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2017年広告マーケティング業界 7つの予測 その④~その⑦」 からご覧ください。
④ トランスペアレンシーは広告主・エージェンシー相互関係の構築へ
2016年に起きた事象は、デジタル広告(特に細かいオペレーションを伴うもの)が従来の枠取引とは違う文化にあることを改めて再確認した。ベムは、「紙のレポートを1週間に1回代理店の営業が持ってきて広告主に向き合って報告するモデル」から、「広告主とエージェンシーのトレーダーが横に並んで同じ画面を見て状況を共有し、その後も方針を確認していくモデル」と定義している。
いずれにしても、「何でもお任せください」と言ってきた代理店側が爆裂してしまった訳で、広告主側も丸投げすることができないということを認識したことと思う。改めて広告主が勉強することが大事だし、広告を発注する側、請け負う側という立場だけなく、パートナーとして情報を共有する相互信頼関係の構築が必要である。
ANA(全米広告主協会)のメディアトランスペアレンシーガイドにも7つ目にこの「相互信頼関係の必要性」を謳っている。
デジタル時代、広告のセルサイドとバイサイドという関係を超えて共同して価値をつくることを目指したいものだ。業界としても米国IABのモデルを参考にしたい。
⑤ テレビCM素材のオンライン送稿開始の影響と、ブランドごとの発注の非効率さ露呈 ~バルク買い&ポジションごとの素材差し替え志向と、スポットから番組への流れ~
ずっとやるやると言ってきたテレビCMのオンライン送稿がやっと今年実現しそうだ。CMプロダクションの食い扶持がプリント代なので・・・という議論はひとまず置いておいて、ベムが広告主ならプリント代が節約できることよりも、改めてCMの機動的な差し替えやオーディットを求めるだろう。オーディットと言っても以前の間引き問題のような話ではなく、バルクで買って細かい素材ごとの1本1本のポジションごとに適切な素材を入れたいのだ。ポジションごとにオーディエンスや視聴質が違うのだから、そうする。
差し替えの問題とオンライン送稿は直接関係ないが、機動的な差し替えがどうして出来ないの?という議論と素材が何種類かに分かれていた場合、入れたいポジションに入れたい素材がしっかり入っていたかをオーディットしたいけど・・・という議論を誘発するだろう。
ベムは、特に都市部ではテレビからデジタルデバイスへ投下予算のシフトが起こると思うが、テレビ予算でいうと「スポットから番組へ」というシフトが起きると思う。
人口が多い高齢層の視聴時間が極めて長く、人口の少ない若年層の視聴時間が短い今、まんべんなく投下するテレビスポットは結局ほとんど高齢層に当たる。コンドロイチンならそれでいいだろうが、ターゲットが50代までの男性ないし30代までの女性ならば番組というコンテンツでターゲティングする買い方を再評価すべきだ。まただからこそ局も広告主も番組を世帯視聴率ではなくターゲット視聴率で評価するようにならなければならない。そしてそこにはタイムシフト視聴もしっかり評価することも大事だ。そのためにはリアルタイム視聴でもタイムシフト視聴でもCMがどの程度見られたかを測定しないと意味がない。録画だからと言ってすべてCMがスキップされる訳ではない。スキップ率は番組によって全然違う。また録画再生だけがタイムシフト視聴ではないので、どこまで足し上げて評価するかが問われるだろう。
おそらく2020年代にはデジタル広告のシェアがテレビを超えるだろう。その際、従来とは全く違う2つの構造的な課題がある。
ひとつは配信先データのコストも広告主が払うのかどうか(自分で所有できる場合があるからだ)、そしてブランドごとの発注の非効率さだ。
