「ネットショップ担当者アワード」の「ベストチーム賞」は、フィギュアなどのホビーECを手がける大網の「あみあみ事業部」が受賞した。ベストチーム賞では、EC事業者のロールモデルとなり得るチームを顕彰した。売上アップだけでなく、コンテンツの独自性や、膨大な取扱商品に対して、きちんと細部までページが作り込まれている点を評価。あみあみ事業部 マーケティング部 マーケティング課 課長の小林裕児氏に、EC事業成功のヒントを聞いた。
創業100年以上の老舗ホビーEC
売上高は400億円規模
現在、ホビーEC事業が広く認知されている大網。2006年に創業100周年となり、2019年には運営するECサイト「あみあみ」が20周年を迎えた。国内だけでなく海外向けにも販路を持ち、現在の売上高は400億円規模となっている。
東京・秋葉原に2店構えている実店舗には、国内外を問わず日々多くの顧客が来店している。2024年には、国内に新たな実店舗を2店構える予定だ。そのうちの1店舗「あみあみ秋葉原フィギュアタワー店」は2024年4月26日からプレオープンしている。
既存店舗の1つ「あみあみ秋葉原ラジオ会館店」(左)と2024年4月26日にプレオープンした「あみあみ秋葉原フィギュアタワー店」
2023年5月期におけるEC事業の売上高成長率は前年比約30%増。コロナ禍におけるEC事業への需要を捉えて成長路線を維持したとともに、アフターコロナによるインバウンド需要も売り上げに貢献した。
さらに、事業支援ツールを導入・浸透が社内で進んだことで、データ集計の早期化や、データ結果の社内共有など、各部署の連携がスピードアップしたことも理由にあげられるという。
海外からのニーズも上昇中
海外向けEC事業の売り上げも堅調に推移している。海外ではすでに10年以上、越境ECを展開してきた。2023年には、EC売上高に占める海外比率が50%を超えた。「越境ECは、早期から市場に参入していることによる先行者メリットを享受できていると感じています」(広報担当者)
越境ECのマーケットプレイス「eBay(イーベイ)」を運営するイーベイ・ジャパン主催の「eBay Japan Awards 2023」(2023年度に優秀な成績をあげた日本の販売者を表彰するアワード)では、アニメグッズカテゴリーの受賞企業に選出された。
海外顧客増加の背景には、近年急速に発達した動画配信サービスの影響もあるようだ。日本アニメの海外ファンも、動画配信サービスによって、日本国内でのアニメ放送とほぼリアルタイムで「今流行っているアニメ」を視聴できるようになった。
このため、昔から知られている著名なタイトルの作品だけではなく、さまざまな日本アニメが海外ファンに浸透しやすい環境となっている。「日本で流行っているものが、そのまま海外でも受け入れられる状況になったことがお客さまの購買を後押ししています」(広報担当者)
大網では、海外の顧客からの「指名買い」も多いという。東京・秋葉原にある既存の実店舗も、海外からの顧客に対してブランディング効果を発揮している。きちんと実店舗があることで、海外の顧客の安心感につながっていると見ている。実店舗に来店する人は、海外からの顧客が半分以上を占める日もある。
ECの業容拡大に伴う課題の解決に奔走
小林氏が所属するマーケティング課は、約5年前に発足した部署。通販事業における新規施策を担当する部門として立ち上がり、現在約10人が所属している。小林氏は当初、仕入れ部門のバイヤーも兼任しながらEC事業を担当していた。現在はマーケティング課の課長としてマネージメントに携わりながら、ユーザー増、売上増などから派生する各種課題の解決にも取り組んでいる。
大網 あみあみ事業部 マーケティング部 マーケティング課 課長の小林裕児氏
知名度向上で訪問者数増、それに応えるサイト作り
業容拡大のなかで課題にあがっているのはサイト訪問者数の増加に対する対応。ECサイトへの訪問者数が増加するのに伴い、サーバーダウンなど、さまざまな問題が発生するようになってきた。現状、システム部門を中心に各部門で対応を検討している。
オムニチャネル推進の観点ではサーバー強化や外部検索エンジン導入などに取り組んでいる。販売手法においては、新たに抽選販売を取り入れた対応を行っている。
大網が運営するECサイト「あみあみオンラインショップ」
物流拠点を移転・拡張
業容拡大に伴い発生するのが物量への対応。大網は2023年11月、神奈川県・相模原市に物流拠点の大部分を移転し、国内および海外向け商品の保管・発送に対応している。新物流拠点では、自動棚搬送ロボットなど最新の物流機器を導入。物流業務における省力化・効率化を図っている。
