2015年にジャパネットたかたの代表取締役を退任し、A and Live代表取締役に就任した髙田明氏。これまで通販ビジネスを手がけるなかで、いかに伝えるか常に試行錯誤を続けてきた。ラジオからテレビ、カタログ・チラシ、そしてインターネットとフィールドは変わっても、商品の良さを伝えることに情熱を持って取り組んできたという。そんな髙田氏が、EC事業者に向けて自身の経験や大切にしていることなどを語った。
状況を受け入れて、今という瞬間を一生懸命にやり切る。自分の会社も変えていけます
メディアミックスの歴史(画像は「ジャパネットたかた」サイトからキャプチャ)
今は大変な時代です。新型コロナウイルス感染症もなかなか終息の目処が立ちません(編注:2022年11月の講演時点)。そして地球の環境も変わっています。規模の大きな自然災害があちこちで起きています。さらにロシアのウクライナ侵攻があり、核兵器の話まで出てきて、長崎県出身の私は常に平和な世界を願っていますが、本当に気持ちが折れそうになります。
70歳を過ぎた私自身の生き方を簡単に言いますと、「受け入れる」ということです。何か悪いことが起こっても私たちの力では変えられないものが多い。そこで現実を直視して、その状況をしっかり学びながら、受け入れる。そのなかでどうしたら企業の活動を維持してもっと成長していけるかを考える。受け入れずに、悪い理由をあげているだけでは、なかなか前に進まないのではないでしょうか。
ジャパネットたかたの現役の時に、消費税がどんどん上がった時期がありました。その時は売り上げが大きく下がりました。ただ、消費税を上げるのは、国の将来にとって大事なことですからそれは受け入れて、厳しいなかでどうすればよいかを社員とともに話しながら乗り越えてきました。
このように、まず受け入れました。その後は、今を生きました。今という瞬間、ここを一生懸命にやり切りました。過去と他人は変えられません。とらわれず、今という瞬間に向き合っていくことが、乗り越えるために一番大切なことではないかと思っています。
皆さんは未来について悩んでいないでしょうか。その悩みの8割は、自分では変えられないと思っています。「残りの2割、自分の力で変えていけることだけに集中して、一生懸命やることが一番じゃないか」、それが今を生きるということにつながると思います。昨日より今日、今日より明日と日々乗り越えていく。その積み重ねで自分の会社も変えていけます。それを前提に、状況を受け入れて、他責とせずに頑張りましょうというメッセージをお届けしたいと思います。
ジャパネットたかた創業者、A and Live 代表取締役 髙田明氏
29万8000円の「書院パソコン」5000台をラジオショッピングで完売。伝わったら50万円のものでも売れる
伝えるという場合、「伝わった」と「伝えた」はまったく別物です。
たとえば、「ラジオショッピングであればラジオで語ったから伝えた」「テレビショッピングで商品を紹介したから伝えた」、そう思っても伝わっていなければなにも結果が出ない。つまり、伝えたということは「相手に伝わった、消費者の方がそれを理解した」ということです。その結果、商品を買っていただけるわけですね。「伝えた」と「伝わった」。この違いをしっかり理解することが必要なんじゃないかと思います。
ラジオショッピングを始めた頃の髙田氏
伝わった世界を感じ出したら面白いです。ビジネスにも反響がありますから。私は通販の世界にラジオショッピングから入りました。当時、「ラジオは見えないから、1万円以上のものは売れない」と言われていました。
シャープさんの「書院パソコン」という商品があり、これは売れるぞと思って価格を聞くと29万8000円。在庫を聞いてみたら5000台持っていると。私は「じゃあ売らせてください」とお願いして、なんとラジオだけで5000台完売しました。
このように、伝わったら仮に50万円するものでも売れてしまうのです。逆に、1万円以下のものでも、なかなか買ってもらえないことがありました。10回、20回、30回試しても売れない。伝え方を一生懸命勉強して、商品をもっと深く勉強して、喋ってみたんですよ。するとある時、注文の電話がどんどんかかってきました。
つまり何度も私が喋ったことは、伝えたつもりでもラジオを聴いている皆さんには伝わっていなかったんです。そこで伝え方を変えていくなかで、伝わったという瞬間にご注文をいただいたということです。
伝え方の原点となったラジオショッピング
ミッションを大事にする、パッションを持つ、失敗を恐れずにアクションを起こす。3つの「ション」を大切にして頑張る
皆さんは何のために企業を経営されているでしょうか。何のために皆さんの会社があると思いますか。
個人の生き方としては、人の幸せのために尽くす。企業としても、人を幸せにできることを提案しているかが大事だと思います。
私は「ミッション」という言葉を掲げていますが、ミッションなくして企業の継続はできないと考えています。ミッションというのは、いわば企業理念ですよね。
