米GoogleがサードパーティCookieの利用を廃止する方針だった環境下で、顧客獲得の新たな手法として小売事業者から注目を集めたリテールメディア広告とはどのようなものでしょうか。デスクトップやモバイルアプリでの広告表示方法など、リテールメディアの活用事例を解説します。
リテールメディア広告の開発・運用事例
小売事業者はこれまで、GoogleのサードパーティCookieに依存しないオンライン広告の方法を模索してきました。2023年に注目を集め始めた方法の1つがリテールメディア広告です。
サードパーティデータとは、小売事業者や広告主が、まったく別の情報ソースを通じて取得した消費者に関する情報です。インターネット上では多くの場合、Googleが提供するサードパーティCookieによって消費者のデータが取得されています。サードパーティCookieは、複数のサイトにまたがってユーザーの行動を追跡し、ユーザーに配信されるターゲット広告の広告主にユーザー情報を提供します。GoogleはサードパーティCookieを段階的に廃止する予定でしたが、2024年7月にその廃止計画を撤回しました。
サードパーティデータに代わるユーザー情報源として、ファーストパーティデータがあげられます。ファーストパーティデータとは、小売事業者や広告主が消費者から直接取得するデータのことです。消費者がロイヤルティプログラムに登録するために使用するメールアドレスや電話番号、Eコマースで注文を完了するために使用する個人情報などが該当します。
このようなデータが、リテールメディアネットワークとその広告の基となっています。小売事業者や広告主が、消費者の購買行動に基づいてパーソナライズしたデジタル広告を配信することを可能にしています。
ユーザーのプライバシー保護を損なわないデータ運用、UNFIが実現する3種類のパーソナライズ広告
自然食品・関連品の流通を手がける米United Natural Foods(UNFI)は2024年春、「UNFIメディアネットワーク」と呼ばれる独自のリテールメディアネットワークを立ち上げました。「UNFIメディアネットワーク」はリテールメディアネットワークの支援など小売事業者向けのサービスを提供する米Swiftlyと共同開発しました。
米国のEC専門誌『Digital Commerce 360』の取材に対し、UNFIのホールセール担当プレジデント(卸売部門社長)であるルイス・マーティン氏は、「Swiftlyが提供するリテールメディアプラットフォームを利用した理由の1つは、プラットフォームを運営する小売事業者が、サイトを訪れるユーザーやロイヤルティプログラムの会員データを100%管理できる点に魅力を感じたからです。データを手放す理由はありません」と説明しています。
Swiftlyの共同設立者で最高技術責任者(CTO)のショーン・ターナー氏は『Digital Commerce 360』によるオンライン取材のなかで、リテールメディア広告の事例を紹介しました。
ターナー氏は、「UNFIメディアネットワーク」が、Swiftlyが提供するテクノロジーを利用して表示している3種類のパーソナライズ広告について説明しています。
1.パーソナライズした価格訴求
以下の画像は、食品ECサイト「Hen House」で買い物をしたことがある消費者向けの広告。訴求する商品の価格は、その消費者が「Hen House」でよく購入する価格帯に基づいています。
「Hen House」で購入した履歴があるユーザー向けに「Hen House」の商品がサイト上部に表示されている
ターナー氏によると、SwiftlyはファーストパーティCookieリストのID分野でデータ活用サービスを提供しています。ユーザー情報を追跡し、プロモーションのためのターゲットにする過程で、Cookieを利用しているわけではありません。
小売事業者のアプリで許諾を得ている、ユーザーの電子メールアドレスや電話番号などのオプトインIDを取得して利用しています。ユーザーをターゲティングするときは、SwiftlyとUNFIなど2つの企業がファーストパーティデータを共有することで詳細な分析情報と正確な広告ターゲティングが可能となる「データクリーンルーム」を利用しています。「データクリーンルーム」には、収集したデータ元のプライバシーを保持できる利点もあります。このように、プライバシーに準拠し、Cookieを使用しない方法で、ユーザーをターゲティングすることができます。(ターナー氏)
「データクリーンルーム」は、電子メールアドレスのハッシュを活用します。「生のデータは共有することはなく、電子メールアドレスのリバースエンジニアリングに使用されることありません」とターナー氏は付け加えています。
ハッシュは、ランダムな文字列に置き換えられたデータです。ハッシュ値からは基のデータを割り出せないため、プライバシー保護の観点で安全性が高いと言えます。
ターナー氏はさらに、個人を特定できるような情報を取得することなく、適切な広告をマッチングさせることができると説明しています。
ターナー氏はこのプロセスを、デジタル版のチラシに例えています。ローカルの食料品店は多くの場合、商品のクーポンや割引価格を訴求した紙面を印刷して、近隣の消費者や潜在顧客にチラシを郵送します。しかし、多くのユーザーはすでに、郵送されてきた印刷物に目を通すよりも、スマホやPCで価格をチェックする傾向にあります。このため、UNFIやSwiftlyのような企業は、リテールメディアの広告機能を利用して潜在顧客にアプローチしているというわけです。
