先週、「共有」と「拡散」の違い ~ 「共有・拡散します!!」のウソというエントリーを書いて、結構多くの方々に読んで頂けました。
共有はWho文脈。「誰が何をしたか」という「人とコンテンツがセットになって初めて情報に共有価値があるもの」。
一方の拡散はWhat文脈。コンテンツそのものがTalkable(トーカブル)で、人の琴線に触れるもの。コンテンツと発信者は分断されても可。ポイントは「感情が動くかどうか」。(例:インパクトがある、ビックリする、笑える、感動する、深く考えさせられるものなど)でした。
※「共有」と「拡散」の違い ~ 「共有・拡散します!!」のウソ
http://www.ikedanoriyuki.jp/?p=3568
前エントリーでは、私の過去のFacebook投稿を事例に解説しましたが、企業が展開している実際のプロモーション事例の方がより理解がしやすいだろうということで、この度、キリンビール様とJAL様の許可を頂き、少し詳細の解説をしたいと思います。(キリンビール様、JAL様、ご承諾ありがとうございます)m(_ _)m
まずは拡散型キャンペーンから。
===== 拡散型キャンペーン事例 =====
●キリン一番搾り一生分キャンペーン
https://isshobun.kirin.co.jp/
このキャンペーンは、一番搾りの誕生日(3月22日)を祝して、2013年2月18日からスタートした、キリン一番搾り一生分を一名様にプレゼントしちゃう!という超豪華企画。FacebookとTwitterから参加することができます。
すでに終わってしまってますが、キャンペーン開始から一週間は、一番搾り一か月分が合計100名に当たる、というインスタントウィン企画をWチャンスとして実施していました。
キャンペーン実施に合わせ、Twitterのプロモトレンド、プロモツイート、FacebookAdsなども合わせて展開し、WebPRも積極的に行いました(配信先を除く主要露出メディアは下記の通り)。
・ キリンビールが「一生分の一番搾り」をプレゼントする神キャンペーンを開始!(RocketNews)
http://rocketnews24.com/2013/02/27/292756/
・ 今時なんという太っ腹…!「キリン一番搾り 一生分が当たるキャンペーン」実施中、当選者には400万円相当の金塊が!?(LivedoorNews)
http://news.livedoor.com/article/detail/7472345/
・ 「ビール一生分あげます」に大反響(R25)
http://r25.yahoo.co.jp/fushigi/jikenbo_detail/?id=20130221-00028410-r25
本キャンペーンは、「キリン一番搾り一生分プレゼント」という、過去にあまり見たことがない「インセンティブのインパクト」がカギであり、そのインパクトの大きさがそのまま「情報の拡散力」となっています(拡散型キャンペーンには “What” (ここではインパクトのあるインセンティブ)そのものに自走する強力なパワーが必要不可欠です)。実際、キャンペーン参加者の多くの人が 「一生分ってどんくらいの量だwww」や「これでもう一生発泡酒とはおさらばだ!」、「まじでほすぃぃぃ~!」というツイートをしています。
では、本キャンペーンの 「拡散力」 を(インセンティブのインパクトだけに頼らず “さらに”)高めるためには何が必要でしょうか。そう、それはキャンペーン参加者が吐き出すソーシャルフィードからの再集客です。
ソーシャルキャンペーン成功のキモは、一次参加者のうち、何人がフィードを出してくれ、それが何人の目に触れ、何人がクリックし、何人がキャンペーンに参加し、何人がフィードを出してくれるのか…というループがどこまで勢いよく回るかが一番のポイントになります。
これが尻つぼみになると、当然ながらソーシャル上のバイラル効果による再集客力が下がり、キャンペーン応募者は広告予算に大きく依存することになってしまいます。
方程式にするとこんな感じです。ただの掛け算なので、ぜんぜん難しくありません。
うちはソーシャルキャンペーンを企画する際、最低限このくらいのシミュレーションはして、想定数値を算出するんですが、見て頂くと分かる通り、こちらの努力で可変可能なパラメーターは限られています。ユーザーの友達の数や、フィードの視認率を向上させることは難しい。