後者を説明すると、既にリスティングやDSPといった入札運用型広告では、キーワードやクッキー、IDを「競っている」ので、社内で競合して値段を上げているのだが、それに気がついていない。複数の広告ブランドを展開する大きな広告主は、バルクで掲載面を購入し、オーディエンス、タイミング、コンテンツ、コンテキストに最も適したブランドの広告原稿を配信するモデルになる。それはまさにプログラマティックのなせる技で、当然ブランドごとの予算配分も行うことになる。AIが広告の最適化にも応用されるだろうが、まずはこうしたところが対象だろう。
⑥ オペレーション人材不足の懸念と受注を断られる広告主、そして自動入札の試運転へ
広告のプログラマティック購買の流れは止まらない。オペレーションのマンパワーが足りないという問題を抱えつつもこのトレンドは進むだろう。プログラムと言っているのにどうしてこうも人手がかかるのか・・・。
これだけ人手がないと、あまりにディスカウント要請が強く、かつ細か過ぎる対応を要求する広告主は仕事を断られることがあるだろう。もちろん受け皿は他にもあるだろうが、そのクオリティは担保されない。
一部で「断られる」ということが今後のこのビジネスの変化をきたす。
広告主の一部は自社で解決しようとするだろうが、
インハウストレーディングデスク構築はこれだけ人材不足だと厳しいと言わざるを得ない。
またサービスのサプライヤー側も人材不足を解決するため自動入札システム構築に動き出すだろう。これにはいくつかのハードルがあるが、ハードルを乗り越えるプレイヤーも出てくるに違いない。実は汎用の自動入札システムをつくるのは難しいが特定の広告主に特化したものの方がつくりやすい。
一方、オペレーション人材を育てる研修などの仕組みへのニーズが高まる。
それは直接オペレーションする人材だけでなく、プログラマティックとは何かを関わるすべての人が知る必要に迫られるだろう。
特にマーケター側の研修やスキル獲得のための仕組みづくりが重要なテーマになる。
⑦ 企業にCDO設置が本格化する年
企業における「デジタル変革」(デジタル・トランスフォーメーション)の概念や必要性の認識がようやく定着してきた。マーケティングのデジタル化もその一環である。
そう考えると、マーケティング領域だけがデジタル化するということでもなく、またマーケティングをデジタル化するには、営業マーケティング領域以外の部門との再編や連携が必要で、それを統括するCクラスにはマーケティング領域を超えた力が要る。
そもそも日本にCMO(チーフ・マーケティング・オフィサー)が根付かないのは、マーケティングが定義されていないからである。またマーケティング活動の目標として「ブランド資産」に対する意識・価値観が欧米と全く異なるからでもある。日本のマーケティング担当者にその活動の目的を聞くと「売上・利益を上げるため」と答えるだろうが、欧米のグローバル企業に同じ質問をすると「ブランド資産を維持拡大するため」と答えるだろう。ブランド力のある企業が何億もかけてキャンペーンを実施し、その効果を分析したとする。おそらくそのキャンペーンによって増えた売上はほんの一部でしかなく、ほとんどがキャンペーンをしなくても売れた分になるだろう。しかし、そのベースライン(プロモーションをしなくても売れた分)こそが大きな価値であり、このブランド力そのものをどう維持拡大するかにゴールがあるマーケティングと今年の売上利益を追求するマーケティングはかなり違う。社長がCMOに今年の売上目標を持たせず、ブランド資産の指標を目標とさせる日本企業はほとんどないだろう。まあ、いきなり欧米グローバル企業のマネをしても無理がある。
しかし、このデジタルトランフォーメーションの機会は、日本のマーケティングを変革する大チャンスでもある。
そのためには、マーケティングという領域を超えた企業活動全体のデジタル化を推進するCDO(チーフ・デジタル・オフィサー)を設置し、そのなかでマーケティングのデジタル化を果たすという手法にこそ可能性がある。
この際、チーフ・デジタル・オフィサーには外部からの登用が主力になるかもしれない。COO,CFOと並ぶCDOの設置と「デジタル変革」対応に期待が集まるだろう。CMOよりまずはCDO設置という企業が増えそうである。