日本にEC市場が生まれてから20年以上が経ちました。この間、ECにおけるデザイン制作、システム開発、インターネット広告、多種多様なマーケティングツール、バックオフィスツールなど、ECを成長させるためのテクノロジーとソリューションは大きな進化を遂げています。しかし、「EC事業が成長しない」「業績が伸びない」といった悩みを抱える事業者は少なくありません。その理由をEC事業者における組織や人材の「運営力」に注目し、解説していきます。
組織や人材の「運営力」
- EC事業成長のカギは組織の「運営力」。「EC組織力」向上させるポイントとは?
全5回の記事では、筆者のECマーケティング人財育成(ECMJ)が手がけるコンサルティング、相談、講演・セミナーでの質問などから、EC事業の「運営サイクル」を強化するために必要な項目を洗い出した「EC事業の運営サイクル強化のためのチェックシート」をベースに、EC事業を伸ばす「組織力」「人材力」「運用力」を解説していきます(チェックシートの詳細はこちら)。このチェックシートは、「EC組織力」「EC人材力」「EC運用力」の大項目、14の中項目、そして41の小項目から成ります(2023年2月時点)。
EC事業者の組織と人材の「運営力」がカギ
ECに取り組む事業者の多くには「EC事業を成長させるための知識」が不足しています。
その問題はEC事業者側にあります。本来、EC事業の成長のためには、自社の組織や商材、そしてマーケティングレベルに合ったECソリューションを選択・判断し、「自社独自のECマーケティングノウハウ」を確立することが大切です。
しかし、経験値とも言うべき「EC事業を成長させるための知識」が不足しているため、「自社独自のECマーケティングノウハウ」の確立に至るまで「運営サイクル」を回し続けられないのです。
つまり、EC事業が思うように成長しない原因は、EC事業者における組織や人材の「運営力」にあると言えます。
EC事業者としての覚悟を確認する「EC組織力」
まず、チェックシートの最初のカテゴリは「EC組織力」です。
EC組織力は「組織」「定例会議」の2つの中項目から成ります。EC組織力とは、「企業としてEC事業を新しい事業の柱にするための力」です。言い換えるならば、いかに真剣にEC事業に取り組むか、EC事業者としての「覚悟」を確認する項目といえるかもしれません。
EC組織力のチェックポイント
- 組織
- EC事業を全社的な取り組みと位置づけ、社内のあらゆる部門に協力を依頼できているか
- EC事業担当部門の評価を明確にし、既存事業部門からの反発を招かないようにしているか
- 実店舗や営業部門など、お客さまと直接意見を交わす部門の情報をEC部門にも連携しているか
- 定例会議
- EC事業単独のマーケティング定例会議を月2回以上開催しているか
- マーケティング定例会議では、対応する課題を決め、具体的な対応策を書き残すことができているか
- マーケティング定例会議では、前回の定例会議であがった対応策の進捗確認をしているか
組織 ①:EC事業を全社的な取り組みと位置づけ、社内のあらゆる部門に協力を依頼できているか
EC事業は社内の閉ざされた一部門で推進するものではなく、全社的な取り組みと位置づけるべきものです。
EC独自の商品企画、在庫管理、既存取引先との交渉など、EC事業を成長させるためには社内のあらゆる部門が関わります。経営者自らが社内発信し、「新しい事業の柱」を構築するための旗を掲げましょう。
組織 ②:EC事業担当部門の評価を明確にし、既存事業部門からの反発を招かないようにしているか
EC事業の推進がデメリットになる部門が社内に存在する場合もあります。たとえば、既存事業として実店舗運営をおこなっており、新しい柱としてEC事業を強化するケース。
「お客さまがECサイトに誘導されることで、実店舗の販売実績に影響が出るのではないか」そんなネガティブな心理が表れるのは当然です。EC事業と既存事業が協力してビジネス全体を伸ばしていく評価の仕組みを用意しましょう。
組織 ③:実店舗や営業部門など、お客さまと直接意見を交わす部門の情報をEC部門にも連携しているか
EC事業を成長させるポイントは、サイト上の改善施策とその成果データの取得だけではありません。実店舗や営業部門など、実際にお客さまと直接意見を交わす部門の「生の情報」が、ECにおいてもお客さまへの次の提案の「ヒント」になります。
「リアル」である実店舗や営業部門と「ネット」であるEC部門、お互いの情報が常に行き来するような仕組みを作っていきましょう。
定例会議 ①:EC事業単独のマーケティング定例会議を月2回以上開催しているか
EC事業を成長させるためには、EC事業に特化した会議を行うことが大切です。既存事業が存在するEC事業者にとって、EC事業の取り組みは優先順位が曖昧になりがちです。漏れなく月2回以上のECマーケティング定例会議を行いましょう。
既存事業の繁忙期など、EC事業の改善施策が動かせない時期でも、EC事業の優先順位をあやふやにしないこと。そのために、データ確認など最低限の内容での定例会議の開催をオススメします。
定例会議 ②:マーケティング定例会議では、対応する課題を決め、具体的な対応策を書き残すことができているか
EC事業のマーケティング定例会議は、あくまで事業を成長させるためのものです。ぼんやりとしたアイデア出しや、無責任な不平不満を出す場ではありませんし、それでは事業は成長しません。まずはメンバーで運営課題を洗い出すこと、そして具体的な対応策を考えること。
大切なのは口頭だけで会議を進めるのではなく、意見を「書き残す」ことです。課題と対応策を文字として明文化し、メンバーの認識齟齬を確認します。そして、決まり事としてメンバーからの合意をとりましょう。
定例会議 ③:マーケティング定例会議では、前回の定例会議であがった対応策の進捗確認をしているか
マーケティング定例会議はその名のとおり「定期的」に実施します。まずは対応する課題を決め、具体的な対応策を書き残します。そして次の定例会議では前回の対応策の進捗管理を行うのです。対応策は実践してこそEC事業の成長につながります。
残念ながら、決定事項でも必ずしも実践されるわけではありません。定例会議で進捗確認をすることで、「実践されない(できない)理由」についてもカバーすることができます。早い段階でボトルネックを認識すれば、実践のサポートも可能になります。
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今回は「EC事業の運営サイクル強化のためのチェックシート」における「EC組織力」について6つのチェックポイントをご紹介しました。次回は「EC人材力」として、「EC事業を推進するためのデジタルを活用したマーケティング力」のポイントをご紹介します。
※このコンテンツはWebサイト「ネットショップ担当者フォーラム - 通販・ECの業界最新ニュースと実務に役立つ実践的な解説」で公開されている記事のフィードに含まれているものです。
オリジナル記事:EC事業成長のカギは組織の「運営力」。「EC組織力」向上させる6つのポイントとは? | 強いEC会社を支えるネットショップ担当者を作る人財育成講座
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