ギフトECはマナーやメッセージ同梱などが複雑で、贈った人が商品を手にしないためリピート施策が難しいなど、課題の多い特殊な領域と言われる。お米のギフトEC「八代目儀兵衛」は、京都らしいフォーマルなギフトで多くの利用者を魅了し、年間15万人に贈られている。さらに、顧客満足度の高いサービスを提供するため、2022年に自社ECサイトのリニューアルを実施、デザインとシステムを刷新してリニューアル前の課題を解消したところ、売上高は前年比20%増を実現した。
八代目儀兵衛の神徳(じんとく)昭裕氏が、導入したクラウド型ECサイト構築ASP「aiship GIFT」を展開するロックウェーブの黒河宏太郎氏と顧客に選ばれるギフトECサイトの考え方やリニューアルでの取り組みについて語った。
ミシュラン掲載店にも支持される八代目儀兵衛のお米
八代目儀兵衛は京都の米屋として1787年に創業した老舗。現在はお米の通販をはじめ、卸、飲食の3つの事業を主に展開している。通販事業の主力はギフト。なかでも内祝いなどフォーマルギフトがメインとなっている。
一番の売れ筋ギフト商品は「十二単シリーズ 満開」。注文を受けてから精米し、12種類のお米を12色の風呂敷でそれぞれ包んでいる。見た目が華やかなうえ、お米は好き嫌いやアレルギーが少ないことから、お祝い返しとして多く利用されている。
売れ筋の十二単シリーズ「満開」(税込5500円)
飲食事業では京都(祇園)と東京(銀座)に直営の飲食店があり、行列のできるお店としてメディアでも多数取り上げられている。直営店で提供している「翁霞(おきなかすみ)」は、一般的なスーパーマーケットで売られているお米の倍以上の価格だが、ミシュラン三ツ星の掲載店で実際に使われているお米としてテレビに取り上げられたこともあり、リピート率の高い商品だという。
一般的にお米のブランドは、たとえば「魚沼産コシヒカリ」というように産地と銘柄で価値が決まるが、八代目儀兵衛では産地銘柄に関係なく、「年間通しておいしいお米」を一番の価値基準としている。単品でも十分おいしいお米を全国から仕入れ、組み合わせることでさらに美味しさを引き出す「目利き、ブレンド」が特徴。
卸事業では航空会社のビジネスクラスや宿泊施設のビュッフェでも使われているほか、炊飯器の監修や異業種とのコラボ事例も多数あり、さまざまな企業のキャンペーンでも活用されている。
ECサイトの全面リニューアルで掲げた3つの方針
通販事業の自社EC比率は約6割。約3割が「楽天市場店」で残りの1割がその他モールという売上比率になっている。
自社ECサイトを構築したのはおよそ8年前。スクラッチで構築したが、当時の担当者はすでにおらず、仕様書もないため、SEO施策やデザインの改修について支障が出ており、大きな課題となっていた。
そこで2022年3月、さらに顧客満足度の高いサービスを提供するため、自社EC「八代目儀兵衛オンラインストア」の全面リニューアルを実施した。
社内にエンジニアがいないので、何かを改修するにもコストがかかり、セキュリティ面で若干不安もあった。2021年から動き出し、約1年かけてリニューアルした。(八代目儀兵衛・神徳氏)
八代目儀兵衛 取締役CMO 神徳昭裕氏
リニューアル前(左)とリニューアル後(右)
デザインの方針は「商品を主役に」「京都らしさ」「劣化を防ぐためのルール作り」の3点のみに絞った。
方針1 「商品を主役に」
旧サイトではバナーが多く、何を一番訴求したいのかわかりにくいサイトになっていた。売れ筋商品の「満開」が目立つように、白を基調としたデザインに全体を変更し、バナーを張りすぎないようにした。
方針2 「京都らしさ」
弔事や法事などで使うギフト商品は東山の「圓徳院」から特別に許可を得て撮影し、慶事用ギフト商品は嵐山の「星のや京都」で撮影した。京都のお米屋ならではの「京都らしさ」を表現できる特別な場所を選び抜き、商品撮影を行った。
方針3 「劣化を防ぐためのルール作り」
リニューアル前は制作する人によってトンマナの異なるページができてしまっていた。また、リニューアル直後は綺麗なサイトでも、運用を重ねるごとにだんだんと崩れてしまうことはよくある。そのため、厳密なルールブックを作成した。
たとえば、大中小で使う文字のサイズ、フォントの種類、写真と文字の空きは何ピクセルにするのか、といったところまで定義した。
