消費者庁の表示対策課はこのほど「No.1表示に関する実態調査報告書」を公開した。「売上 No.1」などと強調するNo.1表示や、「〇〇の90%が推薦する」のように強調する高評価%表示などについて、消費者に対する意識調査と広告主へのヒアリング調査を実施。これによると多くの消費者の商品購入意思決定にNo.1表示類が影響していることが分かった。
消費者庁では、2024年8月1日から9日に一般消費者1000人を対象としたアンケート調査を実施。広告主側では計15社にNo.1表示類を行った・行う目的や経緯などについて個別にヒアリングを行い調査報告書としてまとめた。
消費者に対するアンケート調査
購入の意思決定に与える影響
No.1 表示を見たことがある消費者に、新しい商品を購入する際に「No.1」表示や「高評価%」表示が購入の意思決定にどの程度の影響を与えるかを聞いた。それぞれ約5割が「影響する」と回答した。
いずれの表示も約半数が購入意思決定に影響していた(画像は報告書から編集部がキャプチャ)
合わせて、以下の場合はNo.1表示類をどの程度参考にするかも調査。
- 購入したい商品等について知識があまりない場合
- 他社商品等との違いが分からない場合
- 高額な場合
- 利用してみないと良さが分からない場合
- 購入の決め手がない場合
- 初めて購入する場合
結果としては「高額な場合」を除く全ての場合で半数超がNo,1表示類を「参考にする」と答えた。なお「高額な場合」についても、4割超が「参考にする」と回答している。こうした結果を踏まえ、報告書では「No.1表示等が購入の意思決定に与える影響は大きい」とまとめた。
すべての項目で4割以上がNo.1表示類を参考にしている(画像は報告書から編集部がキャプチャ)
具体的なサンプルに対する印象(No.1 表示)
いわゆる「エンブレム」と呼ばれる図形を用いたNo,1表示に対する消費者の認識も調査した。消費者庁が「顧客満足度No.1」「利用したい〇〇サービスNo.1」「人気No.1」「おすすめしたい〇〇サービスNo.1」「コスパが良いと思う商品No.1」といったサンプルのエンブレムを用意して調査を行った。
消費者庁が用意したエンブレムのサンプル(画像は報告書から編集部がキャプチャ)
サンプルのような表示を見た際、それぞれ4割以上が「同種の他社商品と比べて優れていると思う」と回答。「顧客満足度 No.1」「人気No.1」を訴求するエンブレムについては半数を超えた。
いずれのエンブレムも4割以上が優位性を感じた(画像は報告書から編集部がキャプチャ)
エンブレムを見た際に、No.1とされている商品や同種商品の「実際の利用者を対象に調査をしていると認識するかどうか」についても聞いた。全ての表示で、4割超が「実際の利用者に調査をしていると思う」と回答。この質問についても「顧客満足度 No.1」「人気No.1」を訴求するエンブレムでは半数を超えた。
おおむね半数が調査は実際の利用者を対象に行われていると認識していた(画像は報告書から編集部がキャプチャ)
具体的なサンプルに対する印象(高評価%表示)
「高評価%表示」についても2つのサンプルを用いて消費者の認識について調査した。
消費者庁が用意した高評価%表示による訴求のサンプル(画像は報告書から編集部がキャプチャ)
各表示を見た際に「同種の他社商品と比べて優れていると思う」かどうかを調査。その結果、「医師の 90%が推奨」と訴求する表示については約5割が「他社商品と比べて優れていると思う」と回答。「▲▲に悩む方の 90%が支持」と訴求する表示についても約4割が同様の回答だった。
いずれも4割程度がエンブレムから他社優位性を認識(画像は報告書から編集部がキャプチャ)
「医師の 90%が推奨」表示について、医師がどのように関与をして「推奨」していると認識するのかも調べた。推奨されている商品は「医師の知見による専門的な根拠や裏付けがある」、「商品等の品質・内容に関する客観的なデータを元に調査を行っている」「回答者が医師だと確認している」ーーと思うとの回答がそれぞれ約5割だった。
医師の推奨表示について、医師がどのように関与をしていると認識するかも調査(画像は報告書から編集部がキャプチャ)
「▲▲に悩む方の 90%が支持」表示については、40.0%が「様々なサービスを試した結果、サンプルで表示しているサービスに行き着いたと思う」と答えた。
広告主に対するヒアリング調査
No.1 表示等を行った目的
消費者庁は広告主側にもヒアリングを実施。No.1表示を行った目的としては「競合他社が No.1 表示を行っているため」という回答が多く寄せられたとしている。またヒアリング対象の広告主の多数は、No.1 表示の広告効果を具体的に把握・検証をしておらず、大きな広告効果を期待している広告主は多くなかったという。高評価%表示についても、大きな広告効果を期待している事業者は多くなかった。
