まくらでは、オンライン上で睡眠や枕に関する18問の質問に答えることで、70万通りのなかから自分に合った最適な枕を提案・作成できるパーソナライズ枕「THE PILLOW(ザ ピロー)」(価格は2万7500円)を7月から販売している。
コロナ禍で過去最高の業績。ヒットの秘訣とは?
同社の河元智行社長は、商品開発に至る経緯について「コロナ禍を受けてECは絶好調。特に枕に関しては、在宅時間が増えたことなどから眠れない人が増えたこともあって売れに売れ、売上高と利益は過去最高を記録した。
ただ、その一方で葛藤が生じるようになった」と話す。いくら儲かっても、仕入れ商品を売っているだけなら、仮に会社が無くなったとしても代わりに枕を売る会社はいくらでもある。オリジナル商品も扱っているものの、「すぐに真似をされてしまう」のが悩みだったという。
1人ひとりに合う枕で不眠解決に寄与
「『枕難民をゼロにする』という会社としてのミッションを掲げているのに、不眠など睡眠に関する課題を解決するためのアプローチができていない。何とかしなければ、という危機感があった」(河元社長)。
社会問題になっている不眠。良く眠れないことで、生活習慣病への罹患リスクが上がったり、仕事の生産性が低下したり、さらにはヒューマンエラーにもとづく事故等を招く恐れもある。また、不眠が続くとうつ病などの心の病を招いたり、最悪の場合自殺に至ったりすることもあり、コロナ禍においてこうした状況がさらに悪化しているのが実情だ。
「不眠に悩む人が最初に考えるのは、枕を変えること。つまり、枕は睡眠に関する問題の一丁目一番地にある商材なので、当社が1人ひとりに合う枕を当社が提供できれば、不眠に悩む人を減らせるかもしれない。最近は企業の社会的意義を示す『パーパス』という言葉が良く使われているが、『不眠を解決することで1人でも多く大切な命を救う』というパーパスが生まれ、そこに向かって本気で取り組むべく動き出した」(同)。
「枕選び」がはかどる仕組みを提供
では、顧客に合う枕とはどういったものか。同社では約400の枕を販売しているが、どの枕が自分に合うかはネットではわからないし、実店舗でも選ぶのは難しい。ある程度の日数、実際に使ってみなければ「寝心地」は判断できないからだ。
「そう考えたときに、当社の強みは『枕を売っていること』ではなく『枕選びのためのデータを蓄積していること』と気づいた。20年間枕のECを手掛けてきたことで枕選びのノウハウが蓄積され、『どんな枕が合うか』を提案できる力を持っている点こそが強み」。
もちろん、知識を持った人が「枕ソムリエ」として全ての顧客に枕を提案するのが理想だが、現実的ではない。行き着いたのは「枕選びの自動化」だ。枕選びのソムリエをイメージし、それをAI化させた「PilloBO」を開発し、既製品の枕の提案ではなく、カスタムメイドやオーダーメイドの枕をオンラインの診断で提案する仕組みを構築した。
「PilloBO」によるオンライン診断(画像は「PilloBO」による診断ページから編集部がキャプチャして追加)
まず、消費者はオンライン上で枕診断を行う。睡眠や枕に関する18問の簡単な質問に答えるだけで、AIが対象者の体型やBMI値のほか、睡眠リズムや寝姿勢、枕の好みなどを推測し、枕カルテを作成。カルテをもとに、70万通りの中から最適な枕を生成する。「THE PILLOW」は7つのポケット(独立した部屋)に分かれた7ポケット構造の枕となっており、1つひとつのポケットが独立して、枕素材の出し入れや調節ができるようになっている。
ヒットしているパーソナライズ枕(画像は「THE PILLOW」のブランドサイトから編集部がキャプチャ)
枕診断によって、AIがポケットごとに最適な枕素材、最適な枕素材の容量を1グラム単位で計算。対象者に最適な枕の高さ、枕の硬さ、枕の形状を自動提案してくれる仕組みだ。「販売後の枕が『合う』『合わない』というデータをフィードバックする。データが集まれば集まるほど、枕が合う可能性も高くなってくる」。
注力するアフターフォローの取り組み
サブスクは解約無制限
枕は「好み」が関わる部分が非常に大きい商材。重要になってくるのは販売後のアフターフォローだ。