誰が制作してもリニューアル時の美しさを再現できるルールブックを作成した
リニューアルで可能になった施策
今回のリニューアルで「八代目儀兵衛オンラインストア」に実装された機能や施策は以下のとおり。
- クーポン
- メッセージカード(API連携)
- LINEログイン連携
- 途中保存機能
- ギフト目的別サービス選択
ECサイトでは当然のようにあるクーポンだが、旧サイトでは実現できなかったので、今回新たに追加した。
メッセージカードはこれまでも対応していたが、外部サービスでメッセージカードを作ってもらい、再度自社サイトに戻ってきてもらうという流れだったため、今回から外部サービスとAPI連携し、使い勝手が大きく向上した。
また、ギフトECのような毎日使うサイトではないと、IDやパスワードを忘れやすいため、新規会員登録時にLINE連携すると、次回以降はLINEのボタンでログインできる機能を搭載した。途中保存機能は開発中で、まもなく実装できる予定だ。
特に内祝いは1回で10点など複数注文が多いので、まとまった時間がないとなかなか注文がきず、どうしても途中で離脱してしまうことがある。途中保存機能は入力内容を途中で保存でき、保存したところから注文を再開できるので、内祝いに特化した便利な機能になる。(神徳氏)
ギフト特有の複雑さをUIで解消
迷わず間違いなく贈れるようにUIを改善
結婚内祝いや香典返しといったフォーマルなギフトに欠かせないのが熨斗(のし)だ。
元々は商品ページで目的や熨斗などを選ぶ形式だったが、UIが悪かったのでリニューアルで工程を変えた。(神徳氏)
たとえば目的を「結婚内祝い」とすると、結婚の内祝いに合った種類の熨斗のみが表示されるようにした。リニューアル前はこの絞り込みができなかったため、熨斗のマナーを知らない贈り主がつまずいたり間違って注文したりすることが多かった。そのため、初めてでもスムーズに注文できるようにUIを改善した。
目的に「香典返し」を選ぶと、表示される熨斗の種類が自動的に切り替わる
メッセージ同梱サービスを拡充
商品には一筆箋(いっぴつせん)、メッセージカード、手紙の同梱が選択できる。一筆箋はサイト内の機能として搭載されているので、絵柄を選んで文章を入力するだけだ。いくつかある定型文から選んでそのまま送ることもできる。
メッセージカードでは事前にマイページで作成したメッセージカードを同梱できる。過去に作成したカードやオリジナルで写真を入れたメッセージカードも使用可能だ。他にも手書きの手紙を別途送ってもらい、それを同梱してお届けするサービスもある。
配送先が違っても合計金額がわかる
ギフトを送る際、自分で手渡ししたい場合と、直接配送してもらいたい場合がある。そのため、配送先の設定では1つの住所に送るか複数の住所に送るかが選択できるようになっている。複数の送り先に配送する場合、「1つは北海道、1つは関東」というように、送料区分が違ってもそれぞれ送料が表示され、合計金額が把握できるようになっているのが大きなポイントである。
このほか、出産内祝いの命名札や香典返しの芳名帳のサービスなどもあり、有料で手書きの芳名帳を送ってもらい、配送先を入力するといったギフトECならではのサービスが充実している。
ECと実店舗の体験をつなぐ仕掛け作りをめざす
リニューアルが完了して1年。リニューアルの効果が出て、通販事業は好調に推移しているという。下の図はリニューアル後の売り上げ推移だ。グレーの線が2021年1月から12月までの売り上げで、青線が2022年1月から12月までの売り上げの推移となっている。
リニューアル後の売り上げの推移
赤の縦線が3月8日のリニューアルで、それ以降の推移を見ると、前年比が平均で125%、特に繁忙期である4月の売り上げはリニューアル直後であるにもかかわらず、大幅に伸びており、リニューアルの効果が見られる。
また、飲食事業はコロナの影響も一部あったが、今はコロナ前よりも好調に推移しており、卸に関しても 「さまざまな繁盛店から声をかけていただいている状況」(神徳氏)だと言う。
ただ、残念ながら、この通販と飲食と卸が八代目儀兵衛の事業としてあまり認識されていない状態。サイトをより使いやすくリニューアルしたので、今後はたとえば八代目儀兵衛のギフトを受け取った方が自宅用に買っていただいたり、店舗をご利用いただいた方がギフトを贈ったり、それぞれの事業ドメインの体験をつなぐ仕掛け作りを意識的にやっていきたい。(神徳氏)
