コロナ禍で拡大してきたEC業界ですが、日常を取り戻しつつある今、市場はどのように変わってきたのでしょうか? InstagramやTikTokといったSNSの動向により移り変わるユーザーの視点や購買へと結びつける新たな手法など、これからECが成長できるポイントをECマーケティングのスペシャリストの方々に伺いました。
W2やディールの担当者が既存顧客を活性化するためのノウハウを語る
ECにおけるSNSの最新活用法とは? ディール山本氏が解説
山本:ディール SaaS事業本部 セールスチームの山本綺音と申します。現在は主に化粧品や健康食品、アパレル、食品などEC通販企業様向けに、UGCクリエイティブのご提案や、マーケティング、キャスティングなどを担当させていただき、D2C・EC企業様を成功に導くための業務に従事しています。
SNSは「ググる」→「タグる」→コンテンツの方から「やってくる」時代に変化
山本:では早速本題に入りますが、まず最初に最近のSNSの動向と、EC通販の移り変わりについてお話させていただければと思います。
まずSNSの移り変わりで言いますと、UGCが「ググる」→「タグる」→「やってくる」と変化しています。
商品を購入する際、Googleなどの検索エンジンを使用して指名購入/目的購入する時代から、SNSなどの媒体を使用してハッシュタグで検索をかける時代へと移り変わりました。
そしてここ最近では自ら調べるのではなく、面白い何かを探している人に対して、コンテンツ側からやってくる時代へと変化しています。
“衝動買い”が増加傾向
山本:実際に3人に1人がTikTokでの購入履歴があるというデータが出ており、指名購入から衝動買い購入が増えている傾向にあります。
ここまでSNSの移り変わりについてお話しましたが、自分で商品について検索をかけようが、コンテンツ側からやってこようが、一貫して変わらないことがあります。それが口コミを見ているという点になります。
指名購入する際も衝動買い購入する際も、企業からの情報だけではなく、第三者であるユーザーからの情報の後押しにより、購入へとつながるというデータが出ています。
EC業界の“3つの逆風”とは?
山本:では、口コミとEC通販との関わりは何かをお話させていただきます。まずEC通販の背景として、EC化率は緩やかに上がっていましたが、コロナ禍によってさらに大きく上がっていきました。ですがここ最近、そしてこれからは、EC業界は逆風の時代に突入するのではないかなと思います。
その理由としては三つありまして、まず一つが通販の需要の低下です。コロナ禍での制限が緩和され、ネットで購入する必要が少し減ってきたというところになります。
続いて、クリック単価の激化です。EC化率が増えてきたなかで、クリック単価が高騰しています。なので、広告費をかけられないと生き残るのは厳しい時代になってきていると思います。
そして3番目が社会的にコストの削減という時代に入ってきているというところです。コロナ禍でのダメージによって固定費や人件費などのコストを削減する企業が増えてきました。
この三つの点から、EC業界への参入率が低下している傾向にあります。
口コミを制する者が通販を制する
山本:ただ、参入率が低下し始めている今こそがチャンスの時代なんじゃないかなと思います。では、どうやって他社と差別化を図って売り上げを上げていけばいいのかと言いますと、口コミを自社サイトで活用することがとても重要です。商品力やデザイン性だけでは差別化できない時代、口コミを制する者が通販を制すると言えます。
口コミは通販・EC事業において大きな役割を持つ
山本:先ほどのクリック単価の激化にも関わりますが、現在は莫大な広告費をかけられる企業だけが独占している状態になっています。だからこそ、広告費を投下する前にしっかりとリターンが返ってくるような仕組みを作る必要があります。
売れている企業と同じだけ広告費をかけたとしても同じだけリターンが返ってくるとは限らないので、自社サイトでリターンとして返ってくるような仕組みをどう作るかというところが重要になってきます。
その成功の鍵を握るのが口コミです。リターンがしっかりと返ってくる仕組みを作るためには、まずは口コミを使いましょう。
口コミで“信用”を作る
山本:その理由は、消費者購買行動の1位が信用となっているからです。低価格であることや、利便性、デザイン性も大事だとは思いますが、それよりもこの商品は信頼して使用できるものなのか、安心して使えるのかということを一番に見ているというデータが出ています。
ですので、いかに安心安全を担保して訴求できるかが、新規獲得件数を上げる上で最も重要になってきます。そこで重要となるのが、口コミというわけです。
そのなかでも企業から発信されている口コミではなく、ユーザーが実際に使用した口コミが信用されている理由としては、やはりイメージが湧きやすいところや、安心して使えることを訴求できるところになります。
また、その口コミのなかで最も重要視されているのが、口コミサイトでのレビューや、InstagramなどのSNSによる写真の口コミです。
口コミが新規獲得の入り口になる
山本:この口コミもポジティブな内容であればあるほど信用を獲得できます。通販企業さまでは口コミ、広告、CRMのどれも重要ですが、そのなかでもなぜ弊社が口コミを最も重要視しているかと言いますと、口コミがなければ新規獲得やLTVにまでつながらないと考えているからです。