国内だけでなく、海外向けの在庫も取り扱う。保管から流通加工、出荷までを新物流拠点で行っている。移転により、従来の物流拠点と比べて倉庫面積はおよそ3~4倍規模に広がった。
神奈川県・相模原市の新物流倉庫
物流倉庫では自動棚搬送ロボットを導入し効率化を図っている
在庫回転率を高める意識
特に小林氏が意識して取り組んでいるのが在庫の課題解消。バイヤーの経験があるため、在庫回転率の意識が高い。
ホビー商品は、取り扱う商品の入れ替わりが激しいという特性があります。新たな流行が生まれては廃れていくので、セール販売などで早め早めに在庫を処分することを意識しています。
ECサイト「あみあみオンラインショップ」ではセールコーナーを常設しており、特化セールコーナーのトラフィックは安定した数値で推移しています。「セールコーナーに在庫を置くとお客さまが積極的に閲覧してくださる」という状況を作っています。(小林氏)
「あみあみオンラインショップ」内の特価セールコーナー
在庫回転率の向上に貢献しているのがメルマガによる販促。「特徴は、一般的なメルマガの開封率を大きく上回るという点」(広報担当者)と自負している。メルマガの開封率が高い理由の1つには、顧客特性がある。
顧客の多くはインターネットに対するリテラシーが高いため、メルマガを希望しない顧客は、あらかじめメルマガ受信をオプトアウトする。言い換えれば、受信している顧客は大網の販促に対する感度が高いため、高い開封率につながっているのだ。
「店舗ならでは」「ECならでは」の長所に着目、相互送客
小林氏は実店舗とECそれぞれの長所を生かす事業展開を重視している。たとえば、主力商品であるフィギュアは、原価高騰の影響で販売価格も上昇傾向にあるため、顧客からは「実物を見たい」という要望が多い。
これに応えるのが実店舗。横幅10メートル、高さ3メートルほどのショーケースを設置して、300体ほどのフィギュアサンプルや完成品を展示。販促につなげている。
実店舗の1つ「あみあみ秋葉原ラジオ会館店」名物のショーケース
実物の商品を見てもらってからECでの購買につなげることも意識。実店舗では、大型ショーケースのなかで、メーカー各社がこれから発売予定の商品を展示できるコーナーを設置し、見込み顧客の獲得につなげている。オンライン限定で販売予定の商品は店頭でもその旨を掲示、オンラインへの送客を図っているのだ。
ECで活躍する人材は「好奇心旺盛な人」
「ネットショップ担当者アワード」ではEC業界における個人やチームの功績や取り組みを顕彰したが、EC業界で要望・活躍できるような人物像を小林氏にたずねてみた。
第1回「ネットショップ担当者アワード」授賞式に登壇した小林氏(壇上手前側、右端)
ECでは急速に情報技術が発展しているので、それを実際のビジネスにどのように取り込んでいくのかは、これからも重要になっていくと考えています。そのためには、最新の情報技術に精通しているとともに、自社のビジネスを理解している人材が必要だと思います。やはり両方に精通しておかないと、技術の進歩を自社のビジネスに還元して落とし込んでいくには難しいと思うからです。
特に大網の場合、ホビーという特殊な商品を取り扱っているので、お客さまもネットリテラシーの高い方が多い。しかも、お客さま自ら情報収集する方が多いので、「お客さまを誘導する」というよりは、お客さまからいただいた注文や要求を社内で検討し、購買フローを効率化する――といったように「お客さまにきちんとご要望のフィードバックをする」ことが重要だと考えています。(小林氏)
さらに、好奇心や、それを突き詰めるための勉強意欲を持てる人材を有望視している。ECに関する知識や技術を蓄えてビジネスに変容するには、そもそも好奇心がなければ難しいと捉えているからだ。
「市場で今、どのようなことが起きているのか」「なぜ、これが流行るのか」――。好奇心を抱いて自然と興味を持つことができれば、新しいアイデアや革新的な発想に結び付くはずです。ひいては、EC業界で活躍する人材、求められる人材になっていくのではないかと思います。(小林氏)
※このコンテンツはWebサイト「ネットショップ担当者フォーラム - 通販・ECの業界最新ニュースと実務に役立つ実践的な解説」で公開されている記事のフィードに含まれているものです。
オリジナル記事:「独自性」「効率化」が鍵となる大網流の事業拡大戦略とは。2023年「ベストチーム賞」 受賞のマーケティング担当者に直撃インタビュー | EC業界で活躍する人を顕彰!「ネットショップ担当者アワード」
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