河元社長は「『枕が合わなかったときの責任は誰にあるか』ということへの考え方が180度変わった。今までも合わない枕の返品は受け付けていたが、あくまでも『お客さま都合』であり、期間も20日間。しかし『THE PILLOW』は『AIがあなたに合う提案する』という商品なので、合わなかった場合の責任は全て当社にある」と話す。
カスタマーサポートに「THE PILLOW」が合わないという問い合わせがあった場合、必ず「大変申し訳ございませんでした」と謝罪するようにした。さらには、返品を受け付ける期間も撤廃。同商品は、月額1480円で使えるサブスクプランも設けている。こうしたサブスクは「最低利用期間」を設けていることが多いが、解約に関する制限を設けていない。
サブスクプランを展開(画像は「THE PILLOW」のブランドサイトから編集部がキャプチャ)
河元社長は「当社は絶対的に合う枕を提供し続けなくてはいけないし、テクノロジーとデータの蓄積で返品率は改善ができると思っている。なので、『枕が合わない場合は当社が全て責任を持つ』ことを徹底していく」と決意を語る。
返品も無期限対応
とはいえ、購入してからどれだけ経過していても返品を受け付けるというのは、これまでのECの常識では考えられないサービスだ。河元社長も「顧客から返品の相談があって『申し訳ありませんでした』と切り出すことに抵抗があったのは確か。社内の文化を変える必要があった」と語る。しかも、まず顧客への返金を行い、商品を返すのはその後でも良いのだという。「言うなれば『性善説』。ようやくこうした姿勢が社内にも浸透してきた」。
「THE PILLOW」は、7つのポケットに入れる素材の容量で高さや硬さなどを調節できる。「仮に最初は合わなかったとしても、素材の増減でその人にとって寝心地の良い枕にすることができる。当社としては絶対に合わせられる自信があるので、顧客ときちんと向き合うことで、枕を売るだけで終わりにするのではなく、販売した後の顧客との関係性をどうやって築いていくかを重視している」(河元社長)。
「なぜ合わないのか」を追求
そのため、重要になってくるのは「なぜ合わないのか」「寝心地の悪さを感じる原因は何か」をつきとめることだ。「寝る姿勢もあるし、敷布団の影響を受けることもあるので、睡眠時の環境を詳しく聞くことにしている。実は最初の枕診断では聞いていない部分なので、たとえば『子供と一緒に寝ている』という人の場合、寝返りが制限されることで枕が合わなくなることもある」。
枕診断の項目を増やしすぎると離脱率が増える恐れがあるため、質問はある程度絞っているという。「質問が不足していた部分は口頭で聞き取り、きちんとデータとして残すことで、同じ理由で返品する人を出さないようにしていきたい」。
自社サイトと楽天市場店で取り扱っているが、通常の購入よりもサブスクを利用するユーザーが多い。気になる返品率については「通常の商品より高いのは確かだが、想定した数字よりも低いし、減ってきている」という。
BtoBや海外販路にも意欲
今後はBtoBにも注力する。たとえば、保険会社のページに診断の仕組みを導入してもらい、「THE PILLOW」が売れた場合は売り上げの数%をバックする、といったアフィリエイトだ、他にも、寝具販売店や接骨院、整体院で枕診断をしてもらうビジネスも考えているという。
さらには海外販売も計画。「中国・台湾に関しては、診断の仕組みを中国語で提供し、現地の人の診断データをもとに日本で枕を作り、中国・台湾に送るという仕組みを考えている」。中国や台湾の人は日本人と寝る姿勢が似ているため作りやすいほか、「日本人の職人がオーダーメイドで枕を作る」ことに付加価値を感じる人が多いという。
ヨーロッパでの展開も計画しており、まずドイツからスタートする。寝る姿勢が日本人とは異なることや、枕の素材がドイツでは使いにくいことなどから、診断の仕組みや枕のポケット部分だけを提供する形を考えている。
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オリジナル記事:飛ぶように売れる「パーソナライズ枕」ヒットの秘訣。まくら社長に聞くヒット商品開発の背景 | 通販新聞ダイジェスト
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