口コミを獲得することによって、広告費をかけたときにしっかりとリターンが返ってきて、さらにLTVやCRMにつながります。
“アーリーアダプター”の獲得が鍵
山本:ここまでで口コミとは何か、なぜ重要なのかというところはおわかりいただけたかと思います。
ではECサイトでの口コミとは何かといいますと、UGC(User Generated Contents)といって、ユーザーから発信される情報です。SNS上にあるものは全てUGCと思っていただければと思います。
EC・通販で新規を獲得する方法としてUGCを収集していく必要がありますが、その方法としてはSNS媒体などを使って、アーリーアダプターを獲得するのが鍵となってきます。
アーリーアダプターとは商品やサービスを初期の段階で購入する人々で、初期採用者とも言われます。要は流行に敏感な層ですね。
市場で商品やサービスを普及・拡散させるにはこのアーリーアダプターを獲得することが重要になってきます。
ではどうやって獲得していくのかと言いますと、やはりインフルエンサーなどを活用することが必要になってくると思います。インフルエンサーとはすなわち影響を与える人で、彼らの情報が人々の消費者購買行動に大きな影響を与えています。
山本氏はインフルエンサーをフックとしたアーリーアダプターの獲得を提唱している
山本:インフルエンサーも消費者の1人ですので、企業が発信する情報とはまた別で、消費者から信用を勝ち取ることができたり、自分と同じ立場の人が発信する体験談・評価・口コミだからこそ親近感がわいたりするというところが大きなポイントになります。
InstagramとTikTok、それぞれの強みは?
Instagramは「信頼度アップ」の手段
山本:SNSの媒体にもいろいろありますが、今回はInstagramとTikTokに絞ってお話します。
まず、Instagramは、口コミを調べる・集める場所であり、活用の目的は信頼度をアップさせることです。ハッシュタグを検索したときに投稿数が出てきますが、これが口コミの数と思っていただいて問題ありません。また、公式のInstagramで、ユーザーからの投稿というところを見た際に出てくる口コミも重要になります。
どの程度出てくるかによって、企業やアカウントに対しての信頼や信用を訴求できる部分となります。InstagramやTwitterに関しては、フォロワーに対するアプローチに特化していますので、どちらかというとファンマーケティング向きかと思います。
TikTokはターゲット層拡大に有用
山本:続いて、TikTokです。TikTokの活用目的は、ターゲット層の拡大になります。
何か面白いコンテンツを目的なく探しにきた人がターゲットとなります。TikTokでは7割がフォロワー外からの視聴であることや、自分の興味関心のあるもの以外の情報も3割程度流れてくる仕組みから、潜在顧客の発見につながります。
まとめますと、Instagramは信頼度アップ、ブランディングのために使っていただく。TikTokはターゲット層の拡大として使っていただくということになります。
これを選定基準としていただき、先ほどのインフルエンサーなどを使っていただけますと、各企業さまの目的に合わせた訴求ができるのではないかと思います。
「OMO」「オムニチャネル」「ユニファイド」とは? W2天地氏が解説
天池:W2の天池と申します。ECの導入に求めるべきポイントとして、ECサイトに必要な機能や選定基準を基に、最近のEC/OMO戦略と成功施策、構築事例などをお話します。
EC市場の最新動向を解説
天池:toC向けのECが伸びているなかで、その想定成長の要素をいくつかお話できればと思います。
まずは、コロナ禍の影響で高まるオンラインの需要に対してECを強化する事業者さまや、新しくECに参入する企業が増えているということがあげられます。そのなかで、ECの管理や運営を支援するツールやソリューションが非常に多く誕生していることも背景にあります。
オンラインとオフラインの垣根はなくなりつつある
天池:次に、ファッション系の企業でよくある例ですが、ECという枠にとらわれず、店舗とオンラインを横断した形でのブランドの購買体験を強化しているということがあります。
店舗スタッフの協力も強くなってきておりますので、ブランドの魅力を訴求しながら、ECの売り上げに貢献できる傾向にあります。要は、EC・オンラインと、店舗・オフラインの垣根がなくなっていることが要素として考えられます。
オンラインとオフラインの垣根のない購買行動が実現しつつある
自社独自の訴求によるファンマーケが進む
天池:最後に大事なポイントですが、ユーザーごとに適した情報や求める情報を発信しながら、自社ECならではの訴求をすることでファンを増やしていることがあげられます。
まとめますと、お客さまに合わせた顧客体験を主軸にしながらも、サービスの強化や整備を行っているかどうかが大きなポイントになると弊社は考えております。
私も実際にいろいろなECサイトでさまざまな買い物をしております。そのなかで一度購入したサイトから顧客体験を提供してもらったり、さらに接客を受けたりしますが、汎用的なアプローチですとどうしても情報が埋もれてしまったり、興味が引かれなかったりといった課題が多く発生します。
一方で、自分に寄り添った、ピンポイントな情報をそのサイト側から与えられると購入意欲が上がりますし、商品やサービスに対して興味を強く引かれます。
