
小規模事業者持続化補助金
「小規模事業者持続化補助金」は、自社の経営を見直して持続的な経営を行う小規模事業者を対象に、販路開拓や業務効率化にかかった費用の一部を補助する制度です。
EC関連では、ECサイトの構築・更新・改修・開発・運用などの経費が補助対象になり、リニューアルも含まれます。また、新サービスを紹介するチラシの作成や配布、新商品の試作品開発に伴う経費なども対象です。
なお、補助金を申請できるのは、小規模な法人や個人事業主のみ。常時雇用の従業員数は「商業・サービス業」が5人以下、製造業は20人以下といった条件があります。
詳しくは、全国商工会連合会の「小規模事業者持続化補助金」のサイトなどをご確認ください。
事業再構築補助金
「事業再構築補助金」は、中小企業や中堅企業を対象に、新規事業への参入や業態転換などにかかる費用の一部を補助する制度です。たとえば、実店舗で商売している小売店がECを始める場合、ECサイトの構築費用などの一部が補助されます。
従業員数などに応じて最大8000万円の補助を受けられるなど、補助金の上限はIT導入補助金より高く設定されています。その分、補助を受ける条件も細かく設定されていますので、詳しくは中小企業庁の「事業再構築補助金」のページをご確認ください。
ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金
「ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金」は、働き方改革や被用者保険の適用拡大、賃上げ、インボイス導入といった制度変更に直面する中小企業や小規模事業者を支援するための補助金です。
革新的なサービスの開発や試作品開発、生産プロセスの効率化などを目的とした設備投資の費用の一部が補助されます。
製品開発や生産性向上、海外事業拡大、DX、賃上げ、CO2削減といった目的ごとに応募枠が設けられており、従業員数などに応じて100万~4000万円の補助金額が設定されています。
詳しくは、全国中小企業団体中央会の「ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金」のページをご確認ください。
※このコンテンツはWebサイト「ネットショップ担当者フォーラム - 通販・ECの業界最新ニュースと実務に役立つ実践的な解説」で公開されている記事のフィードに含まれているものです。
オリジナル記事:ECサイト構築などに最大450万円の補助などが受けられる「IT導入補助金2023」。内容や申請手順を解説! | E-Commerce Magazine Powered by futureshop
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