インターネット上で"リンゴが1ポンド0.98ドル“という広告を見せられても、ユーザーはどの店舗に買いに行けば良いのかわかりません。おそらくその広告は無視されてしまうでしょう。しかし、自分が毎週買い物に行く小売店が、「こんなお買い得品がありますよ」という広告をインターネット上で表示していたとしたらどうでしょうか。Swiftlyは、このような広告のROI(投資利益率)がとても高いことを、目の当たりにしています。(ターナー氏)
2.パーソナライズした商品訴求+関連商品の表示
ターナー氏はまた、パーソナライズされたリテールメディア広告の別の事例も紹介しています。下の画像ではリテールメディア広告に、ブランド「Alexia(アレクシア)」のオニオンリングを表示しています。広告をクリックすると、ユーザーはその商品を使ったレシピサイトに遷移します。
特定の商品を強調するリテールメディア広告(サイト内上部に「Alexia」のオニオンリングを表示)
「Alexia」のオニオンリングが表示されている広告をクリックするとその商品を使ったレシピを紹介するページに遷移し、表示されたレシピの料理を作るために他にどのような材料を購入すべきかが表示される
レシピを再現するために必要な商品は全て表示されているので、ユーザーは必要なものを自身の買い物リストに追加したり、ECで購入したりするのをとても簡単にできます(ターナー氏)
3.モバイルアプリ内のパーソナライズ広告
Swiftlyは、米国ミズーリ州の都市セントルイスを拠点とする食料品小売事業者Dierbergs(ディアバーグス)のモバイルアプリの小売メディアテクノロジーも支援しています。
Dierbergsのモバイルアプリを起動すると、ユーザーはスモアを作るために必要な商品を訴求する広告を見るかもしれません。スモアとは、焼いたマシュマロをチョコレートと一緒にクラッカーやビスケットで挟んだお菓子です。
Dierbergsはスモアを作るために必要な商品を訴求する広告をアプリ上で表示している
消費者が広告をクリックすると、コール・トゥ・アクション(CTA=行動喚起)で、レシピの料理を完成させるために訴求している商品のリストに移動します。スモアの場合は「Hershey’s」「Kraft」「Mondelez」の商品が紹介されています。
Dierbergsのアプリは、スポンサー企業の広告に基づいて、スモアを作るためにどの製品を購入すればよいかをアプリ内に表示する
アプリでは、ユーザーが普段買い物をするDierbergsの実店舗に基づいて、価格とともに商品を表示します。さらに、消費者がよく使う店舗のなかで、店内のどこに行けば目的の商品を見つけられるかも案内しています。アプリは店舗のPOSシステムと連動しているため、最新のユーザー行動はいずれも自動的に更新されます。
商品詳細ページには、商品画像、価格、セール販売の期間を表示。店舗のどこにその商品があるかも表示される
ユーザーは商品詳細ページ右上の緑色のプラスマークをクリックして、その商品をECのカートに入れたり、実店舗での買い物リストに追加したりすることができます。
Dierbergsのアプリのユーザーは、買い物リストやデジタル上のカートに商品を追加できる
このアプリは、ユーザーがリストに追加した商品を、よく使う店舗の店内通路ごとに並べ替えて表示するため、ユーザーは店頭でより買い物しやすくなるのです。
小規模事業者の利用拡大を見込む
マーティン氏とターナー氏は「小規模の小売事業者にとって、リテールメディア広告は重要な機能」だと説明しています。
UNFIと提携している小売事業者や、そうした小売事業者に販売しているブランドは、誰でも「UNFIメディアネットワーク」に参加できる仕組みです。
「UNFIメディアネットワーク」の利用対象には、消費財メーカーも含まれるということです。メーカーは通常、リテールメディア広告に期待する成果を明確にした上で出稿してきます。この規模の広告を出稿するメーカーには、何が期待できるかを把握できるだけのリソースがあるからです。
「一方で、そのようなリソースを持たない、小規模なサプライヤーも多数存在します」とターナー氏は付け加えます。
いまだに自宅のガレージで作業しているところもあれば、生産設備が1つか2つしかなく、ほんの数社にしか自社の商品を供給できないような規模の会社がほとんどです。小規模な小売事業者は、Walmartのメディアプラットフォームに参加できる余力はありません。事業規模が追い付いていないことや、参加したとしてもリテールメディア広告を管理するためのインフラを持ち合わせていないからです。
Swiftlyは、そのような小規事業者にとって、SwiftlyのWebサイトにアクセスして数回クリックするだけで商品を登録し、リテールメディア広告に自社のブランドを掲載できるようにしました。(ターナー氏)
※このコンテンツはWebサイト「ネットショップ担当者フォーラム - 通販・ECの業界最新ニュースと実務に役立つ実践的な解説」で公開されている記事のフィードに含まれているものです。
オリジナル記事:米国のリテールメディア広告活用事例。プライバシー保護とパーソナライ ズを両立する手法とは? | 海外のEC事情・戦略・マーケティング情報ウォッチ
Copyright (C) IMPRESS CORPORATION, an Impress Group company. All rights reserved.