何のために、誰のためにビジネスをしているかというのはまさにこのことです。それを忘れて、利益だけを追求していくなら、その企業は絶対に続かないと思います。そういう考えでは、100年続く企業は絶対に生まれてこない。日本には300年、400年続いていらっしゃる会社さんはいっぱいあります。私もそういう会社さんとお付き合いしたことがありますし、トップの方にもお会いしました。共通しているのは、素晴らしいミッションを持っているということ。「私たちは世の中を明るく、人々を幸せにするために、事業をやっている」といったコンセプトを何百年と持っている。
1986年に独立し、新たに店を構えた頃の髙田氏
もちろん利益は絶対に必要です。ただ、ミッションをぶれずに持つということが会社の継続には大事だろうと思います。
ミッションのほかに、今を一生懸命に生きるためにプラスアルファが必要です。それは「パッション」です。パッションというと、情熱ですよね。絶対にやり通すんだという情熱が必要だと思います。
「人は思う通りの人になる」と、ゲーテが言っています。私はそれを読んだ時に、とにかく毎日毎日、瞬間瞬間を一生懸命生きていけば思う通りになるし、自分の会社も思う通りの方向に進んでいけるんじゃないかと思いました。だから、ミッションを大事に必ずぶれずに持ち、パッションを持って今を一生懸命生きる。
「ミッション」「パッション」、それともう1つの「ション」を大事にしてきました。それは「アクション」です。行動に移す。素晴らしいものがあるならばアイデアだけで終わらず、やろうと決めたことにはアクションを起こしてください。
ミッションを大事にする、パッションを持つ、失敗を恐れずにアクションを起こす。皆さんも、この3つを大切にして頑張っていただきたいと思います。
チャレンジしてみてうまくいかないことがあっても大丈夫。それは失敗ではなく試練
ジャパネットたかたは、ラジオショッピングを行って4年くらいが経った段階で売り上げが40億円ぐらいになりました。
これだけ商品を買ってもらえるのであればラジオだけではなくテレビでもやってみようと、テレビショッピングを始めました。すると、売り上げは200億円、300億円に増えたんです。
そして「商品の発売サイクルの早さに対応するにはスタジオを作らないと負けちゃうな」と思ったんです。周囲の9割は無理と言いましたが、できると信じて10%の可能性にかけてスタジオを作りました。
スタジオの次は人材。社員をテレビ局へ研修に出し、最初は派遣スタッフの力を借りながら、チャレンジしました。すると新しい商品をどんどん出していけるようになり、売り上げは400億円、500億円と上がっていったんですよ。
このように失敗を恐れずにチャレンジしてきました。たとえ可能性が10%しかなくても、そこを100%にすることを考えたら結構できるものです。
もちろんうまくいかないこともあります。でも大丈夫です。それは失敗じゃないんです。失敗とは、やらなかったこと。一生懸命やらなかったこと。そう思っています。一生懸命やってうまくいかなかったことは、失敗じゃなく試練なんです。その試練を積み重ねて、人は大きくなっていくし、社員も育っていくし、企業もその経験のなかで大きくなっていく。
テレビショッピングを始めた頃の髙田氏
もちろん会社が転ぶような失敗はダメです。でも、できるものはチャレンジして、それを乗り越えて、試練をたくさん経験する。それによって企業は成長していくと思います。
第1回のテレビショッピング
ラジオ、テレビときて、その次にカタログやチラシもいいのではないかと思いました。
70代、80代の方のなかにはラジオやテレビでは買われない方もいるんじゃないかと思って、カタログを発行したんです。そしてチラシを全国に撒きました。すると、いつの間にか売り上げが700億円、800億円になっていったんです。
創刊号のカタログ
目の前の状況を受け入れ、どんどんチャレンジしていっただけです。
そして今度はインターネットが出てきたんですよ、Eコマース。当時はインターネットで売れるとはまったく思いませんでした。でも、来るものはウェルカム、チャレンジしようと。情熱が、パッションがふつふつと湧いてきて、インターネットにもチャレンジしました。
ホームページの立ち上げには8か月くらいかかりました。最初にカメラが1台売れた時は、社員とともに喜びを分かち合いました。今ではインターネットでも何百億円と買っていただくようになりました。
私の人生は死ぬまでボトルネックを探す旅。改善に活用できる「残す」「捨てる」「変える」「加える」の4つの箱
今を一生懸命生き続けることによって、ラジオからテレビへ行き、テレビのスタジオを作り、そしてカタログ・チラシを使った紙上ショッピングに入っていき、インターネットショッピングへとつながって、今はメディアミックスショッピングができるようになりました。
皆さんもチャレンジしてください。あれもこれもというのではなく、慎重に慎重を重ねて、やる時には思い切り頑張っていただきたいと思います。その際も「伝える」ということがすごく大事になるでしょう。
たとえばインターネットショッピングでなかなか反響がないという場合、画像や動画など「見せ方のところに弱い部分があるのではないか」と立ち止まって考えることが必要です。
何かを作って見せているけれども、変化が起きなければ変えてみないといけない。ボトルネックは何かを考えなきゃいけない。
「ジャパネットたかた」のECサイト(画像は「ジャパネットたかた」ECサイトからキャプチャ)