No.1 表示等を行った経緯
No.1 表示類を行った経緯もヒアリングした。調査会社などの勧誘によって表示を行っていた広告主が多かったという。委託先の調査会社を起用した理由については、費用面や調査会社から「調査は適法である」と説明を受けたことを理由に挙げる広告主が多かった。
ヒアリングによると費用は1フレーズ 10万円~数十万円が多かった。広告主からは「ランニングコストがかからないことからすると、安いという認識だった」、「大手と比較して費用が安かった」など、費用の安さに魅力を感じたという回答があった。
適法性については、調査会社によっては景品表示法上の適法性を強調して勧誘を行っていることが分かった。例えば、過去に「不当表示のリスクが無いよう、No.1の裏付けとなる合理的な根拠を取得し納品します」などと記載された説明資料を配布するケースや、「顧問弁護士がリーガルチェックをしているので安心してほしい」と説明するケースが確認された。広告主からは、こうした説明を信用して調査会社を選定したという回答が寄せられた。ただ消費者庁によると調査会社の中には、「満足度 No.1」を訴求する表示の根拠として「イメージ調査」を実施して納品するなど、景品表示法の観点から問題のあるものも見受けられたという。
調査会社による適法性を説明する資料の例(画像は報告書から編集部がキャプチャ)
なお今回の報告書における「イメージ調査」とは、アンケート回答者に対し、対象商品と比較する商品のウェブサイトURLを示して各サイトの閲覧を促した上で、「ご覧いただいたサイトの中で、「サポートの手厚さ満足度が高い○○」だと思うものを、すべて選んでください。 [複数回答可]」などと質問するもの。回答者は対象商品や比較対象の利用経験の有無を問わず集められ、サイトを閲覧した際の印象に基づいた回答を集めるといった調査手法を指している。
調査内容についての認識
広告主の多くの調査会社が「インターネット上で消費者に対してアンケートを実施していること」は把握していた。ただし、具体的にどのようなアンケート調査だったかについて詳しく把握していた広告主はほとんどいなかったという。
具体的には、
- アンケート回答者がどのような質問に回答していたのか
- 比較対象となる競合他社としてどの企業が選定されていたのか
- (イメージ調査の場合)回答者は自社のウェブサイトのどこを見たイメージを回答していたのか
を把握している事業者はヒアリング対象の広告主である15社中1社だけだった。
「イメージ調査」を実施していた広告主の多くは、「商品等の利用者に対するアンケートではないこと」自体は把握しているものの、「イメージ調査」が何かを理解していない事業者もいた。ヒアリングでは「イメージ調査であることは認識していたが、実際のアンケート回答画面は見たことがない。回答者に対して当社のウェブサイトのどの部分を見せていたのかも不明である。また、競合他社として、どの企業が示されていたのかも説明を受けておらず、知らない(学習塾・予備校)」といった声も寄せられた。
調査の具体的な内容を確認しなかった理由については、「調査会社を信頼していた」「調査のことは聞いても分からないので、調査会社に任せていた」「他社も同じ調査会社を起用していたので問題ないと思っていた」といった回答が多かったという。
未然防止についての取組の状況
広告主の中には日頃から「不当表示を未然に防止するための管理上の措置(景品表示法第 22 条第1項)」に取り組もうとしている様子はあったとしながらも、「少なくともヒアリングの対象となった No.1 表示等については、ほとんどのヒアリング対象広告主において、表示の根拠が十分に確認されている様子はうかがわれなかった」(報告書)と断じている。加えてヒアリング対象の広告主の中には、調査会社から納品を受けた「調査結果レポート」といった No.1表示類の根拠資料について適切に保管しておらず、ヒアリング調査の依頼を受けてから改めて調査会社等から調査報告書を取得したというケースも複数あったという。
※このコンテンツはWebサイト「ネットショップ担当者フォーラム - 通販・ECの業界最新ニュースと実務に役立つ実践的な解説」で公開されている記事のフィードに含まれているものです。
オリジナル記事:通販・ECの「No.1」表示、消費者はどう感じている? 事業者はなぜNo.1表示を行うのか? 実態調査まとめ
Copyright (C) IMPRESS CORPORATION, an Impress Group company. All rights reserved.