努力によって向上の余地があるのは赤い部分、つまり、フィード率、(友達の)クリック率、(友達の)キャンペーン参加率(キャンペーンコンバージョン率)です(細かく言えばもっとありますが)。
だから、まずはここを徹底的に議論します。現在の仕様やテキスト、画像は、上記パラメーターを最大限引き上げる仕様になっているのか? それによる想定合計値は、今回のキャンペーンゴール数値に達しているのか(シミュレーション通りに行けば達成できるのか?)という検証を徹底的に行います(預言者じゃないので完璧に当てることはできませんが、最近ではシュミレーションに対して±20%くらいでヒットすることができるようになってきました)。
この単純な方程式の中で最も大切なのが、一番最初にある「フィード率」の向上です。以前はアプリでキャンペーンに参加すると勝手にウォールに投稿されてしまう仕様が大半でしたが、ユーザーに「UZEEEEE!!」と思われることと、Facebookの規約に違反していることもあり、現在では「上記の内容をタイムラインに投稿する」という文言と共にチェックボックスが付いている仕様が一般的です。
さて、ではどうやったらキャンペーン応募者がチェックを外さず、フィードしてくれる確率を高められるでしょうか。そして、そのフィードされたリンクのクリック率を、どうやったら高めることができるでしょうか(さきほどの図の平均フィード率と平均クリック率の双方を向上させる方法)。そのためには2つの視点が大切となります。
① 投稿者視点:定型的なキャンペーン参加フィードではなく「友達に対するメッセージ」になっているかどうか
② 友達視点:投稿者と会話するキッカケになる(会話する必然性がある)画像やテキストになっているかどうか
キリン一番搾り一生分プレゼントキャンペーンは「拡散型」で企画していますが、上記①②を実現させるため、フィードだけは「共有型」で設計しています。それは、キャンペーン応募者のフィード率を向上させ、それを見た友達との会話が発生し、友達のキャンペーン参加率を高めるためです。
たとえば、「池田紀行さんがキャンペーンに参加しました。一番搾り一生分が一名様に当たる!いますぐキャンペーンに応募しよう!(サイトURL)#一番搾り一生分プレゼント」 という定型文、よく見ますよね。
でもこれ、ユーザー視点で見ると、あんまりそそられないんですよね。キャンペーン参加者(投稿者)の視点で見ると、なんの面白みもないキャンペーン応募フィードなんてわざわざ流す意味がない。そして、一方の友達目線で考えても、友達が自分に話しかけてくれているものじゃないから、いまいち自分ゴト化されない。つまり、クリックしたくならない。「あっそ」、で終わり。だから、キリン一番搾り一生分キャンペーンでは、下記のような仕様にしました。
▼キャンペーン参加者は下記画像の中から1つを選んで投稿できる(一生分キャンペーン)
(一カ月キャンペーン)
(友達に話しかける文脈によってフィードを促す)
▼Twitterは下記文章が上記画像と共にTweetされる
「キリン一番搾り 一生分プレゼント! 当たったらみんなでカンパイ♪「一生分おすそ分け宣言」しました! 飲酒は20歳になってから。 URL #ハッシュタグ pic.twitter.com/画像」
上記の例で言えば、
・ 参加者
「一生分おすそ分け宣言!もしもキリン一番搾り一生分が当たったらみんなでカンパイしよう!」
・ 友達
「一生分てすごいなww 当たったらまじでパーティーやりたいねー!飲むぞー!」
・ 参加者
「やろうやろう!まあ、当たれば、だけどね…」
・ 友達「よし、確率が上がるように俺も参加しとこw」
という会話が発生することを想定して設計しています。そして、この流れはしっかりと実現できています。
結果、キリン一番搾り一生分キャンペーンは(まだ継続中ではありますが)計画を上回る推移でソーシャルフィードが発生し、広告だけに頼らない再集客と、友達の友達のキャンペーンコンバージョンを獲得しています。(数値は内緒♪)
※キリン一番搾り一生分キャンペーンは3月22日まで実施中です。ぜひ一生分をゲットしちゃってください。応募は こちら から!