つまり、お客さまに合わせて寄り添った形でのサービスや顧客体験を提供することが重要だと考えております。
「OMO」と「オムニチャネル」の違いとは
天池:OMO/オムニチャネルについてお話します。実はOMOとオムニチャネルは微妙に観点が異なっておりまして、OMOでは、オンラインとオフラインの境界を取り払ってサービスを提供するというのが基本的な考え方になっております。
例をあげますと、朝起きて会社に出勤する前に、店舗の様子をスマホから確認し、取り置きで服を予約する。そして仕事の帰りに予約をした服を実際に試着し購入する。このようにオンラインとオフラインが融合した世界観を実現できるのが、OMOです。
オムニチャネルにつきましては、ECサイト、カタログ、店舗、SNSなどさまざまな販売チャネルがあるなかで、いつでも、あるいはどこでも同じように購入できる環境を作っていくという考え方となっております。
顧客ごとの1to1マーケを実現する「ユニファイドコマース」
天池:「ユニファイドコマース」についてはあまりわからないという方も多くいらっしゃると思いますが、直訳すると「統合された商取引」となります。
つまり「データを統合して活用していきましょう」というようなニュアンスに近いものと考えております。オムニチャネルでは、あらゆるチャネルがあるなかで、たとえばイベントではプラットフォームでデータを管理していたり、SNSでは自社ではなく外部に支援を外注していたりといったように、あらゆるチャネルに対してデータが統合しきれていないという問題が多くあります。
効果的なマーケティングにあたっては各販売チャネルでの顧客データ統合が望ましい
天池:これは非常にもったいない部分でして、企業としてあらゆるデータを統合しながら管理、そしてさらには活用がしきれないとさらなる成長はなかなか望めません。
そこで「ユニファイドコマース」の考え方としては、システムを統合し、幅広い観点でデータを収集することで、そのデータを活用しながら、お客さまごとに1to1マーケティングを実践していくというところになります。
いつでもどこでも同じように購買ができるOMOやオムニチャネルに加えて、さらに1to1マーケティングの要素を掛け合わせた考え方が、「ユニファイドコマース」であるというふうにイメージしていただけるとわかりやすいのかなと思います。
「ユニファイドコマース」の活用法
天池:ここからは、「ユニファイドコマース」を実際に実現する上での活用データ例をお話しさせていただきます。
代表的なデータとして会員属性や実店舗/ECサイトでの購買履歴、ライブコマースなどがありますが、これら全ての情報を統合することが重要だと考えております。
たとえば、私があるブランドのダウンジャケットを店舗で購入したとします。その情報が同じブランドのECサイト上に連携されていないと、次はECサイト上で商品を見ている際に、また似たようなダウンをレコメンドされるという可能性も考えられます。
より購買度を上げるという観点でお話しますと、私が買ったダウンに合うボトムスだったり、スニーカーだったりをECサイト上でレコメンドしてくれたなら、コーディネートを考えて購買するということも起こり得ますよね。
店舗やオンラインなど、販売チャネルが異なっていても購買履歴をしっかりと一元化する。あらゆるチャネルから収集して統合されたデータを活用し、さらには顧客ごとに最適なサービスや商品を最適なタイミングで提供する。この考え方が、タイミングも含めてやはり重要となります。
次に設定のポイントの代表的なところをお話させていただきます。
数年先まで描く
天池:まず一つ目、最終的にどのようなことを実現したいのかを明確にして、数年先を描き切るというのがやはり重要です。
カスタマージャーニーを設計
天池:次に、お客さまを軸として、どのようなカスタマージャーニーを描いていくべきなのか、さらには描いてもらうのか。その上でどのような顧客体験を提供するのかを明確にすることがやはり大事になります。
また、オフラインとオンラインを掛け合わせた形での営業体制の実現に向けて、会社としての意識統一もしっかりとしていかなければなりません。その意識統一をする上で、制度や体制を見直すことも必要になるかもしれません。
システムやソリューションの整備
天池:最後に、EC事業を円滑に運営していくために必要なシステムやソリューションを整えることも非常に重要なポイントとなってきます。
◇◇◇
みなさん、いかがでしたでしょうか? 「口コミを制す者が通販を制す」という言葉、胸に刺さりました。
消費者購買行動の1位である「信頼」を獲得するためにも、各SNSの特性を理解した上で活用することが大切なんですね。
また、あらゆるチャネルから収集して統合されたデータを活用し、顧客ごとに最適なサービスや商品を最適なタイミングで提供する「ユニファイドコマース」の考え方が今後のEC戦略では重要となってきそうです。
※このコンテンツはWebサイト「ネットショップ担当者フォーラム - 通販・ECの業界最新ニュースと実務に役立つ実践的な解説」で公開されている記事のフィードに含まれているものです。
オリジナル記事:SNS時代の既存顧客活性化方法、OMO、オムニチャネル、ユニファイドコマースとは?ECの専門家が解説 | 「ECタイムズ」ダイジェスト
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