ギフトECサイト構築のためのクラウド型ASP「aiship GIFT」
今回のリニューアルで八代目儀兵衛が採用したのは、ロックウェーブが提供しているギフトECプラットフォーム「aiship GIFT(アイシップギフト)」だ。
ロックウェーブでは2013年からモバイルファーストをコンセプトとしたECプラットフォーム「aishipR(アイシップアール)」を提供しており、累計約1000社が導入している。
ギフトECの課題やニーズを機能強化し、2020年にスタートしたのが「aiship GIFT」だ。「aiship GIFT」は自社ECサイトに求められる機能の充実に加え、ギフトECに特徴的な機能拡充を行っており、全国のギフトECを展開する事業者や食品メーカーなどに導入されている。
ギフトECサイト向けの機能
神徳氏が「aiship GIFT」を選んだ理由も、ギフトオプションが充実していることだと言う。また、実際に「aiship GIFT」を導入しているサイトで注文してみて、八代目儀兵衛でやりたいことを実現できると感じることが多かったという。
「aiship GIFT」の特徴的な機能について、アイシップシリーズのプロダクトマネジャーを務める黒河氏が解説した。
温度帯や賞味期限を考慮した食品ECサイト向け機能
食品ECサイトの特徴として常温、冷蔵、冷凍といった商品の温度帯が異なることがあげられる。「aiship GIFT」は三温度帯に対応しており、同時に注文された場合でも別出荷として扱えるほか、たとえば「夏期のみ冷蔵、夏期以外は常温」「常温と冷蔵の場合は同梱する」といった温度帯をまたがった複雑な注文パターンにも対応できる。
また、食品ECサイトは賞味期限があるため、配送までのリードタイムの取り扱いが厳密なのも特徴だ。「aiship GIFT」では配送先の郵便番号を元に出荷予定日を算出し、配送可能な日程だけをお届け希望日として表示できる。
確実に届けることができる日程を提示できることで、賞味期限の短い生鮮食品や、生の和洋菓子なども販売しやすくなっている。また、出荷日ごとに出荷の上限数を管理できるので、季節商品や生産量に限りのある限定商品の販売もしやすい。
細やかなオプション設定に自信。仏滅の届け日を避けることも
八代目儀兵衛の事例のように、ギフトECでは熨斗などのギフトオプションの指定が必要だ。「aiship GIFT」ではオプションの選択肢を細かく設定でき、画像の付いた説明文を表示し、どのような状態で商品が送られるのか、 贈り主がイメージしやすい仕様になっている。また、オリジナルメッセージカードサービスを導入することで、他社にないギフトサービスの実現も可能だ。
また、ギフトならではの送り方として、たとえばお届け希望日に仏滅を避けたり、送り状伝票を注文者とは別の名義にしたりといったことにも対応できる。
また、配送先が複数になるのもギフト注文の特徴だ。配送先が複数の注文では、非常に多くの情報を入力したり選択したりする必要があるので、贈り主が迷いやすいという性質があるが、「aiship GIFT」では1画面で行う操作を限定し、多くの操作が必要ななかでも迷いにくいカートステップにしている。
ギフト注文時のカートステップ
ソーシャルギフトにも対応
また、いま注目の贈り方である「ソーシャルギフト」にも対応している。「ソーシャルギフト」は受け取る側が配送先住所を入力して受け取るというもので、「aiship」はこの機能も標準機能として提供している。
特に追加費用なく利用することができるため、多くのEC事業者が新しい提供形態として、ソーシャルギフトを掲載開始している。(黒河氏)
ソーシャルギフト機能の概要
※このコンテンツはWebサイト「ネットショップ担当者フォーラム - 通販・ECの業界最新ニュースと実務に役立つ実践的な解説」で公開されている記事のフィードに含まれているものです。
オリジナル記事:年間15万人が利用するお米のギフトEC「八代目儀兵衛」が語る、顧客に選ばれるギフトECの極意+売上高20%増の秘訣
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