===== 共有型キャンペーン事例 =====
さて、続いて「共有型」キャンペーンの事例です。拡散型はイメージがわくと思いますが、共有型はあまりイメージがわかないんじゃないかと思います。でも、これも難しい話ではありません。
拡散型が、「キリン一番搾り一生分が当たる」というWhat文脈でユーザーを巻き込むのに対し、共有型の特徴は「自分の友達(もしくは友達の友達)」という「人(参加者)とキャンペーン」がセットになって初めて共有価値が上がるWho文脈で設計されているものです。
こちらも事例で見てみましょう。
2013年3月15日(金)に公開されたてホヤホヤの日本航空(JAL)Flight with Friends~友達みんなで旅に出よう!キャンペーンは、まさに共有型キャンペーンで設計されています。
●日本航空(JAL)「Flight with Friends」キャンペーン
このキャンペーンは、まずFacebookでログインして、出発地と行き先を決めると、その便のパイロットになれます。この飛行機は30人乗りなので、残り29人の友達が集まればコンプリート。
旅の仲間が見事30人揃うと、抽選で1機(30人全員)にその飛行機の国内線航空券(往復分)がプレゼントされるというもの。実際の便の出発日時は決まっていませんから、本当にFacebook上のメンバーで行くのもよし、バラバラに行くもよし、です。
これは僕がパイロットになった羽田発・那覇行きの飛行機。
https://ff.jal.co.jp/
こちらは僕がパイロットになっている飛行機の機内がアップになったところ。
下記は僕が羽田発・那覇行きのパイロットになった後、友達を誘うためにFacebookのShare機能でフィードされたもの。
僕の友達と、友達の友達が上記をクリックすると、僕の飛行機に乗ることができます。あと15人だから、みんな乗ってね!(いまのところ、うちのスタッフばかり、苦笑。沖縄行こうぜっ!搭乗はこちらから!)
機内では、実際に搭乗してくれた旅の仲間と旅先でのプランについて話に花を咲かせることができます。沖縄行ったらカツカツに冷えたビールとラフテーとフーチャンプルとソーキ食いまくってフーゴルやりたい!
本キャンペーンの出発点は、「友達みんなと旅に出る!」というコンセプトを企画として実現させることでした。なので、本キャンペーンは構想段階から「What文脈での拡散型」を狙うものではなく、「友達同士(Who文脈)での共有」が促進される仕掛けと仕組みをつくりました。
具体的には、「池田がパイロットになった羽田発・那覇行きの飛行機に乗りませんか?」というWho文脈です。僕の友達は、池田の飛行機なら、まぁ乗ってやってもいいか…と思うかもしれませんが、皆さんの知らない「山田さんが機長になった羽田発・那覇行きの飛行機」だったら乗りませんよね?そこがWho文脈のポイントなわけです。不特定多数における(What文脈での)拡散を狙うのではなく、特定少数の中での(Who文脈における)共有を狙っているのです。
ただし、このキャンペーンも(仮にあなたが僕の飛行機にのってくれた場合)、「鈴木さんが池田さんの飛行機に乗り込みました」の後、「(自分も)パイロットになる」」という導線をつくっています。さっきの図で言う、友達のキャンペーンコンバージョン率を向上させる導線ですね。
これによって、Who文脈における特定の人間関係の中で旅の仲間(搭乗者)が増えていく中で、次は搭乗者自身がパイロットになり、今度はその友達を中心としたソーシャルグラフ内で情報が伝播して行く構造をつくっているのです。
さぁ、あなたは誰とどこに行きますか? サイトもクレイアニメですごくかわいくできているので、ぜひ遊んでみてください(当たることを祈ってます!)
●JAL Flight with Friends~友達みんなで旅に出よう!
https://ff.jal.co.jp/
※2013年3月21日12:20追記
おかげさまで僕がパイロットを務める羽田発・那覇行き便は満席となりました。30人揃うと機内でみんながウェーブしています(笑)
如何でしょうか。
こうやって見てみると、拡散型キャンペーンと共有型キャンペーンは似たようなものに見えるかもしれませんが、キャンペーンの設計が全く違うことがわかって頂けたと思います。
また、「拡散型」と「共有型」はどちらがいい、という話でもありません。キャンペーンによって実現したいこと(目的)や、解決したいマーケティング課題、そしてそれを実現する企画によって「拡散型」と「共有型」をうまく組み合わせれば良いのです。
これらのことは、ソーシャルメディアや「人」を良く知っているプランナーであれば、みんな無意識にやっていることです。でも、慣れていない人は、ぜひWhat文脈による拡散か、Who文脈による共有か、を切り分けて(ときに融合させて)考えるクセをつけてみてください。徹底的なユーザー目線で、です。
みんなで消費者が楽しめ、かつクライアントのマーケティングゴールを達成するような素適なキャンペーンを量産して行きましょう!
ちょっと長くなっちゃった。おわりっ!