何が原因で結果が出ないのか。私は、ボトルネックを探す旅をずっと続けてきました。ラジオショッピングで売れない時は「どうして売れないんだろう」。テレビで商品を紹介した時も同じで、「なんで売れないんだろう。このボトルネックはなんだろう」と。仮に、いい時であっても「なぜ、これでいいのだろうか」と考える時もあります。
社員を巻き込みながら、原因となるボトルネックをひたすら突き詰めていくことによって、1つひとつ越えてきました。
私の人生は死ぬまでボトルネックを探す旅です。もしも100歳まで生きるとしたら、100歳になってもその旅を続けているでしょう。これはもうエンドレスです。なぜならボトルネックは、至るところにありますから。
家庭を考えてください。結婚して相手を幸せにしよう。子宝に恵まれたら子供を幸せにしよう。その次には孫を幸せにしよう。会社でも同じように、社員を幸せにしたい、世の中に貢献したいと考えます。常にボトルネックとの闘いです。
2002年頃の髙田氏
そこでボトルネックの改善の方法について、私なりのやり方をご提案します。
まず、4つの箱を用意してください。改善する時に残すことと捨てることの箱が必要です。そして残したり捨てたりするのではなく何かを変えるための箱があります。4つ目は新たに加えることの箱です。
つまり「残す」「捨てる」「変える」「加える」の4つの箱です。これをうまく活用して、箱のなかに紙に書いた案をどんどん入れます。そしてそれに沿って改善していきます。1回の改善ではうまくいきません。皆で結果検証をしてPDCAを回しながらそれを何度も繰り返すことによって、完成形ができていきます。
これを通常の仕事に取り入れていけば、必ず改善できて、今よりももっと進化した企業になるんじゃないかと思います。
愛情を持って、間を取りながら相手に向き合って話す。これが伝えるための一番の極意かもしれない
それでは商品を伝える際に、実際に私がやった例を紹介します。
ボイスレコーダーという録音する機器を販売した時のことです。当時は記者会見や会議の録音などに使われていて、市場は50万台くらいの規模でした。私が売り始めた時に、1年間で40万台ぐらい売れました。なぜだと思いますか。商品の提案の仕方を工夫したんです。
お年寄りの方が夜中に大事なことを思い出してそれを忘れないようにする場合、ボイスレコーダーならスイッチを押せば、音声で録音できてすぐに聞けます。わざわざ起きてメモを取らなくてもいい。
あるいは夫婦共働きで子供さんが学校から帰ってきた時に、「お母さんはあと1時間で帰るから、冷蔵庫のケーキを食べて待っていてね」とお母さんの声で子供さんに伝える。すると子供さんはお母さんの声を聞いて安心します。
こんな風に提案したわけです。つまり商品が持っている価値をどのように伝えていくかが大事なんじゃないかと思います。
電子辞書を販売した時は180万台売れました。ジャパネットたかたの場合は自分たちで選んだものを多くの方に信頼して買っていただくというプッシュ型の営業です。電子辞書は調べてみると、ほとんど学生さんが買っていました。しかし時代は高齢化社会です。この商品をご年配の方とか、お父さん、お母さんに売る方法はないかと考えたんです。それでどうしたと思います?
70歳の奥さま、3歳のお孫さんと一緒にスーパーマーケットに買い物に行ってください。するとお孫さんが「eggplant」とナスを指さし、「green pepper」とピーマンのことを呼びますよ。今の電子辞書は英語のネイティブの発音が出ますから、それをまねして単語を喋っていたら、将来お孫さんはインターナショナルになりますよ、と提案したんです。結果はどうなったと思いますか。注文の7割は70、80歳以上の方からあったんですよ。
長崎県佐世保市のテレビスタジオ
市場を創るというのは、こういうことじゃないでしょうか。提案の仕方でどんどん広がっていくと思っています。
伝える際の具体的なテクニックについてお話しすると、私みたいに高い声がいいです。高い声のほうが伝わりやすいと、社員にも言っていました。
そして間を取ることです。間は次の「有」を生み出すための「無」。たとえばローヤルゼリーを売る時に、5分間商品を説明して3秒の間を置くんです。そして「値段は9800円ですよ。安いでしょう」と言うんです。その3秒間で、視聴者の方に私の説明を思い出してもらうんです。考える時間を3秒提供することによって注文が5倍増えることもありました。
同じことを言うにしても、愛情を持って、間を取りながらしっかり相手に向き合って話す。これが伝えるための一番の極意かもしれません。
なんでも伝えることから始めてください。もう一度皆さんの世界を見渡して、伝わった世界になっているかどうかを見直してみることが大事なんじゃないかと思います。
※このコンテンツはWebサイト「ネットショップ担当者フォーラム - 通販・ECの業界最新ニュースと実務に役立つ実践的な解説」で公開されている記事のフィードに含まれているものです。
オリジナル記事:ジャパネット流「伝え方」の秘訣。創業者の髙田明氏が語る“人に伝えるための極意”
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